第87話 手に技術を持っている人は食いっぱぐれないなと思います
宿に戻ると3人共もう既に待っていた。食事はまだのようだ。
「流石に疲れた。ご飯食べちゃおうか」
問いかけると、皆うんうんと激しく頷いた。
「待たせてごめんね。公爵様と子爵様2人がかりだったから、時間かかっちゃった」
そう言うと、ロットが驚いた様な顔に変わった。
「公爵様は後日との話でしたよね?」
「お忍びで隠れてた。人が悪い。胃が痛くなったよ」
お道化て言うが、ロットの顔色は変わらない。
「王国でも随一の方です。良くご無事で……」
なんだ?ロスティーは猛獣か?まぁ、捕って食われそうな気配はしたけど。
「商談はまとめてきた。取り敢えず、鉄鉱床の開発後回しと海への進出は認められそう」
そう言うと、ロットがほっとした顔をした。
「それは素晴らしい成果です。鉄鉱石の採掘も良いですが、発掘現場の構築と移送のコストを考えると利益が出るまで時間がかかり過ぎますから」
「うん。時は金なりと言う訳で、海優先。塩ギルドの干渉からの保護は公爵様がしてくれそうだね」
「はぁ……。また大きい話ですね」
「相手が大きいからね。国単位で守って貰わないと。当面は公爵様を間に入れて売るとかしないといけないね」
そんな話を小声でしながら、食堂に向かった。
今日の夕食は、鳥のソテーに、野菜とベーコンのスープ、パンの組み合わせだった。
食事を楽しみながら、リズとフィアに話しかける。
「リズとフィアは海には行った事は有るの?」
「無い」
2人が声を揃えて言う。
「話で聞いた事とかは?」
「無い」
2人が声を揃えて言う。まぁ、村で住んでたら関係無い話かぁ。
「物凄い大きな塩辛い池みたいな物かな?魚も沢山いるよ」
そう言うが、2人は想像がつかないのか、微妙な顔で首を傾げている。
きっと汚れていない綺麗な海なのだろうなと楽しみであった。
「町では何か良い物が見つかった?」
そう聞くと、色々と重要そうな物やどう考えてもいらない物、様々が上がって来た。
聞いていて、あぁそんな物も開発されていたのかと思う物も幾つか有った。
女の子の買い物と言うと同行が大変と言うのが相場だが、ロット大変だったろうな。
「服とかは見なかったの?」
「え!?マジで!?見て良かったの?」
フィアが叫ぶ。あぁ、買い物の対象をパーティーとしてって言っちゃったか。
「明日は午後から子爵様との打ち合わせが有るから、午前中はマントを買いに行こう。午後は、服を探してきたら良いよ」
リズが控えめながら、喜んでいるのが分かる。あぁ、女の子なんだな。一着くらいプレゼントしたいな。
「打ち合わせに関しては明日で終わると見ている。明後日は買い物して、最後の便で帰ろうか?」
そう言うと、幼馴染2人組が激しく頷く。ロットはやや嫌そうな顔をした。あぁ、やっぱりこっちの世界も女の子の買い物は大変なんだ。
そんな話をしながら、食事を終え、部屋に戻る。
体を清める為の桶とお湯が用意されていた。
それぞれ背中を向け、体を清める。男の裸に興味なぞ無い。ただ、ちらっと見た時に腹筋がばっくり割れていた。自分の視線を下に向け、溜息を吐く。
着替えた後、汚れ物をまとめてフロントに持って行く。受付の娘さんから代わりの札を受け取り、しばし雑談をしてみる。
洗濯に関して何となく気になって話を聞いてみると、夜の間に洗濯をして、乾いていない場合は早朝に風魔術で送風して乾かしているらしい。
サービスとして偉いと思うが、そこまで育った魔術士を雇うのも大変じゃないのかなと思ったが、どうも引退した魔術士を雇っているらしい。
あぁ、魔術士って食いっぱぐれはないなぁと感心してしまった。
部屋に戻ると、ロットが装備の点検と整備をしていた。フィアに順次投擲用ナイフの研ぎをお願いしているようだ。
「フィアさんとは仲良くなった?」
唐突に聞いてみると、赤面した後、下を向いた。
「はぁ……。まぁ……。何と言いますか……。はい。順調なのだと思います」
ふむ。順調なのか。
「現在の所持金も200万ワールは超えました。仕事の面でも今後新領地の事を考えると問題が無くなった気もします」
そう、実はこのパーティーでロットは一番金持ちなのだ。昔からの貯蓄も有るが。私は今で130万程度だ。それでも8等級の始めの方と考えても破格だけど。
「フィアさん側のアプローチはどうなの?」
「相変わらず押されています……。ただ……それが嫌かと聞かれると……そうでも無いと最近思うようになりました……」
流石肉食系。きちんと獲物をキャッチしている。後は食べられちゃうのか。
そんな男同士のどうでも良い話を交えつつ、並行して窓から水魔術で氷やお湯を屋根に流しながら話し込み、過剰帰還が襲ってくる頃に就寝した。