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Super Apple  作者: 饗庭淵
1/7

序.



 宇宙の96%は未知(dark)で出来ている。

 銀河の質量測定、運動と明るさの矛盾を埋め合わせるべくダークマター。

 膨張する宇宙、全質量の減速を上回る加速を促す反重力ダークエネルギー。

 前者が30%。後者が66%。二つを合わせ、円グラフにする。つまり、宇宙の96%は未知で出来ている。まるで一つの答えのようだが、それは要するに「わからない」という意思表明にすぎない。そして残りの4%についても、我々は知り尽くしているわけでも理解し尽くしているわけでもない。


 宇宙は広い、などといえば陳腐に聞こえる。だがその意味を、多くの人々の口から繰り返されるその言葉の意味を、我々はどれほどまで理解しているのか。

 星々が集まり銀河と呼ばれる集団を形成している。我々の銀河系の直径は約10万光年。その形は渦巻き型。ほか、棒渦巻き銀河、帽子銀河、円銀河、楕円銀河など様々ある。それらが集まり数百万光年四方の銀河群を構成する。さらに、その銀河群が集まり数千万光年四方の銀河団、さらに数億光年四方の超銀河団、そして宇宙となる。

 そんな階層構造を示されても、我々が漏らす感嘆は、朝焼けの美しい水平線を見たそのときより大きなものであり得るだろうか。オーケストラの奏でる音楽よりも深い感動であり得るだろうか。桁違いのスケールを我々は知覚できない。

 巨大すぎるものを記述するとき、我々はそのディティールを欠いてしまう。多くのスペースオペラが惑星単位で国家を扱っている。この地球という一つの惑星ですらが、百を超える国によって構成されているにもかかわらずだ。

 太陽系の直径は約120億キロメートル、光は11時間で進む。第三惑星地球と太陽との最短距離は約1億4710万キロメートル、光が8分19秒で到達する距離だ。最も近い星、月との平均距離は38万4400キロメートル、光で1.3秒になる。こと太陽系に範囲を限れば光年という単位すら必要はない。ただし太陽系から一歩でも踏み出るなら、最も近い恒星アルファ・ケンタウリが4.3光年の距離に位置している。

 人間社会に範囲を限定する。はて、我々は一生のうちにどれだけの人間と関わり、どれだけの人間の名を覚えて死んでいくのか。多くて三桁だろう。しかし、この地球上には60億以上の人間が住んでいる。それは一生に出会うであろう人数に対し、少なく見積もっても七桁も違う。名前を覚えるどころか、一瞬でもその顔を目から情報として取り入れてみようという試みさえ絶望的だ。

 我々は我々の住む世界についてあまりに無知だ。そして、依然として多くの未知が満ち溢れている。確かに人類は多くのことを知り、多くのことを理解してきた。だが、まだまだ足りない。まるで足りてはいないのだ。

 これほどまでに広い世界だ。人間のドラマを描くのにわざわざ宇宙などという壮大なスケールを持ち出すことはない。スペースオペラなど描いてみても海の代わりに宇宙を冒険するだけだ。宇宙国家の問題を描いてみても地上でのそれを横滑りさせたにすぎない。人間の貧弱な想像力ではそれが限界なのだ。たとえ範囲をこの地球に、国に、街に、それだけを限定し、たった一人ないし数人の人生を描くだけで十分に物語は成立する。


 だが、彼はその外からやってきた。

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