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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第81話 何故領主兼業の冒険者を目指すのか?

 仲間の意思は確認できた。


 会社でリーダーの時もそうだったが、仕事上で短期間で信頼関係を構築する事は、ほぼ幻想に近い。

 相手を完全に理解し欲求を満たせるならば可能だが。そこまでの関係を構築、持続するのは時間と努力の積み重ねだ。


 だが、信用は相手側に『一緒にいれば悪い事は起きない』と思わせるだけの結果の積み重ねだ。

 これは相互理解がある程度進めば可能だ。


 少なくとも、相手のメリットを真摯に渡す。この繰り返しでしか信用は生まれない。

 今までの仲間達との付き合いで、自分がそこまで踏み込めていたかと問われれば、答えはNOだ。

 リズともまだ、隔絶した部分は有る。


 それでも、これから為政者として生きるのであれば、信用そして信頼をしなければ詰む瞬間が出て来る。

 コミュ障と逃げてきたツケが回って来た。そう思いながら苦笑が勝手に出る。リズに注意されていてもこれだけは治らないだろう。

 出来る事はする。出来ない事はその時考える。考える事を止めない。前に進まなければ何も始まらない。


 はぁ、こんなに優しい世界なのに、人間関係はやはり難しい。

 今は少なくとも信用出来る仲間が共に歩む事に同意した事に満足して、先に進もう。契約分は働かなければ、契約違反になる。


 ぼーっと人間関係に起因するストレスの所為か、ネガティブな事を考えながら、木工屋に向かう。


 店主に挨拶をすると、小型の大八車もどきとリバーシを出してきてくれた。

 大八車もどきに関しては、台車を少し大きくした程度のサイズで取り回しも容易だった。


「積載重量はどの程度まで行けますか?」


「80kg弱辺りで限界です」


 と言う事は、リズかフィア、ロットが装備ごと乗っても大丈夫か。担架代わりの運用も無くは無いか。

 まぁ、テントや荷物を載せるのが主な目的だから、そこは気にしないでおくか。


「整備の頻度はどの程度と見ますか?」


「車軸への影響次第です。森でお使いになるとの事ですので、悪路が多い為、車軸への負担は大きいです。有る程度運用した段階で一度お持ち下さい」


「予備の車輪と車軸、どちらを予備で持っておいた方が良いですか?」


 店主が少し考え込んだ。


「車軸です。車輪は壊れても最悪でも片輪で最低限の移動は可能です。車軸は替えが利きません」


「車軸の替えは有りますか?」


「試作分が残っているのですぐにお出しできます。前の件と相殺でまだ余ります」


 替えの車軸と、車輪を外す為の金属の器具を渡される。

 実際の運用の説明を受ける。パーティーメンバーにも伝えなくてはいけない。


「で、もう一方は如何ですか?」


 仕上がったリバーシを見てみる。思った以上に良い仕事をしている。塗装のムラも無く、発色も良い。

 緑の塗料とか可能なのかと思っていたが良い感じにマットな仕上がりになっている。上品な感じだ。

 コマもきちんと円形に抜いた後、角を均等に磨いてくれている。白と黒の塗料も発色が綺麗だ。白はもっとくすんだ色になると思っていた。

 コマの径と削りのお蔭か、ケースへの収納もストレス無く行える。


「驚きました。良い仕事です」


「お褒め頂き光栄です」


 店主が良い顔で笑った。


「じゃあ、今回はこれで。車の整備と、また玩具の件依頼すると思います」


「ご贔屓に。またいらしてください」


 笑顔で挨拶を交わし、鍛冶屋へ向かう。


 いつもの主人に手を振り、来店をアピールする。


「おぅ。前の焼き印出来てるぞ」


「んじゃ、火借ります」


 コマと盤には炭で仮の線を各中心が取れる様に引いている。

 その中心に合わせて、焼き印を押して行く。


 リバーシの盤とコマの白側に、64個ずつ熱した焼き印で公爵の略式紋章を押して行ってもらう。

 朱肉で判子を押すのと違い、周囲に影響を与えないのが難しいのだが、主人が軽やかに押して行く。

 最後に、盤の裏に書かれた6個の長方形に、000001の焼き印を押す。


「これは、製造順につけるのか?」


「公爵様の略式紋章と製造番号の位置と焼き印の形で偽造を防ごうかと思っています。模倣も公爵様相手となれば怯むでしょうし」


 単純なゲームなだけに、一式を作るのも簡単だ。ただ、それでは模倣品を大量に生むだけだ。

 そこを公爵の権威で抑えて貰おうと考えたのが、焼き印だ。


 リバーシ利権は公爵にそのまま渡し、領地側の投資を増やす動きを取って貰う。

 地球の知識を自分の為に使えば生活は楽になるだろうが、空しいだけだ。領地を、そこに生きる人々の生活を豊かにする為に使う。そう決めた。


 焼き印が冷えるまでポンプに関して進捗確認をしながら、時間を過ごす。

 コマや盤を端切れで磨きながら話を聞いていると、試作品がそろそろ完成するらしい。


「これが出来れば、水汲みも楽になります。お手数ですが引き続きお願いします」


「おぅ。前にも言ったが、母ちゃんの為でもある。そこぁ、気ぃ張るよぉ」


 和やかな雰囲気のまま挨拶をして、家に戻る。


 大八車もどき、あー、荷車とするか。荷車は、一般的なリアカーの4分の1程度の大きさだ。車輪が大きい為、不整地でも安定を損なう事はほぼ無い。

 実物が出来ると、色々分かるな。村のましな道を引き摺り進みながら、今後の運用を練って行った。


 家に着くと、リズはもう戻って、何か転がっていた。可愛い。


「リズ、どうしたの?」


 声をかけると、ぴたっと動きを止める。おずおずとこちらを向く。


「皆と真剣に話している姿が格好良くて、領主様っぽかったから……」


 小声で呟く。正直おっかなびっくりで話していただけで、そんなつもりは無かった。


「え、私、偉そうだった!?」


「いや、こう、威厳に満ちて、諭す様な雰囲気だった。物語とかで出て来る、王子様みたいな……」


 あぁ、リズも女の子なんだなぁ……。お姫様願望と言うか憧れと言うか、そう言うのはこちらにも有るのか。


「話の後で少し辛そうだったけど、大丈夫?」


「うん。大丈夫。皆が反対したら、どうしようかとは思っていた」


「あはは。心配し過ぎ。皆、ヒロの事好きだよ。これだけ一緒に生活してるんだから。悪い人じゃない事は分かってる」


 涙を流さんばかりに笑いながら、リズが告げた。


「それでも冒険者としてやって行くなら、マイナスだと思うけど……」


「うーん。ヒロが好きって言うのは有るけど、新規の開拓地って、色々プラスも大きいのよ。そこも含めて夢を持っても良いんじゃないのかな?」


 法律書が無いので読んではいないが、話を聞いて行くと新規領地は結構フロンティアスピリットを刺激する内容だった。


 新規の開墾地に関しては、領主が税収の権限を持つが、所有権は開墾者が主張できる。開墾すれば開墾するだけ、生活が豊かになる。

 また領主の許可の元、開墾地を他者に売却も出来る。開墾して土地を切り開き、老後は売却してその金額で過ごす事も出来る。まぁ、大概子供に相続して面倒を見てもらうものだが。

 ちなみに許可が必要なのは、細切れに色々な人間に売られると税収行為が面倒になる。そして開墾するだけして、税も納めず土地だけ売るのを防ぐ為だ。

 まぁ、後者は少ないケースだが。商売の原資として過去そんなケースが有ったらしい。国側としては堪ったものではない。

 官僚機構に関しても、古参となれば発言権が上がる。今後の重要な地位を得る際にも動きやすい。

 商業者も先駆者特権で新規領地の商業を一手に握れる。そう考えると、新規領地は夢が大きいのだ。


 ちなみに、商業の話が出たので。商業には、商業を司る神がいる。この神様、結構苛烈だ。

 商取引上、新しい事、意欲的な事には何も言わない。ただ、明確な汚職の時には、警告が飛んでくる。汚職と知って警告を無視して実行した場合、かなりのお仕置きだ。

 銀行はまだ見た事が無いが、貸金業は正当な担保を媒介に、行われている。ここに異常な金利を付けたりすると、かなり怒られる。

 過去の例だと、異常な金利の借金を盾にその家族の娘に性行為を強要した商人がいた。この商人、行為に及ぶ直前、塩の柱に変わったそうだ。大分警告を無視したんだろうなとは思う。


 と言う訳で、新規領地と言うだけでネームバリューは有る。そこは安心した。


 ついでにだが、私が何を危惧して、冒険者兼業と言っているかと言うと、冒険者が安全機構の一部だからだ。今回の指揮個体の騒動でも分かるように、国側でフォローしきれない部分を冒険者ギルドが補っている部分は多々有る。

 この冒険者なんだが、金の匂いがしないと寄ってこない。地縁と言う言葉が有るが、今回は子爵の寄子になる為、子爵領の冒険者が訪問する事は有るかもしれない。

 でも、そこで儲けられないとなると、もう戻ってこない。なので、儲ける為に如何すれば良いのか、稼げる冒険者の広告塔として私達が頑張るしか無い。

 他に有力な冒険者の伝手があればそんな事を考えずとも良いのだが、そんなものいない。ディードの線も考えたが、流石に一生の話だ。ちょっと貸しが弱い。

 と言う訳で、冒険者を辞められない。新規領地の中心の村なので、冒険者ギルドは間違い無く進出して来る。顧客の引き留めを領主は考えなければならない。


「取り敢えず、転がってないで、食事の準備手伝って来たら?」


 顔を赤面して、キッチンの方にピュッと駆けて行く。

 可愛いったら無いな。


 そう思いながら、知らず知らず溜まっていた体の凝りをほぐし、石鹸の様子を確認する事にした。

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