第80話 ファンタジー世界の手紙のやり取りに関して、成功率が気になります
この3日分の戦利品を抱えて冒険者ギルドを訪れる。
夕暮れが始まる前に、村に到着出来た。3人に疲労の色は見えない。だが、付き合いが短いだけに無理しているかは分からない。
報告が済んで、大きな問題が無ければ解散して休んでもらおう。問題が有るとしたら、子爵の返事が有った場合かな?
そう思いながら、扉を抜け鑑定の受付へ進む。
ゴブリンの数は減ったが、スライムの核とグリーンモンキーの数が増えているから若干減くらいかな。
フィアのモチベーションを保つ方法を考えないといけないな。
そんな事を考えていると、奥からハーティスが現れて、手紙を渡してきた。
「子爵様よりのお手紙です」
思った以上に反応が早かった。意思決定には根回しを合わせてもう少し時間がかかると考えていた。
「何時頃こちらに届きましたか?」
「本日の昼頃です」
一週間の遠征だ。正直10日後と言う言葉も、遠征を終わらせて移動日を考えた最短なだけだ。
この早さだと、返事を書くまでに2日も使っていない。
「今、会議室を借りる事は出来ますか?」
そう告げて、鑑定の対応は3人に任せて、部屋を移動する。
手紙には封蝋にノーウェの紋章が押されていた。こんな文化も有るのかと、収斂か神の教育か、どうでも良い事を考えた。
ただ、略式紋章では無く正式な紋章である事には驚いた。ギルド名義で送ってもらった手紙の答えが正式書類で返って来た。
貴族でも私信程度は略式紋章が押されて送られる。その程度の話は、ギルドから聞いていた。
もう男爵として見ると暗に言われている……。穿ち過ぎていなければそう言う意味なのだろう。
内容としては、男爵の話を受ける事に対しての感謝と正式な承認の言葉が書かれていた。
承認自体に関しては別途同意書への署名が必要な為、町への再訪問を希望している。
日程としては本日から3日以降の何時でもで、訪問を希望している。これは先触れを入れるのは、と読んでいる。
また、公爵との面会に関しては、本日から6日以降であれば可能との事。
明日馬車で出れば、間に合う。が、気前が良すぎる。
各領地の地図を見た際に詳細は不明だが、大体の距離感は分かった。
少なくとも、公爵とはやり取りせずに返事を書いている。
それか、手紙以外の手段でやり取りをしている……。伝書鳩程度なら思いつくが、それでも早すぎる。
今回は挨拶と次回公爵に会う機会を決めれれば御の字と考えていたが、どこか気持ち悪い。
取り敢えず寄親から、手紙とは言え正式文書として男爵を認められた。ここが話すタイミングだろう。
職員に3人を呼んでもらう。
3人が揃った時点で、経緯を説明する。
「色々な理由は有るけど、私が正式に男爵になると決まったよ」
リズは知っているので普段通り。フィアはにこにこしている。ロットは思案顔だ。
「で、ここからは将来の話になるよ。出来れば仲間の皆には、新領地で一緒に働いて欲しい」
「それは、冒険者としてですか?それとも別の役職としてですか?」
ロットが確認してくる。
「まずは冒険者としてお願いしたい。口約束で恐縮だけど、適性が有れば将来的に役職をお願いしたいとも思っているよ」
「その場合、パーティーのリーダーには誰が?」
「子爵様からの説明を聞いている限り、周辺調査を終えて、方針決定さえすれば、官僚団に処理は任せられる。私は冒険者と兼任になると見ている。体制に変更は無いよ」
「つまり今の体制のまま、規模を拡大すると?」
「領地がある程度落ち着くまでは、自由な行動は難しいと考える。ただし、別に無料で扱き使いたい訳では無いよ。冒険者として正式な対価を支払われる環境は整える。それはここで明言しておく。その上で、規模を拡大するつもりかと聞かれれば、その通りと答えるよ」
「ここまで黙っていた理由は有りますか?」
「正式な返答を受け取ったのが、今だからだよ」
紋章が押された封筒を振る。
ここでロットが目を閉じて黙考する。
「分かりました。元々リーダーに将来を感じて参加したパーティーです。驚きはしました。でも、何かやってくれる人と見込んだのは自分自身です。お供します」
ロットはOKと。後はフィアだけど。
「フィアさん、稼ぎは今と比べてかなり減っちゃうかもしれないけど大丈夫?」
正直、今の稼ぎは9等級の稼ぎのとしては破格だ。たった一か月程度で農家の年収を稼ぐ役職なんて用意出来るわけがない。
「それは当たり前だから、別にぃ。元々今が多すぎ。気になるのはこれからの関係かなぁ?リーダー様って呼ばなきゃ駄目?」
フィアがあっけらかんと答えて来る。しかも問題点が関係か。らしいと言えばらしい。
「はっきりと言って、公式の場ではちょっと立場を考えないといけない場所は出て来る。ただ、冒険者のパーティーとしては今まで通りで。約束する」
「んじゃ、特に問題無いかな?リズも大変じゃん」
フィアがにやっと笑ってリズを攻撃し始める。仲の良い事だ。
そんな感じでこれからの事や、皆の考えている問題点を潰して行く。
この世界で、取り敢えず最低限信用出来る人間はこの3人とアスト達だけだ。出来れば一緒に来てくれればと考えていた。
面倒も多いと思うけど、これからもよろしく。心の中で呟く。
「んじゃ、唐突で悪いけど、明日から数日、町に出ないといけない。子爵様と会う約束が有る。皆には、テントとマントを揃えて貰いたいんだけど、3人共予定は大丈夫?」
全員頷く。
ここで、簡単な要件をまとめて行く。現状4人なので、2人用2つで行こうとかそんな話だ。
「じゃあ、明日は一番早い馬車で移動するよ。皆、用意をお願い出来る?」
全員頷き、それぞれの買い出し担当を決めて行く。
話し合いがまとまったのを確認し、用意が終わったら休む旨を伝え、解散を告げる。
私は贈答品と大八車もどきの受け取りが有ると伝え、3人が先に出て行く。
正直、冒険者には冒険者のメリットが有る。
誰かが反対したらどうしていたかなと冷や冷やしていた。
安心したのか、ほっとため息が出た。