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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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219話



 火の勇者が乗った飛行船は楼閣の近くに停められ、楼閣を囲むように白いモンゴルのパオに似たテントが建てられた。楼閣の前には『火焔太鼓』と呼ばれる叩けば火のトリの魔物が舞う魔道具が置かれ、専属の演奏者たちが代わる代わる叩き、祭りを盛り上げている。
 そこかしこに竈やバーベキュー用の焚き火があり、煮物料理やフィールドボアの丸焼きを売る店があり、通りの上には魔道具ではない提灯がいくつも並んだ。
木製の大きな人形の前にはキャンプファイヤーのように焚き火を組んで、大きな火が焚かれ、火の精霊に感謝し祭りの間中、その火は絶やさないという。
「祭りは5日間行われ、私たちは初日に楼閣の最上階に呼ばれています」
 サムエルが一通り『火祭り』について説明してくれた。
「私も初めてですから、緊張していろんな人に聞いて回ってしまいました」
 俺たちはフィールドボアの肉を食べながら、祭りの雰囲気に飲まれている。人が昨日よりも遥かに増えている。
「あ、そういえば建築資材は都合つきそうですか?」
「ええ、北方からやってきたというギルド長と仲良くなりましてね。火の勇者様の支援を受けられればすぐにでも送ると言ってくださいました。いやぁ、中央では何ごともやることが早い。飛行船もあれば、ハトの魔物を介した伝達手段まである。湖畔の町にいただけではわからないことが多いですね」
 祭りに興奮しすぎて、本来の目的を忘れかけていたが、サムエルはしっかり仕事をしていたようだ。
「で、あの3人の娘はどうしました?」
 サムエルには魔族の3人娘について知らせていた。ただ、魔族ではなく、祭りで知り合った獣人の娘と言ってある。
「ああ、あの3人はオアシスの方でアクセサリーを見ているはずですよ」
 実際、3人には閉じこもっていても暇なので、なるべく目立たないようにすれば外に出ても構わないといってある。ただ、奴隷商の建物には近づかないように言っておいた。魔族だとバレたら、3人も奴隷にされる可能性が高い。
 俺たちが奴隷商に言って、スーフ様を仮予約したので、彼女たちも安心したようだ。

『火祭り』の本祭は、夜、火の勇者の宣言で始まる。
「今年も火の精霊様のお陰で、我々商人たちは良い時も、悪い時も、滞りなく商売を続けることができました。秋が過ぎ去り、秋がないこの時期に、商売に飽きない者たちが集まって、長く商いが続くよう願いを込めて、さあ、皆さんランタンを手に取ってください」
 商人たちは手に紙で作ったランタンを持った。
「それでは『火祭り』を開始します!」
 火の明かりに感謝し、商人たちが燃料に火を点けると、ランタンが一斉に空へと飛んだ。ランタンが高く上がればあがるほど、商売が成功するという。
 俺たちもランタンを飛ばしたが、風に吹かれてすぐにどのランタンかわからなくなった。この時ばかりは木製の人形は危険なので寝かされている。
周囲の人に「火の精霊のご加護がありますように」と挨拶をして、『火祭り』の開会式がおわった。
「さて、これからギルド長会議があります。コムロ社長たちは楼閣のホールで待っていてください。できるだけ早く呼びますから」
「わかりました。そんなに急がなくてもいいですよ。空回りしてサムエルさんの印象が悪くなってもあれですし」
「すみません。ありがとうございます!」
 俺たちはサムエルと一緒に楼閣に入り、正面に大きな階段があるホールで待つことになった。全体的に朱色で統一されたホールには、鳳凰っぽいトリの魔物が描かれた柱や細かい装飾が施された壺などがあり、暇しそうにない。
「美術館や博物館にいる気分だな」
 そう言ったが誰も理解してくれなかった。そもそも美術館や博物館というものを知らないらしく、ピンときていない。オアシスに魔道具屋があったので、楼閣にも魔道具があるかと思ったが、提灯は普通の火が入った提灯だったし、砂漠の寒い夜ように置かれている火鉢にも煙の少ない炭が燃やされていた。魔石に頼らないところが『火祭り』らしい。

 ホールの調度品にも飽き、提灯の明かりで魔法書を読みながら待つこと40分ほど。ようやくサムエルが現れ、3階の会議室に呼ばれた。最上階は5階のはずなので、ちょっと予定が変わったようだ。
 中に入ると、ファイヤーワーカーズのギルド長たちが一斉にこちらを見た。ギルド長は全部で3、40人はいるだろうか。
「彼らが、大発生していたシマントを討伐し、地震で倒壊した私たちの町で救助活動を行ったコムロカンパニーの皆さんです」
 サムエルに紹介された。
「いやぁ、俺は薬屋かと思ったけど違ったのか。まさか、清掃・駆除業者とは、随分珍しい仕事してんだね?」
 火の勇者の隣りに座っているネイサンが言った。
「ネイサン、お前に胃薬をくれたのは彼らか?」
 火の勇者が聞いていた。
「そうだよ。あの薬を飲んでからかなり調子がいいんだ。ありがとね」
 胃薬ではなく回復薬なので、違う悪いところも治したのだろう。
「それで……資料によると、シマントを1万匹以上討伐と書いてあるけど、本当かい?」
 火の勇者が割りと砕けた言い方で聞いてきた。
「事実です」
「でも、そうなってくると、そのレイクショアの町が襲われなかったのが奇跡のように思えるんだけど?」
「岩山周辺の森は魔物や木の実が豊かなので、人里に行ってわざわざ餌をとってくる必要がなかったんだと思います」
「そうか。証拠は?」
「レイクショアの冒険者ギルドにございます」
 サムエルが言った。討伐部位のことだろう。
「1万匹の中には兵隊アリや女王アリもいたんだよね?」
「もちろん。羽アリもいました」
「それで金貨3000枚なら安いもんだね。シマントの羽アリが火の国中に広がっていたらと思うと国土全てがダンジョンになりかねないもんな」
 火の勇者がそう言うと、ギルド長たちが笑った。
「笑い事で済んでいるのはコムロカンパニーのお陰だよ」
 ネイサンが指摘した。意外にギルド長の中でも発言権を持っているのかもしれない。
「どうやって討伐したのかはやっぱり企業秘密かい?」
「いや、別に。普通に弱い部分をねじっただけですよ」
 火の勇者の問いに答えると、ギルド長たちはお互いを見合わせ、「なんだこいつは」という目で俺を見てきた。
「普通ねぇ。それを傭兵の国に教えてあげたら、たくさん報奨金をくれると思うよ」
「そうですか」
 俺は後ろに控えていたドヴァンを見ると、首を横に振って「無理です。社長たちのやり方は異常なので、傭兵たちで再現できません」と小声で言っていた。
「それから、地震の後に救助活動か。死者は?」
 火の勇者がサムエルに聞いた。
「前ギルド長を含め34名です。大地震で多くの建物が倒壊していましたから、少ない方だと思います。これも的確に倒壊した家の中から生存者を見つけ出してくれたコムロカンパニーさんのお陰です」
「探知スキルを持ってるんですよ」
 サムエルの説明に簡単な理由を付け加えておいた。
「探知スキルかぁ、便利だよね」
 やはり、火の勇者も探知スキルを持っていたようだ。暗い森の中で的確に魔物をめがけて『速射の杖』から火の玉を放っていたもんなぁ。
「被災者の治療もしていただきました。重傷者も軽傷者も2日後には全員、立って歩けるほどになっていましたよ」
 なぜかサムエルが胸を張った。周りにいるギルド長たちに自慢したいのかもしれない。俺たちがやったことだけどね。
「結構、回復薬を使ったので、それの代金くらいはほしいです」
「薬学も修めているのかぁ」
「清掃・駆除業者なので、多少は毒や薬の知識がないと仕事になりませんから」
「わかった。ネイサンの薬代も含めて火の国が払わせてもらうよ。これは、もう地方の町でどうにかできる額を超えているだろう。誰か異論はあるかい?」
「それが、もしウソだったとしたら?」
 ギルド長の1人が手を上げて言った。
「前のギルド長を殺して、この者たちが詐欺をしている可能性も考えられます」
 他のギルド長も声をあげた。
「まぁ、常軌を逸しているからね。ウソだと疑いたくなる気持ちもわからないではない。証拠の確認はしておきたい気持ちもわかる。すぐに冒険者ギルドに問い合わせてくれ。コムロカンパニーの社長さんから反論はあるかい?」
 ここで1万個以上の魔石を見せたら解決する話なのだが、そうすると違う騒ぎになりそうだ。この国では魔石がそのまま武器の弾丸になっているのだから。
「レイクショアの商人たちと取引している町のギルド長さんはいますか?」
「それなら我々がそうだ。皆、レイクショアの商人と取引している」
 ギルド長の4人が手を上げた。
「最近、地震はありませんでしたか?」
「あった。かなり大きいやつだ。レイクショアとの交易路も塞がっちまった。船での輸送だけはできるけどな」
「うちも船の取引だけになった。地震のことは商人たちからも聞いているし、実際、新しいギルド長のサムエルはよくやったと思うよ」
「地震があったことは事実です。それからシマントの発生についても知り合いの冒険者から私も聞いていました。どうにかしなくてはいけないと思って、『火祭り』でのギルド長会議で議題にあげるつもりでしたから」
「俺は地震があった次の日に、レイクショアにいた。彼らの動きは異常だ。尋常じゃない。回復薬も見たことがないくらい純度の高いものを使ってくれていた。はっきり言ってここで判断をミスれば、大損こくのはファイヤーワーカーズだと思うぞ。いくらでも大金を積んで、国で彼らを雇うことを勧めるね」
 4人のギルド長がそれぞれ自分の意見を言う。商人たちが情報に敏感でよかった。
「決まりだな。俺にも地震の情報は届いている。ネイサン、すぐに使いを送って建築資材をレイクショアに届けてくれ。地震によって出た被害については全て国が保証するように。ギルド長たちも心に留めておいてくれ。コムロカンパニーさんには改めてお礼を言う」
 火の勇者が次々に指示を出して、俺へのお礼を忘れない。判断が早く仕事ができるタイプなようで羨ましい限りだ。
「それで、報酬についての希望はあるかい? 額が額だけにね。すぐには用意できないかもしれない。商品価値があるもので欲しいものがあれば金貨の代わりに払うけど?」
「オアシスの奴隷商で欲しい奴隷がいるんです」
「わかった。どうにかしよう。砂漠のギルド長、頼むよ」
 火の勇者に言われ、ターバンを巻いた痩せた老人が頷いた。
「他には?」
「魔法書や魔道具、薬学の本などがあれば欲しいのですが……」
「それは俺も欲しいな。西に魔法国・エディバラという国があってね。そこから本を仕入れるつもりなんだ。2、3ヶ月ほど待ってくれたら、渡せるかもしれない」
「わかりました。お願いします」
「とりあえず、祭りが終わるまでは、砂漠にいてくれ。金貨2000枚は渡すよう手配しておくから。あとは手形になるかもしれないけど必ず払うよ。国の信用に関わるからね」
「ありがとうございます」
俺たちは会議室を出た。

「なんだかいいやつそうだったね」
 楼閣を出て、アイルが俺に言った。火の勇者のことである。
「また、嫌な役回りだなぁ。ちょっと俺は神様と話してから宿に帰るから行ってていいよ」
 俺は宿に帰る皆と離れ、楼閣の脇の方に移動した。
 あまり人気がなく大声で喋っても誰にも聞かれそうにない場所を探した。周りは砂漠なので、いくらでもある。
「はぁはぁ……砂漠の夜は冷え込むなぁ」
 息が白い。
 通信袋を取り出して、神様を呼び出す。
「あ、神様、コムロです」
『お、コムロ氏どうだい? 調子は?』
「調子はぼちぼちです。火の勇者を見つけましたよ」
『そうかい。駆除した?』
「してません。商人ギルドの派閥を束ねているギルドの大親分みたいな奴で、周辺の国に戦争を仕掛けているっていう名うてです」
『そりゃあ、すごいね~。で、どうやって駆除するつもり? また、精霊を消すのかい? それとも悪魔に落とす?』
「そうですねぇ、なんだか魔素溜まりがいくつかできてて、健康被害も出ているようだから、ちょっとその辺を調べて攻めようかなぁ、と思って」
 相変わらず、勇者を殺すという気にはどうしてもなれない。寝覚めが悪そうだし。
「そもそも火の精霊ってどんな仕事をサボってるんですか?」
『火の精霊の仕事? そりゃ、火を点けたりさ』
「そのぉ……精霊が仕事をしているから、俺たちは火の恩恵を受けているわけですよね。料理をしたり、提灯の明かりの下で本を読めたりするのも精霊のお陰なわけですよね。たとえ、勇者がいても仕事しているなら、クビにできなくないですか?」
 俺は楼閣の屋根からぶら下がっている提灯を見た。
『そうだなぁ、例えば、マグマの動きとかも火の精霊の仕事の1つなんだよ。ほら、前にレッドドラゴンがマグマの動きが変わって起きなかったことがあっただろ?』
「ああ、ありましたね。それも火の精霊の仕事なのか……あれ? マグマの動きと地震って関係しているじゃなかったでしたっけ?」
『どうだったかなぁ……』
 急に怖い考えが浮かんでしまった。
「これ、早めに火の精霊を見つけておいたほうがいいっすね!」
『ああ、なんでも早め早めがいいよ』
 適当に返しやがって、神様の野郎! 砂の中から飛び出た船の竜骨を叩いた。
『まぁ、水の精霊の時みたいに勇者が誰だかわからないってわけじゃないから、火の勇者の近くにいると思うよ。探して……』
「あれ!? 竜骨! 神様、もしかしたら、近くにいるかもしれません! 失礼します!」
 俺は一方的に通信袋を切り、楼閣を見た。

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