第54話 聴取
はぁ、ここまで突っ込んだら、後には引けない。聞ける事は聞く。
まずは、いつ、か。出来るだけはっきりとした情報が欲しいな。
資料中の過去の例外2回が収束したのは、大体来月か。
「資料を見ましたが、過去の例外を見ると、事態が収束したのは来月辺りです。再度問いますが、確度の高い意味で今回は何時頃来ると見ていますか?」
「収束は、ひと月弱を見ています。今回は一週間程度は余裕が有ると見ています。ギルドから斥候も出していますので。到着の2日前には分かります」
一週間か。用意するには短いな。
「騎士団は何時到着しますか?」
「子爵様に馬を出した際に、編成もお願いしています。ただ、予定外の事でも有りますので。到着はぎりぎりかと見ています」
間に合うか、間に合わないか、か。ただ、守っていれば間を置かずに来てくれるなら、士気は保てるか。
「冒険者の方は何時集まりますか?」
「もう到着している方もいます。周辺のギルドへ馬を出しましたから」
あぁ、人口の割に冒険者の多い村だったと思ったが、そんな意味が有ったのか。
聞くと、今後増える場合は村から若干離れた、川近くにテントを用意するとの事。
薪や水、食料も既に町から流入が始まっているとの事。
ただ、こういう場合商人が価格を吊り上げそうだが、ギルド側が用意している資材を流用するとの事。
安い間は在庫に回し、高騰の兆しを見せた段階で、再度在庫を吐くとの事。
1回程度なら可能かも知れないが、商人の情報網も有るだろうし。
よし。いつ、はこんなもので。
次は、どこで、か。
「実際に戦う場所はどこを想定していますか?」
「北の森と村の境の平野地帯です。森の中では冒険者では集団として統制が取れません」
まぁ、軍人じゃ無いしな。私も個人で集団戦なんて、ゲームの大規模なギルド戦位しかない。
実際だと最多人数だと、サッカーかな?
まぁ、集団を維持するのは本当に大変だろうし。ここは仕方ないか。
あそこも、5km四方は有った筈だけど。斥候の情報でまとまるのかな。
「指揮個体の知識が発達する事は有りますか?例えば、罠を作ったり、奸計をしかけたりは有りますか?」
「どちらも有りません。相手は集まって、最短距離を攻めて来るだけです。また、こちら側も罠を仕掛ける程の人員が用意出来ません」
あぁ、何も考えず突進して、帰って行くのか。鵜呑みには出来ないが、ここは信じておこう。過去の詳細情報はギルド員しか分からない。
罠に関しては、落とし穴1つでも掘るのにはコストがかかる。大体の経路が分かっていても用意が無駄になる可能性が高い。
よし。どこ、もこれで良い。
次は、だれが、だ。こちらの戦力を把握しないと。
「騎士団の軍制、特に編成内容を教えて下さい」
「確定では無いですが、決まりは分かる範囲で説明します」
話を聞いていく。
一番小さい単位が小隊との事。
内訳は、隊長が1名、副隊長が1名、隊員が6名、隊員見習いが2名の10人で編成されるとの事。
通信手段が無いのに、人数が多いなと思ったが、直ぐに気づいた。
これは、6等級以上の即応を想定した部隊だ。
分けた場合、隊員3人が1パーティー扱いで、その指揮に各隊長が当たる。隊員見習いはそのフォローと予備戦力扱いなのだろう。
それが2パーティー。6等級の推奨が6名なので、実際はもっと戦力は上だろう。
野営の際も、隊長を除いても4交代で毎回2名が着けるだろう。
中隊は騎士と副騎士が4小隊を率いて、一つの単位になる。
これも分ければメインが12名なので5等級以上を対象にしているのだろう。
その上は、副騎士長、騎士長と上がって行くが、今回は来ないだろうとの事。騎士2名に優先順位が割り振られるだろうとの事。
後は、10名程度の伝令や雑務、料理人の集団。そして10人程度の斥候との事。
斥候の権限は隊長扱いとの事。所属は斥候団として国王直属との事。
正直、斥候が部隊から独立しているのに驚いた。
ゲームなどでは、劣化戦士とか暗殺者なイメージで描かれる事が多いが実際は違う。
斥候の仕事は軍を体に例えると、目だ。目を瞑って戦えない様に、軍も斥候がいなければ正確な情報を得る事が出来ない。
また、情報を取り扱う為、基本的に頭が良い。情報の取捨選別、時には判断も必要になるからだ。
その上位が国王と言う事は、諜報の一部も扱っているのだろう。その辺りを聞くと、エリート集団ではあるとの事。
給与体系も独立している。統治の神が何かを入れ知恵している気もする。
伝令の数が少ないと感じたが、斥候の能力を考えるとそちらでカバーしている部分も多いのだろう。
あぁ、良い斥候役の人間が欲しい。
まあ良い。次は冒険者だ。
「冒険者はどの程度来る事を想定していますか?」
「前に出るのが50程と見ています。後は予備戦力として後衛についてローテーションです。また、不測の事態の際に交代要員として扱います」
玉石混交だからしょうがないか。下手すると、50で400を相手にしないといけないのか。
時間稼ぎとは言え、何か策が無いと辛いような気がする。
「その間ギルド側は何をしていますか?」
「冒険者の統制、騎士団との橋渡しです」
管理をする立場の人間は必要なので、その役目をギルドが行うなら願ったりだ。
よし。だれが、も取り敢えず良い。
次は、なにを、だ。相手が知りたい。
「ゴブリンの指揮個体とは何ですか?」
「過去の情報としてはゴブリンより腕力が高い程度です。ただ、年毎によって違いますが、魔術が効かない場合も有ります」
うわぁ。鬼門だ。なるべく近づかないでおこう。
それに、これがアレクトアが言っていた、耐性なのか?
<解。可能性は有ります。対象の情報が不足している為、回答出来ません。>
うん。大丈夫。見ないと分からない。基本。基本。
「集団化したゴブリンに変化は有りますか?」
「特には有りません。稀に指揮個体の周囲のゴブリンがより猛々しくなると言った例も有りますが……。主観的な報告の為信憑性は低いです」
それも見ないと分からないか。
取り敢えず、なにを、はこれで良いか。
次は、なぜ、か。今回はゴブリンが攻めて来る前提なので、その最終的な勝利条件は、かな。
「この件の収束条件は何ですか?」
「最終的には、森の入り口付近のゴブリンを殲滅する事です。短期的には、指揮個体を倒せば、集団は瓦解し、森に戻ります」
「その際の追撃は?」
「可能であればします。ただ、混乱状態の冒険者集団をまとめるのは容易では無いです。追撃は騎士団に任せ、零れた分を後日冒険者にお願いする形になると見ます」
ふむ。なぜ、も良いか。取り敢えず、指揮個体が倒れれば良い。
最後はどのように、か。
「実際に騎士団と冒険者はどの様に戦いますか?」
「2つのパターンが考えられます」
騎士団が間に合った場合と間に合わなかった場合だ。
間に合った場合、騎士団が横隊を組んで町を守る。防壁も遮蔽も無いのでしょうがない。そして冒険者がパーティー毎に横隊を組んで前進する。正直それ以外出来ないだろう。
間に合わなかった場合、冒険者がパーティー毎に横隊を組んで町を守る。騎士団は到着次第、横から方陣で食い込み、割って行くとの事。
冒険者はこの横隊を組む練習をどこかのタイミングで行うとの事。
到着の2,3日前を予定しているとの事
ふむ、後は細々した事も聞くか。
「報酬は有りますか?」
「国の対応の為、ギルドとしては通常のゴブリンの討伐扱いです。また指揮個体に関しては、100万ワールを予定しております。これは毎年の慣例で冒険者が討伐した場合のみ。国とも話がついています」
お金が余る所が無いから、仕方無いのかな、これは。何とか、どこかの段階で相談して行こう。著しく不利が見込まれる場合とか。
「一番最初の襲撃の際はどの様な状況になりましたか?」
「権限が無い為資料の閲覧は出来ません。噂のレベルでは、開墾当初の為、かなりの死者が出て、その際の村人は離散したそうです」
大分、長く話した。外を見ると暗くなってきている。
最後の質問かな。
「失礼ですが、貴方の上役はどなたですか?」
「当ギルドのギルド長です」
「名目では無く直属と言う事ですか?」
「はい」
あ、この人、偉い人だ。
挨拶を交わし、アスト宅への道を歩きながら考える。
年中行事としても、時期がずれれば、コストがかかる。
少なくとも、動くべき場所は動いている。
後は、私がどう動くかだ。
あぁ、ゴブリンで良かったと思おう。
集団戦で奸計のやり合いなんて、民間では無理だ。
ゲームなら良く有るシチュエーションだが、参加してみて分かった。
情報がそれだけ有っても、足りない。得られない。
まぁ、サラリーマンにおける、戦争の初心者講習か。
笑えないなぁと思いながら、暮れて行く日の残光を眺め、家に向かった。