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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第一章 異世界に来たみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第56話 母の愛

 家に入り、帰宅の声をかける。まだ家にいるのはティーシアだけだ。

 一旦荷物を整理しようと、部屋に戻ろうとする。


 ふと肩を叩かれ、振り返ると、両頬をむにゅっと挟まれた。


 突然の事に硬直していると、ティーシアが顔を覗き込んでくる。


「やっぱり。顔色が悪いわ……」


 心配そうに眉を顰める。


「夜に何かしているのは気づいたわ」


 静かにやっているつもりだったが、起こしてしまったか?

 若干焦ると、ティーシアが首を振る。


「男の子だもの。言えないけど、やる事が有るんでしょ?」


 顔を近づけ、こちらの目をじっと見つめてくる。


「それでも、無理は良くないわ。貴方にしか出来ない事も有るけど、貴方じゃなくても出来る事は有るわ……」


 首を微かに振るう。


「貴方は、私の子供になるのでしょう?心配かけさせるなんて、いけない子……」


 挟まれた頬を左右に軽く振るわれる。


「アキヒロ、しっかりね。貴方は1人じゃないの」


 会社で言われた、お前は抱え込み過ぎだと言う言葉と、懐かしさを感じる母の顔を思い出した。

 挟まれた頬をそのままに、微かに頷く。


「よしっ」


 急に手を離され、肩を両手で叩かれる。

 あぁ心配かけたな。申し訳ない。


「はい。ありがとうございます。無理しない様頑張ります」


「良いのよ、ただのお節介だから」


 微笑みながら、キッチンの方に戻る。

 その後姿を見ながら、あぁこの親にしてあの子なんだなと感じた。


 庭で訓練を繰り返す。

 魔術の範囲の確認、これは重要だ。

 そのまま射程に直結する。

 水魔術の動きにより、大体の範囲が読めてきた。これ、座標の指定が出来るので分かりやすい。

 シミュレーターを駆使し、軽く浮かびながらも試したが、大体20m弱の球が範囲なのだろう。

 要は、20m程度までの相手であれば、一方的に手は出せる。

 じりじりとした魔術の習熟度の上昇に焦りは感じる物の、ティーシアの言葉を思い出す。


 はぁ、焦っても仕方無いか。そう、社会でもそうだ。冷静に、目標だけを見る。

 今は、あの2人を傷つけさせない力の獲得が目標だ。


 食事の声がかかる。

 大分集中していた様だ。急に時が動き出した様な、そんな錯覚を感じる。


 皆で集まり、温かい食卓を囲む。

 どこか、荒んでいたのだろう。

 心の中の硬く冷たい何かが、緩やかに溶ける。

 あぁ、ここに来てからだな。誰かと食事を食べるのは。

 自分が誰かの子供として扱われる。そんな事は久々だった。親も良い歳なので、関係も疎遠だ。

 結婚した際も、どこか遠慮して付き合っていた。

 絶対的に、肯定される。

 そんな感覚が久々で、張り詰めていた何かが緩やかに解けて行く。そんな食卓だった。


 食事が済み、再度庭に出て、次は槍の訓練を始める。

 槍は預けている為、前のグレイブもどきだが。


 3体以上の集団が攻めてきた場合の対処はどうするのか?

 背後から唐突に襲われたら?

 映画やゲームのFPSを参考に、捌き、払い、突き立てるイメージを続ける。

 50分程だった限界も1時間を少し超える様になった。

 着実に、運動能力は向上している。


 ただ、視点を下にずらす。うん、メタボは変わっていない。

 これ、あれだ。筋肉は付くけど脂肪はそのままなパターンになりそうだ。


 まぁ、悲観しても仕方無い。

 汗にまみれながら、へたりこみ荒い息をつく。

 うつむき加減に息を整える。


 ふと気づくと、リズが正面に立っていた。

 

「ふふ」


 真正面から、頭を抱きかかえて来る。


「汗かいているよ」


「関係無いよ」


 目を瞑り、ほの香る甘さに酔う。


「頑張ってる。分かってる。でも、私たちもいるから、安心して」


 どうも、皆心配してくれる様だ。

 そんなに、焦っていたのかと、心が落ち込む。


「大好き。初めて会った時は、少し打算も混じっていたかもしれないけど。今は違う。ヒロ?」


「ん?何?」


「私ね。ヒロの事が大好き。ヒロは私やフィアが傷付かない事を重要視しすぎ。私達もヒロが傷付いたら悲しい」


 あぁ。当たり前の事だ。好意を一方的に押し付けていた。本当は双方向な物なのに。


「だから、傷付かないで。頑張っている姿は格好良いけど、心が傷ついているのを見るのは嫌」


 潤んだ瞳を見上げる。


「リズ。言いたい事が有るんだ」


「何?」


「何より、君を愛している。言葉に出来ないくらい。この世界の全てを犠牲にしても良い。君を離したくない」


 そのまま体勢を上げ、口付ける。甘く、長く、何もかもが蕩けそうなくらい。一つになっても構わないくらい。


 月明かりだけが、青く世界を照らす。微かな虫の声、風の音、ほのかに伝わる世界の囁き声。全てが2人を祝福している。

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