第490話 永遠を誓った愛と仲間の絆
執務室から、レイとカビアが出て行く。残るのは私とリズの二人。
緊張が解けたのか、ふぅと溜息を吐きながらリズがソファの上で俯く。
「疲れた?」
「ううん……。ん……、そうだね、ちょっと疲れたかも。でも、ヒロはずっとこうやって来たんだよね……」
「ごめん、重い物を背負わしているとは理解している」
そう言った瞬間、むにゅっと両頬を手で挟まれ唇が触れあう。
「ふふ、さっきのお返し。私こそ、今まで何も知らず、背負わせてごめん。きっと酷い事も言った……」
「リズ、それはちが……」
そう言おうとした瞬間、口元に指が当てられる。
「うん。後悔はしていない。あの時にはきっとヒロには必要だった。今でも私はそう確信している。だから、これからも言い続ける。そして、一緒に背負う」
「リズ……」
「私だってお母さんの子供だよ? きちんと出来るって見せないと、怒られちゃう」
そう言うと、にこっと微笑む。
「辛いのも、幸せも、一緒に味わうの。だって、永遠に一緒にいてくれるって、ヒロ言ってくれたよ? 私は信じているし、それを実現させるの」
辛い事は一緒に背負い、幸せは分け合うか。十六の女の子に諭されるなんて……。やっぱり女は偉大だよ……。
「ありがとう、リズ。でも、ティーシアさん、そろそろ来るね」
そう言った途端、ずーんと暗い影がリズの顔に落ちる。
「もう、嫌だー。自由に暮らしてた、色々頑張った、でも、何か言われそう……」
それを見て、そっと抱きしめる。
「大丈夫。もうリズは立派な男爵夫人だ。私を支えてくれるんだから。ティーシアさんだって分かってくれるよ」
「本当に?」
「本当に。もし何か有ったら、一緒に伝えよう」
そう言うと、安心したように体の力を抜く。
「さて、じゃあ用意を始めようか」
「用意?」
「戦争……のかな。ここはもう私の……私達の家だよ。守らなくちゃね」
「うん、うん!!」
「まずは、皆に相談からかな」
そう言って、執務室からリズを伴って出る。と、丁度アレクトリア達と鉢合わせになる。
「お食事の準備が出来ましたが……如何致しましょうか……?」
「あー、ごめん。食堂に運んでもらえるかな……」
「畏まりました」
思ったよりも早く済んでしまったか。食堂に一緒に行くと、皆も丁度食事を始めたところだった。
「館がざわめいています。何か有りましたか?」
ロットが代表して聞いてくる。
「有った。と言うより、これから有ると言う感じかな」
そう答えながら、席に着く。
「結論から告げるよ。東の森のオークへの補給が段違いに増えている。私とレイ、カビアはこれを戦争の準備と見ている」
そう言うと、皆が眉根に皺を寄せて押し黙る。
「問題は二点。一点は攻めて来るオークを殲滅しなければならない事。もう一点は……」
「他にも同じように攻められるかもしれない場所をどうするか、かしら?」
ティアナが言を継ぐ。皆も頷く。
「やっぱり、皆もそう思う?」
「森の中で拡張もせず、集落を作っただけで待機している状況はあまりに不審です」
ロットが少し難しい顔をしながら言う。
「余裕の有る領地は潰して御座ろうが、余裕の無い領地はこれ幸いと静観を決め込んで御座ろうな」
リナが肩を竦めながら言う。
「でも、他は他です。まずはこの町を守らないと……」
ロッサが自分で自分を抱き締めながら、言う。それをドルがそっと解き、ロッサの頭に手を置く。
「もうここを終の棲家と決めたからには、守るぞ」
ロッサの方を優しい瞳で眺めながら、ドルが言う。
「まだまだ研究せんとあかん事も有りますしね」
チャットが苦笑を浮かべながら、私が作った魔道具を起動させてふわっと風を発生させる。
「ごちゃごちゃ言うような話? いつもの事じゃん。リーダー、どうせ潰す気だよね?」
フィアがパンを噛み千切りながら、悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。
「そうだね。降りかかる火の粉だから払わないとね。着いてきてくれるかな?」
そう言うと大爆笑が起こる。
「ヒロ、当たり前過ぎ」
リズが笑い過ぎて涙を浮かべながら言う。
「そっか……。そうか」
あぁ、そうだよな。仲間か……。
「ではこれよりオークとの交戦を想定し、行動を開始する」
そう告げると、おうと唱和が返る。
「まずは……」
「まずは?」
「食事を済まそうか」
そう言うと再度、爆笑が起こる。はは、そうだ。仲間もいる。まだ先は分からない。でも、こんなに頼もしい皆がいるんだ。なんとかするさ。