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最終話 前編

(松伏視点)


佐藤が行方をくらましてから2日が経った。

私も丑満時も、佐藤が行きそうな場所や校内を散々探し回ったのだが、それでも佐藤の姿はなかった。支援クラスの皆にも、3年生のメンバー全員にも、『坂杜様』にも協力してもらったのだが、何処にもいない。いなかった。

私と丑満時、そして支援クラスのメンバーで作戦会議をしている時、聞きたくもない言葉が山下の口から聞こえてきた。

「……ねえ? 考えたくないんだけど……、ここまで探しても見つからないとなると、もしかして……彼はもう……死んでるんじゃ……」

「そんな不吉な事言うものじゃないよ楓真」

山下の言葉に、遠藤がそう返した。

だが、山下の言葉は正論だ。ここまで探しても見つからないのだ。もしかしたら佐藤は既に、死んでいるのかもしれない。誰にも見つからない様な場所で。……もしくは、殺されたか。

そんな事を考えていると、神谷先生が支援クラスに入ってきた。

「あら、松伏君、来てたんですね」

「神谷先生。……あの、佐藤は」

私がそう言うと、神谷先生は「ごめんなさい」と返した。

「私含めて、先生達も色んな所を探したのですが、どこにもいなくて……」

「……そう、ですか」

予想はしてた。だが、先生達も一生懸命探してくれているのだ。私達も早く見つけ出してやらなければ。

……例え、死んでいたとしても。

そんな事を考えながら、話をしていると。

「あー! きわっちー! ここにいたんだねー! うしみっちゃんもやっほー!」

そんな声とともに、見覚えのある女子生徒が入ってきた。

「あー! 宇加治さんだー! やっほー!」

「宇加治さんって、あの噂の『パパラッチ』の?」

山下がそう聞くと、宇加治が「そうでーっす!」と元気よく答えた。

「どんな噂も逃さない! どんなスクープも見逃さない! いつもパワフルなパパラッチ、宇加治星羅とは! 私のこっとでーっす!」

そう言って、宇加治はピースをしながらウインクした。相変わらずだこいつは。

「……で? 何の用だ宇加治?」

「もー、きわっち冷たーい!」

「変なあだ名で呼ぶな! ……で、用件は」

宇加治の言葉にそう返すと、宇加治は「もーう」と言い、続けた。

「って、こんなん言ってる場合じゃなかった! ねえねえ、『開かずの教室』って知ってる?」

「『開かずの教室』?」

その場にいた全員がそう聞き返すと、宇加治は「そうそう」と返した。

『開かずの教室』……、名前だけなら聞いた事はある。だが詳しい事は分からない。

「……丑満時、知ってるか?」

「私も知らなーい。……あっそうだ! 柳崎さん知ってるー?」

丑満時が柳崎にそう聞くと、柳崎は少し間を置いて答えた。

「……コンピューター室の左隣。頑丈に閉ざされたドアがある。以前は教室として使われていたが、ある事件がきっかけで使用禁止になり、『開かずの教室』となった」

「そうそれ! りゅーちゃんよく知ってんね!」

宇加治がそう言うと、柳崎は何処か不快な顔をして再び口を閉ざした。

「……で? それがどうした?」

私がそう返すと、宇加治は「そうそう」と話を続けた。

「それでね? その『開かずの教室』ってね、板を打ち付けたり鎖を付けたりって結構頑丈に閉ざされてたんだけど、今朝ある先生がそこを確認しに行ったら……なんと! その全部が取り外されてたんだって!」

「全部!?」

丑満時が驚いたようにそういうと、宇加治は「びっくりでしょー!?」と返した。

「その先生、怖くて中まで確認できなかったんだけど、今まで『開かずの教室』だった場所。そのドア全てに打ち付けられてた全部が取り外されていた。生徒は勿論、先生達も手を付けなかった場所が。……って、こーとーはー?」

「……佐藤が、『そこにいる』可能性が高い!?」

私がそう返すと、宇加治は「そう言う事ー!」と返した。

「んじゃ! 伝える事は伝えたから! あとは皆次第だよ! 私は怖いからーついてかない! では諸君! 御武運をー!」

そう言いながら、宇加治は走り去った。嵐のような女だな。

だが、有力な情報を得た。しかも宇加治の事だから間違いはない。それは私が身をもって知っている。

『佐藤光輝』が、『開かずの教室』に、『いる』可能性が高い。

あくまで可能性の話だ。いない可能性だってある。だが、少しでも可能性があるなら、私はそこにかけたい。

ふと、昼休み終了5分前のチャイムが聞こえた。

「さて、もうすぐ午後の授業が始まります。松伏君も、そろそろ」

「そうですね。すみません、長々とお邪魔して」

「良いんですよ。またいつでも来てくださいね」

「はい。失礼します」

そう話した後、私は支援クラスを出た。その際丑満時に耳元で「放課後、支援クラスまで来るから」とだけ伝えた。



その日の放課後、私が支援クラスを訪れると、そこには丑満時を含めた支援クラスのメンバー全員と、神谷先生、新見先生、霊界堂先生の姿があった。

「……偉く大人数だな」

私がそういうと、神谷先生が「すみません」と口を開いた。

「支援クラスの皆さんには、無理をしないようにと言っておいたのですが、どうしてもって聞かなくって……」

「成程。……で、霊界堂先生と新見先生は何故ここに?」

「神谷先生に呼ばれたんよ。『開かずの教室』やろ? 危険な事もあるかもしれへん」

「そう言う事だ。そんな危険な所に、生徒だけで行かせるわけにはいかないだろう?」

まあ、正論だ。教師という立場から、そういうのも無理はないだろう。……だが。

「……あの、霊界堂先生。何か、ワクワクしてませんか?」

「えー? 何の事やろー?」

そう返した霊界堂先生の目は、今まで見た事がないくらい輝いていた。この人物凄く興味津々だ。

「……とにかく、行きましょうか。一刻も早く、佐藤を見つけないといけませんから」

そう言って、私は歩き出した。

続けて、その場にいた全員が次々と歩き出し、『開かずの教室』へと向かった。


『開かずの教室』の扉の前に到着すると、新見先生が「おー」と口を開いた。

「本当に全部取り外されてるなー……。これは、また取り付けるの大変だぞ」

「そんな事言ってる場合ですか」

新見先生の言葉に私がそう返す。

やがて、丑満時が『開かずの教室』の扉に手をかける。……と。

「!?」

手をかけたまま、丑満時の動きが止まった。よく見ると、丑満時は何かを恐れているような表情を浮かべている。

「……どうした丑満時? 何かいるのか?」

「……わかんない。わかんないけど。……何か、物凄く嫌な予感がする。自分の心の声が聞こえるの。『ここは本気でヤバイ』って。『逃げろ』って」

そう返した丑満時の声は、凄く震えていた。その様子で分かる。ここは、本当に危険な場所なのかもしれない。

「……だが」

「分かってる。行かなきゃ、ダメなんだよね? ……けど、皆も、覚悟決めてね」

丑満時の言葉に、その場にいた全員が頷いた。

それを確認した丑満時が、「開けるよ」と言い、『開かずの教室』の扉を開けた。


――教室の中は、辺り一面血塗れだった。

黒板も、机も椅子も、教壇もロッカーも。全て血塗れだった。


「何よ、これ……」

山下がそう呟く。その後、後藤が「ウッ」と口と鼻を抑えた。

「大丈夫か、後藤?」

「……大丈夫、です。けど、僕にも分かります。……凄く、血生臭い」

眉間にしわを寄せ、後藤はそう返した。

すると、丑満時が「ねえ!」と声を発した。

「教室の奥! 何か蠢いてる!」

丑満時のその言葉に、全員教室の奥の方を見る。

……確かに、何かが蠢いているのが見えた。『霊』の類であれば、私は本来視えないはずだが。

すると、何かに気づいた山下が声を震わせながら言った。

「ね、ねえ? 何か、こっちに近づいて来てない……?」

確かに、その蠢く何かは徐々にこちらに近づいて来ているように見えた。……いや、近づいて来ている。

そう感じた、瞬間だった。

蠢く何かが、物凄い勢いで私達の方に襲い掛かってきた。

「まずい! 全員すぐに逃げるぞ!」

新見先生の言葉に、全員教室から退散した。

後藤は目が見えない為、新見先生が抱えて逃げていた。

やがて、蠢く何かが『開かずの教室』の扉をぶち破って追いかけてきた。物凄いスピードだ。だが、それでも必死に逃げるしかない。

私は、とにかく無我夢中で逃げていた。


---------------------------

(丑満時視点)


「……皆とはぐれてしもうたなあ」

職員室の奥にある書庫の中で、霊界堂先生がそう言った。

「あれって……一体何なの?」

「さあ。一つだけ言えるんは、うちらに対して好意的やないー言う事だけやなあ」

霊界堂先生は、いつもの表情でそう答えた。怖くないのかな。

普段なら私も恐怖なんて感じない方だったけど、今回ばかりは恐怖でしかなかった。怖い。

気を紛らわせようと辺りを見渡す。そう言えば、職員室の書庫なんて初めて入った気がする。

「……ん?」

ふと、気になる資料を見つけ、私はその資料を手に取った。

霊界堂先生も気になったらしく、「何やー?」と覗き込んだ。

「……『もう一体の守り神』?」

「おやまー。『坂杜様』以外にもいてはったんやなあ、こん学校の『守り神』が」

「初めて知ったなあー。……もしかして、さっきのと関係あったりして?」

そう言って、私は資料を開く。二人で資料を読んでいると、とんでもない一文を見つけた。

「『この守り神の力を保つ為には、50年に1度、選ばれし者が贄として捧げられなければならない』……!?」

まさか。いや、そんな事信じたくないんだけど。

もし、あの蠢いていたアレが、もう一体の『守り神』だとしたら。

今年がその『50年に1度』に当てはまるとしたら。

『贄』に『選ばれた』のが――『佐藤君』だとしたら。

「先生……! これ、もしかして、佐藤君……!」

「落ち着きや。まだそうと決まったわけやあらへん。今は、あの禍々しいもんから逃げ続けるんが先やで」

「……そう、だね」

霊界堂先生の言葉にそう返す。けど、心はまだ落ち着いてなかった。

もし、本当に佐藤君が、『贄』に『選ばれた』のだとしたら。

実際、そうなるとこれまで見つからなかった理由としても辻褄が合う。

……私は、霊界堂先生と二人で、書庫でじっと耐えた。


――私が今考えている事が、ただの推測であってほしいと願いながら。


【最終話 中編へ続く】

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