第百三十三話 ビーフシチューに舌鼓
132話のセーフエリアが狭いとのことだったので、確かにと思うところがあったので
20畳 → 学校の教室くらい
としました。
ヴェルナーさんにラモンさん、ヴィンセントにリタにフランカ。
お世話になったCランク冒険者パーティー『アイアン・ウィル』の面々だ。
まさかこんなところで再会するとは思いもしなかった。
「皆さん、お久しぶりですっ」
「お久しぶりです、ムコーダさん。まさかこんなところで再会するとは」
アイアン・ウィルのリーダーのヴェルナーさんと握手を交わす。
話を聞くと、アイアン・ウィルの面々は俺と別れた後すぐにこのダンジョンを目指して旅に出たらしい。
馬車を乗り継ぎながらこの街を目指して、ようやく一昨日この街に着いたんだそうだ。
そして、早速昨日からこのダンジョンに潜っているということだった。
「そうなんですね。俺たちは、海の街ベルレアンに行く予定なんですけど、その途中にあるこの街のダンジョンの話を聞いたらフェルが入るって言い出しましてね」
アイアン・ウィルの面々が頷きながら「なるほどね」なんて言っている。
フェルと少しの期間でも過ごしてるから、フェルなら言い出しかねないと思ってるようだね。
皆さんなら俺の苦労も分かってくれますよね。
「そういやムコーダさん、フェル様以外にも従魔が増えたんすね。それって、ドラゴンすよね。ドラゴンの子供っすか」
そう言ったヴィンセントの視線はドラちゃんに注がれている。
やっぱドラちゃんは初見だとドラゴンの子供って思っちゃうよね。
ドラちゃんとスイはアイアン・ウィルの面々と別れてから俺の従魔になったから初対面だな。
2人を紹介しておこう。
「このドラゴンはこの大きさで成体なんですよ。ピクシードラゴンっていう珍しい種類のドラゴンです。俺の従魔で、名前はドラちゃんって言います」
「ぶっ……」
「ブッ」
コラ、ヴィンセント、名前聞いて噴き出したな。
ヴェルナーさんも。
リタとフランカは「ドラちゃん、よろしくね」なんて言ってる。
ラモンさんは、うん、無言を貫いてる。
ちょっと震えてるけど。
「あとですね、これがスライムのスイです。スライムですけど、特殊個体なんでめちゃくちゃ強いんですよ」
鞄から這い出して様子をうかがっていたスイを抱き上げて紹介した。
「フェル様だけでもすごいことなのに、さらに従魔を増やしてたんですね。恐れ入りました」
ヴェルナーさん、そんな感心されちゃ困るよ。
みんな飯目当てなんだよね。
従魔になった理由はフェルと同じなんです。
『おい、飯はまだか?』
『腹減ったぞー』
『あるじ、お腹減ったー』
おお、すまんすまん。
「ちょっと、フェルたちに飯やっちゃいますんで」
えーっと、何にしようかな。
ビーフシチューでいいか。
街で買ったパンと一緒に食ってみたいし。
あのパンちょっと固めだけど、ビーフシチューに合うと思うんだよね。
皿に肉たっぷりのビーフシチューをよそい、フェルとドラちゃんとスイに出してやった。
『これは前にも食った料理だな。肉が柔らかく煮込まれて口の中で溶けるな。うむ、美味いぞ』
ありがとよ、フェル。
『おーう、これはまた美味いな。ホント、お前の作る料理は美味いよなぁ』
ドラちゃんもビーフシチュー気に入ったみたいだね。
って口の周りがシチューでベトベトだよ。
『これ、お肉が柔らかくって味も染みてて美味しいよー』
スイのお墨付きが出たなら上手く出来てるってことだね。
良かった。
「「「「「ゴクリ」」」」」
後ろを見ると、アイアン・ウィルの面々の目がビーフシチューに釘付けだった。
ヴィンセントとリタは涎まで垂らしてる。
リタ、女の子なんだから涎はダメだろ。
しょうがない、ここは昔の好で食わせてやるか。
「あの、みなさんも食いますか?」
そう聞くと、アイアン・ウィルの面々はブンブン首を縦に振った。
ビーフシチューを深めの木皿によそい黒パンと一緒に渡していく。
「はー、こんなところでムコーダさんの飯が食えるとはな。最高っすね」
「ヴィンセントはムコーダさんと別れてから、ムコーダさんの飯は美味かったーってずーっと言ってたもんなぁ」
「何だよ、リタ、オメーだって言ってたじゃねぇか」
「まぁ、そうなんだけどさ。だってホントーに美味かったからなぁ」
そうやってヴィンセントとリタが言い合っているうちに……。
「はぁ、美味しいわね。お野菜も柔らかく煮えているし、何と言ってもこの口の中で溶けていくお肉が何とも言えないわ」
「ああ、本当に美味いな。このシチューにパンを付けて食うと美味いぞ」
「このコクのある深い味わい……ダンジョンの中でこのような美味い飯が食えるとは。さすがムコーダさんですな」
フランカとヴェルナーさんとラモンさんが一足先に食い始めている。
「あっ、ズルいぜ、俺も食う」
「あたいもっ」
ヴィンセントとリタが続いて食い始める。
「ウンメェェェッ」
「美味いっ」
そう言ってヴィンセントもリタも口いっぱいにビーフシチューを頬張る。
うんうん、みんな気に入ってもらえたようで良かったよ。
俺もビーフシチューを食い始める。
まずは一口。
うん、美味いな。
ブラッディホーンブルの肉も煮込まれて、スプーンで切れるくらいにまで柔らかくなっている。
柔らかく煮込まれた肉は口の中に入れるとホロホロと溶けていく。
黒パンをビーフシチューに浸して、パクリ。
デミグラスソースの深い味わいを吸った黒パンを噛み締める至福。
あー美味い。
『『『おかわり』』』
フェル、ドラちゃん、スイのおかわり入りました。
ドラちゃんもおかわりだね。
何か魔法使ったから腹減ったんだってさ。
俺はそれぞれの皿にビーフシチューをよそった。
「それにしても、この肉美味いっすね。何の肉なんすか?」
ヴィンセントがそう聞いてきたから「ブラッディホーンブルの肉だ」って言ったら、ヴィンセントが「ブフォッ」って噴いたよ。
他のメンバーもあんぐり口を開けて驚いているし。
え、何?
何かマズかった?
「ムコーダさん、ブラッディホーンブルの肉、なんですか? このシチューに入ってるの……」
ヴェルナーさんがそう聞いてきたから「そうです」って言ったら……。
「すみませんッ。そんな高級食材だとは思わず口にしてしまった」
なんか謝られたよ。
……あ、こりゃあんときの反応と同じだわ。
カレーリナの街の冒険者のラーシュさんたち、あの人たちも高級食材だと知って面食らってたな。
高級食材とはつゆ知らず食っちゃったってやつだね。
そう言われても、うちじゃこれが普通だしねぇ。
というか、最近はドラゴンの肉も手に入れました、はい。
なんか、フェルがいることでうちの食のレベルは貴族並みなんじゃないのか?
それにドラちゃんもスイもいるから、肉の補充に抜かりはないし。
その分消費も激しいけどさ。
まぁ、美味いもんを食えるに越したことはないよね。
「いや、そんな謝らないでください。ブラッディホーンブルの肉もまだまだいっぱいありますんで」
そう言うとヴェルナーさんが驚いた顔をした。
「フェルとスイがたくさん獲ったんですよ」
その言葉にヴェルナーさんも「ああ」と納得顔だった。
「フェル様スゲー」
「さすが、フェル様だ」
ヴィンセントとリタが目を輝かせてフェルを見ている。
フランカとラモンさんも感心したようにフェルを見ているし。
「そういうことなんで、心配しなくても大丈夫ですよ。それよりおかわりいかがですか?」
「いいんですか?」
「もちろんです」
そう答えると、フェルが不満そうな顔をする。
『ぬ、我の分がなくなるではないか』
「ヴェルナーさんたちには前に世話になってるんだからいいだろ。フェルには肉焼いてやるから」
『おお、それならばドラゴ……モゴモゴ…………何をするのだッ』
フェルのやつがドラゴンの肉とか言いそうになりやがったから、咄嗟に口をふさいだ。
『フェル、ドラゴンの肉とか言いそうになっただろ。ブラッディホーンブルの肉で驚くくらいなんだぞ、ドラゴンの肉だなんて言ってみろ、みんな卒倒するからな』
フェルに念話を送る。
『ぬぅ。ならワイバーンの肉でいい』
『それも却下。ワイバーンの肉も驚くよ。ここはさっきのドロップ品のオーク肉でいいだろ』
『むぅ、仕方がないのう。味付けはあれで頼むぞ』
『はいはい』
まったく空気読めってんだよ。
「あ、みなさんおかわりいかがですか?」
「本当にいいんですか?」
「ええ、皆さんにはあの時さんざんお世話になりましたから」
あの時はフェルと従魔契約結んだばっかりで1人じゃ何にもわからんかったからな。
アイアン・ウィルの面々がいたおかげで何とか無事に国境も通り抜けられた感じだし。
「じゃ、おかわりいいっすか?」
「おいっ、ヴィンセント」
「何すか、リーダー。ムコーダさんがいいって言ってんだからいいじゃないっすか」
ヴィンセントにおかわりをよそってやりながら「ヴェルナーさんもいかがですか?」と聞いてみる。
すると、ヴェルナーさんも申し訳なさそうに「お願いします」って木皿を差し出して来た。
それに続いてリタもフランカもラモンさんもおかわりをした。
美味いって思ってもらえれば作り甲斐があるってもんだよね。
残ったビーフシチューはフェルとスイのおかわり分ですっかり空になった。
フェルとスイの足りない分は、カセットコンロを出してオーク肉のステーキを焼いてやった。
肉を焼く匂いにヴィンセントとリタが物欲しそうな顔をしてたから、少しだけおすそ分けしてやった。
セーフエリアの冒険者たちがこっちをジト目で見ていたけど、さすがに見ず知らずの人に飯を分けるなんてできないからもちろん無視したよ。
作り置きの飯だって限りがあるからね。
少し食後の休憩をとったあと、フェルにせっつかれてボス部屋に向かうことに。
「それじゃ、皆さんお気をつけて」
「ムコーダさんたちもなって、フェル様がいるから大丈夫か」
「ムコーダさんたちは下へいくんすか?」
「ええ。フェルがダンジョン踏破する気満々なので……」
『ベヒモスがいるらしいからな。少しは楽しめるだろう』
「ってことらしいです」
アイアン・ウィルの面々は笑ってたよ。
フェル様らしいって。
こっちとしてはベヒモスなんて見たくないんだけどねぇ。
「それでは」
俺たちはセーフエリアを出てボス部屋に向かった。
アイアン・ウィルの面々はこの後、もう少しこの階を探索するそうだ。
休憩中に聞いた話では12階のボス部屋にいるのはリザードマンってことだったけど……。
ちょうどボス部屋には誰もいなかったから、そのまま入った。
中にいたのは聞いていたとおりリザードマンだ。
その名のとおり2足歩行のトカゲだな。
けっこうな数いたけど、フェルとドラちゃんとスイにとっては造作もなかったよ。
ドロップ品の皮を拾って13階層へと向かった。