挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
黒い炎と氷の刃 作者:雪華

闇の覚醒

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

3/56

2話  少女召喚

 薄暗い地下室に、ろうそくの灯りが揺れる。
 部屋の中央には、ほのかに発光する魔法陣。
 その魔法陣の中心にある小さな祭壇に、レンは自分の首にかけていた水晶のペンダントを置いた。巫女姫が代々受け継いできたその水晶には、計り知れないほどの魔力が蓄えられている。呼吸を整えると、レンは目を閉じて詠唱を始めた。
 その様子を、部屋の隅で煌牙とルージュが静かに見守っている。

「さて、当たりクジを引けるかどうか」

 煌牙はどこか楽しそうだった。
 ルージュは無言のまま、じっとレンを見つめ唇をかむ。
 三千年前、闇を封印した巫女姫と同じ能力を持つ黒炎の巫女姫レンが召喚するのだ。人間界の末裔もきっと共鳴するだろう。レンが失敗したら、この世界ではもう誰も、三日月のアザを持つ人間なんて召喚できやしない。
 やがてレンの周りを黒い炎が包み込み、ゆらゆらと揺れ始める。そして、ひと際高く火柱が上がると、黒い炎は弾けるように散り、黒い霧の風となって部屋中に吹き荒れた。

「はははっ! 相変わらず、すんげえ魔力だな」

 銀の髪をなびかせて、片手で防御壁を作った煌牙が声をあげて笑う。ルージュは、氷の霧で身を覆いながら、レンの居る魔法陣の中央に目を凝らした。黒い霧に紛れて良く見えないが、確かにレンの他に誰かが居る。じれったいと思ったのか、煌牙がレンの方に進みながら、小さな風を巻き起こした。あっという間に、黒い霧が晴れる。魔法陣の中央には、腰を抜かしてへたり込んでいる、レンと同じ年頃の少女の姿があった。

「成功か?」
「ちょっと、ゴメンね」

 煌牙の問いには答えずに、レンは召喚された少女の、キャメル色のブレザーと白いワイシャツの袖を一気にまくりあげる。二の腕にくっきりと、三日月のアザを確認できた。少女は顔を真っ赤にして手を振り払うと、急いで袖を直し、目を伏せた。見られたくないものを、見られてしまったように。

「当たりだな」
 煌牙が満足そうに笑うと、レンもうなずいた。ルージュもほっと胸を撫で下ろすと、座り込んでいる少女の目線に合わせ、屈みこむ。

「急な事で驚かせてしまって申し訳ない。詳しくは落ち着いたら話そう。君、名前は?」

 少女は声の主を見上げる。
 夜明け前の空のような、深い青色の瞳の青年が、心配そうにこちらを見ていた。少女は、「名前は?」と聞かれながらも、何がなんだかわからず、答えられないで口をぱくぱくさせていた。レンが、少女の背中をそっと優しくさする。

「人間界から無理矢理呼んじゃってごめんね。急には信じられないかもしれないけど、ここは精霊界なの。しばらくあちらには戻れないけど……協力してほしいんだ」
「……精霊界?」

 レンの言葉に、やっと声を出す事の出来た少女は、改めて部屋をぐるっと見回した。石造りの部屋に、ろうそくの明りだけが灯り、床にはなにやら文字が書かれていて、青白く浮かび上がっている。
 全く見覚えのない部屋だった。

「私、学校にいたはずなんだけど……。精霊界に呼ばれたの?」

 少女の言葉に、レンが黙ってうなずく。

「じゃあ、ここはいつもの世界じゃないの? 親も、友達も、誰も知っている人はいないのね?」

 少女は、誰に言うともなく、天井に向かってつぶやいた。
 泣きだすかな……。
 ルージュが、どう慰めようか考え出した瞬間

「やったぁぁ――!」

 少女が両手をあげて、全力で叫んだ。
 先ほどまで腰が抜けていたのが嘘のように、チェックのスカートを揺らしながら、ぴょんぴょんと跳ねまわる。

「やった! あの窮屈な毎日から抜け出せた!」

 少女はレンの両手を握ると、

「あなたが呼んでくれたの? 本っ当にありがとう!」

 言い終わらないうちに、ぎゅっとレンを抱きしめた。ガーネット色の目をパチパチさせて、されるがままのレンに、さすがの煌牙も呆気にとられていた。

「と、とりあえず、落ち着こうか? レン、雪乃に何か飲み物を用意してもらってくれ。いったん部屋に戻ろう」

 ルージュの言葉に、少女に抱きしめられたままのレンが、こくこくとうなずいた

 ――三人の精霊をドン引きさせてしまった――
 落ち着きを取り戻した少女は、アラベスク模様のアンティークなソファに腰を降ろして、白磁に金の縁取りが施されたティーカップを見つめていた。

「だいぶ落ち着いたみたいだね、大丈夫?」

 チャコールグレーの軍服ワンピースを身にまとった、黒髪の女の子が心配そうに尋ねる。彼女はレンと名乗った。

「あの、ごめんなさいっ。びっくりさせちゃって!」

 少女は申し訳なさそうに頭を下げる。先ほどのテンションを思い出すと、顔から火が出そうだった。

「いえっ、こちらこそっ!」

 ぶんぶんとレンは首を横に振った。
 レンの隣に座っていた少女は、意を決して、「あのっ!」と勢いよく立ち上がる。レンとルージュ、煌牙の視線が一斉に集中したので、緊張で顔が赤くなるのを感じた。

「あ、あの、私は天野香澄と申しますっ。高校一年生の、十六歳です!」

 声が裏返りながらも、なんとか自己紹介をすますと、力が抜けたようにペタン、とまた腰を降ろした。

「天野香澄ちゃん、か。高校一年生ってどんな意味? でも、十六歳って私と一緒!」
 レンは嬉しそうに香澄に向き直る。
「あ……香澄でいいです」
「では、香澄」

 窓辺に立って腕を組んだまま、煌牙が口を開く。

「お前は一族から、何か闇の封印方法について聞かされてはいないのか?」

 銀色の長い髪を後ろで一つに縛り、遊び人風の着流し姿ではあっても、どこか品と、威厳があった。氷のように冷たく鋭い眼光が、香澄を射抜く。

「すみません……何も……」

 そんな煌牙に委縮しながら、香澄が恐る恐る答えた。
 ハァ。と、明らかにがっかりしたように煌牙がため息をつく。

「いや、こちらもたいして情報は持ってないから、気にしないで」

 ルージュが苦笑しながら、香澄に今回の件を簡単に説明した。
 三千年前に、精霊界と人間界は闇の脅威にさらされた事。
 その時に、黒炎の巫女姫と、人間の少女が先頭に立ち、闇の封印に成功した事。
 今、その闇が再び復活しようとしている事。
 そして、香澄が召喚された事。
 香澄は今回の件で、自分がかなりの重要人物だと知ると、改めて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。魔法が使える精霊達を差し置いて、役立てる自信が全く無い。

「あとは、そうだな。水晶の説明をしておこうか」

 ルージュはそう言うと、自分の首にかかっている水晶のペンダントを、服の上に引っ張り出した。

「精霊はみんな、一人一つ自分の水晶を持っているんだ。水晶は、持ち主の魔力を少しずつ貯めて、大きな呪術の際に用いる。でも、一番使用頻度が高いのは、通信機能かな」

 ルージュは、瞳の色と良く似た濃いブルーの水晶を見つめながら続けた。

「遠く離れていても、水晶を通して会話が出来るんだ」 
「それは、凄く便利ですね!」
「あとで、香澄の水晶も用意しておくよ」

 ルージュは笑顔で答えたが、香澄は自分に魔力はないので、使いこなせるのか少し不安になる。

「一度、実際に空間の歪みを確認した方がいいと思うんだ。明日、森に行ってみよう」
「では、先発隊を送っておこう。指示を出しておく」

 ルージュの提案に煌牙はうなずくと、チラッとレンの方を見た。

「さて、一通り説明も済んだな。続きはまた明日として、今日はお開きにするか」

 煌牙がソファの後ろから、レンの頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。

「子供は寝る時間だしな」
「ま、まだ全然眠くないし」

 あくびをかみ殺していたレンが、慌てて抗議する。
 はいはい。と、レンの抗議を気にも留めずに煌牙が部屋を出ようとすると、扉の外にはいつものように花魁姿の氷鯉が控えていた。

「じゃあな」

 煌牙の挨拶を無視して、レンはツンとそっぽを向いた。煌牙が笑いながら歩き出すと、氷鯉もすぐに後を追う。

「お疲れ様。明日は忙しくなるからね、ゆっくり休んで」

 ルージュは、煌牙に乱暴に撫でられてボサボサになったレンの髪を、手櫛で整えてやる。

「ありがと」

 真っすぐ見返すレンが可愛くて、せっかく整えてやった髪をまた「ぐしゃっ」としてしまいそうになった。

「おやすみ」

 かろうじてこらえて、レンの頭をぽんぽんと軽く撫でたルージュの内心を知るはずもないレンは、また子供扱いされたと少し頬を膨らませ、小さな声で「おやすみ」と告げると、目を伏せた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ