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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第85話 社会に出ると話の前振りって意外と重要です

 朝起き、宿の朝食を取る。パンとスープ、サラダ、ソーセージと言う内容だった。簡素ではあるが量も有り、問題は無い。

 出る際に、宿の名前を憶えておこうと看板を見たが「太陽と大地亭」と言う名前だった。隠れてスマホのメモに記載しておいた。


 ノーウェとの約束にはまだ時間が有る。昨日探して貰ったテントを置いている雑貨屋が近いとの事なので、皆で向かう。


 着いて驚いた。雑貨屋と聞いていたが、村のとは規模が違う。広い敷地に2階建ての建物。

 置いている物も生活用品から、そこそこ大規模な物まで幅広い。バーベキュー用のコンロみたいな物まで有った。

 馬車で移動しているなら、こう言うのを乗せてても問題無いのかな。日本以来久々の便利グッズの山に心が高揚してきた。


 目的のテントだが、かなりの数が有った。高級品も有るが、ロットからそこまでは必要無いと言われた。

 大規模天幕やゲルみたいなのも有ったが、高いし部品数も多い。拠点を設営するなら意味は有るが、短期間で移動するとしてなら、設営がきついし機材が重い。


 おすすめ層のテントを見て回る。毛繊維をフェルト状に加工した物や帆布に近い物が有った。

 フェルトの製造には石鹸水を使っていたイメージが有ったのでロットに聞いてみたが、石鹸らしき物は無いらしい。日常品だけでは無く商人として取り扱った事が無いと言う。

 ふーむ。チーズは開発されているので乳漿を使ったパターンも有るかと一旦は納得しておく。


 撥水加工の物を見ていたが、見た目と触り心地でやっと理解した。これ、蝋引き加工だ。そりゃそうだ。蜜蝋や獣脂の蝋燭が日常品なのだから、性質は見抜きやすい。

 蝋が水を弾くのは、防火用に水を張った皿に蝋燭を置いていれば、目につく。


「これ、始めは良いけど、利用期間が長くなると水が漏れてこない?」


「そう言う話は聞きます。ただ、消耗品ですので。デリケートなので手荒に扱うと、早めに水漏れするそうです」


 まぁ、折り目に沿ってきちんと取り扱ってあげれば長持ちはするかな。雨の日ばかりでも無いし。

 帆布っぽい織り方の布製が、懐かしい感じで印象は良かった。皆に聞いても異論は無いそうだ。機材を持ち上げてもそこまで重くは無い。

 形は三角形で、骨組みと紐で牽引して固定する物だった。2人用で1セット11万ワール。毎晩使う物だし全然安いなとは思った。すぐに壊れるとかだったら悲惨だが。

 何となく形から、子供の頃に爺ちゃんとキャンプに行った時のテントを思い出した。テントの進化はこの世界の方が先に進んでいるのかなと思った。


 下に敷く綿入りの毛布もセットで決めて、値段交渉に入った。最終的に紐を固定する杭を打つ小さな金槌もセットにして、21万まで負けてもらった。

 気さくな店員で、値引き交渉後も普通に設営や運用の説明をしてくれた。ここも何か有れば、また来よう。

 パーティー資金から支払いを済ませる。


 交渉や説明で時間を使ったので、マント以外に野営や冒険に便利そうな物を探して貰う事にした。子爵との話がどれ程かかるか読めない。

 落ち合う場所は宿にした。私が町の地理に疎い為だ。食事に関しては日が暮れても戻ってこない様なら、先に食べて欲しい旨伝えた。


 まずは昼食に向かうのか、食堂街に向かって行くようだった。


 私は、少し早いかなと言う時間だが、待たせるよりはと思い、領主館に向かう。

 領主館前で門衛に用向きを伝えて、若干待つ。そのまま入り口まで誘導されて、執事と共に前訪れた控え室に通された。

 ふと視線を感じるが、人影は無い。『警戒』を立ち上げると、隣室に気配の記憶の無い人間がいるのに気付いた。

 監視かな?意味が分からないなと思いながら、お茶を楽しみつつ暫し待つ。取り敢えず、上品にしておこう。


 お茶を飲み終わる頃に、執事が現れ、執務室まで誘導される。

 執事が扉をノックし、訪問を伝える。ノーウェの返事に合わせ、扉を開いてくれる。そのまま、執務机の横に立つノーウェの元に向かう。


「お久しぶりです。ノーウェ様。本日はお会い頂きまして、ありがとうございます。あの後、お体に変化などはございませんか?」


「久しい。手紙のやり取りが有った故、そこまでは思わないけど。しかし、その挨拶、ますます商人の様だ」


 笑いながら、ソファーへ移動する。腰を落ち着けると、ノーウェが合図を送りお茶が用意される。


「まずは、男爵叙爵の件、話を受けてくれた事に感謝を」


「勿体無いお言葉です。非才の身ですが、粉骨砕身務めるよう致します」


「あぁ。あー、もう少し砕けた表現で構わないよ。これからは寄子の身となる。あまり謙られると外聞も悪い。歳は同じだが家族、わが子と思う。そこに偽りは無いよ」


「分かりました。その点は尽力します」


「うん。その程度で良いよ。これからは共に王国の安寧の為、領地の安堵、発展を志すんだ。仲間と思って」


 上司の仲間発言って、いつも裏の採点簿が有るんだよなぁと思いながら、気に障らない程度に謙っておこうと決めた。


「お手紙で頂きましたが、用件が数点程有るかと思いますが?」


 そう言うと、王国法の貴族に関する事項の抜粋と、同意書3枚が用意された。

 抜粋自体は、何条何項形式で数点の抜粋だった。見て行くと貴族と言うより、会社の役職に就く印象が非常に強い。


 後、かなり簡素な条文で恣意的に解釈出来そうだ。疑問の顔をしているとノーウェが苦笑しながら教えてくれた。

 要は、自分勝手な解釈をすると、統治を司る神から警告、罰則が来る為、簡素でも問題無いとの事だ。

 しかもえげつない事に、警告内容は事例として横にも連絡が回るようで、うかつな事はし難いようになっている。


 同意書に関しては本人、寄親、国が保管するとの事だ。汚れない内に額か何かに入れておこう。


 サインをして、2枚をノーウェに渡す。その時点でノーウェの肩が下がり、ほっとした表情を見せた。


「いや。本当に助かった。有能な人物を探すのは本当に大変なんだ。その上、貴族を務めるだけの度胸を持つ人間はほとんどいない」


「有能かは結果を出せた時点で判断して頂きます。後は公爵の件尽力頂きまして、ありがとうございます」


「その点は気にしないで。色々事情も有るから」


 何だか、微妙に挙動不審な。さっきの気配も隣室に張り付いている。まさかなと思いながら何となく筋道が見えてきた。


「で、実際の領地に関してお伺いしたい事が有ります」


 率直に鉄鉱床の優先度を確認してみた。結論としては王国として見た場合、そこまで優先度は高くない。ただ手堅い投資先としての紹介と言うニュアンスだった。

 それならばと、海側に領地を拡大してもらい、海側の開発を優先したい旨を伝えた。


「海か……。漁により食料の自給率は高いが、穀物の生産に向かない。素人が手を出すには難治と思うけど?」


「その辺りはご心配無く。元々海に近い場所に住んでおりましたので、儲けの種は幾つか」


 種の内容は、はっきりとは伝えない。子爵も詮索はしてこなかった。まぁ、サービスしておくか。


「ちなみに、岩塩の予測埋蔵量と利益の概算はご存知ですか?」


「上がって来ている資料には目を通している。領民の命に関わる話だからね。埋蔵量に関しては、今の人口推移であれば10年20年は問題無い。また、別の採掘地も探索中だよ」


 お互い、お茶を口に含む。


「利益に関しては、塩ギルド側の儲けは酷いと見て良いよ。命に関わる物故に商業を司る神も、やや見逃しているけどぎりぎりを突き過ぎてはいる」


 眉を寄せ、不快を表す。


「海に……塩か……。海水塩を狙っているのかな?あれは大分質が悪い。塩ギルドの製品との太刀打ちは難しいと思うよ?」


「そこはご心配無く。住んでいた場所では海水塩の加工も進んでいました。製品化の暁には、出来れば塩ギルドの干渉を防ぐのにお手伝い頂ければ幸いです」


「塩ギルドは大きいよ。私の一存では無理かな」


「その辺りを含めて、公爵閣下とのお話の場をお願い致しました。少し早いですが、公爵閣下への贈答品です」


 荷物から、綺麗な織物に包まれた、リバーシ一式を取り出す。


「それは何かな?」


「卓上遊戯の一種です」


 公爵閣下の略式紋章が入った品だ。扱いは慎重にテーブルに乗せる。

 当然お客様扱いのノーウェ側に紋章が見やすい側を向ける。


 コマのケースを、お互いに分ける。

 子爵は盤やコマを見て、感心している。


「これは単純だが、美しいな」


「お褒め頂き、光栄です。ルールは単純です」


 リバーシのルールを簡単に説明して行く。挟まったら、裏返る事さえ理解出来ればそこまで難しい物では無い。

 ちなみに挟む所にしか置けない、何も出来ない時だけパスする部分の説明だけは念入りにやった。好きにパス出来たら、ゲームにならない。

 正体不明の気配は壁に張り付きでこちらの話を聞いている様だ。


「初めてですので、一石をハンデで差し上げます」


 左上の隅に黒石を置く。

 ハンデ戦なので、先手は私の白を置く。後は順番に石を置いて行く。

 申し訳無いがリバーシはそんなに得意では無いが、経験は有る。初心者にハンデを渡しても、勝ちたい方法で勝てる。

 初戦は、半々近くて若干私が多目くらいで推移させた。


「後は、自分の色を数えます。今回であれば、私が34ノーウェ様が30ですので私が勝ちです」


 ノーウェが呆然とした顔をした後、大声で笑いだした。


「面白い。面白いな、これは。いや、何かと思ったが、単純なのに奥が深い」


「今度はハンデ無しでやってみましょう」


「おお。次はもう少し善戦しよう。これは思考の訓練になるな」


 流石にハンデ無しでは手を抜いても、要所要所を指すと一気に状況が逆転する。逆に気づかれず、大きく勝ち過ぎないのが難しい。


「申し訳ありません。流石にハンデ無しでは慣れている私の方が有利です」


 ケースに入りきらないコマが大量に有った。


「いやいや。そう言う物だろう。筋は見えてきた。もう一戦だ」


 また、コマを分け合い、ゆっくりとゲームを進める。

 気付くと、正体不明の気配は私の背後まで接近していた。

 振り返ると、ノーウェを成長させた様な顔立ちの60代くらいの男性が立っていた。

 一瞬誰かと考えたが、決まっている、公爵だ。


「お初にお目にかかります。公爵閣下」


 急ぎ、立ち上がり礼をする。


「いや。すまんすまん。ノーウェに話を聞いておってな。人となりを見たくて覗いておった。面白そうな事をやっておるのでついつい引き寄せられたわ。驚かせてすまんすまん」


 好々爺なイメージだが、公爵と言えば爵位のトップだ。会社の取締役レベルと見て良い。粗相は出来ない。


「そろそろ来年度の予算編成の根回しが始まる。ノーウェとも話を詰めておきたくてな。新しい男爵も来ると聞いておったので楽しみにしておった。儂の名前はロスティーだ。以後、よろしく頼む」


 ニコニコと話しかけて来る。


「で、これは……?」


「リバーシと言う卓上遊戯です」


「儂の略式紋章が押されている様だが?」


「その辺りを含めてご説明致します」


 リバーシの利点に関して説明して行く。

 まず、この世界に卓上遊戯何て気の利いたものは無い。話し合いをする際も、どんと話題の中心から始まる。その緩和、潤滑の為、一旦遊びを入れて話を盛り上げるのが一点。

 現在は白黒のコマだが、白の側に絵画等を施し、芸術的な贈答品としての価値を高めるのが二点。

 公爵の略式紋章を使い、威光により偽造の氾濫を防ぐと共に、公爵がこう言う余裕の有る、教養娯楽にも手が出せる事を周囲に示威出来る事が三点。

 シリアルナンバーを打っているので、誰に贈答したのかは管理が出来る。贈答品がどこかに流れても、それを見つけた際に公爵派閥の人間が確認し、人物の相関関係が明示できる。そう言う見え難い人物関係を把握するのが四点。


「この様に公爵閣下には利点が大きい物と考えられます」


「ふむ。単純で面白い遊戯と思っていたが、そう言われれば奥が深い。政略としても良く練られている。ノーウェが商人のようだと言っておったが、商人もそうだが為政者の目もきちんと持っておるな、面白い」


 ロスティーのニコニコがますます強くなる。


「寄子の寄子じゃから、孫も同じじゃ。ノーウェも他も子供を作らんでな。この歳で孫が出来るのは嬉しい。儂の事も気軽に呼ぶが良い」


「では、ロスティー様とお呼び致します」


「うんうん」


 ロスティーが嬉しそうに頷く。


「まぁ、遊ぶのは後に回して、暫し会談としようか」


 ロスティーが宣言すると、ノーウェが執事を呼び、大きめの会議室へ案内される。


 ここまでで大きな失態は無い。

 ふぅ、勝負はここからだ。

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