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バーベキューふたたび

・一応ファンタジーです。

・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍はしません。

・店主は普通のおっさんです。料理以外できません。

・出てくる客は毎回変わります。ただしたまに常連になる客もいます。

・バーベーキューのソースはバーベキューソースと醤油から選べます。

 洋食のねこやには、お盆休みがある。

 毎年八月の半ばは丸々一週間もの間、洋食のねこやは完全に店を閉めてしまう。

 それは洋食のねこやが主にサラリーマン相手の商売故にサラリーマンが休みになるお盆には客がロクに来ないのもあるし、元が古い店故に盆暮れ正月は商売をやらずに休むべきという考えを先代も今の店主も持っているからというのもある。

 さて、そうして盆休みが始まる前、洋食のねこやはとある『特別な料理』を出す習慣がある。

 お値段はこの店のランチの上限であるお一人様千円。だが何しろ『食べ放題』になるためにお客は大満足だが店は赤字確定になるという、年に一度のお祭り企画で無ければ出せないような料理である。

 何でもずっと昔、店主が生まれるよりも前、仕入れを間違えただかなんだかで(まだ店に金が無い頃のことで、危うく店を傾けかけ、会計を任せていたばあさんに大目玉を喰らったと仕入れを間違えた張本人である先代は笑っていた)店に大量の食材がダブついたことがある……らしい。

 時は折しもお盆に入る直前、今よりもずっとお盆は休むものという意識が強かった時代であり、店の冷蔵庫が今よりもずっと小さかった時代、お盆になったら客足は完全に途絶えるし、仕入れた材料は盆明けまで持ちそうにないと仕入れを間違えた先代は頭を抱えた。

 普通にやってたんじゃ間違いなく盆までに食材を使い切れんと頭を抱えたまま一晩丸々悩んだ結果、先代はとある企画を思いつき、立て看板を出したという。

 

 ―――本日、特別メニュー『バーベーキュー』を販売。肉でも野菜でも、いつものお値段で食べ放題。

 

 そんな企画を立てた日、ねこやの客は爆発的に増え、間違えたせいでいつもより多めにあったはずの材料はわずか二日で使い切った。みんながみんな肉だの海老だのと言った高めの食材をこれでもかと食ったせいで儲けはほとんど出なかったが、食材を無駄にはしなかったと先代はほっと胸をなでおろした、らしい。

 ……もっともその翌年、今年もバーベーキュー食べ放題はやるのかと色んな客から聞かれたせいで、やらざるを得なくなったのは大いに誤算であったが。

 そんなわけで毎年お盆前になると、洋食のねこやでは年に一度、二日間だけ『バーベーキュー』が日替わりで並ぶ。

 お盆に入る直前の金曜日。そして、その翌日である土曜日、こちらの客とあちらの客にバーベキューを千円で出すのである。

 

 そして、今年もまた、その日がやってきた。

 「よし、今日も頑張るか」

 土曜日の朝、店主は気合いを入れ直す。

 昨日の金曜日は非常に盛況であり、戦場だった。

 夏休みで暇な学生が昼間から集まって食べ放題のノリで騒ぎまわり、夕方からは明日からの休みであるサラリーマンが大量に押しかけた。昼時の忙しさが開店から閉店までずっと続いたのだ。

 その忙しさは、三十路を越えて六年になる店主にとってはだいぶ堪えた。正直今日はもう休みたいとも思う。

 だが、店主とて明日からは一週間の休みである。そう思えばやる気も出てくる。

 かくして店主は黙々と肉を切り分け、野菜を洗い、魚介の下処理をする。

 「おはようございます。マスター」

 「おう、今ちょっと手を離せないから、シャワー浴びてきて、メシ食っててくれ。そこにサンドイッチ作っといたから」

 いつものように店に来たアレッタが来ても作業はやめない。手が離せない。

 土曜日は客足事態は金曜日より少ない代わりに、人手も少ない。給仕はアレッタが担当するようになってから大分楽になったが、料理は今なお店主一人で切り盛りしているのだ。

 「よし、こんなもんか」

 それからしばらくして、ようやく準備が整った頃。

 

 チリンチリンと客の来訪を告げる音が鳴り響き、戦いが始まった。

 

 

 今日の日替わりがバーベキューだと聞き、エレンは己の予想が当たったと笑みを深める。

 「おう、やっぱり今日だったな」

 ヘルマンと顔を合わせて微笑みあい、カイとボナ、二人の子供たちと笑いあう。

 夏の盛りの時期、七日に一度のドヨウの日には、年に一度だけバーベーキューが売り出される。

 ここ十年以上ここを訪れているエレンは何度かそれに遭遇するうちに、いつ頃開かれるかを見極められるようになっていた。

 「そうだね。思った通りだ……それじゃあ、バーベーキューを四人前頼むよ。それと……」

 「ビールだ! ビールをくれ!」

 「かあちゃん! 俺コーラがいい!」

 「あたしも!」

 年に一度のお祭りに浮かれ、ヘルマンたちが口々に飲み物を要求する。

 「わかってるよ。すいません。ビールとコーラを二つずつね」

 いつもならばすぐにでも却下するところだが、年に一度のバーベーキューの日くらいは大いに飲み食いしたい。

 そんな気持ちからか、あっさりと受け入れてエレンは追加で飲み物を注文する。

 「はい。ありがとうございます。えっと、バーベキューは、焼くものが選べるんですけど、まず何をお持ちしましょう?」

 給仕の娘が何を焼いてくるのかを聞いてくる。

 「牛の肉と豚の肉。あと、鳥の脚肉を全部バーベーキューソースでお願いします」

 その問いかけにエレンは笑顔で答える。

 バーベーキューと言えば、美味い肉を食う日。

 それがエレンたち一家にとってのバーベーキューである。

 

 バーベーキューは年に一度、異世界食堂で夏の盛りのとある土曜日のみ売り出される、特別な料理である。

 値段は一人当たり銀貨一枚とかなり高いが、なんとパンやライス、スープのみではなく『料理そのものを、好きなものを好きなだけ注文できる』という豪勢な料理で、銀貨一枚払ってでも食べる価値がある。

 特に普段はほとんど口にできない肉。それも異世界の上質な肉を腹いっぱい食べられる機会ともあれば、エレンたちにとってはお祭りのようなものであった。

 

 それから少しして、四人の前に大皿に盛ったバーベキューがやってくる。

 「お待たせしました。バーベーキューです」

 「それと、飲み物も一緒にお持ちしました」

 量が多いせいか、皿を店主が、四人分の飲み物を乗せたトレイを給仕の娘が持ってきて、それぞれの前に並べる。

 漂ってくるのは焼けた肉と肉に塗られ、少しだけ焦げたバーベーキューソースが放つ香ばしい香り。

 その香りに思わず四人はごくりと唾を飲み、そろそろと手を伸ばす。

 牛の肉はオラニエと交互に串に刺され、豚の肉は肉のみの串となっている。鳥の脚は丸々脚が一本分、丁寧に焼かれているのが見て取れた。

 (いやはや参ったね……)

 串を手に持ったことで先ほどより肉の香りを強く感じつつ、エレンは我慢が出来ずに牛の肉の串を頬張る。

 口の中に入れた瞬間、焼けた肉の肉汁と脂、それから甘酸っぱいバーベキューソースの味が口の中に広がる。

 (ああ、やっぱりここの肉は美味いねえ……)

 その味にエレンは思わず目を細める。

 このバーベキューという料理は、甘くて酸っぱくてちょっとだけ辛いバーベーキューソースの辛みや、表面はしっかりと火を通しつつも中の肉は固くなっていないという絶妙な焼き加減もさることながら、肉の質が違う。特に牛の肉は柔らかくて、乳臭くも無くて、噛みしめるたびに肉汁がたっぷりと溢れて……エレンの知る牛という生き物と本当に同じ生き物の肉なのかと不思議に思うほど、美味い。

 (どう育てたらこんな肉になるんだろうね。まったく)

 エレンにとって牛の肉は、秋の豊穣を祝う祭りの食べ物である。

 一年の収穫が無事に終わった後、そのことを大地の神に感謝して行われるその祭りでは、毎年牛の丸焼きを作る。

 もう働けなくなった老いた牛や、乳が出なくなった牛を潰し、丸々一頭焼いて食べるのだ。

 それは、普段肉などロクに食えないエレンたちにとっては充分にご馳走だし、喜んで食べるが、歯の悪い老人では噛み切れないほどに固いし、独特の臭みもある。やはり元々食うために育てている豚の肉ほどは美味くない、というのがエレンも含めた周りの評価である。

 だが、ここの牛の肉はまるで違う。豚の肉に勝るとも劣らぬ、臭みのない肉の味が食欲をそそり、一度食べ始めると手が止まらない。

 肉と肉の間に交互に挟まれた、ほんのりと食感と辛みを残した焼きオラニエで口直しをしつつも、あっという間に一本食べ終え、すかさずビールに手を伸ばす。

 爽やかに冷たい苦みが口の中と喉を通り抜け、肉の風味を洗い流す。

 その感触に溜息をついてふと他の三人を見れば、他の三人も満足げに飲み物を口にして溜息をついたところだった。

 (おやおや。やっぱ家族ってのは似るもんなのかね)

 そのことに思わず吹き出す。

 「おう、母ちゃん。この豚の肉もうめえぞ。食え食え」

 一息ついたところで、ヘルマンがもう一つの豚の肉が刺さった串をもう一本とりながら、言う。

 灰色の肉の上に透き通った白い脂身がついた、豚の肉のバーベキュー。こちらは肉のみで焼かれていて、今にもしたたり落ちそうなほど脂がのっている。

 程よく脂が抜けた脂身の香ばしい表面を噛み破るとほのかに甘い気がする脂が肉汁と共に漏れ出す。それが甘辛いバーベキューソースと組み合わさると絶品であった。

 「母ちゃん! この鳥の脚もうめえよ」

 「食べてみて! ほんとうにおいしいから!」

 子供たちが勧めてくるのは、鳥の脚だった。普段はローストチキンとして売られている、鳥の脚肉をバーべキューソースに漬け込んで焼いたらしいそれは、他の肉よりもバーベキューソースが染み込んでいる。それにかりかりとした鳥の皮と、柔らかな脚肉、それから骨の周りについた、コリコリした部分。

 一度に様々な風味を楽しめる鳥の脚肉は、子供たちが一番好きな肉料理であった。

 「はいはい。じゃあいただくとするかね。ああ、それとこの牛の肉も美味しいから、食べてみてごらん。祭りの日に出る肉とはほとんど別物だから」

 愛する夫と子供たちの勧めに応じながら、エレンもまた牛の肉を勧める。

 彼女たちにとってバーベーキューとはひたすらに美味い肉を食う料理なのであった。

 

 

 一方、同じ肉を主体としながらも別の食べ方をする、親子ほども歳の離れた男たちと、二頭の犬がいた。

 「どうだ。ここのばぁべきゅうは?」

 「すげえうまいです……ってか本当にいくら食っても銀貨一枚なんですか?」

 「おうともよ。酒とか甘い飲み物は別だけどな。つうわけでじゃんじゃん食え。メシも肉もな」

 ガフガフと、尻尾を振りながら塩も振っていない本当に焼いただけの肉を嬉しそうに食っている猟犬二頭の頭を撫でながら、壮年の男であり、熟練の猟師であるマシラは己の弟子であるユートに言う。

 「はい。ありがたく頂きます」

 マシラの言葉に力強く頷き、左手に肉の串を、右手に箸を手にしたユートがさっそくとばかりに食べ始める。

 しょうゆに砂糖や出汁を入れて作った、甘くてしょっぱい味付けの豚の肉を串から外して山盛りに持った米の飯の上に乗せて、食う。

 肉の脂と肉汁が染み込んだ白くて甘い、メシ。

 香ばしく焼き上げられた肉の旨みと、湯気を立てる甘いメシの相性は抜群で、いくらでも食べられそうな気がする。

 「やっぱここの米は美味いですね。この飯だけでも十分ご馳走だ」

 「だなあ。俺はもう、ここに肉食いに来てるのか米食いに来てるのかわかんなくなってきたよ」

 ユートの言葉に、師匠であるマシラも頷く。

 確かに、ここの肉料理は、美味い。いつも食っているぽぉくじんじゃあや老いた侍衆を案内した時に食べた豚の角煮、それから今日のばぁべきゅう。これらの肉料理は山国一の美味ではあると思う。

 だが、ここの白い米もまた、別格の味がするのも事実だ。というより山国で育てている米とはものが違う。

 職業柄、肉というものをしょっちゅう食べている二人にとっては、こちらの方がご馳走に感じられるのも当然であった。

 (ああ、この香りがたまんねえよなあ)

 マシラは米の甘味を含んだ湯気を思い切り吸い込んで、その香りを堪能する。

 それだけで今まで散々肉と米を食ってきたのに、まだまだ入る気がしてくるから、不思議なものだ。

 (まだまだ若いやつには負けてらんねえし、しっかり食わねえとな)

 そうしてマシラは、怒涛の勢いで米と肉を腹に流し込んでいる弟子に負けぬよう、再び箸を取るのであった。

 

 旅のエルフであるファルダニアは、フォークでそっとそれを切り取って口に運び、顔をしかめた。いつも通りに、美味かったが故に。

 (参ったわね……ただ焼いただけのメランザがこんなに美味しいなんて)

 そんなことを考えつつ、今日だけで五つ目となるメランザをさらに口に運ぶ。

 緑色の果肉からあふれるのは、恐ろしいほどの旨みを含んだ汁。メランザの上から振りかけられたトロロコンブの旨みと、ピリリとした擦りおろしの生姜の辛み、そして上から振りかけられたショーユの味を余すところなく吸い込み、それにメランザそのものが持つちょっと風味と合わさることで、最上の汁気を持つ野菜となっている。

 紫色の皮は綺麗に剥かれ、鮮やかな透き通った緑のメランザは、夏の野菜である。その太くて肉厚な果肉は柔らかく、スープなどで煮込むとよくスープを吸って美味いし、焼いて塩を振ってもそれなりにいける。

 だが、それだけだったらファルダニアがうなり『おかわり』を重ねるほどの味にはならない。

 (やっぱりこのショーユがずるいのよ。これがあれば色々美味しく食べられるのに)

 ちらりと、先ほどから焼いたトーモコロシなる黄色い果物のように甘い野菜をかじり続けている弟子の方を見る。

 一心不乱に太い芯についた黄色い実をかじっているエルフの子供であるアリスは、どうやらあの甘い野菜がひどく気に入ったらしい。

 焼きたてのそれは香ばしくて、噛みしめると甘い汁を出す。

 そして、それを一段上の味に押し上げているのが焼けたショーユの塩気だ。

 焦げたショーユの独特の香りと、甘味と見事に合わさった塩気がトーモコロシをさらに美味しくしており、アリスの心をがっしりとつかんだらしい。

 「すみません。おねえさん、このトーモコロシをくださいな」

 最初に頼んでいたシータケなる茸や輪切りのオラニエ、ダンシャクの実などはもう頼まず、延々とトーモコロシを頼んでいる。

 (あとはこれ、この『トロロコンブ』とかいうものもずるいわね)

 ついでに正体を見極めるようにフォークでメランザの上にそっと掛けられた、くすんだ緑色の草を持ち上げる。

 店主曰く『普段ならそれとショーユに、生姜とカツオブシなんだが、お嬢さんは生臭物ダメみたいだから』と言って代わりにかけてきたのが、このトロロコンブなる草である。

 この草は旨みの塊のようなもので、噛むと旨みがじわりと染み出し、かすかに海の匂いがする不思議な草であった。

 (……カミラはこれの正体を知らないかしら)

 その海の香りに、今日ファルダニアたちを異世界食堂へと誘った、海辺の町に住んでいる魔女の方を見る。

 海の魔女を名乗り、町の民に薬を売って暮らしているという、カミラという魔女。

 彼女は海の魔女というだけあって、海の中のことに詳しい。それ故に何か知らないかとファルダニアは期待したのだ。

 「うん。獲れたてってわけではないけど、冷たい場所で腐らないようにちゃんと保管してるみたい。中々いけるわね」

 当のカミラは先ほどから海の生き物を選んで食べている。

 串に刺さった、丸まったシュライプや、大きく切り分けられたクラーコに、貝殻の上で直接焼かれたホタテなる貝の中身。

 どれもショーユを上から振りかけて焼いたらしく、シュライプは歯を立てると歯を押し返してくるような弾力があるシュライプに噛むたびに口の中でぶつりぶつりと心地よく噛み切れるクラーコ。そして口の中でほぐれる貝柱と、噛み応えのあるホタテ。ショーユという、西の大陸の海べりに住む民が使う魚醤とよく似ているソースを上からかけて、ほのかに焦がした味と香りをまとったそれは、鮮度こそカミラが普段食べているカミラが直接海に潜って採ってきたものには一歩及ばないが、保存方法が良いのか腐っている様子はなく、ただただ食欲をそそる香りを持っていた。

 「ねえ、カミラ……さん」

 そうして食事を楽しんでいると、ぽつりと声を掛けられる。

 「何かしら?ファルダニアさん」

 その言葉に少しだけフォークの手を止め、ファルダニア……この前押しかけてきてフルーツゼリーについて教えてくれと言ってきた耳長き侵略者、エルフの末裔である娘を見る。

 ずっと昔、これでも百はとうに越えているカミラが生まれるよりずっと前に青の神の北にある大陸からやってきたという、侵略者。

 彼らは偉大なる六柱の神とすべての生きとし生けるものの天敵たる『万色の混沌』を混同して『七色の覇王』などと呼ぶような野蛮人で、優れた魔術師一人で大神官すら倒すことができたという高度に発達した魔法と、我らこそこの世界の覇者などという鼻持ちならない傲慢さでもって偉大なる神の眷属の住まう大陸を襲った侵略者だが、それもはるか過去の話。今では人間の方が遥かに数が多いというくらいに衰退したせいか、かつての傲慢さはなりを潜め、森の中に小さな村を作って細々と暮らしているものが大半である。

 青の神の民は海の中に住まうがために主に陸地を侵略していたエルフとの関係が薄かったこともあり、カミラはエルフという民をさほど嫌っていない。だからこそ、こうして行動を共にすることもあるのだ。

 「これ……この上に掛かっているの、海の草だと思うんですが、どういうものか分かりませんか?」

 「どれどれ、ちょっと味見させてもらうわね」

 ファルダニアの問いかけにカミラは、先ほどから熱心にファルダニアがお代りを重ねていた緑色の野菜にフォークを伸ばす。

 「うん、これは多分、あの草だと思うわ」

 その味から分かった草の正体を一言一句聞き漏らすまいと、ファルダニアはピンと耳を伸ばして傾けるのであった。

 

 

 そして、夜。最後の客をようやく送り出し、店主は思わず食堂の椅子にどっかりと腰を下ろした。

 「……ようやく終わったな」

 思わず声が漏れる。毎年、年を重ねるごとにきつくなっている気がするのが、自分がどんどん歳を取っているような気になって嫌だ。

 今日は目の回るような忙しさであった。夕刻からは店に主に酒を飲みに来る客が、バーベーキューと聞いて大いに湧きあがり、何度も酒とバーベキューのお代りを繰り返し、今日の最後の客……いつもならばビーフシチューだけを頼む魔族の客は『少しだけ味見』と称して尽きかけていたとはいえまだ五人前くらいはあったバーベキューをすべて平らげたのだ。

 「まあ、これで明日からはきっちり休めるな」

 とはいえ今日を乗り切れば日曜日から次の土曜日まではずっと休みで、ゆっくり過ごせる。

 今年は何をしようか。そんなことを考えつつ。

 「さてと、その前に最後の分を出すとするか」

 店主はシャワーで汗を流している従業員のため、取り分けておいた自分たちの分を焼く準備をするのであった。

今日はここまで

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