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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第73話 県民としてかすうどんは重要だと思います

 家に戻って、ティーシアに帰宅の挨拶をする。

 まだ、早かったのか、食事の用意も始まっていなかった。


 帰りしなに買って来た薪を降ろしながら、ティーシアにお願いをする。


「イノシシの脂身や、内臓の一部を貰う事は出来ますか?」


 当惑した顔で返答された。


「その辺りは処分するから、余っているわ。昨日大物が捕れたの。処分がまだだから使って良いわよ。でも何に使うの?」


「ムクロジの実の代わりに使える物を作ってみようかと。後、身を清める時にも使えます」


「ふーん。面白そうね。手伝える事は有るの?」


「料理前でお手隙ならばお手伝い頂けますか?脂身と大腸を細かく刻んで下さい」


「あら?料理みたいね」


「油を取ります」


 先程ぼけーと考えていた石鹸だが、試してみないと始まらないなと。明日からは1週間の森生活だ。その間乾燥させればどうなるかの実験もしたい。

 家計に迷惑をかけるわけにもいかないので、薪も自分で買って来た。

 ティーシアは納屋から処分する予定の身を持って来て、手際良く刻み始める。流石主婦。


「あ、油を取った後は煮物に入れても美味しいので。今日は汁物作ります?」


「野菜のスープの予定よ」


「じゃあ、そこに入れましょう」


 関西人には「油かす」で有名だろう。牛や馬、豚の油を取った後の残った身を乾燥させる保存食だ。

 作られた経緯や過去を考えると色々な問題が出て来るが、今となっては食材として認められている。


 なるべく血合いが無い、純粋な脂身の部分と良く洗った腸が材料だ。血合いは確実に臭いの原因になるので、極力排除だ。

 なかなかティーシアと料理する機会も無く、何かやと話をしながら、進めて行く。


 少し大きな鍋に、呼び水として少しの水を沸騰させ、材料を投入させる。

 外では並行して、大工から貰った樫の端材を高温で焼いて行く。確かアルカリを強めるには樫材の灰汁が適していたと聞いた事が有る。


 鍋の中では、水分が蒸発し、揚げ物をしているかの様な香りが漂い始めていた。


「美味しそうな香りね」


「生まれた地域では結構ポピュラーな食べ物でした」


 ここまで進めば、焦げ付かない様に調整するだけだ。ティーシアには今日の晩ご飯の準備に取り掛かって貰う。

 外で焼いている樫材も規模が小さいので、すぐに真っ白な灰になっていた。その灰を買って来た小さな盥に移し、水で攪拌。


 油の方も、身から抜け、カラカラと音を上げながら香ばしい香りを出している。途中は身に含まれる水分が爆発し、バンバン言っていたがもう大人しくなってきた。

 油の温度が落ち着くまで待ち、目の細かい布の端切れで油を濾す。身の方の油が落ち切るまでしばし待つ。

 

 余った薪はティーシアにご進呈だ。恐縮はされたが持ちつ持たれつ。人間関係はこう言う小さな積み重ねが大切だ。


 ほぼ、落ちる油も無くなった所で、少し取り出し軽く塩をふりかけ、味見してもらう。


「まぁ、香ばしい。それにさくさくした食感が気持ち良いわね。このままでも行けそうだけど……」


「スープや煮物に入れると、柔らかく変化します。ボリュームもでますし、この香ばしさと油のコクが出て、味に深みが出ますよ」


 故郷の兵庫県の南の方では、『かすうどん』の愛称で、良くうどん屋さんにも置いて有った。くにゅくにゅした食感が気持ち良い感じだった。

 実際は保存食なので乾燥の工程が入るが、それはその内に。アスト家の副収入になってくれればとの思いも有る。


 ティーシアはスープに入れて煮立たせ、味を確かめているが評価は上々の様だ。


 油の温度も下がって来たので、木の灰から作った灰汁の上澄みを用意する。小さ目の甕に油を流し込む。攪拌しながら、徐々に灰汁を投入して行く。

 分量は過去の調査の際に、覚えていたので、ゆっくりと投入して行く。徐々に乳化されたような雰囲気になっていく。灰色のどろりとした液体だ。

 アルカリ性が強くないと駄目なのと水分は後で飛ばすので兎に角所定の量より灰汁を多目に混ぜ、懸命に攪拌する。

 後は、時折攪拌しながら乾燥を待つばかりだ。これは納屋の風通しの良い場所に置いて、偶にティーシアに攪拌をお願いしよう。

 鼻を近づけると思った程は獣臭く無い。血合いを極力排除したのが効果を発揮したのか、揚げ物を繰り返した油の匂いに似ている。香ばしい様なくどい様なそんな匂いだ。

 ほんのり温かい甕を納屋に移動させ、ティーシアに今後の説明をしていると、2人が帰って来た。


「何これ?何か凄く良い香り。香ばしい香りがする。肉料理なの?」


 リズが、目を瞑りくんくんと匂いを嗅ぎながらキッチンに移動して来る。


「ヒロさんの故郷の材料を使ってみたの。さぁ、ご飯にしましょう」


 結果として、油かすは、大好評だった。


「うわー。香ばしいのに、食感はくにゅくにゅする。不思議だけど、満足感が有る」


 アストですら、驚いた顔をしながら食べている。


「元々故郷の保存食です。揚げて油を抜いた脂身や内臓を干せば、乾燥食になります。油を取るだけでは薪代と相殺が限界ですが、副産物のこれを売れば利益になります」


「うまいな……。肉を食べられない家庭でも気軽に肉が食べられるか。君の故郷は良く考えているのだな……」


「元々、獲た食材は余す所無く食べるのが信条でしたから。無駄は許しません。如何でしょうか、商材としては?」


 アストがしばし黙考する。


「現時点では何とも言えない。が、どの程度の量産が可能でどの程度の利益が出るかは見るべきだ。作業はティーシアでも出来るのか?」


「今日もお手伝い頂けましたし、薪の使用量と生産される油の量、油かすの量も資料は作れます。蝋燭の代替として獣脂灯を検討する事も可能です」


 獣脂灯は煤と臭いは出るが、蝋燭代も馬鹿にならない。猟師の家の副業が増えれば、それだけ生活の安定も増す。


「分かった。後で検討の時間を取ってくれ。このまま村のお荷物と考えていたが、若干でも希望が見えるのならば、ありがたい」


 アストも若干でも見えてきた、明るい希望に顔を綻ばせる。


 私は、石鹸が出来た場合の利権が莫大になる事は現時点では伝えなかった。ムクロジの実が存在すると言っても、収穫はしないといけないし、数の限度も有る。

 どこかで石鹸の開発は必至なのだ。


 目新しい食材と美味しい料理に皆ほっこりとした表情を浮かべる。

 こんな温かい家庭が築ければ良いなと、心の底から思った。

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