第49話 盾道みたいな、盾教えてくれる道場は無いですか?
教会から戻る間、ディシアの事を思い出していた。プロパティで弄れるはずなのに、あの疲労困憊の様子は異常だ。
どこの世界でも忙しい人間に仕事は回って行くものか。
ぼけっと考えながら歩いていると、アスト宅まで着いた。
家に戻りティーシアさんに帰還の挨拶をする。
「おかえりなさい。色々な人から貴方の話を聞くわよ?少しは休みなさいよ?体がもたないわ」
ティーシアが心配そうに声をかけてくる。
「それで無くても倒れてから、休み無しよ?リズも心配するわよ」
本人は元気にゴブリンを狩っていたし、これから訓練をするんだけど。
日本のサラリーマンの感覚だと、全然平気だ。まだまだ余裕が有る。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ」
おどけた態度で元気さをアピールしておいた。
さて早めに戻った事も有り、アストはまだ帰っていない。
「リズ?訓練する?」
部屋をノックし、返答を確認、扉を開ける。
「うん。しよっ」
元気な返答だ。
「疲れていない?大丈夫?」
「それは、平気。ヒロこそ、ずっと動いているけど、大丈夫なの?」
「皆に言われる、それ」
2人で笑いあう。
盾と槌を持ち、庭に出る。
帰り道に拾った、適当な短めの棒と、長めの棒を転がす。
「さて、盾に関してだけど、使い方は分からないよね?」
「うん」
「今回の盾は基本は3パターンに分かれる」
短めの棒を拾い上げる。
「上から切るから、盾を構えていて」
棒を振りかぶり、リズの頭に向けて振り下ろす。
鈍い音を鳴らし、がっちりと受け止められる。
「うん。上出来。なるべく中心で受け止める事を意識して。じゃあ次は右から薙ぐね」
右から、左。左から、右。何度か続ける。
「じゃあ、次は払い上げるね」
下方から、斜めに切り上げる。
全て綺麗に中心で受け止められている。目が良い。猟師をやっていた所為か、動作の予測が上手い。
「次は、さっきと同じ様に薙ぐから、中心を意識して払って」
左から右へ薙ぐが、払ってこられた盾に弾かれる。
「これは、受け止めるより能動的な防御だよ。相手が重量の有る武器や長柄を使っている場合、特に効果的だよ」
何度か色々な方向に切りつけるが、綺麗に弾かれる。
「じゃあ、これは自分で練習して欲しいんだけど、盾で殴る」
「盾だよ?守らなくて良いの?」
「武器を落としたり、相手の体勢を崩したり、色々出来るから。槌と同じ様に盾でも攻撃出来るようにしよう」
木刀擬きで延々切ったり突いたりを繰り返した。
慣れてきたら、長い方の棒に持ち替えて、切りや薙ぎ、払い、突きを繰り返す。
「うん。筋が良いよ。じゃあ、続けて行くね」
後は、もう、考えられる方法全部を試すが、綺麗に受け、払われた。
盾の使い方?知らない。映画とかで見たのと、そんなものだろうと考えた事を実践しているだけだ。
現代のサラリーマンが盾の使い方を知っている方がおかしい。
「凄い、凄い、流石リズ」
相手は涼しい顔なのに、こっちがへばってきた。木の棒とは言え、延々受けられ、払われたら、疲れもする。
1時間も経たない頃にアストが帰ってきた。良かった、へたりこみそうだった。
「あくまで我流だから、フィアさんに使い方は聞いてね」
「そうなの?間違いは無さそうだけど……。うん、フィアに聞いてみる」
棒は適当に立て掛け、家に戻る。
食事の用意は出来ており、早速席に着く。
食事を進めながら出る話は、やはり娘の冒険者の様子だ。
「あら。そんなに稼げちゃうの?」
「うん。驚いた」
「慢心するな。他の2人のお蔭だ」
アストが釘を刺す。
「はーい」
食事が終わると、まだ練習を続けるつもりのようだ。いそいそと庭の方に出て行く。
「頑張るからね」
頬を若干染めながら、手を振っていた。
「ほどほどにね。怪我しないように」
私は部屋に戻る。全く1人の時間が無かったので久々のTODOリストチェック。
[x]靴を買う。
[x]明日朝からギルドに行く。
[x]ヒュージスライムを退治する。
よし。
[ ]討伐依頼を優先して受ける。
[ ]『獲得』によるスキル譲渡の効率化を図る。
これは消して良いな。意味が無い。
追加は2点か。
[ ]靴を取りに行く。
[ ]膝当てを取りに行く。
スマホを人前で出せないの辛いな。
TODO管理すら、すぐに出来ない。
スマホを弄っていたら、日本を思い出し、少し心が沈んだ。