第百三十一話 教えてフェル先生
「なぁフェル、昨日さ、神様たちから完全防御っていう新しいスキルもらったんだけど知ってるか?」
ダンジョンに向かう途中に神様たちからもらった新スキルについて聞いてみた。
『完全防御か。良いスキルをもらったではないか。完全防御のスキルはな、敵意ある者からの攻撃を完全に防御するスキルだ。我の結界はあるが、常に結界を張っているわけではないからな。その辺を考慮されたのだろう。さすが神々だ』
フェルの結界って常時発動してるわけじゃないんだね。
神様たちもそんなようなことを言ってたけどさ。
「フェルの結界って常にあるわけじゃないんだね」
『馬鹿もん。魔力を使っているのだぞ、常になど張っていられるわけなかろう。我でも5日が限度だ』
あ、それでも5日は常時発動できるんだね。
でも、それができるのもフェルだからなんだろうけど。
それにしても、完全防御のスキルはかなり良いじゃないか。
“敵意ある者からの攻撃を完全に防御するスキル”だなんてさ。
これからダンジョンに入る俺にはピッタリだ。
このスキルをくれたことは神様たちに感謝だね。
そういえば昨日神様たちに完全防御のスキルつけたってこと聞いただけで、まだ自分のステータス確認してなかったわ。
ちゃんとついてるよな?
【 名 前 】 ムコーダ(ツヨシ・ムコウダ)
【 年 齢 】 27
【 職 業 】 巻き込まれた異世界人
【 レベル 】 13
【 体 力 】 229
【 魔 力 】 223
【 攻撃力 】 206
【 防御力 】 205
【 俊敏性 】 200
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス 火魔法 土魔法
従魔 完全防御
《契約魔獣》 フェンリル ビッグスライム ピクシードラゴン
【固有スキル】 ネットスーパー
【 加 護 】 風の女神ニンリルの加護(小) 火の女神アグニの加護(小)
土の女神キシャールの加護(小)
スキルのところに完全防御があるな。
完全防御のところに視線を移すと……。
【完全防御……敵意ある者からの物理攻撃及び魔法攻撃を完全に防御するスキル】
おぅ、な、何か説明出てきた。
書いてあることはフェルが説明してくれたこととほぼ同じだけど。
そういえば、スイに作ってもらったミスリルのナイフと剣を鑑定したときも説明書きがあったな。
あの時はあんまり不思議に思わなかったけど。
よくわからんけど、これって鑑定がレベルアップしたってことなのか?
こういうときは……教えて、フェル先生!
「フェル、なんか完全防御のスキルのところ見てたら説明が出てきたんだけど……」
『ぬ、それはお主のレベルが上がったことで鑑定で出来ることが増えたからだろう』
「ん? どういう意味?」
フェルの説明では、レベルが上がるとそれに伴ってスキルによっては出来ることが増えていくということだった。
鑑定もその1つで、フェルくらいになると鑑定するとけっこう詳しい説明が出てくるらしい。
フェル自身は面倒だから説明はあんまり見ないとか言ってたけど。
あれ?でも、ネットスーパーで買ったもんを前に鑑定したときは、確か食パンが異世界の食パンって出て“魔力を10分間1%向上させる”とか何とか説明が出てたような気がするんだけど。
「前に異世界のものを鑑定したら説明文出てたんだけど、どうしてかな?」
『ぬ? お主が鑑定するとそうなのか? 我も鑑定してみたことがあるのだが、何かが書いてはあるのだがまったく読めないのだ。こんなことは今までなかったのだがな。おそらくだが異世界のものだということが関係しているのだと我は思うぞ』
この世界のものとネットスーパーのものではどっか違うってことなんだろう。
食うだけで体力とか魔力が上がったり、ゴミだってスイが食ったらレベルが上がっちゃったりするんだから、この世界のものとは根本的に何かが違うのかもしれない。
その辺は解明のしようがないし、今のところ不便もないからこれ以上追求しないけどさ。
とりあえずレベルが上がったことで鑑定に簡単だけど説明文がつくようになったってことは歓迎すべきことだよな。
それからフェルから聞いた話によると、出来ることが増えていくという点では、特に剣術や槍術等の物理攻撃系スキルや火・水・風・土魔法等の魔法系スキルが顕著で、使い手のレベルが上がれば上がるほど出来る技も増えていくのだそうだ。
考えてみたらそら当然だわな。
レベルが上がれば体力とか魔力とかステータス全体が上がるんだからさ。
逆にずっと変わらないスキルもあって、俺の持ってるスキルだとアイテムボックスと完全防御がそれに当たるらしい。
全部に当てはまるというわけではないけど、生まれ持ったスキルや、神の加護で後天的に付いたスキルはずっと変わらないことが多いそうだ。
なるほどね~。
あんまりその辺気にしてなかったわ。
「俺のスキルにある従魔ってやつはどうなんだろうな?」
フェルと従魔契約して出てきたスキルだけど、レベルが上がると何か変わるのかな。
『わからん。前にも言ったとおり、我が従魔契約を結んだのはお主が初めてだからな。それに、エルフが言っていただろう。我らの従魔契約は普通とは違うと』
あー、エルランドさんがそんなこと言ってたな。
普通の従魔契約を結んでも念話はできないって話だし。
まぁでも、俺のレベルが上がったのに今の状態以下になるってことはあり得ないだろうから、そんなに心配する必要もないか。
俺の固有スキルのネットスーパーについても聞いてみたけど『異世界のものを取り寄せることのできるスキル持ちなどお主しかおらぬのに我が分かるわけもないだろう』と一蹴された。
確かにね。
俺の固有スキルだし、しかもネットスーパーなんてわけの分からんヘンテコなスキルだしね。
異世界に来て何で日本の商品取り寄せられるねんって話だもんな。
ま、これは要観察ってところかな。
フェルとスキル談義をしているうちにダンジョンの前まで来ていた。
「それじゃ、出張所で登録してくるか」
登録が終わればいよいよダンジョンだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
登録が終わってダンジョンに入る冒険者の列に並んで、ようやく俺たちが入る番が来た。
入り口の両脇に立つ騎士にギルドカードを見せてダンジョンの中へ。
「地図はいらないって言ってたけど、本当に大丈夫なんだろうな?」
列に並ぶ前にダンジョンの地図を露店で買おうとしたら、フェルがそんなものはいらんって言ったから買うのを止めたんだよ。
匂いと気配でどこに何があるのかは大体見当付くから大丈夫だって話だったんだけど。
『大丈夫に決まっておろう。我を誰だと思っているのだ』
あ、そうですか。
大丈夫ならいいんだよ、大丈夫ならね。
『最初のうちは雑魚しかおらんようだな』
「ああ、そうみたいだ。普通の冒険者の多くは10階層から15階層くらいを探索してるみたいだぞ。その辺から宝箱が出るようになったりドロップ品も割りと良いものを落とすようになるんだってさ」
『なるほどな。それでは、そこまでいっきに駆け下りるとしよう。お主、乗れ』
へいへい。
俺は言われたとおりフェルの背に乗った。
『お主には完全防御があるから大丈夫だとは思うが、お主は気が弱いからな。我の結界も張っておいてやろう』
ぐぬぬ。
気が弱いって言うなし。
良い方に考えて慎重だって言ってくれよな。
ま、結界張ってくれるならそれに越したことはないんだけど。
『ドラにも張っておくぞ』
『おう。フェルわりぃな』
『ドラ、お主、我に付いてこれるな?』
飛んでいるドラちゃんを見ながらフェルがそう言った。
『フェル、俊敏なことで名を売ってるピクシードラゴンの俺様にそんなことを聞くなんて野暮だぜ』
ドラちゃんがカッコつけた感じでそう返す。
何が野暮だぜだよ。
ドラちゃんは見た目はカワイイ部類に入るんだからカッコつけても似合わないよ。
『それでは行くぞ』
フェルのかけ声を合図に、俺たちはダンジョンの中を進んでいった。