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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第90話 小規模な壺風呂的運用

 宿に戻ると、にっこにこ顔の幼馴染組と憔悴しきったロットが待っていた。


「何か良い物は見つかった?」


 誰とは無しに聞くと、リズはこくこく頷く。


「村で服とか、いっつも同じだけど、町は違うわー。買う。明日は、買う!!」


 フィアが叫んでいる。


「ロット、無事?」


 返事も出来ない程度には憔悴しているようだ。


「まぁ、楽しそうでなにより。取り敢えず一番遅い馬車を予定しているけど、早く終わるようなら早めに帰ろう」


 そう言うと、2人は眉を顰め、えーと言う顔をし、もう一人は生気が戻った。

 うん、この調子だと、ロットが倒れる。明日は程々にしよう。そう誓った。


 何時も通り食事を取り、体を清め、ロットに今日の報告を聞きながら、水魔術の練習をしている最中だった。


 <告。『属性制御(水)』が1.00を超過しました。>


 唐突に『識者』先生の声が聞こえた。おぉ、トリガーの件か。やっと水魔術も1人前扱いかと感慨深い思いだった。

 現在のスキル情報を確認する。


 ◇スキル情報◇

 『識者』

 『認識』

 『獲得』

 『槍術』0.46

 『隠身』0.55

 『警戒』0.73

 『軽業』0.19

 『勇猛』1.19

 『剛力』0.38

 『祈祷』1.84

 『術式制御』1.59

 『属性制御(風)』1.53

 『属性制御(水)』1.00

 『属性制御(土)』0.21

 『属性制御(火)』0.21

 『属性制御(神)』1.09

 『術式耐性』0.45

 『フーア大陸共通語(会話)』0.49

 『フーア大陸共通語(読解)』0.13

 『フーア大陸共通語(記述)』0.02


 水魔術の練習を繰り返していた所為か、『術式制御』も一緒に上がって行っている。

 ちなみに半分くらいは行ったかなと通訳を外して他人の会話を聞いてみたが、超早口の英語を聞かされている感じで、全く聞き取れなかった。

 若干分かる単語は混じるのだが、もう何を喋っているか分からない。諦めて、1.00までは待つ事にする。


 取り敢えず1.00までは来たが、特に目標は決めていなかったので、水魔術に関しては惰性で上げ続ける。お風呂計画も有るが、攻撃手段としても使ってみたい。


「……と言う訳で散々でした」


 ロットは、今日の午後の件を延々報告?愚痴?良く分からないが、話し続けている。


「フィアさんにプレゼントとかしたの?」


 何となく、聞いてみた。


「……いや。特には……。した方が良いですか?」


 私に聞かれても困るが。


「関係を先に進めたいのなら、してみれば良いかなと。後、親御さんには会わなくて良いの?」


「プレゼントは考えます。親の方はパーティーに入る前に会いましたから、問題無いです」


 うーん。別にそういう意味では無く、親御さんに親しい女性を紹介すると言うのも有るんじゃないかと思ったが、こっちの世界は違うのかな。

 まぁ、私が気を揉んでもしょうがないか。先程から同じ話がループするようになってきたので、そろそろ寝ようかと告げ、蝋燭を消した。

 

 朝から女性陣は元気だ。まぁ、村だと中々機会も無いし、しょうがないのかな。

 早速、昨日回った中でも厳選した店に誘導されるままついて行く。


 着いた店は、古着屋の中でも質が良い物を揃えている店だった。商品の価格を確認しても、古着と言う程安くは無い。

 こう言う店、良く見つけるなと感心していると、何着か決めてあったのか、リズが商品を片手に向かってくる。

 ロットに視線でフィアの対応を任せると、悲愴な顔でフィアの方に向かって行った。あれだと、結婚してから尻に敷かれそうだ。


「ヒロ、これと、これ。どっちの方が良いかな?」


 こういう場合、女性の方はもうどちらが良いか決めている。男性側の反応を確かめているだけで、自分の選びたい物は決まっている。

 リズの好み……。うーん……。空色ベースの厚手のワンピースと、薄い黄色ベースのシャツと藍色の少しだぼっとしたパンツ……。


「こっちの方が明るいし、リズには似合うんじゃないかな?足元も可愛いし。お嬢様みたいだよ」


「そう?えへへ。私もこっちが良いかなって思ってたの」


 目の奥を見てみるが、喜びしか無い。良かった、当たりか……。


「じゃあ、これは決定と。後は……」


 まだ有るのか!?しかも他の店でもこれをやり続けるのか!?戦慄が走った。


 暫しのファッションショーを終え、一軒目での支払いは私が行った。偶には婚約者にプレゼントも悪くない。

 そうすると、フィアが叫び出す。


「えー、リズだけずるいー。私も、私もー」


 ロットに目で合図を送る。良く分かっていない様だったが、巾着をちらっと見せ、隠れてリズを指差した。

 やっと納得行ったのか、フィアの買い物分はロットが支払いを行っていた。

 フィアが喜び、ロットに抱きついていた。満更でも無い顔をするなら、始めから払ってくれとは思った。


「今回はプレゼント。いつもお世話になっているし、愛するリズの為だから」


 そう言いながら、頭を撫でる。

 本人は端切れに包んでもらった服を大事に抱きしめている。

 二軒目からは自分で支払ってねとの意味を込めたつもりだが、伝わっているかどうかは分からない。


 次に誘導されたお店は日常着のお店だった。そこからは梯子で何軒か回った。

 流石に奢りは無しだった。だが選択タイムは有り、正解したり、外した場合は一生懸命フォローしたりでへとへとになった。

 いや、35歳のおっさんにこれはきつい。と言うか、自分の服を見る暇が無い。ロットに聞こうと思ったがフィアに連れ回されている。

 諦めて、自分の服は村で買おうと思い、兎に角リズの求める解答を必死に探し続けた。


 昼食時間と呼ばれるぎりぎりまでには全店を制覇出来たが、疲労困憊だった。顔の笑顔も流石にひきつっていた。

 後を見るとフィアとロットが腕を組んで歩いて何かを話していた。良い雰囲気じゃんと心の中で呟いた。


 お昼を食べようと、ロットの案内でお店に向かう。珍しくおしゃれな雰囲気のお店だった。価格も少し高めだった。

 ここは魚のお店のようで、ソテーされた川魚がメインだった。上品な味で美味しかったので、後でスマホにメモしておこう。


 まだ馬車の時間まで余裕が有ったので、在庫の有る木工屋まで連れて行ってもらった。行水用の盥が欲しかったのだ。


 店の中には所狭しと、木工製品が並べられていた。その中の盥や樽の方を見て行くと、私が体育座りして肩下まで浸かれそうな大きな樽もどきを発見した。

 用途を聞くと、業者が塩漬け野菜を大量に作る際に使う樽らしい。言われてみると、少し径が小さな蓋が付いていた。

 これなら簡易風呂桶になるし、出すお湯の量も少なめで済むなと値段を確認した。思った以上に安かったので即座に購入した。ただ嵩張るので持ち帰りは大変だなとは思った。


 そんなこんなで、馬車の時間が近付いて来たので、乗り場に向かう。

 後では、フィアとロットの距離が大分近づいてきていた。話も何か親密な事を話しているっぽい。フィアすげぇなとは思った。女の子が本気になって男が勝てる訳が無いと悟った。


 そのまま乗り場で運賃を支払う。樽の分を何か言われるかと思ったが、何も言われなかった。こう言う荷物を持ち帰る客も多いのかな?

 乗客は中途半端な時間と言う事も有り、疎らだった。


 そのまま定刻となり、馬車に乗り込み、村に戻った。帰り道に関しては、特段変わった事は起きなかった。私は延々水魔術の練習を続けるだけだった。

 フィアとロットは、徐々に間隔が狭まって、何か内緒話をロットの耳元でフィアがする様になっていた。あぁ、捕食の準備なのかなとは思った。肉食系凄い。


 馬車は人員が少なかった事も有り、定刻より早めの昼前で村に到着した。


 そのまま冒険者ギルドの会議室まで移動し、明日以降のテントを使っての遠征に関する打ち合わせを行った。

 幾つか前回出た問題点も含めて潰していき、揃える物資の担当も決めて解散となった。


 ギルドを出ると、もう夕暮れ間近だった。


 2人と別れ、リズと家に戻る。

 ティーシアに帰還の挨拶をした後、リズがキッチンに向かったので、私は荷物を置き、石鹸の様子を見に納屋に向かった。

 そこに有ったのは、ほぼ乾燥した石鹸だった。匙で攪拌しようにも、何とか刺さるが混ぜようとすると匙が折れそうだった。

 もう、ここまで来たら完成かな。明日型を木工屋に作って貰おうと計画した。


 キッチンに戻り、夕食の手伝いをしながらリズに声をかける。


「リズ、作っていた物が完成したけど、試してみる?」


「ムクロジの代わりって言ってた奴?」


「そう、それ」


 そんな感じで了承を貰ったので、ティーシアに香油を少し分けてもらう話をした。


「あら?何に使うの?」


 お風呂もどきと石鹸に関して説明し、使い方を本日リズにレクチャーする旨を伝える。

 ただ、髪に関しては石鹸で洗うと痛むので香油で保護したいと言うと、取り敢えず納得したのか部屋から小さな瓶を持って来てくれた。

 蓋を開けると精油の種類は分からないが、植物の良い香りがした。


「すみません。少し頂きます」


「良いのよ。どうせリズの為でしょ?ごめんなさいね。手数ばかりかける子で」


 そう言うと、パタパタと手を振りながらにっこり微笑む。


 そのまま晩ご飯の手伝いをして、アストが戻ってきた段階で食事を始める。


「男爵の件は子爵様より承認されました」


「ふむ……。と言う事は本格的に男爵領の統治に向けて動くのか?」


「まだ、その前段階ですね。中心の村の設計は仕上げましたが、子爵様の官僚団の確認待ちです」


「そうか。それが終われば、忙しくなるな」


「それもそうなのですが……」


 前から考えていた、新男爵領への引っ越しを検討しないかと言う話をここで持ちかけてみた。

 猟場も近く、獲物も濃い。新しい村の食肉供給もお願いしたい。


 すると、ティーシアが笑いだす。


「実はね、アテン帰ってこないじゃない。あの子、向こうの村で女の子捕まえちゃったらしいの」


 話を聞くと、予定を過ぎても帰って来る気配の無い状況なので手紙を出したらしい。

 すると、向こうの村の農家の娘さんと恋仲になったらしい。ただ、向こうの親御さんの説得に時間がかかっており、帰るに帰れないらしい。

 宿を考えずに済むので個人的にはありがたいが、結婚した場合はお義姉さんが出来るのか。かなり歳下のお義姉さんだろうな。


「出来れば、領主館が出来た後は、そちらで住んで頂きたいのですが……」


 領主館に関しては、解体場用の建物も別で設計に入れている。併設して加工食品の製造、保管場所もだ。


「アテンが結婚した場合は、この家に関しては相続すると言う話か……」


 アストが目を閉じ、黙考する。


「ふむ……。娘の旦那に頼るようで申し訳無いが、お願い出来るか?」


「喜んで」


 アストが頭を下げながら答えるので、肩を抑え頭を上げてもらう。


「父親の為に働くのは当然です。お気になさらずに」


 そう伝えると雰囲気も緩んだ。そのまま温かい食事を皆で楽しんだ。


 食後の休憩を挟み、お風呂の準備をする。流石に寒空で体を洗うのは酷なので、キッチンの土間でお風呂体験と言う事にした。

 納屋から石鹸を拳くらいの大きさで削り取り、木皿に乗せる。樽と大きめの端切れ2枚をキッチンに用意してリズを呼びに行く。


「リズ、今大丈夫?」


 部屋をノックしながら呼ぶと、すぐに出て来る。


「石鹸?を試すの?」


「うん。ちょっと恥ずかしいかもしれないけど、後でティーシアさんにも教えてあげてね」


 事前説明をしながら、キッチンに2人で向かう。


 リズには服を脱いでもらいながら、私は用意を進める。

 樽に水魔術で熱湯を入れ、水で薄める。樽の半ばくらいで丁度良い湯加減になった。


「用意出来たよ……」


 恥ずかしそうに前を端切れで隠しながら立っている姿を見て、一瞬くらっとなったが、お風呂お風呂と思い直し、レクチャーを進める。


「そのまま、樽の中に入って」


 手を貸しながら、樽の中に座って貰う。リズの方が背が高いが、樽は座っても問題無い大きさだった。良かった。

 一緒に買った手桶で肩にお湯をかけながら聞いてみる?


「どう?気持ち良い」


「ぅわぁぁぁ……。気持ち良い……。温かい……」


 何か、ふにゃっとした顔で蕩けている。ふふふ、お風呂の魔力に負けたな?

 体がふやけるまで、そのまま浸かっていてもらう。


「んじゃ、髪の毛洗うから下を向いて」


 下を向いたリズの頭に優しく手桶でお湯をかける。お湯が馴染んだ状態で石鹸を丁寧に泡立て、頭皮そして髪の毛を洗っていく。

 流石に今まで石鹸で洗っていなかった為か、泡がすぐに消える。一度お湯で洗い流し、もう一度丁寧に泡立てて頭を洗っていく。

 今度は泡立ち始めたので、頭皮をマッサージしながら、髪の毛は優しく洗っていく。全体を洗い終え、お湯をかけて流す。


 端切れをお湯に浸け、石鹸を擦り、端切れ全体を泡立たせる。


「体を洗うから、立って」


 立ったリズの体を優しく洗っていく。ただ、やはり石鹸の泡がすぐに落ちて行く。気にせず一回全身を洗っていく。


「座って、樽から足だけ出して」


 出してもらった足も隅々まで洗っていく。


「じゃあ、一回全身浸かって」


 石鹸と汚れを落として貰う。


「んじゃ、もう一回洗うから、一回樽から出て」


 樽から出てもらい、お湯を外に捨てる。

 中を水で濯ぎ、再度お湯を作る。

 樽に入ってもらい、全身を泡立った端切れで隅々まで洗っていく。


「はい、そのまま全身で浸かって」


 泡を落として貰い、また樽から出てもらう。お湯を外に捨てに行く。本当に洗い場欲しいな。

 樽を綺麗にして、お湯を作り、今度はゆっくり浸かってもらう。


「体を洗うのは、これでおしまい。どうだった」


「洗うのも、浸かるのも、気持ち良い……」


 やっぱりふにゃっとした顔だった。可愛い。

 暫し経つと、慣れてないのかのぼせてきたようなので、樽から出てもらい、乾いた端切れを渡す。

 後ろを向き、体を拭き終わって服を着たら呼んでと伝える。


 衣擦れの音が続き、終わった旨の声がかかったので振り向く。


 髪の毛が濡れた状態だが、やはりきしんでいる。手の平に熱めのお湯を少量生み、香油を軽く垂らす。

 そのまま濡れた髪に優しく薄くのばして行く。きしんでいた髪がするすると通るようになる。


 後は、風魔術で送風し、髪の毛を乾燥させていく。


「風を送るから、軽く髪の毛に隙間を空けて」


 キッチン全体に、香油と女の子の甘い匂いが仄かに香る。


「うん。大丈夫」


 リズの声に合わせて、魔術を止める。リズが髪の毛に指先を通し、驚いた顔をする。


「うわぁ、何これ、サラサラ……。うわっうわっ」


 束にして持ち上げて数本ずつ下して行くが、まとまらず一本一本が独立して、サラサラと落ちて行く。


「何だか、体全体も軽い。凄い、凄い」


 抱きついて来るリズからは仄かな油の香りと、植物の香り、そして女の子の甘い香りがした。


「お母さんに見せて来る!!」


 叫んだ後、ぴゅっとキッチンを飛び出して行く。

 しかし、あれだ。今までのリズだと髪の毛はちょっとまとまった感じだったが、サラッサラになっていた。

 肌の色も白いのだが、どこか褪せた色と感じていたが、実際は物凄い真っ白だった。


 やっぱり、洗ってみると、全然違うなと思った。ただ、今回の方法だと効率が悪いので、すのこか何かを買って来て簡易の洗い場を作ろう。

 溜まったお湯で体を流し、石鹸で洗った後に流す。その際にお湯を足して浸かって終わりの方が効率が良い。


 訓練していた為、過剰帰還は感じないが、結構な量の熱湯を作った。今日は自分の分のお風呂はお預けだ。

 主寝室から、リズとティーシアの歓声が小さく聞こえて来る。

 喜んでもらえて良かった。


 石鹸製造で金儲けも大事なんだろうけど、やっぱり喜んで貰うのが一番だな。


 そう思いながら、溜まった樽のお湯を捨てる為に、キッチンから外に出て行った。

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