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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第86話 交渉は相手に対する利益と真心だと思います

 内装が豪華な会議室だと思っていたが、時間が時間なので、食事が運び込まれてきた。

 あぁ、ランチミーティングも兼ねているのかと思い、勧められるまま席に着く。


「食事は用意させてもらったよ」


 ノーウェが断りを入れて来る。


「過分な対応、恐縮です」


 無難に答えながら、2人の様子を窺う。親子だけ有って、容姿は良く似ている。

 話を聞くと、ロスティーは現国王の弟との事で、現在王位継承権第2位らしい。

 子供のノーウェは直接現王家に関係無い為、現状は昇爵していっても侯爵扱いになり、ロスティーが王位を継承した場合は公爵となる。


 しかし、ロスティーの話を聞いていて思ったが、予想以上に政治に関しての造詣が深い。

 統治を司る神に扱かれたのか、物事の本質を的確に掴んでくる。


 ちなみに、王国内の勢力図の話も上がったが、現在は大きく二つの派閥に分かれる。

 ロスティー率いる開明派と呼ばれる、国内状況を憂い技術発展を進める派閥で、これが所属貴族の50%弱を占めている。

 その対抗勢力が、保守派と呼ばれる、現状維持の上で魔物の領域に進出をして利益を上げ発展しようと考える派閥で、これが20%弱を占める。

 残りは日和見主義か、その他の思想集団となる。


 ロスティーとノーウェと言う当事者の話なので鵜呑みには出来ないが、少なくともロスティーは保守派に対して敵対はしていない。

 絶妙な匙加減で、過半数をコントロールしている印象だ。


 仕事の都合で、政治家と会う機会は有ったが、政界の首領達が持つ特殊な包容力みたいな物を感じる人間では有る。


 文明レベル云々の話を念頭に置いていては呑まれると見て、頭を切り替える。


「あれ?これは海の魚ですか?」


「ほぉ。ご名答。良く分かったね。この時期になると陳情と根回しが始まるから。その時にお土産で貰ったんだ。折角だから出してみたよ」


 鱈のような魚の塩漬けを塩抜きしてローストした物だった。バターと香草の香りが心地良い。


 公爵との即時面会、献上品を出してくる、そう考えて行くと妙に高く買われている。その辺りが、経験不足でモヤモヤはする。

 ただ、嫁とその家族、仲間の生活がかかっている。成果を出さなくてはならない。


「ふむ。博識と見たが、色々見て回っている様だな。是非にも面白い話を聞かせてくれんか」


 ロスティーもはしゃいでる。目の奥を見ても、特に画策している雰囲気では無い。

 そうやって和やかな雰囲気のまま食事は終わり、食後にお茶が出て来る。


「でだ。先程も面白そうな話をしておったが、続きを聞かせてくれんか?」


「僭越ですが、結論から申します。望みは2点有ります。1点目は国としての鉄需要の要求が少ないので有れば、鉄鉱床開発の優先度を下げたく思います」


 重役連中や社外でのプレゼンの雰囲気を思い出しながら、胃の上の重い物を飲み込む。


「2点目は、商品流通レベルの塩の生産が成った暁には、塩ギルドの干渉からの保護を求めます」


「ほぉ」


 ロスティーが一瞬目を丸くして、細める。


「鉄鉱床の件は儲けが固い故に提示したとノーウェからは聞いておる。それに塩か……。ギルド側から孫を守るのは異存無いが、そこまでの規模での干渉が起こると見ておるのか?」


「勝算は有ります」


「ふーむ。新規の塩開発となれば、予算もそれなりになるであろう。その辺りはどう考えておる?」


 ロスティーが試すような目でこちらを見て来る。引く時では無い。一気に押し倒して、喉笛に噛み付く瞬間だ。


「リバーシの開発、製造に関する全ての利権をロスティー様に譲渡します。また、手押しポンプの今後の利権に関してはノーウェ様に譲渡します。その上で、男爵領の新規開発予算に上乗せをお願いしたく考えます」


「有り得ない。利権としても大きいが、そんな問題じゃない。寄親が寄子の手柄を横取りするなど、外聞が悪すぎる」


 ノーウェが叫ぶ。


「ご厚情痛み入ります。英明な寄親の指示の元、寄子が開発した物を献上し、結果公爵領圏を潤す。子爵の先見の妙を見直す者は多いでしょう」


 要はノーウェの指示で私が開発した物をノーウェが広めた形にして、利益を得ろと言いきった。

 大規模なインフラ整備なので、子爵領の規模では無理だろう。結局ロスティーが噛む。故に対象は最終的に公爵領全体が対象となる。結果的にロスティーにも利益が出る。


「う……ぬぅ……それは……そうだが……」


 全く新規の開発案件だ。そうそう簡単に儲けも読めない。物の有用性は分かった。

 だが利益が莫大になるとは分かるが、それがどれだけかは読めまい。悩め、悩め。

 

「儂も遊戯風景を先程見ておったが、話を聞いて見方が変わった。リバーシと言ったか?これも莫大な益を生むぞ?」


「孫と仰って頂いた上は、ロスティー様は祖父です。祖父の為に力を尽くさぬ孫がおりましょうか?何より、個人の利益より、民の生活を豊かにしなければ国が滅びます」


「ふぅむ。商人的な考え方と思えば、見る先は民か。本当に面白いな我が孫は」


 ロスティーの顔がにこやかに戻る。


「良し。その意気や良し。予算に関しては任せておけ。将来有望な若者に報いるは国の仕事よ」


「では?」


「内訳の詰めはノーウェと行うが良い。あれでも統治を司る神の薫陶は受けておる」


「父上?」


「いやいや。予算に関しては当初予算からの増額は約束する。額面は審議の上となるが、孫の願いだ。最大限努力しよう」


 大笑いしながら、ロスティーが返してくる。


「では、用意している物が有ります」


 執事に合図を送り、各種焼き印とリバーシの設計図、遊戯方法の冊子を持って来てもらう。


「こちらが、リバーシに関する機材と設計書で御座います。お納め下さい。今後の運用に関してもご相談頂ければと考えます」


「ほんに用意が良いの。此度の話、手の内か?」


「滅相も御座いません。元々ご挨拶として献上するものを交渉の道具に使い、申し訳無く思っております。また略式とは言え、紋章を自儘に使った事をお許し頂ければと思います」


「そんな事はよい、よい。我が孫は固いのぉ。だが気に入った。孫と呼んだのは本心だ。小さな事でも構わん。何か有れば儂を頼れ。これは決定だ」


「ありがたいお言葉、感謝致します。以後一層精進し、国が民が栄える事に尽力致します」


 3人で笑い合う。後は談笑が続いた。雰囲気は一気に明るくなり、そのまま夕方遅くまで新規男爵領の今後に関して議論が交わされた。


 少なくとも、ロスティーもノーウェも今回の件で、莫大な借りをこちらに作った。開発が進み、製造、販売となればそれが目に見える。その時にどれだけ評価が上がるかだ。

 こちらが失った手札は2枚だが、どちらも個人規模で得られる利益は小さい。そんな物にベットするくらいなら、もっと規模の大きい物に賭ける。


 私の去り際に冗談か本気か分からないが、ロスティーが養子にならないかと聞いてきたが、非才の身と言う事で躱しておいた。

 本人は笑っていたが、まぁ悪い関係にはならないだろう。

 取り敢えず、国の過半数を握る人間と最低限懇意になれた。そこは助かった。後が楽になる。


 ノーウェからは、明日男爵領に関する内訳に関して方針決定をしたい旨をもらった。所用が有るらしく、昼過ぎに領主館に来る形でまとまった。


 本日の予定が終わり、領主館を後にする。


 日本でプレゼンした後もそうだが、どっと疲れが肩と胃に圧し掛かる。切った手札に後悔は無いが、2人は政治家だ。どこまで信じ切れるか。


 たかがサラリーマンのするこっちゃ無いなと思いながら、へとへと状態で、宿屋に向かった。

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