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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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四百人殺しのヴァイト

31話


 結論からいうと、俺のやった行為は無謀などというものではなかった。
 まず火薬の量が多すぎた。
 ケチって失敗したら目も当てられないので全部使ったのだが、どうもやりすぎたらしい。


「はっ!?」
 一瞬気を失っていたようだ。意識を取り戻した俺は、城門の目の前に倒れていた。
 鉄格子は跡形もなく吹き飛んでいる。ところどころ錆びていたようで、思ったより脆かったようだ。
 あともったいないことに、周囲の骸骨兵は全滅していた。バラバラに吹っ飛んでいる。
 俺が人間だったら、間違いなく俺も死んでいただろう。


 鉄格子を破壊したら骸骨兵をなだれ込ませるつもりだったのだが、完全に予定が狂ってしまった。
 城門を制圧しないと、突入時に味方に被害が出る。
 今突入できるのは俺だけだ。やるしかない。
 俺は迷わず、城門に飛び込んだ。


 たぶん人馬兵たちも、すぐに突入してくるだろう。俺は少し時間を稼ぐだけでいい。
 だから俺は、爆風で尻餅をついている敵兵たちにこう叫ぶ。
「遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我が名はヴァイト! 魔王軍の将だ! 命の惜しくない者は、俺を討ち取って名をあげるがいい!」
 一度敵陣で名乗りをあげてみたかったのだが、前世から密かに練習しておいたのがついに役に立ったようだな。


 ただ、その後の展開がどこかおかしかった。
 市民兵らしい連中は、俺の名乗りを聞くなり悲鳴をあげた。
「ヴァイト!?」
「皆殺しのヴァイトだ!」
「四百人殺しが出たぞー!」
「もうダメだあ!」
 武器を投げ捨て、一目散に逃げ出していく兵士たち。
 皆殺しのヴァイトってなんだ?


 結局、トゥバーン攻略戦はそれで終わってしまった。
「四百人殺しのヴァイトが城門を破った」という噂を聞いた市民と義勇兵たちは、北門から逃亡。待機していた骸骨兵に包囲され、そのまま投降したのだ。
 外で戦っていた弓騎兵たちも荒ぶる人馬隊の攻撃で大損害を受け、あっけなく降伏してしまった。
 俺まだ、誰とも戦っていないんだが……。


 こうしてフィルニール率いる人馬隊は、軽微な損害だけで工業都市トゥバーンを占領したのだった。
「なんか、あっさり終わっちゃったね」
 そそくさと服を着たフィルニールが、俺と一緒に市内を歩きながら呟く。
「お前、次から服だけは脱ぐなよ。他種族が驚く」
「そうなの!? むしろそれ、ボクが驚いたよ」
 占領直後なので、俺たちの周囲は人馬兵たちが厳重に警護している。


 それにしても聞こえてくるヒソヒソ声は、俺への恐怖ばかりだ。
「あれが単騎で四百人を殺した人狼の将軍か……」
「城門を一撃で吹き飛ばしたらしい……」
「クロスボウ隊が総出で攻撃したが、矢が全く通じなかったそうだ……」
 全部聞こえてるぞ。人狼は耳がいいからな。
 しかしどうも、噂に尾鰭がつきすぎじゃないか?


「ところでセンパイ、さっきのあれはなに?」
 フィルニールが聞いてきたのは、もちろん「竜の息吹」のことだろう。
 しかしあれは最高軍事機密なので、教える訳にはいかない。俺の横にいるクルツェも、「黙っていろ」といわんばかりに、執拗に目配せしている。
 だから俺は、こう答えるしかなかった。
「人狼の必殺技だ」
「すごかったね!」
「……まあな」
 こいつがバカで良かった。


 それにしても、さっきから漂うこの腐敗臭はなんだ。
 太守の館に向かうために、俺たちは街の広場に出る。
 そこで俺は、異様なものを見た。


 広場の片隅にある、鉄柵に囲まれた空間。
 磔刑台が設置されて、腐敗して半ば干からびた骸が晒し者にされている。おおかた重罪人だろう。
 それだけなら、大して珍しいものでもない。
 リューンハイトでも、数年に一度ぐらいは殺人罪による処刑が行われると聞く。


 だが俺の視線を釘付けにしたのは、その磔刑台の下だった。
 鎖と手枷に拘束された男がいる。
 辺りには残飯や汚物が投げ込まれ、異様な臭いをさらに強烈なものにしていた。


 足を止めた俺の周囲を、人馬兵たちが一分の隙なく護衛する。
 フィルニールも立ち止まり、俺の顔を覗きこんできた。
「どうしたの、センパイ?」
「……少し確認したいことができた」
 俺は磔刑台に近づいていく。


 手枷の老人は、ボロ布を着せられていた。石もぶつけられたのだろう、あちこちに酷い傷がある。衛生状態が悪いため、化膿していた。
 もう体力が尽きかけているようで、老人は目を閉じたまま横たわって動かない。息をしているのは、かろうじてわかった。


「センパイ、もしかして知り合いの人?」
「いや……まさかな」
 俺は念のため、思い当たる人物の名を呼んでみる。
「ユヒト司祭?」


 その瞬間、傷ついた老人はゆっくりと目を開けた。
 変わり果てていたが、その目はまぎれもなくリューンハイト輝陽教の長・ユヒト司祭だった。
「ヴァ……イ……」
 もう声を出す力がないのか、ユヒト司祭はひび割れた唇を震わせるだけだ。
 思わず俺は鉄柵を引き抜いていた。


「ユヒト司祭!」
 人狼の怪力で簡素な造りの鉄柵を引き抜き、石畳の上に投げ捨てる。
 俺は鼻を突き刺す悪臭に耐えながら、ユヒト司祭を助け起こした。鎖を引きちぎり、手枷を叩き壊す。
「しっかりしろ! 何だ、これは!」


 すると近くの立て札を見ていたクルツェ技官が、こう答える。
「ここに、『反逆者ベリトを処刑し、衛兵隊長の地位を剥奪する。裏切り者ユヒトは死ぬまで晒し者とする』と書かれていますな」
「裏切り者だと!?」
 ユヒト司祭が裏切り者のはずはない。むしろ裏切られたのは俺たち魔王軍の方だ。


 どうやらトゥバーンの連中は、リューンハイト解放に失敗した責任を衛兵隊長とユヒト司祭に押しつけたらしい。
 責任の重さで言えば当然だし、仲間を殺されたトゥバーン市民の感情は理解できる。二人のやったことはそもそも違法行為だ。
 だがそれにしても、こんな爺さんにむごい仕打ちをする必要はないじゃないか。


「人間ども、聞くがいい!」
 俺は吠えた。あちこちの物陰からこちらを伺っていた連中が、怯えたように引っ込む。だが聞いているはずだ。
「これがお前たちのやり方か! 丸腰の老人を捕らえて晒し者にして、それで満足か!」
「センパイ、ちょっと……」
 フィルニールが制止したが、俺はそれを振り払う。


「罪を償わせるなら、命を奪えばそれでいい! こんな見苦しい真似をする必要がどこにある!」
 叫んでいるうちに俺は少し冷静になり、自分の立場と主張のズレを思い出す。
 あくまでも、魔王軍の将として発言しなくては。
 今のをうまいこと軌道修正しよう。


 俺は嘲笑するような声で続けた。
「しかし、こいつはお笑いだ! 魔族が侵攻しているときに、哀れな爺を晒し者にして満足しているとはな! 衛兵隊長を始末してくれたおかげで、攻略も容易であったわ!」
 俺は磔刑台の柱をへし折ると、衛兵隊長の骸も解放してやった。
 石畳に転がる磔刑台の柱を見下ろしながら、俺は笑う。
「そんなざまだから、お前たちは魔族に二度も敗れたのだ! 恐怖するがいい! 我々は貴様らに情けなどかけんぞ!」


 それと、リューンハイトを統治する将として言っておくことがある。
「このユヒト司祭は、魔王軍の依頼を受けた使者であり、リューンハイト太守アイリアの公式外交官でもある! これはリューンハイトと魔王軍への侮辱と受け取るぞ!」
 せっかく俺とアイリアがユヒト司祭の身分を保証してやったのに、まるで意味がなかった。
 これは俺の責任だ。


 好き放題わめいた後、俺はちらりとフィルニールの方を見る。
「俺が悪役やってやったから、お前は善人ぶって適当なこと言え。あいつらは俺を怖がって、お前にすがってくる」
「あ、あー、なるほど」
 うんうんと納得したような顔をして、フィルニールが声を張り上げる。
「あー、だいじょうぶ、だいじょーぶ! ここの統治はボクたち人馬族がするからね! このこわーい人狼さんには、何もさせないよー」
 ただし彼女は、こう付け加えることも忘れなかった。
「キミたちがボクに逆らわなければね」
 そうそう、それでいい。


 後は噂が噂を呼び、トゥバーン全域に広まるまでは半日とかからなかったという。
「城門を一撃で蹴り破った『四百人殺しのヴァイト』が、使者を侮辱され、激怒してトゥバーン市民を虐殺しようとしている」という間違った噂が。
 まあでも、この誤解は解かないでおこう。
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