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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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工業都市トゥバーン攻略戦(後編)

30話


 師匠の放った電撃は、恐ろしい威力だった。ここからでも、城門の扉が激しく損傷を受けたのがわかる。
 同時に屍蝋兵の残骸が燃え上がり、大扉は炎に呑み込まれた。
「やった!」
 フィルニールが嬉しそうに飛び跳ね、槍を高々と掲げる。
「よーし、行……」
 俺は慌てて、彼女を制止した。


「待て! まだ扉が焼け落ちてない! 失敗してたら全滅するぞ!」
「あ、それもそっか」
 フィルニールは頭を掻いて、槍をおろす。
「やっぱ今のナシ! もうちょっと待つよ!」
 突撃態勢になっていた人馬兵たちが、再び待機姿勢に戻る。
 見事な統率力だ。
 しかしちょっと危なっかしいな。


 ふと横を見ると、城門の様子をクルツェ技官が観察している。こいつ、望遠鏡なんか持ってるじゃないか。
「いいもの持ってるな、ちょっと貸してくれ」
「これが何かおわかりなのですか、ヴァイト殿?」
 あ、しまった。この世界では最先端の装置らしい。
 適当にごまかしておくか。
「そうやって覗いてるんだから、観測機器だろう。ガラス板で風景を拡大して、遠くを見る装置ではないのか?」
「お、恐れ入りました。その通りです」


 驚いているクルツェから望遠鏡を借りて覗いてみると、城門の大扉は崩壊寸前だ。景気よく燃えている。
 城塞側からさかんに砂をかけて消火活動をしているようだが、屍蝋兵三百体分の脂が、そんなもので消えるはずがない。
 ただ、ひとつだけ誤算があった。
 それも致命的な誤算だ。


「鉄格子だ……」
 焼け崩れていく扉の陰から、鉄格子の落とし戸が見えてきた。二重の防御策が施してあったらしい。
 リューンハイトよりかなり堅固な構造だ。ちょっとうらやましい。
 しかし困ったことになった。
 鉄格子は焼き払えない。


 俺が見たままを告げると、フィルニールはたちまち暗い顔をした。
「どうしよう、センパイ!? こうなったら、みんなで破城槌を抱えて突っ込むしかないよね?」
 破城槌といえばかっこいいが、鉄板で補強された丸太みたいなものだ。大勢で構えて何度かぶつけないとダメだろう。
 しかしそんなもの抱えてのろのろ突っ込めば、確実に大損害が出る。
「落ち着け。こういうときのために、準備をしておいた」
 俺はクルツェに命じる。
「あれを全部持ってきてくれ」
「全部ですか!? 大樽ですよ!?」
「いいから早く」
 クルツェ技官は現在、俺の指揮下にある。彼は軍人らしくすぐさま敬礼して、数人がかりで火薬樽を運んできた。


 竜人の技師が数人がかりで持ってきたそれを、俺は人狼の力でヒョイと担ぎ上げる。半分ぐらいは樽の重量だろうが、軽く百キロはありそうだ。
 俺は火薬のことなんかさっぱりわからないが、これならたぶんいけるだろう。
「ちょっと行ってくる」
「どこへですか、ヴァイト殿!?」
「いや、あの格子戸を吹っ飛ばしに……」
「あなたは指揮官でしょう!? やめてください!」


 俺とクルツェがもめていると、フィルニールが俺に声をかける。
「行くなら、ボクが力を貸すよ。乗って」
「お前、今回の総指揮官だろうが」
「それ言うなら、センパイだってリューンハイトの司令官じゃない。無茶なのは同じだって」
 横でクルツェ技官が気絶しそうな顔をしているが、俺は構わずに会話を続ける。


「人馬兵の中で、一番足の速いヤツに頼む。誰だ?」
 俺が居並ぶ人馬族の戦士たちを見回すと、彼らは一斉にフィルニールを見た。
 小柄な少女は、得意げに薄っぺらい胸を張る。
「ボク、人馬族の巫女だからね。『烈走』の称号はウソじゃないよ」
 よく見ると、他の人馬兵とは備えている魔力が何倍も違う。
 どうやらこいつも、魔王と同じような突然変異らしい。


 どうするべきか迷っていると、トゥバーンの方角から「ポン、ポポン」という破裂音が聞こえてきた。
 北門を包囲しているメレーネ先輩からの信号だ。あちらにも竜人の技師を何人か回している。専用のスリングショットで竜玉を打ち上げたらしい。
 望遠鏡を覗いたクルツェが、すぐに信号の意味を伝えた。


「『敵』『南』『主力』……敵主力部隊が、こちら側に向かっているようです!」
 北門から敵が出てきたか。
 メレーネ先輩の骸骨兵部隊は、城壁のクロスボウから狙撃されない距離にいる。
 敵の弓騎兵隊は、クロスボウに援護されながら城門から出てきたらしい。東側と西側、どちらの城壁を迂回してくるのかはわからない。


 もう悩んでいる暇はない。
 俺がうなずくと、フィルニールは槍を掲げた。
「祖霊の加護を!」
 そしていきなり、兜を脱いで投げ捨てた。
 さらに着ている鎧を脱ぎ捨てる。
 とうとう服まで脱ぎ捨てた。小振りな乳房が露わになるが、彼女は満面の笑顔だ。
 なんだ、何が始まるんだ。


 裸になったフィルニールは、槍と盾だけ構えて叫んだ。
「両翼防御陣形! 射撃戦用意!」
 人馬兵たちは一糸乱れぬ動きで、隊列を変更する。人間の騎兵では、こうはいかないだろう。
 そしてフィルニールは陣形の先頭に立ち、人馬族の兵士たちを激励した。
「ボクの鎧は、ここにいる勇敢な戦士たちだ! キミたちがいる限り、ボクは死なないよ!」
「おおおお!」


 人馬兵たちは大興奮だ。別におっぱいおっぱいで喜んでいる訳ではなく、戦士としての高揚に酔っているらしい。
 ある者は矢筒を叩き、またある者は槍と盾を打ち合わせて叫ぶ。
 そういえば、人馬族は無謀な方法で勇猛さを誇示する種族だと聞いている。
 だがまさか、戦場のど真ん中で鎧脱いで裸になるとは思わなかったぞ。
「今こそ人馬族の武勇を示すときだ! みんな、がんばろー!」
「おおおお!」
 見事なカリスマっぷりだ。さすがは魔王軍の将だけのことはある。


 やがてトゥバーンの誇る弓騎兵隊が土煙を巻き上げ、城壁の両側から現れた。左右から挟撃するつもりらしい。
 こちらと比べると圧倒的に少数なので、指揮官を狙った奇襲が狙いか。
 だがこちらは奇襲を事前に察知できたので、万全の態勢で迎え撃てる。竜玉のおかげだ。
「まだだ、まだだよ!」
 フィルニールは戦士たちに待機を命じる。
 距離は次第に詰まってくるが、彼女はまだ兵を動かさない。
 敵の弓騎兵たちが、馬上で弓を構えた。


 その瞬間、フィルニールが叫ぶ。
「とつげきいぃっ!」
「うおおおおぉ!」
 まるでひとつの生き物のように、両翼の部隊が動き出した。飛び交う矢をものともせず、トゥバーンの城壁に向かって走り出す。
「行くよ、センパイ!」
「おう!」
 俺は火薬樽を担ぐと、駆け出したフィルニールの背に飛び乗った。


 城壁からのクロスボウを警戒した俺だが、ありがたいことにほとんど矢は飛んでこなかった。
「今撃つと、弓騎兵たちに当たっちゃうもんね」
 ギリギリまで敵を引きつけたせいで、俺たちはトゥバーンの城壁と敵弓騎兵隊に挟まれる形になっている。
 もちろん非常に危険な状態だが、一番恐ろしい固定式クロスボウを封じることができた。
 威力がありすぎるので、流れ矢で弓騎兵たちにまで被害が出てしまうのだ。
 なかなか考えてるじゃないか、こいつ。


 フィルニールの脚力は、他の人馬兵とは桁が違った。
 人狼と火薬樽を載せているにも関わらず、他の人馬兵をぐんぐん置き去りにして走っていく。向かい風で息がしづらいほどの猛烈なスピードだ。
 確かに「烈走」の称号は伊達じゃない。
 俺たちはあっという間に、城門に近づいた


 城門周辺には、生き残りの骸骨兵たちが多数いる。
「整列! 盾をかざせ!」
 俺は骸骨兵たちに道を作らせると、盾で壁を作らせた。
 クロスボウの矢が飛んでくるが、盾で視界を塞がれているので狙いはデタラメだ。


 いよいよ眼前に、燃えさかる城門が迫る。
「フィルニール、俺が飛んだら反転しろ!」
「センパイは?」
「何とかなるだろ!」
 俺はそう叫ぶと、彼女の馬体を蹴って飛んだ。


 クロスボウの矢が飛び交う中、俺は火薬樽を城門に向かって投げつける。
「これでもくらえ!」
 導火線に引火したのが、一瞬見えた気がした。
 大爆発が起きた。
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