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黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
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057 - 竜の巣と竜の王女。

その時俺は悪夢の中にいた。
悪夢。いや違う。それは過去に経験した事象だ。
過去。
救って、救えなかった過去。
幼く、持っていた力に限界があって、だから出来る事しか出来なかった。
出来る事を行ったというのは、誇るべき事なのだ、と慰めをかけてくれた人も居た。
でも、それが例え真実であったとしても、助けた以上に助けられなかったというのが事実。
ソレが嫌で、力を求めた。
自分の許容量だけしか救うことが出来ないなら、少しでもその許容量を大きくしよう。
限界があるなら、その限界を少しでも大きくしよう。
いつか、誰かを助けられるように。


    ++++    ++++


「ヤマトヤマト、起きろー!!」

げしげしと頭を揺らされる感覚に、意識がゆっくりと覚醒してくる。
全身に走る鈍痛激痛その他諸々の感覚。

「ヤマトヤマトヤマトーーーーーッ!!!」
「ぐおあっ、ちょ、痛いっ!! 起きたから落ち着け!!」

げしげしげし。
ゆすると言うか、むしろ何だか踏まれていないか?
瞼を開こうとして、しかし何故か目が開かない。何だと思って手を当てて、奇妙な感覚。
コレは……なんだろうか。何かがこべりついている。
……って、あぁ、成程。

左手の指で瞼を引っ張り、こべり付いていたそれを引っぺがす。
そうして漸く開いた視線の先。指の先につままれた真っ黒なソレ。
多分だが、血だろう。固まるとこベリ付くんだよな、コレ。

「ヤマトヤマト、起きた!?」
「ええ、はい、起きましたとも……」

言いながら周囲を見回す。
木々に囲まれた森のような場所。その中で俺は、全身を横たえて其処にいた。
……なんだろうか。身体の傷がさっきに比べて軽い気がする。
それに、この少女。一体何者か?

「きみが手当てしてくれたのか?」
「うんうん。でも、私に出来る手当てって最低限で、だからヤマト、早く自分で手当てして」

言って、その少女は金の髪と瞳を揺らす。
……なんだろうか。この少女、どこかで見たことがあるはずなのだけれども。

とりあえず闇を傷口に流し込み、肉の代替物として変換させる。
――いたた、流石に即興では無理があるか。肉が定着するまで、暫く無理は出来そうにもないな。
と言ってもまぁ、今の俺なら早々に回復してしまうんだろうが。

「おおーっ、流石だー!」

早速傷を治した俺を見て、少女はそんな風に喜んでみせる。
なんだろうか、この少女。絶対どこかで視た覚えがあるんだが。
いや、容姿に覚えは無い。こんな美少女、一度見たら多分絶対忘れない。
だと言うのに、この少女自体には覚えが無い。
この空気、雰囲気に覚えがあるんだ。

「…………ランド?」

――ピクッ!

呟いた途端、少女は面白いまでに見事に反応した。
……って、えー、マジですか……。

「だ、誰かな、ランドって。私そんな子知らないよ?」
「ランドって、名前だ何て一度も言ってないんだけど」

――ビクビクッ!

なんだか寧ろ脱力してきた。
ああ、そうか。そういえばランドの身体も金色の鱗だし、目だって綺麗な金色だった。
あー、なんだろうか。納得してしまっている自分がいる。

「わ、私の名前はソフィアって言うんだよっ! ヤマトの名前はなんていうの?」
「自分でさっきからヤマトって言ってるじゃないか……」
「うにゃーー!!」

あ、パニクった。
必至に隠そうとしていたのだろうが……ああ、気付かないフリをしてやるべきだったか。
血が足りてなくて、頭が廻らなかった……という事にしておこう。
決して俺がSなわけではない。

「それでランド。なんでまた人の姿なんて取れてるんだ? というか、女の子だったのか」
「だからだから、なんで私がランドだって事で話を進めてるのーっ!! ……もういいよ。人の姿を取れるのは魔法。というか、わたしは最初から女の子だよっ!!」

成程と頷いて、ランドの頭を撫でてやる。
……ああ、やっぱりこの子はランドだ。この目の細め具合と言うか、気持ちよさそうな顔というか。

「……それで、そのソフィアって名前は?」
「んー、ソフィアはソフィア。これがお母さんから貰った名前だよっ!!」
「ソッチで呼ぼうか?」
「ランドでもいいよっ!!」
「……んじゃ、人型の時はソフィアで、何時ものときはランドって呼ぼうか」
「名前二つっ! ヤマトみたいだっ!!」

ヤマトの名前とイーサンの名前か。
まぁ、片方は偽名なんだけれども。
ニコニコしているランド……ソフィアの頭を撫でて、もう一度周囲を見回す。

「……んで、ソフィア。此処は何処なんだ?」
「多分分ってると思うけど、カマズミ山頂の盆地。私達は竜の巣って呼んでる所だよっ!!」
「竜の巣……ねぇ」

思い出すのは、少し手前。意識を失う直前の光景。
あの巨大な竜種。
流石に、死ぬかと思った。
目撃される事を恐れて能力を制限していたのに、その所為で重症を負い、結果その時点では闇を行使することが出来なくなってしまっていた。


落ちたのがこの山頂の盆地というか中州と言うか、そういう場所で無かったなら。
……山の麓まで一直線。流石に死んでる。

「まぁ、ラッキーだった、ってことかな」
「――それが、そうでもないんだよー……」

言うランド……ソフィア。
その顔は何だか少し青ざめていて。

「一つだけ。ベリアは如何なった?」
「騎士の人たちに任せてきた。ソフィアが行きたそうにしたら、『ヤマトさんをお願いします』って言って行かせてくれたし」

言って、その手に持った小さな救急キットを見せるソフィア。

「……有難う。それじゃとりあえず、続きは此処から移動しながら話してくれるか?」
「うん。それじゃ、いいところ知ってるから、ソフィアが先導するね!」

言って、ソフィアは立ち上がると、俺に向かって手を差し出してきた。
俺はその手を借りて、少し勢いをつけて立ち上がる。

――正直、死んだかと思ったけど。
まだ生きていられる事に、星の廻りに感謝しつつ、先を走って手招きするランドのあとを追って歩き出すのだった。





「竜の巣っていうのは、お母さんとか、賢竜って呼ばれてる竜の一族が住んでるところなの」
「賢竜?」
「『今の時代、リザードなどを見れば分るよう、竜種という種族は、昔に比べて衰えた。しかしそんな中でも、未だ古き知恵と知識を残し、現代もこの地に残る竜の種族たち――』って、お母さんは言ってた」

道中を歩きながら、ソフィアの説明を聞いて頷く。
要するに、ソフィアのように人型に変身したり、言語を介する程の智慧と力ある竜のことを言うのだろう。

「でも、ソフィアは此処の出身なんだろう? なんで強欲商人の馬引きなんてやってたんだ?」

ふと思い至った疑問。思い出したのは、ソフィア……ランドと名付けたドラゴンと出会った、最初の依頼。
なんだったか、あの商人の名前は。名前は忘れたが、結局魔法の雨霰にのまれて完全に吹っ飛んだ黒い噂の絶えない商人。

ソフィアの母はここに住む竜だという。ならば、ソフィアも同上と考えるのが道理。
だとすれば、何故其処に住んでいる筈のソフィアが下にいたのか。

「……その、ちょっと下まで遊びに行ったときに、倒れてる人を見つけて、その人を山の麓まで運んだ帰りに、偶々通りかかった商人さんに捕まっちゃって……」
「抵抗しなかったのか?」
「本気で抵抗したら、人間なんか簡単に死んじゃうし、それに丁寧に扱ってくれたし、ちゃんとご飯もくれてたんだよ」

なるほど、と頷く。
まぁ、あの商人は強欲でも、その下に付いた業者さんとかは案外まともな神経をしている人間だったのかもしれない。……まぁ、まともな神経の人間なら強欲悪徳商人なんて即座に見捨てると思うのだけど。世の中には、已むに已まれぬ事情というのも存在するわけで。

「まぁ、であったときのことは分った。それで、この山云々のことを頼む」
「うん。この竜の巣なんだけど、上にある神殿とあわせて、女神様の観測拠点って呼ばれる施設の一環なの。竜の谷は天から降りたアエテルを受け止め、世界へと行き渡らせる山頂。その流れを管理し、利用して世界の安定を保つのが女神様なんだって」
「へぇ……」

思わずそんな声を漏らしてしまう。
ソフィアの話は中々に興味深い。

アエテル、エーテルというのは聞いたことがある。俺が元居た世界では、アリストテレスの提唱した第五元素。元はギリシア語の高い所の空気とかで、天界を構成するとか魂の素材とか言われてる代物だ。
その昔ゲームに登場した単語で、とある友人に尋ねたところ、その単語一つに小一時間程講義に付き合う羽目に成ってしまった。苦い青春の思い出だ。

因みに、その解釈はこの世界でも同じらしい。
いや、少し違うか。
元居た世界のエーテルが、この世界で言うエーテルと似ていたわけではなくて、この世界でエーテルと呼称されている部分と、俺の知るエーテルというゲーム知識が似通っていた為、言語変換が同一のものとして結びつけたのだろう。

この世界の言葉。何故か話せてしまう謎。それも、仕組みだけならもう少しで解き明かせそうだ。
……が、今はもう少し、ソフィアの話に耳を傾けるべきか。

「アエテルは世界を構成する要素。だから、殆どの魔王軍は其処を占拠しようとするの。手っ取り早いしね」

まぁ、当然の話ではある。
重要拠点さえ制圧してしまえば、首根っこを押さえたようなもの。なにせ、肝心の力の源泉を押さえられているのだ。
後はじっくりと時間をかけて少しずつ侵攻すればいいわけだ。

「対して、そんな軍勢から女神様を守るのが、ソフィアの一族なの」
「成程」

要するに、この世界のシステムと、それを守る防衛機構。
女神と竜というのは、そういう相互関係にあるのだろう。

「……でも、今回の魔王軍はちょっと様子が違うみたいなの」
「様子が違う? 侵攻が無かったのか?」
「違うの。前のときは生まれてなかったから知らないけど、今回も通例通り、侵攻は有ったよ」
「? じゃぁ、何が……」
「相手が投入した戦力が、お母さんに匹敵しちゃったの」

今一どういうことか事情が把握しきれず、思わず首を横にかしげて。
そんな俺を見てか、もう少し事情を説明しようとソフィアが言葉を続けた。

「お母さん。バハムートって呼ばれてるんだけど、今まで来た魔王軍は、お母さんが普通に吹き飛ばしてたらしいの」

……OK、落ち着け俺。
俺の知るバハムートというのは、これまたゲーム知識だが、龍の王様であり、最強の霊獣であり、間違いなく最強と呼べる存在だ。
だが、この場合はそういう概念が、ソフィアの持つ概念と適合した為、その概念のラベルである“バハムート”という言語として訳されたのだろう。

……いや、結局同じじゃないか?

「要するに……ソフィアのお母さんは龍の王様……女王様で、ソフィアはその娘……つまり、王女様?」
「竜種って実力主義だし、あんまり関係ないけど……うん、そんな感じだよ~」

――――――おk。
落ち着け、俺。
驚くのは後。取り敢えずは、状況を聞いておくのが優先だろう。

「悪い。話の腰を折った。……それで、今回は?」
「うん、今回来たのは、あのドラゴン。ヤマトが戦った、あのドラゴン」
「……うぇ」

思い出す。あのギラつく嫌な瞳。
ギラ付いているくせに、その内側に映し出されるのは濁りきった闇。
邪悪、という形容がぴったりなドラゴン。

「アレ、そんなに強いドラゴンだったのか?」

この山におわし、魔王軍の侵攻を幾たびも退けてきたという竜の女王。
だというのに、その龍に対しては力が拮抗してしまったのだという。
俺は、そのドラゴン相手に、能力の行使を抑えたまま勝利してしまったのだけれども。

「うーん、ちょっと違うんだよ。竜種っていうのはね、その堅牢なる鱗と、ミスリルをも砕く爪、オリハルコンをも溶かすブレス、って言われてるんだけど、それらの下地を支えてるのが、その身体に溜め込まれた巨大な魔力……らしいんだけど」

ソフィアも詳しく知らないんだけど、と注釈をつけて。

「ドラゴンはその大元に凄い魔力を使ってて、なのにあのドラゴンは吸魔の特性を与えられてたみたいなのね」
「吸魔――ドレインか」
「うん。だから、お母さんの炎から魔力を奪い取って、その魔力で強化した爪は、つまりお母さんの力が宿った事になるでしょ? 攻撃するたびに相手は力を増して、お母さん一人じゃ、結構大変な状況だったんだって」

相手の負傷=自分の攻撃力−攻撃に含有される魔力
吸収される魔力は100%では無かろうが、それでも相当面倒くさい戦いであったのだろうことは予想できる。

「で、暫くこの山ではにらみ合いが続いてたんだけど、その間この辺りの統治が乱れて、そこら中から、この山のアエテルに引き寄せられた魔物が集まっちゃって……」
「火事場泥棒。……この場合、火事場強盗、かな?」

呟いた言葉に、ソフィアが首をかしげる。
人が他の物事で大慌てに成っている時に、その横でこっそりと悪事を働く事という、俺の世界の慣用句だ、等とソフィアに説明しつつ。

「それで、もしかして、目的地って言うのは……」
「お母さん所~」

……どうやら、俺は。竜の女王に面会する事になっているらしい。

「ソフィアのお母さんって、どんな人?」
「んー、強くて、優しくて、でも間違ってる事はちゃんと注意して、反省したら許してくれるよ。悪は許せるけど、邪悪だけは嫌いって言ってた」

悪い人(?)ではなさそうだ。
……まぁ、逢って見るのもいいかもしれない。

――の、だけれども。
ソフィアを咄嗟に引き寄せ、真正面に向かって闇の鏃を突き出した。

――グパッ!

「わひゃっ!?」

瞬間砕け散ったその肉片を見て、ソフィアがそんな驚きの声を上げた。
俺はその声を聞きながら、しかし注意を四方へ向けて広げていく。

……うわぁ、完全に囲まれている。
傷の痛みをこらえていて、気付かぬうちに意識を思考と痛みにとられていたのだろう。
おかげで、これほど接近されても気配に気付く事ができなかったようだ。

「わっ、いっぱいいる!?」
「みたいだな」
「……ソフィアとヤマトの魔力!! そっか、それってご馳走!」

ソフィアも早速察知したらしい。周囲を見回して、大慌てでそんなことを口走って。

「に、二~三体なら何とか成るけど、この数、ソフィア一人じゃ……!!」
「いや。大丈夫。この程度なら、俺に任せておけ」
「でも、ヤマト、怪我……」

心配そうに声を掛けるソフィア。
けれども。その心配は、殆ど杞憂といって良いだろう。

此方へ向かって飛び出してきた魔物の一匹。
サーベルタイガーとでも言うのだろうか。巨大な牙を生やした猫類の姿の魔物。

その魔物の胴体が、次の瞬間には消し飛んでいて。

「わひゃっ!?」
「……此処は、人目も無い様だしな。遠慮する必要なんて、何処にも無い」

右手に集う魔力/威力/純然たる闇。
砕け散ったその魔物にか、または俺の右手に集うその高圧縮された力の塊に怯えてか、瞬間、此方を囲う陣形が少し広がって。

「警告する。退くならば、この地から去る事をもって逃す。退かないのであれば、この場でもって掃討する」

下等な類の魔物に、人語を解する知力があるとは思わない。
けれども。魔物も一応は生物。野生の勘のようなものは備えている筈だ。

事実、莫大な魔力を蓄えながらの脅しに、俺達を囲う集団の三割程が逃げ出して。
その事に焦り、人間風情に脅された事に怒り。魔物たちのボルテージが上がっていくのが分る。怒りの気配がビリビリと伝わってきている。

「や、ヤマトヤマト!!??」
「大丈夫。すぐ終わる」

言った瞬間、魔物たちの咆哮が響き渡った。
それが合図だったのか。一斉に飛び掛ってくる魔物たち。
俺は、その一団に向かって右手を掲げて。





――――――ほぼ一瞬。それだけで、事は須らく解決していた。


ランドと言うかソフィアのイメージは禁書目録の20001号。
そしてついにやっちまったZE擬人化。後悔はしていない。
+注意+
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