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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第82話 寒くなって来ると、湯豆腐が食べたくなります

 納屋に向かい、小さな甕を覗き込む。鹸化は完了しているのか、油の浮きは無い。

 一部はクリームが固まった様な柔らかい感じだが、使用するのに問題は無いだろう。ただ、あまり水場近くに置いているとすぐに溶けそうだが。

 混ぜようとしたが、かなり固まっているので容易には混ざらない。小さな木型でも作って貰って、抜くか。


 鼻を近づけるが、使用済み油の匂いからは変わっていない。記憶違いかもしれないが、匂いは若干薄れている。

 まぁ、日本の無添加石鹸に比べれば臭いが、この世界の人達にとっては初めての代物だ。気にはしないだろう。

 それに言うのが若干憚られるのだが、この世界の人、体臭が強いのだ。日本人的潔癖症も有るだろうが、結構感じる。

 今となっては鼻が鈍化しているのかそうは感じないが、来た当初は強く感じた。

 ただ、女の子に関してはどこか甘い香りがするのは本能が誤魔化しているのだろうか。

 香油を付けている訳でも無いのに、リズを抱きしめると体臭の中に甘い香りと感じる時が有る。


 また、油が完全に鹸化していると言う事は、アルカリが強い可能性は有る。

 パッチテストはリズとティーシアに試して貰おう。反応が出たら、神術も有る。


 ほんの小さな欠片を取り出し、キッチンに向かう。

 リズとティーシアに欠片を肌につけて、布で巻いてもらう。このまま一晩過ごす様にお願いした。


「えっと、この前作っていた物よね?これは何をするの?あれは薬なの?」


「いえ、前に言っていたムクロジの実の代わりになる物です。体を清める際にも使えますが、肌に合う、合わないがありますので。試験にご協力下さい」


 説明を続け、2人の同意を得る。治験行為は薬師ギルドでもやっており、その辺りはスムーズに話が進んだ。

 これで問題が無ければ、一旦大丈夫としよう。実際の利用方法は町から帰ってから説明の方向で行こう。

 攪拌作業は乾燥の意味も有るので、このままお願いしておこう。攪拌が固くて無理そうなら止めるようにティーシアにお願いした。


 そのまま食事を済ませ、体を清め、就寝となる。2人には、町への訪問の話もして、数日空ける旨も伝えた。


 ベッドの隣で、リズが巻いている布が気になるのか、弄っていた。

 痒みや痛みは無いかと聞くと、無いようだ。この世界の人が特別肌が強いとかあるのかな……。


「これって何なの?ムクロジの実って洗濯の時に使う物よね?それを体に付けるとどうなるの?」


「洗濯すると、汚れが落ちるよね?体も同じく、お湯で拭いても汚れているんだ。その汚れを落とすのが目的の物だよ。病気の元を殺す事も出来るよ」


 概念に無い事を理解させるのは本当に難しい。何となくは納得してくれたので、後は実践で体感してもらおう。

 後、厳密には石鹸での洗浄効果は殺菌では無く除菌なのだが、説明しても納得しないだろうから諦めた。


 そんな感じで話しながらうとうとしていたら、眠り込んでいた。


 いつもより早めの朝、リズとティーシアのテスト痕を確かめてみたが、全然反応していなかった。赤くもなっていない。

 ふーむ。サンプル数は他で稼ぐとしてまずは成功と見るか。


 そのまま朝ご飯を食べて、冒険者ギルドに向かう。

 2人はやっぱり先に待っていた。フィアは農家だから分かるが、ロットが早いのには感心する。商家の子なんだなと思う。


「おはよう、じゃあ、出発しようか」


 そのまま、朝一の定期発の馬車に乗り込む。


 私は水魔術を時々発動しながら、皆と雑談を続ける。

 シミュレーターにも流石に慣れて、話ながらでも並行して魔術は行使出来るようになった。


「新領地の状況はどの程度理解されていますか?」


 ロットはやはり、先の事が気になるようだ。


「場所と内容はざくっと説明された。大分条件は良い。北に露天の鉄鉱床が有るし、東の森は植物を司る神の手が入っている。特に南の森は規模が小さいし、そのまま一週間程行けば海に出られる」


「海ですか。話には聞いていましたが、中々行く機会は有りませんでした。ちなみに、海の利点は何を見ていますか?」


「塩の生産。塩利権の確立かな。後は海産物、魚や海藻類の製品化も考えている」


「塩ですか……。かなりの話になりますね。しかし質の部分では分が悪いのでは?」


 流石に商家の子なので、金の話は早い。岩塩を生産するのもコストがかかる。

 海水塩の生産もコストはかかるが、日本でも古代からある程度大量に生産する手法は確立されている。分が悪い賭けでは無い。

 ちなみにこの世界の海が塩辛く、海藻や魚がいる事はノーウェに確認済みだ。


 王国内にも漁村は存在するらしいが、漁が中心の小さな集落ばかりとの事だ。

 海水塩は一部生産されているのだが、にがりの除去の概念が無く、品質の悪い塩分としてほとんど流通しない。

 この辺りが生活の余裕の無さと言うか、結果からの発展の余裕が無い状況なのだ。

 塩分の重要性、嗜好性は理解しているが、岩塩と言う他の手段が有ればそっちを選ぶ状態だ。


 それに大豆は存在を確認したので、豆腐も期待出来る。昆布も有るのだろう。寒くなるので湯豆腐くらい期待したい。

 麹を上手く捕まえられれば、味噌、醤油と発展できる。トウモロコシから大豆への輪作の道も有る。期待が膨らむ。

 ちなみに、トウモロコシと大豆は指揮個体戦の時、騎士が世話をしていた馬の飼料を見て気づいた。こんな所に有るじゃん!!と叫びそうになった。

 正直、色々つっこみたい気分は有ったが、今後の利権の為、ぐっと堪えた。ただただ思った。勿体無いなと。


「海水から取れる塩はえぐいから好まれない話だよね?あのえぐみは除去出来るよ」


「本当ですか!!それでは海の利権は莫大なものになるじゃないですか!!」


「声大きい……。正直、勝算は有る。ただ鉄鉱床を優先させられると美味しくないよね?」


「んー……。はい。確かに」


 ロットが黙り込む。

 そう、鉄を掘り出しても、そこまで利益を生む訳では無いのだ。

 鉄が希少で有れば良いのだが、地球のコピーと言うだけ有って、埋蔵量はかなり有る。また、製鉄前の鉄鉱石は二束三文の価値しか無い。

 王国にどれだけ鉄の需要が有るかは知らない。ただ、鉄が無くても人は生きられるが、塩が無ければ生きられない。

 その点だけでも、鉄鉱床に興味が無い理由になる。


「と言う訳で、今回の話し合いで出来れば南に進出する話で持って行きたい」


 そんな未来の話を熱く語っていたが、横を見ると幼馴染2人は馬車から飛び降りて話しながら走ったりしている。

 訓練とか言っていたが、あれはそんな生易しい話では無い。馬車だって、時速6から8kmは出ている。ちょっとした駆け足だ。

 装備を装着したままで、走るとか……。

 女子高生って元気だなとメタボおっさんは朝の駅とかで思っていたが、目の当たりにすると純粋に驚く。


 そんな感じで、秋も大分深くなってきた、青空の下。馬車はゆったりと道を進んで行った。

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