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勇者の姉、召喚 作者:奏多
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3章 王太子の策謀-2

 ささいな諍いはあったものの、程なく伊織達は王宮の庭へとたどりついた。
 回廊の石柱の向こうには、色鮮やかな花園が広がっている。
 庭へ降りた伊織は、色とりどりの花の姿に目を奪われた。陽の光の中で頭をたれる白百合。風に揺れる紫や黄色の蝶の様な花弁。でも、一画に美しく枝を伸ばしている赤いつる薔薇からは視線をそらした。
 昨日事件が起きたばかりなのに、血を連想させるものはあまり見たくない。
 先に指示を受けて走り去った侍従たちが用意したのだろう。庭の中央には真っ白なテーブルと椅子が置かれ、すでに菓子が用意されていた。猛ダッシュでこれらを整えた彼らに、伊織はお疲れ様ですと声を掛けたくなった。
 進められた席は、薔薇が視界に入らなかった。ほっと一安心する。
 席に着いた伊織は侍従が出してくれた茶に口をつける。紅茶よりも渋みが少なくて、ほんのりと甘い。甘い物をとると、いかに自分が気づかれしているのかを自覚した。
 朝から変なところで疲れをためていたのだ。
 服を着る時も赤っぽい色のものを出されて、速攻回避した。花瓶に赤い花を生けられそうになって、どうやって置かないでいてもらおうかと悩んだ。そんなところから今日は赤い色との戦いが始まっていた。
 伊織自身は、ホラー映画を見た直後でも肉を食べるのは平気だから、万が一異世界でチャンバラに巻き込まれても大丈夫だと思っていただけに、自分の状態にも嫌気が刺す。
「昨日は大変でしたね。ご自分で部屋の外まで逃げてこられたとか。さすがはユーキ殿の姉君」
 シーグがそう話をふってきたが、伊織は何と答えたものかと考える。
 勇者の姉だからって豪胆だとは限らないだろうし、この視線の鋭い王太子殿下が、そんな風に素直に考える人とは思えなかった。
 シーグは、お行儀よく且つちょっと偉そうに、背もたれに寄りかかる姿勢で微笑んでいる。金茶の髪や長い睫毛が光を浴びてきらきらして、妙に色気がある所が、伊織は女として悔しい。
 悠樹の手紙には、アルヴィンとは七つ離れていると書いてたような気がする。
「なんていうか。イメトレの成果でしょうか」
「いめとれ?」
 聞き返されて、またやってしまったと伊織は反省する。外来語を使うのは自重しよう。
「弟がこちらの世界へ行ってしまって、それから色々考えたんです。もし弟と一緒にここへ来ていたら、わたしに何ができただろうって。で、とりあえず生き残れるように、逃げる場面をいくつも想像してました」
 まだ幼かったから、そんな変なこと考えたんだと思うんですけど。伊織は思わず言い訳をする。
「もっと実践的な事を習おうとは思わなかったのかい?」
 シーグ王太子に尋ねられ、苦笑いするしかなかった。
「剣道でも習おうかなと思ったんですけど、それは父に却下されました。女の子なんだし、と。でも父はたぶん、息子と会えなくなったことでとてもショックを受けていたんです。だからわたしまで異世界へ行くって言い出すんじゃないかと、怖かったのではないでしょうか」
 ちゃんとお母さんたちの分まで一緒にいるから。
 そう約束したけれど、異世界で母が死んだと聞いて以来、父はますます異世界に関わりそうな話を嫌がるようになったのだ。
「それは……なんというか。私どもも死活問題だったとはいえ、申し訳ない事をした」
 初めてシーグ王太子が悲しそうな表情になる。
「いいえ。悠樹のことは、弟が母の故郷を救いたいって、自分で決めたんですから。気になさらないで下さい」
「でも今回イオリ殿までこちらへ来てしまって、父上はさぞご心痛のことと思うが」
「今は大丈夫ですよ。弟には内緒にしてるんですけど、父は最近お付き合いしてる方がいまして。だから母のことも悠樹のことも、昔よりずっと割り切って考えられるようになったみたいです」
 突然ひとりぼっちにされた父に、傍にいてくれる人が見つかったのだ。おかげで伊織も安心できる。
「まぁ今回は突然のことだったので、なるべく早く帰れるといいんですけれどね」
 そう言うと、なぜかシーグ王太子が妙な笑みを浮かべる。
「ですが、焦っていないようですね」
「とりあえず父には手紙を書いたので。あと心配なのは学校ぐらいですか」
「学校?」
 横から尋ねてくるアルヴィンにうなずいてみせた。
「イオリは十六だろ? まだ勉強するなんて学者にでもなるのか?」
「ううん。直裁に言えば、自分のやりたい仕事に就きやすくするためにまだ学校に通わなくちゃいけないの。めんどうなのよ、あっちの社会って」
 アルヴィンは今一想像できなかったらしい。学者にならないと仕事が選べないのかと、首を傾げている。
「あちらで待っていらっしゃる方はいないのですか? お友達とか」
 シーグ王太子に質問される。
「病気だって言えば誤魔化せるから、問題ありませんよ」
 答えると、シーグ王太子は何かを含んだような笑みを見せる。
 伊織にはその笑いの意味がわからず、内心首をかしげていた。
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