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名探偵シャルロット=フォームスン物語 ~ミスターカボーチャ現る~ 作者:光太朗
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終わる。

「──まさか、堂々と目の前で、犯行に及ぶとは」
 シャルロットは唸った。
 強敵だった。
「あれだけの人に見られているのに、平気だったのかしら」
 エリスンも、重々しくつぶやく。
 よほどの大物か、よほど頭の回路が残念なのか──
 後者のような気がしてならない。
「ともあれ、終わってみれば、実に安易で陳腐で容易な事件だったな。そうは思わないかね、エリスン君」
 二人は、探偵社に戻って来ていた。
 いつもの探偵ルックに戻り、シャルロットは肘掛けイスでふんぞり返る。
「そうね。簡単だったわ」
 エリスンはうなずいた。
 あの後、ミスターカボーチャの正体は、あっけなく判明した。
 消えたカボチャのからくりを暴くのは、ごく簡単なことだった。
「心意気は尊敬に値するが、あれだけの目撃者がいたのではな」
「まあ……そうね。世の中意外と、あなたみたいな人がいるものよね」
 要するに、あの場にいた市民のみなさまに、なにが起こったのかを問いつめたのだ。
 ミスターカボーチャがダンスで探偵サイドを引きつけるなか、カボチャタワーを持ち去ったのは、三人の少年たちだったらしい。少年たちもカボチャをかぶっていたようだが、聞き込みをしたところ、あっという間に正体が割れた。
 曰く──あのカボチャは、ピージェントさんとこの三兄弟だよ。
 曰く──カボチャといえば、ピージェントさんとこしかないともさ。踊ってたのは、お父さんだねえ。
「父、マーベラス=ピージェント。長男ダリアス=ピージェント、次男ジガル=ピージェント、三男ズロウス=ピージェント──ピージェント一家の犯行か。どうやら、カボチャ農家のようだな。どこかで聞いたような気もするな、ピージェント」
 パイプをふかしつつ、シャルロットは思いを馳せる。
 ピージェントという語感には覚えがあった。わりと最近聞いたような気がするのだが、どこで聞いたのかまで思い出せる脳を持ち合わせてはいない。
「ピージェント……あれかしら、ピーナッツとか、ジェントルマンとか」
 一応は頭を働かせながら、エリスンは鍋のふたを開け、中身を確認する。
 シャルロットが装着したカボチャを、おいしくいただく準備中だ。
「ロルアンさんには、探偵社に来ていただくようにいってるんでしょ? 一日で解決なんて、あたしたちもやるわね」
「これで、名探偵としての評判もうなぎ登りだな! はっはっはっ」
 肩を揺らして高笑いをする、名探偵。
「本当ね。ふふ」
 助手も機嫌が良い。収入が入れば、カボチャ以外の食材を買うこともできるだろう。このままでは寝ても覚めてもカボチャだ。
「ロルアンさんがいらっしゃったら、名探偵オーラを全開にして、ズバリ告げようではないか。ミスターカボーチャの正体は、マーベラス=ピージェント、及びその息子の三兄弟だったのだ────!」
 本番さながら、両手を広げて演説する。
 探偵社のドアが開けられたのは、まさにそのときだった。
「なんですって──!」
 現れたのは、依頼人、ロルアンだった。
 ロルアンは電撃に打たれたように立ち尽くし、それからみるみる顔色を青くしていった。
 がくりと、膝から崩れ落ちる。
「ロルアンさん? どうぞ、ソファへ……」
 しかし、ロルアンは首を左右に振った。
「ドアの向こうで、すべて、聞いていました……さすがは、名探偵シャルロット=フォームスン。迅速な解決、素晴らしいわ。そうだったのですね、まさかミスターカボーチャが……」
 声が震える。ロルアンは両手で顔を覆った。
「あの……どうかしたんですか、ロルアンさん?」
「なあに、これで問題は無事解決した。あとは、あなたの気の済むように、ミスターカボーチャを煮るなり焼くなり食べるなりすればいいではないか。気を落とすことはない」
 しかしロルアンは、ただただ涙を流すばかりだ。
 顔を上げ、眼鏡をはずして涙を拭うと、振り返る。
 いま自分が入ってきたドアに向かって、声を張り上げた。
「マァーベラス! ダリア、ジガル、ズロウス! 入ってらっしゃい!」
 有無をいわせぬ怒号に、ドアの向こう側で、人影が飛び跳ねた。
「あら、ほかにも、お客様?」
 ならばもてなさなければと、エリスンが玄関口に向かう。
 しかし、姿が見えたその瞬間、短く悲鳴を上げた。
「──ひっ」
 恐怖。
 そして目を見開いて──
 ──すべてを、悟る。
「シャルロット……」
「む? どうかしたのかな、エリスンくん。客人を案内してくれたまえ」
「それよりも、ロルアンさんから事情を。そちらにいらっしゃる、ロルアン=ピージェントさんから」
 あえてゆっくりと、フルネームを繰り返す。
 シャルロットは大仰にうなずき、それから小首をかしげた。
「ふむ……ピージェント? どこかで聞いたような」
 絶望的に使えない。
「いいのです、名探偵。気を遣っていただかなくても、結構です。夫や息子たちがこんなことをしでかしていたなんて……気づかなかったわたくしが、いけないのです。ミスターカボーチャを一緒にこらしめようと、連れてきたのですが……まさか、彼らが、犯人だったなんて!」
 悲痛な声で、ロルアンが叫ぶ。
「…………」
 シャルロットは、首を回した。
 おずおずと、実に入りづらそうに探偵社に入ってきた面々を、見る。
 カボチャだった。
 カボチャ大が一人。
 カボチャ小が三人。
 大きい方には、さきほど会ったばかりだ。
 疑いようもなかった。
 マーベラス=ピージェント──及びその、息子たち。 
 ぽんと手を叩く。
「やはりな。私の推理が、これほどまでに的中するとは……」
 彼の中では一瞬で、そういうことになった。
「ご、ごめんなさい!」
 長男らしき、子どもの中で一番大きいカボチャが、がばりと土下座する。
「僕がいけないんです! 収穫したカボチャを、値を間違えて安く売ってしまって……! 父さんは、カボチャを回収しようとしてくれただけなんです!」
「兄ちゃんを責めないで!」
「にーちゃんをせめないでー!」
 わらわらと、すがりつく子どもたち。
 大カボチャが、ひどく辛そうな表情──に見えるが、カボチャなのでよくわからない──で、首を左右に振る。
「カボチャ……ボーチャ」
 反省はしているらしい。
「息子さんたちが、カボチャを安く売りさばいてしまって……お父さんがそれをなんとかしようと、こんなマネを?」
 エリスンが情報を整理する。大カボチャはうなずいた。
「カボーチャ」
 どうやら、肯定だ。
「本当に本当に、もうしわけありませんでした……わたくしはもう、恥ずかしくて恥ずかしくて。値を間違えたといっても、もう売ってしまったものはしょうがありません。誘拐したカボチャはすべて返して、謝罪して回ります」
 ロルアンは涙をこらえるようにして、頭を下げる。
 エリスンは、シャルロットを見た。どこまで理解しているだろうか。とにかく解決には違いないので、この上司ならば問題ないといいそうだ。
「まったく問題ないとも! 解決して、よかったではないか! はっはっはっ」
 名探偵はふんぞり返っていた。その周りを、カボチャ頭の三兄弟がぐるぐる回っている。ありがとう名探偵、ありがとうシャルロット=フォームスン。彼らはシャルロットを讃えていた。
「ミスターカボーチャの正体を突き止めていただいたおかげで、こんなばかなマネを早々にやめさせることができました。感謝いたします、心から」
 ロルアンが、頭を下げる。
 隣に並び、マーベラスも頭を下げた。三兄弟も背の順に並び、ごめんなさいと頭を垂れる。
「もう、終わったことではないか。──ただ、そうだな。君たちはいつまで、そのカボチャをかぶっているつもりかな?」
 シャルロットが問う。もっともだよくいったと、エリスンは胸中で上司を褒め称える。
 もう、ミスターカボーチャである必要はないはずだった。
 こうして罪を悔いているというのに、なぜ未だにカボチャをかぶったままなのか。
 しかしロルアンが、首をかしげる。
「……カボチャを、かぶって?」
 並ぶカボチャ四つも、同じ方向に首をかたむけた。
 まるで意味がわからない、という様子だ。
「……ちょっと、失礼しますわ」
 つかつかと、エリスンが歩み寄る。
 一番小さなカボチャの頭を、がっしりつかんだ。
「えいっ」
 引き抜こうとする。
 抜けない。
 抜ける気が、まったくしない。
「──かぶりもの、じゃ、ない……!」
 カボチャといえば、ピージェントさんとこしかないともさ──
 街の人々の声が、思い出される。
 それはつまり、ピージェント家がカボチャ農家を営んでいるからとか、そういう次元の話ではなく。
 言葉の通り、
 彼らは、
 カボチャだったのだ。
「カボチャの犯行という時点で、気づくべきでした……」
 唇を噛む、ロルアン。
「報酬は、はずませていただきます。アパートメントの表に置いておきますので、どうぞお納めください」
 もう一度頭を下げ、ピージェント一家は、呆然と立ち尽くす二人をよそに、探偵社から立ち去っていった。
 重苦しい、言葉にならない沈黙が、探偵社を支配する。
「報酬?」
 ふと、エリスンは気づいた。
「置いておく──といっていたな」
 シャルロットがいう。
 隠しきれない嫌な予感を抱えつつ、シャルロットとエリスンは、窓から外を見下ろした。
 もともとは自分たちのものだった、カボチャタワーが一つ。
 そしてその両脇に、まったく同じタワーが、二つ。『カボチャ』と張り紙が貼っつけられている。書かれずともわかった。どうしようもなく、カボチャだ。
 全部で三つのカボチャタワーが、アパートメントの前にそびえ立っていた。
「……夕食を、いただこうかな」
「そうね。メニューをあててみて、シャルロット」
 空が赤みを帯びている。
 二人は悟りを開いた目で、美しい赤を瞳に刻む。
「ずばり、カボチャを煮たもの、だろう?」
 エリスンは、首を振った。
「カボチャ・オ・ニタモーノよ」





  ***





 舞台は、フォームスン探偵社──
 肘掛け椅子に座り、見事な三つのタワー──うち一つは上三つほどが欠けているが──を眺める名探偵。
 彼はこちらに気づき、パイプをふかした。微笑んで、肩をすくめる。
「やあ、皆さん──名探偵の活躍ぶり、堪能していただけたかな。なあに、まったく、簡単な事件だった。この名探偵の素晴らしい推理力が遺憾なく発揮される事件に、一度でも遭遇してみたいものだ。とはいえ、私のように才能に満ちあふれていると、それは叶わぬ夢なのかもしれないがね。おっと、カボチャの良い香りがしてきたな。まだまだ、この味を堪能することができそうだ。──エリスン君、せっかくだからワインをあけようじゃないか。ああ、そうだ、赤で頼むよ。──では皆さん、私はこれで。またいつか、会える日が来ることを、望んでいるよ」
 立ち上がり、芝居がかった仕草で一礼するシャルロット。
 悠然と並ぶカボチャタワーの前を通りすぎ──

 ──暗転。





 



読んでいただき、ありがとうございました。

なお、当作品は、伽砂杜さま主催の「ぱんぷきん祭」に参加しています。
仲良くしていただいている伽砂杜さまの企画とあり、どうにか参加したいなと模索した結果、久しぶりに名探偵シリーズを執筆することになりました。

伽砂杜さま、素敵な機会をありがとうございました。


今後も精進いたします。


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