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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第一章 異世界に来たみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第61話 組体操は毎回下の方でした。何故この様な事をするのか嘆きました

 目が覚めて、起きようとすると、体中が軋む。

 うわぁ、筋肉痛だ。痛みが体中を苛む。

 運動した次の日の筋肉痛は若さの証拠だ。運動の成果が出てきたと、前向きに思おう。

 そう思いながら、お腹に目を向けるが、即座に目を背ける。

 お腹は……気にしない。


 若干プルプルしながら、食卓に向かう。

 椅子に座った瞬間、体中が痛む。


「生まれたての小鹿みたいになってるわよ?」


 口を隠しながら、ティーシアが言ってくる。

 リズが何を面白がっているのか、色々突いてくる。本気で痛い。痛い。


「いつも何かずるいから、一方的に攻撃出来る時にする」


 こいつ、面白がってる。くそ、ニヤニヤした笑顔が可愛くて怒れない。

 そんなところもティーシアにそっくりだ。


 筋肉痛を我慢しながら、ギルドに向かう。揃ったパーティーは順次、戦場として予定されている平地へ誘導されていく。

 昨日の話の通り、現場に付き所定の配置で横隊を組む。


 ギルド側の合図に従い、移動を始める。が、足並みが全く揃わない。

 移動速度の件は、話に出ていたが、実感とは全く違う。その度にリーダーが集まり、話を詰めていく。


 話し合いの最中、学校の時の全校集会や、組体操を思い出していた。

 何故あんな事をしないといけないのかと思っていたが、あれ集団移動の訓練だったんだなと骨身に染みて分かった。


 移動速度、聞き逃しの注意、合図役に何か有った場合の引継ぎ経路等、問題が出る度に潰していく。

 ただ、やはり、ほとんどの人間は集団行動には慣れていない。こんな機会でも無ければ、集団で何かすると言う経験が無いからだろう。


 何度かの休憩を挟みながら、訓練は続いて行く。

 休憩の際は、それぞれが輪になって談笑していた。仲間意識の醸成は重要だ。皆そこは分かっている様で、不満や愚痴が出ている模様も無い。


 私は各リーダーとの会話が多い。パーティー事情や日頃の稼ぎの話が中心になる。

 パーティー事情に関しては、やはり悪い。前衛と牽制役の中衛はいるのだが、後衛が圧倒的に不足している。


 弓を使う人間もほとんどが、猟師からの転向だ。リズの時と同じなので、将来的な問題も一緒だろう。

 大弓や強弓等は、今回のメンバーでは誰も使っていない。そもそも大弓や強弓自体が射程の延長、装甲を貫く事を目的にする。

 対人戦をほぼ考えないこの世界ではそこが進化しないのは、しょうがないのだろう。

 

 魔術士に関しては、もっと悪い。全員見ても8人程だ。基本的に魔法学校の卒業生はそのまま軍に所属する場合が多数だ。安定した職だからだ。

 その少数の魔術士も、人によって千差万別。大体がワティスの様な、少コストで弱点を狙うケースが主だ。獲物の事を考えれば、これもしょうがない。


 日頃の稼ぎの様子も確認したが、町の依頼と護衛で稼ぐのが中心だ。確かに人数を揃えて野営が出来てそこそこの敵が倒せるなら、護衛はうってつけだ。

 7等級が護衛任務の絶対条件ではない。あくまで護衛任務を達成出来ると言うお墨付きが付くだけだ。護衛任務自体は、8等級等でもパーティーが揃えられるなら受けられる。

 狩りに関しても、急襲しての対処が主だ。稼ぎとしてやっている。平地での正面からの戦いなど、よっぽど状況の悪い遭遇戦でも無い限り、逃げると笑っていた。当然だろう。


 武器も装備も皆バラバラだ。得意不得意も有るし、稼ぎの使い方も有る。

 軍の制式装備と言う物は調達コストの面も有るが、習熟させる際の教育コストや威力、運用までの想定が容易だからだろうと、この状況を見て思った。


 他にも意見交換や人員の交換をしながら、それなりに指示に従った集団行動らしき状態になったのが、夕方だった。

 1日潰してもこれかと思いながらも、集団での行動の基礎が無ければしょうがないと納得もした。


 そのまま解散の流れになりそうなので、一旦止めた。予行演習の概念が無い。失念していた。

 防衛役を列に組み、その他の人間は雄たけびをあげ突進をする。攻撃は双方無しだ。その辺りの適当な棒切れや用意していた武器を槍や剣に見立て突進してもらう。

 兎に角武器を持った集団が近付いてくる圧力を感じてもらう。


 前方で、ギルドの職員等含め予備戦力合わせて100人程が集まる。遠目に見ても、人の塊だ。その人数でも拡散したら、そこそこの規模になる。

 それが、雄たけびをあげながら、突進してくる。照れや躊躇は無い。真摯に叫んでいる。

 正直、予想以上の迫力だった。何もせず横をすり抜けて行く人達を見ながら、これは怖いと心の底から思った。

 人員を入れ替えて、何度か訓練を繰り返す。恐怖には慣れる。最初はガチガチに固まっていた人達も、何とか動ける様になった。

 

 戦闘訓練までは出来ない。怪我の恐れが有るし、そもそも力量差がばらばらだ。今回の訓練を元にパーティー、個人単位でイメージしてもらう事になった。


 訓練を終え皆が解散し、数名のギルド職員のみとなった。どっと疲れが出た。

 訓練だけで、これだ。戦場の霧と言う言葉が有るが、分かる範囲でも把握しきれる物では無い。

 しかも、相手の有る事だ。

 日頃は一方的に倒している相手が、徒党を組んで襲ってくる。その事実に改めて恐れを感じた。


 後はちょこちょこと『認識』先生に相手のスキル構成を聞いていたが、珍しいスキルは無かった。

 斥候や遊撃よりの人間が『警戒』と『隠身』が若干高く、後はそれぞれの武器に合わせた武器スキルだ。

 重武器や猟師からの転向者に極少数『剛力』が低い数値で付いていた。この等級ではそんなものなのだろう。


 リズは子供の頃から延々獲物を運んでいた。あの数値はその積み重ねだと、他の多数を見て痛感した。

 結局、努力有ってのスキルだ。少なくとも、チートを意識しての物では無い。物語やゲームでは無いのだと改めて思った。


 責任者として残っていたハーティスが近付いてくる。


「本日はお疲れ様でした。大切な意見も頂戴しました」


 にこやかに話しかけて来る。挨拶を返すと、早速話題を切り出してきた。


「良い情報と若干悪い情報が有ります」


「では、良い情報からお願いします」


 話を聞くと、指揮個体と思われる大規模な集団が斥候の網にかかったとの事。良くそんな奥まで斥候を出すものだと思ったが、そこは聞かなかった。

 やはり、周囲の群れを吸収しながら、徐々に森の出口に移動中との事。


「到着は2日後の朝遅くから昼遅くにかけてと見ています」


 進行速度から割り出して、その程度と判断したのか……。明日は注意しながら引き続き狩りをして、兎に角進行を遅滞させなくてはならない。


「悪い情報の方ですが……」


 騎士団の本体の到着が2日後の昼頃になるとの事。これはかなり確度が高い情報らしい。敵側の進行速度次第では、最悪3,4時間は支える必要が出てきた。

 ちなみに騎士団は定数が集まり、指示が出るまでは動かない。

 指示命令系統の順守は軍組織の基本だ。定数が揃うのを待つのは圧倒出来る戦力で無ければ怪我人、死人が出るからだ。

 軍人の育成コストはとんでもなく高い。生産性の無い相手の世話や給与の支払い、訓練をし続けるからだ。それが怪我や死んでしまったら、全て無駄だ。


「当日は、冒険者が防衛、騎士団が殲滅の流れになります」


 これも前の話の通りだ。訓練が無駄にならなかったが、出来れば無駄になって欲しかった。


「騎士団到着の件は士気に関わりますので。当日もう少しで騎士団が到着すると発奮するニュアンスで伝えます」


 人心掌握か……。士気を失って集団が瓦解するなんて、歴史のいたる所で散見される。それだけ、重要だ。


「到着が間近と聞けば、その間を守れば何とかなると。そう言う風に誘導します」


 はぁ……。どちらにせよ頑張らないといけない事に変わりは無いか。腹を括るか。


 訓練を終え、元気の有り余っている2人はそのまま連携強化の訓練に送り出した。

 私は鍛冶屋に急ぐ。時間が無い。改造が終わっていれば良いが。


「おぅ。前の言ってたやつ、出来たぞ」


 助かった。槍を受け取り石突を見る。奥深い円錐状にくり抜かれ、鉄で補強された物が周りを含め覆っている。


「芯は取れましたか?」


「出来る限りの精度は出した。補強の方の型を作る方がきつかった。削りもきちんとしてる」


 残光に照らし、奥側を覗き込む。ほぼ芯の中心に円錐の頂点が見える。これならいけるか?


「この精度と補強。赤字でしょう?」


「言ったろう?勉強代だって」


 高笑いを上げる主人。本当に助かった。

 魔術の効かない相手なんて、その辺の一般人でも勝てる気がしない。その対策が出来る。

 ここまでの緊張の連続で疲弊していた心が少し軽くなった。久々の朗報だった。


 正直、始めは圧縮空気を利用した強力なエアガンを作りたかった。

 だが、工作精度が分からないので、まっすぐな筒と規格の揃った弾の生産は諦めた。


 そこで、槍を射出武器に改造する事を考えた。

 ただ、魔術の仕様なのか干渉なのか。接触から離れると推力が一気に落ちる。この場合は並行して独立した魔術を使う必要が有る。


 暇乞いをしてアスト宅に急いで戻り、食事を済ませ、村から離れた場所で訓練を開始する。

 時間が無い。月明かりの中、延々射出が安定するイメージと石突が破壊されず回数をこなせるぎりぎりの圧力を調整して行く。

 穂先にはカバーを着けているので、刃の損傷は気にしない。


 しかし訓練は良いが、飛んで行った槍を探すのに苦労する。月明かりは所詮月明かりだ。


 何度も何度も微調整を繰り返す。


 役に立たないなら良い。それでも必要な時は……。


「リズを生きて帰す。そう決めたんだから、頑張るしかない」


 呟きながら、何度も射出と回収を繰り返す。


 月明かりに照らされ、飛んで行く槍の軌跡を見て、あぁ綺麗だなと場違いにも思った。

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