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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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220話


 楼閣の下には船がある。むしろ船の上に楼閣があると言ったほうが正しい。
 なぜそんなものがあるのか。砂漠の上に建物を建てるのは難しく、砂漠に建物ごと運ぶためだ。ただ、こんなに大きなものを動かす動力はどうなっているのだろう。
魔石だとしたら、どれくらいの量が必要か。火の勇者が乗ってきた飛行船は楼閣よりも遥かに小さいのにふんだんに魔石が使われているようだ。魔石灯がいくつも並んでいるし。
なのに、この楼閣では魔道具がそもそも見当たらない。
俺は再び楼閣の中に入り、船底への入り口を探した。
ホールの階段の脇に扉があり、入ってみると調度品の倉庫になっている。探知スキルを持っていれば、倉庫の中にある床の扉を見つけるのは簡単だった。
倉庫の調度品はホコリをかぶっているというのに、扉にホコリはかぶっていない。
俺はゆっくりと扉を開き、中に入った。

「あら、来たの?」
 船底に、若い女性の姿をした火の精霊がいた。探知スキルでは反応しないのに、なぜか見えるし、声は聞こえる。肌にも触れられそうだ。そして、俺のことを知っているような口ぶり。
「火の精霊様で間違いないですか?」
「間違いないわ」
 火の精霊は船底の床に描かれた魔法陣の上に椅子を置いて座っていた。手には本。火なのに本は燃えないのだろうか。
「俺のことを知っているんですか?」
「さっき上で、スパイクマンと話していた不思議な1団の中で最も不思議な人」
 見られていたようだ。
「ナオキ・コムロと申します」
 俺は魔法陣の手前で停まった。船底にはランプが1つあるだけ。火の精霊を照らしている。他の明かりといえば、床の魔法陣が仄かに光っているくらい。
「どうして、こんな場所に?」
 俺が火の精霊に聞いた。
「ちょっと身体が弱くてね。ケホッ」
 火の精霊がどう考えてもウソの咳をして、笑っていた。火の精霊が病気になるわけもない。
「自分の力を抑えるためですか?」
 水の精霊も似たようなことをしていた。
「まぁ、そんなところね。あなたはどうしてここに?」
「火の精霊様に仕事をしてほしくて」
「寒い夜に旅人を焚き火で暖め、泣いて帰ってくる子のため母が料理を作る時、それを温めるのは私の役目。畑に木々や害虫が増えれば焼き払い肥料にし、病に伏せる者あれば湯を温めて治してやる。暗闇に迷い人がいれば、道を照らす。全て私の仕事だわ。なにか不備でもあったかしら?」
「火の精霊様が、マグマの管理を怠ったため地震が引き起こされたのではありませんか? 俺たち人間はちっぽけです。地震があれば、倒れてきたものに押しつぶされて死んでしまう」
「確かに、マグマの動きも私の仕事のうちだけど、この星の自然の流れに任せているだけよ。地震はいつか起こるもの。全てマグマの動きと関わっている証拠でもあるのかしら?」
「証拠は……ないです」
 所詮、俺は清掃・駆除業者。地盤や大陸プレートがどうとか浅はかな知識を話しても、どうにかなるようなものでもない。
 なんの策もなく、ただ飛び込んでどうにかなる相手ではなかった。
「私に仕事をさせたい誰かに頼まれたの? もしかしてあなた、神の使いじゃないかしら? とすれば、水の精霊を殺したのはあなたね?」
 全てお見通しか。どんどん火の精霊のペースになっていく。
「そうです」
「やっぱり。風の妖精たちが噂していたのは本当だったのね」
「俺の噂があるんですか?」
「あるわ。『蒼き衣を纏いし駆除人、土の精霊を悪魔に変え、水の精霊を殺し、彼の地へと消えた』だったかしら。秋の半ばに風の妖精たちが騒ぎ出してね。その駆除人が彼の地から帰ってきたと。あなただったのね。噂は事実なの?」
 火の精霊を探しに来ただけなのに、俺が質問をされている。
「結果的にそうなったというだけです」
「フフフ! 誇らないのね」
「誇るようなことでもないですから。俺は依頼された仕事をしただけです」
「ねぇ! どうやって水の精霊を殺したの?」
「言えません」
 まさか言葉を奪ったと言ったところで信じるかわからないし、目の前にいる火の精霊にも使うことになるかもしれない。
「言えないことはあるわよね。で、あなたに称号がないのは私たち精霊に気づかれないように?」
「たぶん、そうです。神の御業です」
「でも、周りの子が『剣王』や『竜の守り人』、『スライムの天敵』なんて称号があるのに、あなただけ称号がないのはおかしいわ。レベルだって一番高いのに」
「わかります。俺も別に称号がほしいわけではないですが、不自然だなとは思ってました。今度、神様に言っておきます」
「そうよ。神も間違うことだってあるんだから、神の意見ばかり取り入れたんじゃ不公平だわ。ちゃんと仕事をしている精霊に対して酷いと思わない? 監査するなら平等にやってよね」
 火の精霊から苦情を受ける。まさかこんな事態になるとは。俺はどういう立場になっちゃったんだろう。
「目的は精霊様に仕事してもらうことですが、俺が受けた依頼は勇者駆除ですからね」
「えっ!? そんなぁ……じゃ、スパイクマンを殺す気なの? あの子は涙を流せない私のために泣いてくれる心の優しい子よ」
 火だから涙も流せないのか。不憫だな。
「いや、殺したくはないんですけどね。人なんか殺したら寝覚め悪そうですし……。ただ、火の精霊様には勇者にうつつをぬかしていないで仕事をしてほしいというのが神様の要望ですよ、たぶん」
「なぜ!? スパイクマンは私の手伝いをしてくれているだけよ。ほら、『火祭り』によって人々に火を感謝するよう促しているし」
「ん? 人々が感謝すれば、火の精霊様が仕事しやすくなると?」
「そりゃそうよ。私たちには実体がないでしょ? 力そのものなわけだから。人々から言葉をもらい、『火の精霊』と名付けてもらって、ようやくこうしてあなたとお話しができるのよ。言葉がわかって、感謝されれば仕事だってしやすくなるわ」
「神様が精霊に言葉を与えたわけじゃないんですか?」
「違うわよ。私なんか人が火を使うようになってから生まれたんだから、火に感謝してもらわないと力が弱くなるに決まってるわ」
 そうだったの!?
「じゃあ、逆に、人々が火を恐れて使わなくなったら、火の精霊様はどうなっちゃうんですか?」
「それは火の悪魔になるわね」
「え!? そうなんですか?」
「そうよ」
 あっけらかんと火の精霊は言った。
「土の精霊の時は神様を恨んで悪魔になってましたけど……?」
「それは特殊なケースよ。そうそう神を恨むことってないでしょ? 神の敵は悪魔って人々が思っているから、敵対すれば悪魔になるわよ」
 言われてみると、そうかもしれない。信仰によって、精霊や悪魔が形作られていくってことかな。いや、そもそも宗教ってそういうものだったりして。八百万の神々もいれば、クリスマスも祝うし、死んだら仏になっちゃうような国で育ってしまったから、あまり考えたことがなかったな。
「例えば、そうね、雷の精霊っていうのがその昔いたのだけれど、人々から恐れられてすぐに悪魔になってしまったわ」
 その残滓を、南半球で駆除したかもしれません。
「なかなか精霊様も精霊様で大変なんですね」
「大変よ。だから、こんなところに閉じこもってるんじゃないの」
「ってことは戦争なんてやってる場合じゃないんじゃないですか?」
「あ~……それはね……」
 火の精霊は頭に指を当て、考えるような仕草をした。
「アグニ! 誰かいるのか?」
 火の勇者の声がした。
 振り返ると、天井の扉が開いて、火の勇者ことスパイクマンが降りてきた。
「あ! 君は!」
「どうも」
 俺を見て驚いていたので、挨拶をしておいた。
「アグニ、どうして鍵を閉めておかなかったんだ?」
 スパイクマンは火の精霊のことをアグニと呼んでいるようだ。
「鍵を閉め忘れたのは、あなたよ、スパイクマン。私はここから出ていないもの」
 火の精霊は魔法陣を指差した。
「そうか、ごめん。悪いね、ここは俺のプライベートな部屋なんだ」
「の、ようですね」
 あ、帰れってことか。
「じゃ、そろそろお暇します。話せてよかった。アグニさん」
「いえ、こちらも久しぶりに会話を楽しんだわ。えーと、コムロさん」
 俺はスパイクマンの脇を通り過ぎ、天井の扉を開けようとした。
「ちょっと待ってくれ」
 スパイクマンに止められた。
「何を話していたんだ?」
「何って……仕事の話? ですかね」
「仕事? 駆除の仕事の話か?」
「そう、ですね」
 スパイクマンが火の精霊を見ると、火の精霊も頷いている。
「君は彼女の正体に気がついているんじゃないか? 君も探知スキルを持っているんだろ?」
「いや……まぁ、なんとなく」
 スパイクマンは突然、手を広げ火の精霊を守るようにして俺を見た。もしかして俺が火の精霊に危害を加えると思ってるのかな。
「俺は彼女を人にするつもりだ。そのためなら、どんなことでもする。どんな犠牲も払うつもりだ」
「……は? はぁ」
 もしかして、俺が火の精霊を女性として狙っていると思っているのか。そっちかーい!
え~! ないないないない。どんな美人だろうと、相手は火の精霊だよ。そもそも、人にするってどういうこと?
「どうやって人にするつもりですか?」
「世界のどこかに肉体を再生させる技術をもった種族がいることを知っているか?」
「ああ、話だけなら聞いたことはありますが……」
 リドルさんが言っていた人たちかな。確か、北の方にいるとか。
「失った腕を治し、病気で助からない臓器を修復する。肉体も自由自在なら、精霊の肉体も……」
 いやいやいや、こちらの世界に転移してきちゃってる俺が言うことではないけれど、それは無理なんじゃないの?
「そのために俺は火の国を、ファイヤーワーカーズを作ったと言っても過言ではない」
「もしかして、戦争もそのためですか?」
「そうだ。世の中の高度な技術や知識は隠されすぎている。失われた技術も多い。俺はそれを見つけ出して、復活させている。飛行船然り、『速射の杖』然り。必ず、彼女を人間にする技術を見つけ出してやる!」
 スパイクマンの言葉を受けて、俺は火の精霊を見た。火の精霊はスパイクマンを見て、感動している様子。まったく、これだから駆除対象になってるっていうのに。
「愛されてるんですね」
「ああ、彼女のためなら、俺は魔王にでもなるよ」
 勝手に勇者を辞めてくれるなら、こちらとしても仕事が減るのでありがたいけど。
「俺が入り込む隙はなさそうだ。お二人ともお幸せに」
 俺は空気を読んで、部屋を去った。


「あ、神様。なんかぁ勝手に勇者辞めてくれるみたいっすよ」
 俺は楼閣の脇で、再び神様に連絡。
『え!? コムロ氏、どういうこと?』
 俺は簡単に先ほどの火の勇者と精霊の話を説明した。
『え~、なにそれ~?』
「わかんな~い。なんか二人の世界って感じで、とりあえず今逃げ出してきたんですけど」
『コムロ氏、僕としては火の精霊が悪魔になられても困るのよ』
「でも、このまま戦争を続ければ、火の精霊は悪魔になって、勇者も魔王になるようですから、『勇者駆除』は達成するんじゃないですか?」
『コムロ氏は精霊と勇者の「禁断の愛」のせいで、戦争で何人もの被害者が出ても平気なのかい?』
 前の世界の映画でよくあるパターンだ。悪役に捕まった彼女を助けるか、それとも大勢の人を助けるのか。たいていはどちらも助かるんだけど、俺はとりあえず彼女は諦めて、あとで大勢の人の中から新しい彼女を見つければいいんじゃないかと思ったものだ。
「でもこの場合、俺はどちらとも関係ないしなぁ。だいたい他人の恋愛を邪魔するなんて野暮じゃないですか?」
『野暮とか粋とかじゃなくてさ。グレートプレーンズや君のお友達が作った新しい国にも迷惑がかかるんじゃない? それに傭兵の国の向こうはアリスフェイ王国だってあるんだよ?』
「そう言われてもなぁ……じゃ、どうしろっていうんですか?」
『とにかく火の勇者には戦争をやめさせて、火の精霊がサボってる証拠を見つけてさ。これまでみたいにちょちょいとやっちゃってよー』
「ちょちょいとなんてできるわけないじゃないですか。これまでだって死にかけてるっていうのに。俺はそんなに優秀じゃないんですよ」
 自分でいうのもなんだけど。
『コムロ氏ならできる! そのために呼んだんだから! じゃ、お願いしまーす!』
「ちょっとー!」
 一方的に通信袋を切られた。俺の魔力が大量に失われた気がする。
「すごいめんどくさいことになったなぁ……」
 まぁ、でも、魔素溜まりのこともあるし、戦争は止めたほうがいいということだけは確かだ。
「どうにか火の勇者を引きずり下ろす方法ってないかな?」
 俺は宿に帰って、社員たちに聞いてみたが「それは無理でしょ」と返ってきた。
 どうすりゃいいんだよ、まったく。
 俺の気持ちとは裏腹に、冷えた砂漠の夜の月は眩しくて、なんだか無性に吠えたくなった。ドヴァンがウェアウルフに変身するときもこんな気分なんだろうか。

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