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怪異妙奇譚伝 作者:Kt

壹譚目

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3/22

 上はフード付きの黒パーカー、下はダークグリーンの7分丈カーゴパンツを着用し、手には寺院の扉の上に描かれていそうな模様が銀色で入った黒い指なし手袋をはめている。
 少年はフードを外しており、頭に赤と黒のバンダナを巻いているのが見えた。さらに、服中央にあるファスナーは6割弱閉めている。

「もう経験済み?
 刺さった刀でやり投げすんの」

 少年は手を頭の後ろで組み、交差させた足のつま先を立てたまま、余裕な感じで話している。

「ま、投げても無駄なんだけど」
 そう言うと、少年の口から膨らんだガムが出てきた。

 パンッ——すぐに割れる。
 破裂音を合図に、先ほどまで真っ直ぐ飛んでた刀が、突然生き物のようにブーメランの弧を描いて返ってくる。

 そして、顔の前に構えていた少年の右手へ収まる。
 よく見ると、つかには少年の手袋と同じような模様が描かれている。

「な?」

 少年がそう言うと、怪物は悔しそうに歯を見せて食いしばりながら、腕を振り下ろし、押し潰そうとする怪物。

 避けずに刀で受け止める。が、次第に地面につけた両足が土とともに後退していく少年。そもそもこんなに体格差があるのに押さえつけているのがありえない。

「おん——どりゃぁぁ!」

 怪物を向こうへ弾き飛ばした。

 と同時に勢い余ってか、少年の体は半回転しながら宙に浮き、うつ伏せのような、怪物に背中を向けている状態に。
 見逃さない怪物。チャンスとばかりに体勢を整え、少年の方に向かってくる。

 すると、少年は右足をついて、勢いをつけて回転しながら、怪物に刀を投げた。

 頭ごと体をずらし、避ける怪物。
 その隙に両足をついた少年は怪物の方へ走っていく。

 縮まる距離。

 怪物は止まって、右腕を突き出す。足元の土はかけられた体重により後ろに盛り上がる。
 それを見ても、少年はスピードを緩めない。もしかしたら、勢いで緩まないのか?

 だとしたらっ——

 よぎった結末は心拍数を上げさせた。すると、見えている景色が少しだけスローになった。

 その時に気づいた。少年は笑っていたのだ。まるで相手の動きをさも分かっていたかのようなそんな表情。

 怪物の前まで少年は来る。腕を振る怪物。

 次の瞬間、分かった。表情はかのよう(・・・・)ではなかったと——

 怪物の目の前でストンと体を落としスライディングで攻撃を躱す。
 同時に、怪物の脛に腕をかける。引っかかった怪物は前方に勢いよく倒れた。

 ぬかるんだ地面のせいからか、少年は壁際までスライディングの勢いが緩まることはなかった。

「よっと!」

 止まったところで、少年は片手でだけで身体を飛び上がらせた。そして、体操選手のように空中でひねり、倒れている怪物の方へ向き直す。
 「ふぅー」と手や服についた泥を払ったり軽くこするなどして落とす少年。次に、「あー」と肩や首を回し始めた。

 一瞬訪れた静寂——こんがらがっていた頭が落ち着きを取り戻す。

 俺は近くで倒れている怪物から距離を置くため、急いで立ち上がり少年のそばへ走った。
 本当は一刻も早くこの場から立ち去りたかったけど、怪物がいるのは出口近く。逃げるのは不可能だった。

 ガチャ

 音のした方を見ると、少年は右手を横に向けていた。
 その中にはあの刀が。先ほどと同様刀がひとりでに戻ってきたのだろう。

 すると少年は、刀を肩に持ってきてトントン叩きながら、
「案外弱えーな」
 と、嘲笑いながら挑発した。

 すると、怪物はさらに大きな叫び声をあげる。

 それを契機に、少年は再び走り出した。

 俺はそんな、正体不明の怪物と人間とは思えない身のこなしの少年の奇妙で激しい戦いをただ凝視していた。

「大丈夫ですか?」

「わああっ!!」

 突然声をかけられ、俺は思わず変な声を出す。

 振り向くとそこには、シャープなメガネをかけたイケメンな青年がいた。少年とは打って変わって身長は高く、Vネックのカーディガンに紺のジャケットにホワイトジーンズというカジュアルな服装。そして、肩からショルダーバッグ。
 まさに今時の若者って感じだ。

「すいません、驚かせるつもりはなかったんですが……」

 申し訳ないという表情を浮かべる青年。

「あっいや……」

 どっから現れた?

「怪我はありませんか?」

「大、丈夫、です……はい」

「そうですか。ならよかった。
 で、おいくつですか?」

「はい?」

「年齢は?」

 この状況で聞くこと、それ?

「32ですけど……」

 でも、一応は答える。

「そうですか……」

 険しい顔になる青年。
 何でそんな表情になるのか、訊こうとした。

 だが、その瞬間——

 ガシャンッ!

 大きな音が聞こえ、そちらに目をやる。
 ビルの屋上にあった網が戦闘によってボール状に変形し、こちらに落ちてきた。

 「わぁ!」と俺が声を上げると、青年は網へ振り向きざまに、慣れた手つきで肩がけバッグから緑の表紙の本を取り出す。
 本を開き、網の方へ手をかざす青年。

「ジン!」

 その瞬間、網は粉砕され、四散した。
 多少残骸がパラパラと落ちてきて体に当たるが、全く痛くない。

 再びあっけにとられていると——

「もう少し気をつけて戦ってくれないか、イチ」
 いつの間にか青年は少年の方を見ており、そう言っていた。

「だったらよぉーそっちばっか構ってねぇで、手伝えっ!」

 怪物の顔の位置あたりで刀を振り回し、怪物と格闘しながら叫ぶ少年。
 小さなため息をついて、青年は俺の方を見てきた。

「この辺は危険なので、あの裏に隠れててください」
 指し示されたのは、路地裏にあった業務用室外機。

「は、はい……」
 そう応えると、青年は少年の方に向かおうとする。
 だが、何か言い忘れていたことがあったかのように、すぐに立ち止まって振り返る。

「逃げないでくださいね」

 俺はその意味が分からなかったが、とりあえず言われた通り室外機の後ろへ身を隠す——逃げずに。

 そして、すぐさまケータイを取り出す。理由はもちろん今この状況をムービーに収めるため。
 こんな大スクープ、ものにできなきゃ記者失格だ。

 俺は画面に表示された赤い録画ボタンを押す——
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