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9話 学院に行ってみよう

主人公二日酔いこじつけに悩みました。今回は説明文ばっかりです。

ちょっと化けの皮が剥がれたかもしれないナア……。

 くわんくわんと鳴り響く頭を押さえ込んで、もそもそと朝食を取っていたら同宿の客に二日酔いの薬などを貰ってしまったケーナ。


 いくらスキルマスターなケーナであっても酔う時は酔っ払う。

 【常時技能(パッシブスキル):毒耐性】では完全に防ぐにはいかないからだ。これはリアデイルゲーム内で、過半数のプレイヤーから猛反発された結果でもある。


 リアデイルではプレイヤーキラーができるのは戦争期間中だけで、微々たるものであるが経験値も取れるとあっては低レベル者も必死にもなる。

 その結果、徒党を組んで限界突破者を狙うのだ。

 初期に【異常状態無効】であったスキルは【異常状態耐性】になり、最終的には【毒耐性】【麻痺耐性】【沈黙耐性】など各異常状態耐性に最終分類(バージョンアップ)された。


 上位者たちからは「何もソコまでしなくても……」と言う意見も出たが、大部分を占める低レベルプレイヤーからは歓迎された。ケーナみたいな魔法重視型になると、物量で戦略戦に持ち込まれて何度か敗北しているし。彼女は「完全無欠なんてないなー」などの考えでいたが、一時期は限界突破者やスキルマスター、高レベル者が一国に集中して所属し、国無双になった時には公式サイトが随分荒れたものだ。

 

 そんな経緯と、おそらくは現在の状況がケーナに酒が効く理由だろう。

 仮想媒体(アバター)の時は確率とプログラムの編纂で毒が通用するかしないかだったが、生身になったケーナには『お酒は二十歳から』とか『未成年』とか精神的な思い込みが色々と【毒耐性】の効果を半減していると思われる。


 他にも、マレール曰く「二日酔いも酒を楽しむうえで通る道の一つ」とか言われて【毒浄化】を禁じられてしまったため、素直に二日酔いを甘受するケーナだった。何故素直に言われたことに従うのかというと、マレールがケーナの中でこの世界でのおっかさん的ポジションにいるからである。


(ううむ、私ここに何しに来たんだっけ? そもそも塔を探すと言ってもなー、守護者の塔と言って通じるのかな?)


 早朝から市場へ行って、キリナ草とコルトバードの心臓を買い、宿屋で朝食を食べた後にギルドへ向かう。

 途中、道で出会う幾人かに「水面を歩いてた嬢ちゃん」とか言われるのは勘弁願いたいところではある。


(わたしゃあアメンボかっちゅーの)


 一概に否定できない魔法なので仕方が無いだろう。

 人口が多ければそれだけ噂の伝達速度が早い。伝言ゲーム化して間違った情報となるのも多いが……。


(むしろ街の中で情報を探すよりは外へでてる人や、エーリネさんたちみたいな商隊としてあちこちに行く人の方が辺境の話に詳しいんじゃないのかなぁ? 先に馬車溜まりまで行って、聞いてみよう)


 ギルド直前で方向転換し、馬車停泊所に向かう。

 まだ出発していなかったため、エーリネの商隊はそこにいた。顔見知りとなった商隊の人々と挨拶を交わしていると、エーリネが直ぐに出てきて開口一番。


「聞きましたよケーナ殿、大河を割ったそうですね?」

「誰だここまで噂流した奴!?」

「冗談ですよ」


 遊ばれてるのが分かってガックリと膝を突く。滂沱の涙を流してにじり寄った。


「ええぇりねぇさあぁぁん~」

「分かりました分かりましたから、機嫌を直してください」

「ぐすっ……」


 恩人にそんな力任せな人物だと思われているのかと考えたら泣きたくなる。涙を拭いて改めて向き合う。


「それでどうしました? 護衛に雇われに来たって感じではなさそうですが……」


 スキルマスターの所はぼかし、辺境の村(そういえばあの村の名称を聞いてなかった……)近辺にある“銀の塔”を例に出し、似たような建造物の情報は無いかと聞いてみる。


「なるほど。ケーナ殿の旅の目的はそれを探すことなのですね?」

「まあ、最終目的はそれでしょうかね。今は他に“これだ!”と言えるものもありませんから」

「そうですね、北のヘルシュペル国には湖に浮かぶ誰も入ることのできない美しい城があるそうですが……、それ以外は特にないですね」

「北の国ですかー」


 北にあった国と言うと、かつて白の国の北東に紫の国ヘルベール。西に黒の国ライプラスがあって、毎月三国入り混じっての大激戦地であった。

 特に黒の国はケーナとその悪友が所属していたところなので、スキルマスター同士の大魔法の撃ち合いや戦闘技能(ウェポンスキル)での潰し合いで、むしろ周囲が被害甚大に終わることが多かったのを思い出す。

 ゲーム世界の大地にまでは影響が出なかったが、今同じことになったらこの王都などは一瞬で廃墟を通り越してクレーターになるだろう。さすがに限界突破者二十四人やスキルマスター十三人にそこまでやりそうな人格破綻者は居なかった(おかしな性格のものはいっぱいいた)と思うが……。


 それを考えると自分の力の使いどころが非常に難しいのがよく分かる。何も考えずに力を振るえば、人など呆気なく死んでしまうからだ。


「ケーナ殿?」

「あ、はい、……と、すみません」

「昔のことですか? 差し支えなければどういった世界だったのか聞きたいところですね」

「あー、まあ戦争ばっかりの殺伐とした世界でしたね」


 とにかくその辺りの情報を見つけたら知らせてくれるとの約束を取り付けて、エーリネと別れた。

 今回はサービスだが次に情報を得たら料金は頂くと言われた。冒頭から料金の話を持ち出されなかっただけ、彼には譲歩されているのだろう。




 当初の目的地である冒険者ギルドへ。

 入って依頼書の壁に向かおうとしたらカウンターから声を掛けられた。


「あ、ケーナさん。こちらへ来ていただけますか?」

「はい?」


 カウンターに向かうと、賞状を小さくした型で金の縁取りの紙を一枚渡された。現地語であったために、解読するのも面倒になり素直に聞く。


「なんですか、これ?」

「名指しで依頼と言いますか、学院から召喚状です。先日のポーションの件でお話があるそうですよ」

「学院って、中州に建っているあの学院ですか?」

「はい、あの王立学院ですよ。期日は無いようですけれど、なるべく暇な時にいらしてください、だそうです」


 なんにせよ学院であれば、マイマイに会うチャンスもあるから問題ない。

 学舎は小学校しか行ったことの無い桂菜は、違う世界の違う学校がちょっと楽しみだった。


 中州に渡る時には船着場にいた人々に「今日は歩いて渡らないのか?」と不思議そうに聞かれたが、努めて聞かなかった振りをして乗り合いの帆船で中州へ渡った。なんか既に船着場の有名人になってしまったようで、ちょっとショックである。


 学院の門番に召喚状を見せると、水晶球に何事か話しかけて門を開けてくれた。

 誰か案内人が来るそうなので、暫く待っていてほしいと言われ、大人しく待つこと数分。校舎の方から見覚えのある人物がパタパタ走ってきた。


「お、お待たせしました。召喚状で呼ばれて……、ってケーナさん!?」

「や、ロンティ。昨日ぶりだねー。ここの生徒さんだったんだ?」


 昨日とは違って、杖も無く緑のローブに身を包んだロンティは息を整え、頭を下げた。


「昨日はありがとうございました。騎士団の人たちがびっくりしてましたよ、早いって」

「しょーがないデン助だねえ。次も街中で見つけたら問答無用で捕獲していいのかな?」

「あ、はい。お願いします。それよりも召喚状って、何やったんですか?」

「んー、それを聞きに来たんだけど。とりあえず案内お願いね」

「はい、先ずは学院長室まで連れてきてと言われましたので、こちらです」


 ロンティの先導で校舎に入る。

 途中幾つか学院について説明をしてくれた。先ず彼女は実践魔道科に所属していて、授業の一環として冒険者ギルドに登録していること。他にも回復魔法や浄化魔法を学ぶ神聖科や薬品を調合する錬金科などがあること。魔道の素質があれば誰でも入学できること(お金は最低限、国が補償してくれるらしい)。 


「調合? 合成じゃなくて?」

「はい? 薬を作る場合は、磨り潰したりして混ぜ合わせるのが主流ですよ。もしかしてハイエルフ族では違うんですか?」

「……ああ、なるほど、プレイヤー人だけの技術はNPCから後世に伝わらなかったのね」

「……はあ?」


 この場合実際の現場を見ないと確信的なことは判らないが、かつてのプレイヤーたちで使用していたスキルは今の世では失われていると思った方がいいと推測した。だとすると昨日、ロンティの前で【浮遊】を使った時にびっくりしていたのは……。


「ケーナさん。ここが学院長室ですよ」


 考え込んでいるうちに、他とは少し違う立派な扉の前に案内されていた。

 ノックをすると「どうぞ」と女性の声がしてから、ロンティがドアを開けて中に入っていく。後に続いたケーナは、大きなガラス窓を背にした重厚な机のこちら側に腰掛けた、赤いローブのエルフ女性と目が合う。

 それがが誰かと判別するより先に、いきなり眼前に迫った柔らかい物に“ひしぃ”っと抱きすくめられた。


「………あーと、マイマイ……ね……」

「あーん、お久し振りぃ~、御母様あぁ~!」

「ええええええええええええええええええっ!?!」


 甘えた声が頭上からするのと、隣からロンティの驚愕が伝わってくる。


(背は高いし、柔らかいし腰細っ、何で私はこんな小さいんだろう?)


 キャラ作成の時の弊害はいかんともしがたいが、当たり前である。

 手の届く所にあったマイマイの頬をつねって引き剥がす。


「うううっ、御母様酷いです~。二百年振りの再会なのにぃ~」

「学院長が今更人前でなにやってんのよ……。ほら、ロンティ大丈夫?」

「……………はっ」


 眼の焦点がどこかに行ってしまったロンティの前で手を振り、彼女を正気に戻す。幸い魂ごと飛んで行かなったようで、直ぐに我に返った。即詰め寄ってきたが。


「あああ、あの、あの、ケーナさんがマイマイ学院長の母親なんですかっ!?」

「うん、そう。 これでも二百年以上年を重ねていますから」(大嘘)

「わーい、御母様~」


 背後からケーナに抱きついて、大きな子供みたいな様相を晒す学院長(犬耳尻尾付き)に唖然として言葉も無いロンティ。

 さすがにどうしていいのか分からずにそのままにさせていたケーナは、手の中に小さな雷を生み出した。 慌てて距離を取ったマイマイは姿勢を正すと、コホンと咳をして体裁を取り繕い、ロンティに声を掛ける。


「ごめんなさいね、アルバレストさん。もう授業に戻っていいわよ」

「あ、はあ……。はい、し、失礼、します……」


 いささか現実と幻想の間に迷い込んだ感じがしないでもない雰囲気のロンティが、一礼をして学院長室を退出して行った。再び母親の背に抱きつこうとしたマイマイは、母親が暗黒のオーラ(【威圧】&【眼光】)を纏っているのに気がついて凍りつく。


「ねえ、マイマイ?」

「は、はいっ! な、何でしょう、お、御母様……」

「私は何のためにここに呼・ば・れ・た・の・か・し・ら? もしかして貴女に抱きつかれるため?」

「い、いいえっ。キッキチンとしたお話があります!」

「甘えるなとは言わないけれど、そういったことはプライベートでやりなさい。責任ある立場なんでしょう?」

「うう、はい、わかりましたー」


 母親らしく注意してみたが、これで正解とは思えない。

 彼女の持つ実の母親像はかなりぼんやりした印象になっていたからだ。突き放すのに気の毒になるほどしょんぼりしたマイマイは自分の机に戻り、引き出しから赤い液体瓶を取り出した。

 昨日ケーナが依頼品としてギルドに渡した微ポーションである。

 それを持ったまま「ついてきてください」とケーナに言い、学院長室から出て移動していく。さすがに先程より暗く沈んだ様子に可哀相になったケーナは、強く言い過ぎたかと反省した。


「マイマイ?」

「は、はい。何でしょう御母様……」

「貴女は他の守護者の塔を知らないかな?」

「……え、ええと。守護者の塔というのは、御母様の所有する銀の塔みたいなのですか?」

「そうそう、それそれ。他に同じようなものが世界に12本あるの」


 少し思案したマイマイは首を振ると「聞いたことが無い」と答えた。


「そう、分かったわ。ありがとう」


 プレイヤーがたくさん存在していた時代を知っているマイマイですら知らないと。

 当時サブキャラは倉庫として居るだけでなく、ある程度の行動パターンを入れておくとアヒルの雛みたいに後をついてきて、多少の戦闘経験を積ませることができた。コンシューマーゲームのRPGの仲間のように使え、レベルアップをさせることができ、三人とも三百レベルに上げておいた記憶がある。

 技能や魔法には最低習得レベルというものがあるからで、バラバラにしておくよりは並べた方が綺麗かもと思ったこだわりである。


 当時レベルアップさせる途中で確か誰かの塔に寄り、召喚魔法でモンスターを呼んでもらってそれを倒して経験値にしていた記憶がある。しかし、それをマイマイは覚えてないというのは、どういうことなのかと考え込む。これも情報が無く確証も無いので脳内から削除。


 後はまあ、スカルゴやカータツにも確認する必要があるかということだ。



 そんなことをつらつら考えるケーナが連れてこられたのは、何やら授業中な教室だった。


 娘は全く躊躇する様子もなく扉を開け、「連れてきたわよ~」と中へ入っていく。

 中は幅広い机が幾つか並び、ハーブなどより強い刺激臭が漂っている。教室では二十人程度の生徒が材料をすり潰したり混ぜ合わせたりしていた。いきなり入ってきたマイマイにはチラリと目を向けるくらいで、作業からは目を離さない。


 (マイマイ)が声を掛けたのは教卓に立つ随分とヨレヨレな格好をした男性教師だ。彼は生徒に「作業を続けておけ」と言い放つと、マイマイを伴ってケーナの待つ廊下へ。



「おいおい、まさか来たのがこんな嬢ちゃんだとは、マジか?」

「つーか、なんで誰も彼も私を見るなり嬢ちゃんとしか言わないのかと……」


 ボサボサ頭に不精髭の浮浪者みたいな男に「こんな嬢ちゃん」と言われ、ちょっとカチンと来たケーナを表情から察したのだろう、マイマイがどーどー、と諌める。


「ちょっとロプス、こんなの言わないでよね。私の御母様なのよ」

「な……に?」


 唐突に告げられた衝撃の事実に言葉を失うロプスと呼ばれた男性教師。


「で、こちらロプス・ハーヴェイ。練金科の教授で私の旦那なの」

「…………は?」


 なんとなく特殊効果で氷原を表したくなったが、思いとどまったケーナ。

 自分の発言でくねくねしながら「きゃ、言っちゃった」などと照れて、ハートと音符を振り撒いているマイマイ。母親と夫は顔を見合わせて盛大な溜息を吐く。


「ゴメンナサイ、私の教育が行き届いてなくて。あんなので苦労しているでしょう?」

「いや……、あの能天気さに救われたこともあるから、一概にはどうとも言えん」


 再び顔を見合わせて苦笑いを同時に浮かべる。


「貴方、良い人ね。末永くあの娘を頼むわ、ロプスさん」

「嬢ちゃんではなかったな……。ケーナ殿でいいか? さすがに義母上とは気恥ずかしくてとても呼べん」

「ちょっ、何を私を差し置いてがっちり握手交わしてるの!? 何二人して生暖かい目でこっち見るのーっ!?」


 自分のお陰で夫と母が仲良くなったとは知らず、歯軋りして悔しがるマイマイだった。










「で、これなんだが……」


 よよよと泣き崩れ、廊下に滂沱の涙川を作る学院長をスルーし、二人は本題に入った。ロプスが赤い液体瓶をケーナに差し出す。


「ポーションくれって依頼だったから出したんだけど、これはマズいのかな?」

「こんなもんが流通されたら、既存の調合の観点からひっくり返っちまう。表に出すのは自重してくれ」


 やはり今の世の中とは作り方から違うようだと確信する。先程の授業風景を見る限りでは、手持ちのスキルにはあのような面倒な手順を踏む必要がないからである。


「……マイマイ」

「はい! なんですか御母様?」


 呼ばれただけでパアッと笑顔になり、パブロフの犬みたいに駆け寄ってきた娘に呆れ返ったが、疑問点を問いただす。


「貴女には【ポーション作成Ⅰ】とか教えてなかったかな?」

「え? いえ、教わってませんわ」

「あれ? じゃあ持ってるのはカータツかしら?」

「さあ? ぐて……じゃなくて、カータツが造るものでそういったものは見たことがないですよ」


 思い違いかなと考えたケーナだったが、母娘の会話を面白そうに聞いていたロプスにつつかれた。


「なあ、ケーナ殿。どうせなら一度その作り方を見せてもらえないか?」

「は?」


 返答を待たずに教室へ戻るとドアを開けたまま、「さあ」、とケーナを促すロプス。「いいのかなあ?」と娘を振り返ると、問答無用とばかりに教室へ押し込まれた。


「ロプスが良いって言ってるから平気よ」


 生徒たちは出たり入ったりしている公認バカップルはまだしも、自分たちと同じくらいの女性が一緒に行動してるのに不審顔だ。

 机には調合器具のほか、小瓶に入ったお茶みたいな色をした液体が人数分。

 どうやら授業のメインは終了したようだが、ロプスは生徒たちに出来上がった物は後で提出するように告げ、教卓へケーナを招く。


「これから少々デモンストレーションをやってもらうので、お前たちよく見ておけ」


(いやちょっと待てやロプスさん! 今市場に出したらマズい代物だとか言わなかったか?)


 ケーナの内心の突っ込みは勿論聞こえていない。

 非難を込めたジト目の視線を意に介さず、授業で使った材料を教卓に並べたロプス。先ずは教卓に引っ張り出した女性を生徒たちに紹介した。


「こちらは魔導士のケーナ殿。そこの学院長の母親だ」


 唐突にぶっちゃけた真実にその場の全員が石化した、一瞬遅れてロンティと同じく『ええええええーっ!?』と悲鳴が上がる。それをサッパリと無視したロプスは手を振って静かにさせる。


「ではどうぞ」

「いやちょっと待って、こんな材料私のレシピにはないんだけど……。これは何?」

「カジュの根にキリナ草の球根だが、足りないか?」


 机に並ぶ材料と調合器具に根本的にやり方が違うと判断したケーナは、戸惑う生徒たちを見て開き直った。アイテムボックスからキリナ草丸々三本と凍ったコルトバードの心臓を抜き出す。そして手元にあるものが何かを説明した後に、【ポーション作成Ⅱ】の技能(スキル)を実行させた。


 ─── 教室をどよめきが満たした。


 空気中から染み出した青い点がケーナの手前に結集する。

 青く回転する羽を描くように。ケーナの手にあった材料諸共瞬く間に水球と化し、色彩を青から赤へ変化させながら結合。やがて水球から分離した余計な水分は、赤い手の平大の圧縮された水球の周りでリングを作り上げる。青と赤に光り輝くミラーボールみたいなそれは、ひとつの命のような神秘性を放っていた。


 幻想的な光景に生徒たちが溜め息を漏らした瞬間、パキィィィン! と耳につく音を残して水球ごと砕け散った。驚いて声を失った生徒達とロプス。マイマイだけは「さすが御母様」などと呟き、一人で喜んでいる。


 ケーナの手に残るのはロプスの手に有るものと同じく、赤い液体瓶がひとつ。


「以上、微ポーションの作り方でした」


 それだけ告げて、出来上がった瓶をロプスへ投げる。危なげなく受け取った彼は、両手にあるものを見比べて同じモノだと理解し、手を上げた。


「……ちょっと聞きたいんだが?」

「モノによる」

「瓶はどこから出てきたんだ?」


 ───沈黙が降りた。

 ケーナの頬を一筋の汗が、つーっと滴り落ちる。


「そういうものだから! ……仕様なの!」


 言うべきことだけを声を大にして。つかつかと早足で教壇を後にする。


「え、あ、ちょっ、お、御母様、どこへ?」

「帰る」

「ええっ!?」


 突然に機嫌を損ね、一言で状況を切り捨てたケーナを目を白黒させたマイマイが追う。

 まだ幾つか聞きたいことがあったロプスは義母の焦った態度を理解して小さく噴き出した。昔の賢人でも想定外のことがあるらしいと。


「まだ会ったばかりなのにぃ~」

「会いたきゃ、こっちくればいーでしょーが!」

「そんなぁ~」







 翌日、再びギルドへ顔を出したケーナは、再度カウンターからの呼び掛けを受けて、赤毛の受付嬢から召喚状を渡された。


「なんでも今度は学院の教師として迎えたいんだそうよ。凄いわね」


 感嘆の思いで彼女は言ったのだろうが、ケーナの脳裏には娘の能天気な笑顔が浮かび上がった。


魔法技能(マジックスキル):load:呪い(カース)Type(パーティ)(グッズ)


 カウンターから離れて小声で行使した術で、一瞬紙上に黒い髑髏が浮かび、紫の炎が召喚状を灰に変える。


「なんでウチの子は変なのばっかりなんだろうか?」


 慕ってくれるのは嬉しいが、甘えん坊なのもどうかと思う。長兄が一番問題児なのを母親(ケーナ)が知るのはまだ先の話である。



 その夜。

 同宿で仲良くなった竜人族(ドラゴイド)の学生から聞いた話によると。


「今日は学院長室で爆発騒ぎがあったらしいんですよ」

「危ないねー」

「何があったんだろうって学院中噂が飛び交ってました。幸か不幸か怪我人は居なかったんですけど」

「へー」


 あからさまな棒読み口調ではあったが誰も不審には思わなかったようだ。


なんと言うか街に入って二日間でこの騒動の爆心地はなんでしょう? やはり詰め込みすぎでしょうか。

PVが8万9千とユニークが1万越えとか、ありがとうございます。 作者としてはとても信じられない……。

Bは爆発のB

しかし瓶はホントに何処から出てくるのだろうか?


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