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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第一章 異世界に来たみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第57話 初めての集団戦

 そのまま、部屋に戻る。

 ティーシアが用意してくれたお湯で体を清める。


 ふと、今までの事が、フラッシュバックしてくる。


 今までの私は何をしていたのか?

 誰かを心配させ、独り善がりな愛を囁く。そして、誰かを、否、大切な人を傷つけた。

 戦争と言う、異常な状態が、正常な判断を狂わせていた。


 会社にいた時、そんな人間がいたな。

 いつも気難しげな顔をして、夜の遅くまで1人残って、仕事をして。

 何時の間にか、会社からいなくなっていた。何時辞めたのかも分からない。

 このままだと、私も同じ様に、世界から消えていたかもしれない。


 人と人の触れ合いか……。

 この歳になって、初めて真に気づいた。人って1人じゃ生きられないんだなぁ。


 ノックの音が聞こえる。


「まだ起きているよね?」


 リズが入って来る。


 あぁ、愛おしい。誰かをこんなに愛せるなんて。 


 近づき、そっと抱きしめる。


「ヒロ……?」


 抱きしめる力を強める。密着した体は、相手の熱を伝えて来る。

 衝動のまま、口付ける。


「リズ、大好き。今日はありがとう」


 急な挙動に驚いた後、頬を染める。


「うん」


「大変な事も有る、でも一緒に生き残りたい」


 真剣な瞳に、肯定の頷きが映る。


「よし。洗濯だけ済ませちゃうね」


 残り湯を使い洗濯しながら、話をしていると、今までの独り善がりの状態では分からなかった機微が伝わってくる。

 出会いがあれだったので、どこか遠慮と言うか、他人と思っていたのだろう。

 婚約までしたのにと思うと、恥ずかしくなる。


 洗濯が終わり、干しに行く。空は星で覆いつくされている。こっちに来て、見る度に圧倒される。


「これだけは、こっちに来て良かったなと間違い無く言える」


 部屋に戻り、ベッドに潜り込む。

 何てこと無い会話をしながら、リズを寝かしつける。

 昨日と同じく、静かに準備をして、そっと部屋を抜け出す。


 心配してくれるのは分かった。でも、今は、無理をすべき時だ。

 顔に出ない程度の疲労で抑えるべく、訓練内容をより効率的に考えていく。


 月明かりの中、人とのつながりの温かさを噛みしめながら、訓練を進めて行った。


 今朝は、疲労を考えたのと早めに切り上げたお蔭で、そこまで怠さは感じない。


「うん。何か、昨日は疲れてたみたいだけど、今朝は大丈夫」


 リザの太鼓判も押された。

 食事時のティーシアもまぁ、微笑んでいたので、大丈夫なのだろう。


 食事を終え、ギルドに向かい、フィアを回収する。

 そのまま、森に向かう。


 何時もの沢のポイントから、沢に沿い森の奥側に向けて、徐々にポイントを移動させて行く。

 やはり、密度が増している。

 昨日にも増して遭遇頻度が上がったのが、時間と鼻の数で分かる。

 殲滅速度が上がったのは、『警戒』と『隠身』が皆上がっている為、急襲の精度が高くなっている為だ。


 移動もそれなりに増えたのに、昼過ぎには70弱を狩れた。やはり、ペースが速い。

 その中でも意識していると、3パターンの集団がいる事が分かった。

 周囲の探索をしている者、食料を調達している者、そして何かから逃げている者、だ。

 たまに、ゴブリン同士が戦っているのを漁夫の利で倒したり、ゴブリンを同じゴブリンが攫おうとしている現場も見た。


「フィアさん、ゴブリン同士が戦ったりとか、攫うって現場見た事有る?」


「んー?違う群れで戦っているんだろうなって現場は見た事有るよ?危なくて近づかなかったけど。攫うのは見た事無いよー?」


 状況を考えてみる。

 あー。指揮個体の群れが、他の群れを吸収しているんだな。と気づいた。普通に考えて、この規模の森だ。無数にゴブリンがいるだろう。


 逃げているのは大きな群れが近づいているからだ。攫っているのも群れに入れる為だ。

 森の奥側は危険度が高い為、干渉出来ない。しかし、入り口側の殲滅を進めれば、群れの大規模化は遅滞させられる。


 この遅滞行動は貴重だ。どのタイミングで襲ってくるかはっきりしないが、ある程度の群れになれば満足して襲ってくる。

 その群れの規模をどこまで削ぐか。

 最終的な群れの大きさは、指揮個体の技量で決まるのだろう。今はどれだけ遅滞させて、騎士団到着までの時間稼ぎが出来るかだ。

 方針が決まった。今までの行動が正しい事が分かっただけでもまずは一歩だ。


 今日は、集団戦をしてみようと考えていた。小規模の集団を連れまわし、そこそこの規模、まずは10匹程度か、にまとめて戦ってみる。

 森の中でそれなりに開けた場所を見つけ、そこに2人を残す。これから10匹程の集団を連れて来る事は伝え、諸注意を相談する。


 私が魔術で移動し、集団を誘う。そこそこの速度を維持するのが難しいが、10匹に満たない程度の集団にまとめ、引っ張って行く。


 トレイン行為なんて、ゲームなら簡単だが、ヘイトが乗る訳でも無いので追ってこない場合が有る。

 それを引き返し、小突き、挑発し懸命に陣地に向かう。


 2人が待つ場所に立ち、グレイブもどきを構える。


 初めての急襲じゃない集団戦。遭遇戦も有ったので、急襲では無い戦闘経験は有る。後は数の問題だ。

 先程の集団がわっと勢い良く、藪から現れる。ざっと見て脱落者はいない。成功だ。


「兎に角仲間の様子だけ気にして。攻撃は後で良い。相手を見て防御に集中して。攻撃出来る時だけ攻撃」


 疲労と怪我ならば、間違い無く疲労を選ぶ。実践では予備戦力も待機している。怪我をしては、無力化する。


 集団の正面が、木の槍や拾ったのか錆びた剣を持って、我武者羅に突進してくる。正直この規模でも怖い。

 2人を前衛、私が中衛としてグレイブもどきで牽制する。魔術は危険な時まで縛る。


 ぶつかると自然に半包囲状態になる。3人の逆三角を集団が包囲して来る。

 とにかく後ろに回り込まれない様に、牽制する。刃の向きを意識する暇は無い。

 前衛が意識的に開けた合間からグレイブもどきを振るい、後は左右の迎撃の繰り返す。


 2、3匹を倒した所で、リズの肩口の鎧の隙間に槍が突き刺さる。慌てて魔術の行使を考える。


「大丈夫、いける!!」


 痛いだろうに、懸命にハンマーを振るう。左腕の盾の動きがかなり悪くなっている。

 槍を抜く暇も無いので、神術が使えない。細かい破片や菌、ウィルス等異物は除去されるイメージで神術を使っているが、刺さったままではイメージ出来ない。

 リズの左の牽制にやや集中する。

 すると、フィア側に回り込まれそうになる。


「リズぅが、頑張ってるのに、私がやられる訳にはいかないのよぉ!!」


 フィアの剣筋が気合と共に鋭くなる。4,5匹が倒れた辺りで、一気に圧力が下がる。牽制を止め、前衛を広げ、私も前に出る。

 大振りで相手の動きを固めると、2人が止めを刺す。


 周囲に静寂が戻った。放心する暇も無く、急ぎリズの槍を抜く。流石の苦痛にリズの顔が歪む。

 そこそこ深く入っている様だ。太い血管は避けられた。神術で癒す。


「あは。やっぱり凄いね。痕も残らない」


 痛かったろうに、恐かったろうに、表情には出さない。

 まだ、早かったか?後悔で顔が歪み、声に出そうとした口を、リズの指が抑える。


「集団戦の練習は絶対に必要よね?気にしちゃ駄目。皆、生きている」


 2人が揃って真剣な顔で、頷く。


 正直、想像だけで嘗めていた部分は有った。集団戦は急襲戦とは違う。危険度が高い。

 魔術の縛りも過剰帰還が有る為に試したが、実戦が長引けば実際に起こる。


「明日からは集団戦も視野に入れて、狩って行こう」


 努めて、にこやかに振る舞う。

 リーダーが不安を出しては駄目だ。絶対に可能だって振る舞わなければ、皆ついて来ない。


「んじゃ、今日はお仕舞と言う事で。端数を狩って、村に戻ろう。鍛冶屋に行きたい」


 端数の処理に、帰り道単体でいるのを急襲し、80になった所で村に戻る。


「達成料は、ゴブリン80匹で240,000です。よろしいですか?」


 60,000ずつを渡していく。4等分のパーティー資金は15万を超えた。

 達成数は頭割り。


「ごめんな、危険な事に巻き込んで」


「んーん。儲けられる時に、儲けないと。超嬉しいよ?」


 フィアは屈託無い笑顔だ。


「ヒロをこんな危険に1人で向かわしていたのかって、怖くなった」


 リズも苦笑気味だ。

 あぁ、女の子は強いな。


 そのままの流れで、鍛冶屋に向かう。


「前の防具か?出来てるぞ」


 リズの足に装着してみる。ベルトで締めると、ぴったりと嵌る。動きも阻害しない。


「蹴れるわ」


 鉄板で蹴られるのは勘弁して欲しい。潰れる。何がかは言わないが。


 他の防具の件も相談したが、在庫は町だ。しかも女性用の鎧一式は直しに時間がかかる。

 価格も、一式なら100万以上だ。2人分で200万。家2件の年収だ。


 これを借金するのはかなり勇気がいる。前に貸し借りの話をしたが、圧倒的にギルドに借りを作る。

 有形無形に断れない事が増える。怖い、ギルド怖い。


 では武器はと言うと、フィアの剣もまだまだ現役だ。研ぎでちびっていると言っても、大きな差は無い。

 それよりも武器を変更した際の慣れに時間がかかるのも問題だ。剣のバランスが変われば、大分練習しなければならない。


 と言う事は、革の既製品で、なるべく露出を抑える事だ。色々試着してみたが、動きを阻害せず守り難い部分をパーツで補った姿が有った。

 見た目のバランスも悪くない。ちょっと重装備目の革鎧一式と言う感じだ。

 聞いてみると、値段もそれぞれ5万程度とここ最近の収入で十分賄える。今日の怪我を考えれば、買いだ。他の2人も頷いている。

 取り敢えず、革装備は鎧が高い。それがもう有る為、そこまでの価格になっていない。


「槍の方はもうちょっとかかる。加工が面倒だ」


 まぁ、槍はしょうがないか。

 2人を何時もの訓練に送り出す。新しい装備での動きの習熟等、やる事は幾らでもある。


 私は靴屋に寄る。

 出来ているとの事なので、引き換え用の羊皮紙を差し出し、受け取る。


 ギルドに戻り、ハーティスを呼び出して貰う。進捗を確認したい。

 今日は直ぐに降りてくる様だ。会議室に誘導された。


「お疲れ様です。毎日の対応、本当にありがとうございます」


 今日得た所感などを交え、話をする。


「馬が戻りました」


 若干嬉しそうな顔で話す。


 子爵側は直ちに騎士団の編成を始めた様だ。ダイアウルフが見つかったドル箱への最短アクセス場所だ。そうそう無碍にも出来ないのだろう。

 編成は予想より早いが、到着はやはりギリギリ。ただ、今までだと1日2日待たされる可能性の方が高かったが、そう間を開けず到着するとの事。

 別途の先遣隊はもう出ており、資材運搬や陣地の構築に入っているとの事。

 有能な人間が先を見て動くのは、本当に助かる。


「箝口令も正式に出されました。職員にも報告の上意思統一済みです。ゴブリンの討伐に関しては冒険者が徐々に増え討伐数も増えていますが……」


 そう今の話だと狩っても補充される焼け石に水なのだ。

 ただ、減らす事に意味が無い訳では無い。今までの騎士団も陣地で待ち、集団が森から出た所で頭を抑え込み、殲滅、掃討の流れだ。

 この森から出て来るまでの時間稼ぎに有効で有るとの共通意見になった。


「町のギルドにはこの件は報告されております。また当ギルド長も観察眼とその後の対応を高く評価されています」


 お偉いさんに信用されるのはありがたい。下手な切られ方はしなくなる。その辺りの弾除け扱いにはならないはずだ。ハーティスの表情もそう言っている。


 挨拶を交わし、ギルドを出て、アスト宅に戻る。

 ティーシアへの挨拶も早々に部屋に戻り、靴を変える。

 予想を超え、フィットしている。正直、嘗めていた。職人すげぇ。

 横紐を調整し、庭に出る。訓練、訓練、訓練だ。

 とにかく射程の確保、過剰帰還までの引き延ばし。この2点を頑張る。


 吹く風も徐々にひんやりと感じる事も出てきた。

 徐々に日が落ち、夕暮れが世界を赤く染めて行く。

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