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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第一章 異世界に来たみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第48話 アンニュイな女性ってどうですか?

 ギルドの前でフィアと別かれる。

 元気に、ブンブンと手を振っている。


「元気な子だね」


「それだけが取り柄なのよ」


 リズがちょっと疲れた顔で微笑む。

 教会に寄る用事が有った為、リズともここで別れる。


「教会に用事って?」


「リズに出会えて、結ばれた事に対する感謝かな?」


「ばか……」


 仄かに頬を染めながら、上目遣いで可愛い悪態をつく。

 別れた後、教会に向かう。


 石壁の扉を抜け、建物に入る。女性に目礼し、壇上に進む。

 槍と鉈を手前に置き、膝をつく。両手を上げ、目を瞑り治癒の神に対する挨拶をする。

 その瞬間、


 <告。深刻なエラーが発生しました。不明なシステムが接続されました。カウンターシステムのき>


 『識者』先生が前と同じく慌てた口調で告げたと思った瞬間、ブツッと言う音と共に沈黙する。


「態々会いに来てくれるなんて。祈祷でも良かったのよ?」


 黒のイブニングドレスを身に纏った30程の女性が、目の前の空間に優雅に腰をかけていた。


「初めまして。アキヒロです」


「初めまして。ディシアよ。客人さん」


 気怠げに呟く。美しい顔立ちだが、目の下の隈が台無しにしている。

 肌色も白いのだが、どこか病的な青白さも感じる。


「こんな姿で申し訳無いとは思うわ。仕事がね、忙しいのよ」


 ほっと、小さなため息をつき、呟く。


「アレクトアからメッセージは来ている。用意は出来ているわ。先に済ませましょう」


 ディシアが私の頭に手を翳す。前と同じ様に仄かな温かさを感じる。


「これで良いわ。痛みのプロパティを一時停止させるわ。左腕を切ってみて。かなりざっくりとね」


 目の前の鉈を取り、左腕を切りつける。痛みが無いとは言え、骨が見える程の傷だ。腰の辺りが恐怖でぞわぞわする。


「あなたなら、この傷が治癒して行くイメージは浮かぶでしょう?強くイメージして、シミュレーションしてみて」


 傷の恐怖と画面表示の気持ち悪さを押し殺し、治るまでの状態を強くイメージする。脳内のシミュレーションではOKだ。綺麗に治っている。


「実行」


 傷口が仄かに輝き、傷が見る見るうちに治っていく。


「そう、それが一般に言われている神術よ」


 仄かに微笑みながら呟く。


「外傷の治癒までのイメージは皆ある程度得意なのだけど、体の中は駄目ね。あまりにも曖昧なイメージで送られて来るので、間に合わない事も多いわ」


 少し、悲しそうな顔をする。


「貴方のイメージなら、ほぼ補正はいらないわ。ただ、実際に怪我を負った時に冷静にイメージ出来るかは別ね」


「神術と言う事は、構文が存在するのですか?」


「そうね。先程なら、傷が治癒するイメージを持ち、属性神。発症時刻は1分以内。症状は左腕裂傷。要因は刃によるもの。実行、ね」


「かなり簡素ですね」


「あまり求められないの。膨大なログから、該当の症状を探し出し、正常なバックアップデータと照らし合わせて、指定された異常部を治すの。大変よ……」


 かなりお疲れの様だ。


「お忙しい中、お越し頂きまして、申し訳ございません」


「客人さんが呼んでくれたもの。喜んで顔を出すわ」


 弱弱しく微笑む。


「でも、1人でエミュレータへの接続まで行えるなんて、流石地球ね。シミュレーターの精度もそこから導き出される構文も補正がほぼ必要が無いわ」


「ありがとうございます」


「悩んでいるでしょ?」


 目を見つめ問われる。


「あまりに膨大な内容に困っています。何よりこの力が恐ろしいとは感じます」


 そうだ、常に拳銃を持って歩いているのと同じなのだ。


「馬鹿……ね。武器は使う者の意思の反映よ?包丁だって人を殺せるわ」


 それは極論だ。


「自分の知識が、世界に与える影響が怖いのです」


「その為に、魔法のレギュレーションは更新されるの。あまりに強い影響を及ぼす様であれば、改訂されるわ」


 薄く微笑む。


「貴方は優しいのね。そして、弱いわ。でも、そんな貴方の事を皆、愛している。この星のテーマは聞いたわよね?」


「『出来る限り生き物が幸せに生活する』ですか?」


「そう。本当はささやかだけど優しい、幸せな世界が作りたかった。でもそれはとても難しいの」


 何かを悔いるような顔をする。


「同族同士をなんて言っているけど、あれは妥協の産物よ……。私達の愛は全ての遍く生き物の為。でもそんな楽園存在しないわ」


「地球でも足掻き、探していましたね。楽園を」


「ふふふ。愚痴ね。折角客人さんと出会えたのに」


 ディシアが唐突に眦を決する。


「何か有れば、シミュレーションなんて構文なんて関係無い。叫びなさい。心で、魂で。然すれば聞き届けます」


 また微笑みに戻る。


「折角であれば、地球の話も聞きたかったのだけど、もう戻らなくちゃいけないわ」


「お会い出来て、光栄です」


「次に会う時は余裕が有る事を願うわ」


 挨拶が終わった瞬間ディシアは消え、世界が動き出す。


 瞬間ブツッと言う音が改めて頭の中で鳴る。


 <告。再接続を確認しました。深刻なエラーは復旧しました。不明なシステムの接続ログの確認を行います。…………確認完了。不明なシステムは接続されていません。正常な動作が確認されました。>


 いつもの『識者』先生。


 <スキル『獲得』より告。スキル『獲得』の条件が履行されました。『属性制御(神)』1.00。該当スキルを統合しました。>


 そして『獲得』先生。


 これでリズが、仲間が傷付いても治す力は得た。でも、余裕の有る神様の相手が続いた為か、あんなに消耗した神様を見るとは思っていなかった。

 管理業務も大変なんだな。地球でやっていた仕事を思い出しながら、教会を出る。


 さあ、リズの盾の練習をしないと。

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