挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
62/63

058 - 天空の女王竜

「うわぁ……」
「……ちょっと、やりすぎたかな?」

周囲を見回して、思わずそううめいてしまう。
周囲に転がる断片やら肉片やら赤やら黒やら緑の液体。
色々な液体と色々な肉片が飛び散った周囲は、ある意味地獄絵図とでも言えそうな様相を呈していて。
凄くSAN値が下がる光景だ。

「……埋めておくか」
「はっぱの栄養になるかな……?」

言いつつ、闇を行使して地面に穴を開ける。
あんまり浅いと、野生の動物に掘り起こされて餌にされるというし、まぁ大体1mくらい掘って、其処に屍骸諸々を投入していく。

「う、うわぁ……」
「…………(うぇ)」

そうして出来た、土のプールに満たされた肉塊のプール。
なんとも名伏しがたき光景。正直吐きそう。成程、SAN値直葬とはつまりこのことか……。

「……埋めるか」
「うんうん!」

ちょっと必至な表情のソフィアに促されて、穴に向かって土をかぶせた。
地面が平らになった事を確認して、能力の行使を終了させて。
……ちょっと怖かったので、残っていた虹の雫を振り掛けておく。これで間違ってもゾンビ化したりはしない。

「まぁ、こんな所か」
「それじゃ、お母さんところに案内するよー!!」

言うソフィア。何だかんだ言って、単にこの場所から離れたいだけというのは何となく分る。
まぁ、その意見には俺も逆らいたいわけではない。
ソフィアに腕を握られた俺は、その先導に違うことなく、その森を真直ぐ突き抜けて行った。





森を突き抜けた先、大きく広がる湖畔と、その中心に再び森の聳える島が見えて。
ソフィア曰く竜の瞳と呼ばれるその湖畔を渡った先に、ソフィアの母が居るのだそうだ。

「それじゃ、いこー」
「いやいや、何服のまま湖に特攻してるんだよ……」
「あ、そっか。脱がなきゃね!!」
「そうそう。――だからって脱ぐな! いいからちょっと待て!!」

言って服を脱ごうとするソフィアの額を軽く叩いて動きを止め、慌てて周囲を見回す。
出来れば切り倒す、という真似はしたくないんだけれども……っと、有った有った。

近くに発見した倒木。嵐にでも晒されたか、根元の方でぽっきりと折れてしまったそれ。
しかし、この人の滅多に訪れない場所で育った為か、折れた今尚その姿は生命力に満ち溢れていて。

「えーと、チョチョイのチョイと」

闇を行使し、その倒木で船を削り上げていく。
闇に三次元的な限界は無いし、ばらしたパーツを組み立てる、という手間もなく、ただ一つのパーツで構成された船を、彫り抜きで製造することだって出来る。

CADとかあれば楽なのかもしれないが、残念ながらファンタジーなこの世界にPCは無い。ので、頭の中でワイヤーフレームの船を創造し、それに合わせて倒木を掘りぬいていく。
そうして出来た船を湖に浮かべ、更に削り出した櫂を使って湖へと漕ぎ出す。

「おー……」
「――船に乗るのは、もしかして初めてか?」
「うん。いっつも自分で泳いで渡ってたし」

なんという野生児。
いや、ドラゴンなんだから、寧ろ其方の方が自然なのか。
確かに見たくないな。船に乗ってるドラゴンなんて光景。

「おー、揺れるぅ〜、魚も見えるぅ〜」
「あんまり暴れるなよ」

言いながらも、楽しそうに水面を覗き込むソフィアを見て思わずほほえましく感じて。
然し、あの悠然とした美しさを備えたランドが、こんな無邪気に微笑む少女だとは……。
本能はそれを全面的に肯定しているのだが、どうにも理性が……。

「……ジュルリ」
「………」

なるほど。間違いない。ソフィア=ランドなんだろう。感覚理性共に完全に納得した。

まぁ、そんな感じで舟を漕いで、30分程度かけて対岸へとたどり着いた。
船の上ではしゃぎ過ぎて眠ってしまったソフィアを背に負ぶい、再び林の中へと足を進めていく。

道は知らないが、方向はもうわかる。
森の奥から放たれる強力なプレッシャー。
純然たる生命力が放つ、強大な息吹の魔力。

まさに王。これ程の力を持つのならば、そう名乗るのも理解できる。

これ程の力を持つ存在。
そんな存在に、然し俺は何故か、恐怖でもなく、好奇心でもなく、己自で身理解できない胸の高鳴りを感じていて。

一歩一歩踏み出す毎に、少しずつ気配は強まっていく。
足を一歩進めるごとに、心臓が一つ、二つ、三つ鼓動する。
……なんだろうか。これではまるで、初めての逢瀬に胸を高鳴らせる思春期の餓鬼ではないか。
――いやいやいや、待て俺。思い出せ、俺はまだ若い!
むしろそれくらいの色事に(うつつ)を抜かすのが本来の有り様ではないんだろうか。
例えばそう……晃のような。

………………

まぁ、別に精神年齢が老けてようが枯れてようが、晃みたいになるのは勘弁だな。

なんて、一言で言うなら愚かとしか言いようの無い事を考えながら。
気付けば、強大な気配を放つ発生源まであと少し。

視線の先には、光のカーテンに隔たれた、森の切れ目が見えていて。
一歩、一歩と踏み出し。
ついに、その場へと至って!!

「………………へ?」

目の前に立ち隔たる……小屋。
……………………………………小屋? こんな山の中に、何故に??

一度距離を置いて、そのこげ茶色の建造物の周囲をぐりぐりと練り歩く。
空間を三次元と仮定して、X軸(横幅)、Z軸(縦軸)から確認しても、やっぱり小屋だ。Y軸(奥行き)は確認してないが……多分、平凡な小屋だろう。

でも、この濃厚且つ重厚な気配は、間違いなくこの小屋からかもし出されていて。

森から出た、その反対側。
そこに、なんとも普通な木製の扉を見つけた。

……やっぱり、ノックすべきだろう。

多少パニックに陥っていた俺は、何の備えも無く、無防備に右手を扉へと差し出した。
こん、こん、こん。
ノックは三回。それで事足りる。

「はーい」

返ってきたのはそんな声。
……なんだろうか。俺は一体何処の異次元に迷い込んで……ああ、異世界か。

「はーい……って、あら。ソフィー?」

カチャリ、と音を立ててドアが開かれる。
其処から現れたのは、ソフィアと同じく金髪に金目の、しかしソフィアに比べて幾分も大人びた、まさに大人の女性と言った美女で。
――何故だろうか。少しの懐かしさを感じていた。

「貴方が娘を連れてきてくれたんですか?」
「ええ、まぁ」

微妙に説明しにくい状況なのだが。
まぁ、寝てるソフィアを負ぶってきたのは間違いなく俺だ。
……いや、そうじゃない。
この女性は、今ソフィアのことを“娘”と言ったのだ。つまりそれが意味するところは……。

「えーっと、はじめまして。異世界から来ました。小崎大和です」

ストレートに、そんな名乗りをあげていて。何故だか本当に分らないが、気付けば隠すことなく本名での名乗りを上げていた。
この世界に来てから二度目(だったかな?)になるフルネームの名乗り上げ。そんな俺に、その女性はキョトンとして。……やっぱり少し唐突だったかな?
しかし、そんな俺の心配は、どうやら言い意味で杞憂だったようだ。
その女性は、そんな荒唐無稽な自己紹介を聞いて、クスリと小さく笑って。

「はじめまして、ヤマトさん。私はセリ。この山で竜の街の代表なんてやっています」

そう言って、竜の女王(セリ)は、晴れやかな笑顔を見せたのだった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ