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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第488話 兵の転科は順調です、元々クロスボウの習熟期間自体が短いのも有りますが

 目を覚ますと思ったよりすっきりした目覚めだった。天井は起き抜けの頭で思い出すのは難しく、一瞬どこかが分からなかったが、宿の部屋か……。窓からはほのかに朝日が入り始めている。四月二十二日は天気は良さげかな。雲はちらちら見えるが、散っていきそうな薄雲ばかりだ。少し飲み過ぎたのでアルコールが残るかと思ったが、全然残っていない。久々のビールにも肝臓は耐えてくれたようだ。


「リズ、朝だよ」


 息がかからない程度の耳元で囁き、そっと、口付ける。ぺろっと舐めると、目がぱっと開くが、状況が分かると、絡めてくれる。


「おはよう、ヒロ。驚いたよ?」


「疲れていたみたいだから、起きてくれるかなと」


「うん。早めに寝たから大丈夫」


「ご飯はまだ時間がかかりそうだし、朝風呂にでも入りますか」


「あ、良いかも。皆を呼んでくるね」


「うん。お願い」


 廊下でベルを鳴らすと、従業員が来てくれる。


「ご用でしょうか?」


「今回のお客様達で起きておられるようなら、朝風呂は如何(いかが)か誘ってもらえるかな。寝ているようなら無理に起こす必要は無い」


「畏まりました。お声がけ致します。そのまま大浴場でよろしいですか?」


「うん、私達は先に入っているよ」


 そう答えると、従業員がにこりと微笑み、一礼の後走り去る。


「皆も入るって」


 丁度リズが戻って来たので、荷物を持って一緒に風呂の方に向かう。


 浴場前で分かれて、窓を開けてもまだ薄暗い脱衣所で服を脱ぎ、浴場に入る。天井近くの窓は全て開けてくれて、湯気を通して淡い光が入り、浴場全体を幻想的に照らし出している。


 体を洗っていると、ロットとドル、レイとカビアが連れ立って来る。


「おはよう。眠れた?」


 聞くと皆が頷く。


「あの後は、そのまま寝ましたのでぐっすりですね。リーダーはあの後も飲んでいたようでしたが」


 ロットが頭を洗いながら聞いてくる。


「うん。起きたら思ったよりお酒が残らなかったから。さっぱりとしようかなって」


 ざぱっとお湯を浴びて風呂に入ろうかなとすると、入り口が騒がしくなる。


「おはようございます。ゆっくりしてもらえましたか?」


 オルファレン達が連れ立って浴場に入ってくる。朝日に照らされた浴場の景色に圧倒されたのか、おぉと唸って目を輝かせている。


「おはようございます。お陰様でゆっくり出来ました。家族とあのように過ごす機会も中々無いので、良い経験でした」


「それは良かったです。この時間でしたら、朝日が昇るのに合わせた景色が見れますね。壮観かと思いますよ」


「おぉ、それは。急いで洗ってしまいます」


 そう言いながら、オルファレン達が洗い場に座るのを見守り、そのまま露天風呂の方に出て行く。朝の清冽な空気の中、湯に浸かる。


「大きな問題が無くて良かったよ。町開きもこんな感じで無事に済んでくれれば良いんだけど」


「そうですな。ただ、人の出入りは増えますので、警護は少し厳しい物になるのはご覚悟下さい」


 そっと、浸かってきたレイが答える。


「それはしょうがないかな。ノーウェ子爵様もそうだけど、テラクスタ伯爵様もだし、ロスティー公爵閣下に至ってはって話だしね。衛兵達の方は頼みたいかな」


「畏まりました」


「ちなみに、クロスボウの量産と兵の転科の進み具合はどうかな」


「クロスボウの方は、鹵獲防止の魔道具を量産頂きましたので、現状は百弱は生産済みです。しかし、紐付けを『リザティア』の中央政庁にしてよろしかったのですか?」


 カビアが問うてくる。


「魂に紐付けはあくまでテストだしね。防衛装置として考えるなら、土地に紐づけた方が良いし。条件付けはもう少し柔軟になるかチャットと調整中だよ」


 そう答えると、頷きが返る。


「試作品を使って転科が済んだ衛兵が約百五十と言うところでしょうか。重装が五十程ですが、こちらは装備待ちですね」


 レイが兵の状況を説明してくれる。


「と言う事は現状でも、子爵規模の遠征軍が来ても一方的に相手が出来ると言う事かな」


 そう聞くと、カビアとレイが同時に頷く。


「追撃は騎士団側の対応になりますので、殲滅は難しいかもしれませんが、撃退を想定されるのであれば、ご希望に適うと考えます」


 レイが事もなげに答えてくれる。


「分かった。この時点でそこまで進んでくれれば上出来だよ。正直丸腰のままでいるのは座りが悪かったからね。抑止力は欲しい」


 そこまで話をしていると、オルファレン達が露天風呂に出て来た。


 眺めると、朝日が『リザティア』側から上がり、徐々に光が草原を満たしていく。気の早い動物達が食料を求めてか動き始めている。中々の壮観だ。

 オルファレン達も景色を眺めながら、銘々に風呂に浸かり始める。


「しかし、土産物屋ですか? 覗かせて頂きましたが、あのような珍しい物を置いてよろしいのでしょうか? 値段も手ごろですし」


 オルファレンが横で浸かりながら、聞いてくる。


「あぁ、食事の後に覗かれましたか。商家の方が見ても売れそうですか?」


「はい。正直、全てを買って研究をしたいとうずうずしておりましたが。子供にせがまれて、トランプは買いました。後、部屋に有ったチェスですか。あれは家内と遊んで面白かったので買いましたね。浴衣も夜着として優秀ですし。あぁ、そうそう。団扇です。部屋に置いている物は初め意図が分からなかったのですが、あのような形で使うとは。子供の考えは柔軟ですな。夏場に流行りそうですし」


「団扇は流行りますね。売っていきたい一品です」


「それに家族風呂ですか。子供達が喜びましてな。男女で分かれるので共に入れない故、家族で入るのが嬉しいのでしょうな。落ち着いた雰囲気で楽しめました。ここは本当に心地良い事ばかりです」


「楽しんで頂きなによりです」


「これよりも是非通いたいですな。自宅が有っても泊りがけで遊びには来るでしょうな。はは、子供のようですな」


「いえいえ。そう言ってもらえれば光栄です」


 そんな感じで、商人達と雑談を交わし、風呂を上がる。程なくして朝ご飯を楽しみ、出立となる。


「では、先の件、話は進めます。王都側の整理も有りますので若干お時間は頂きますが、必ず」


 オルファレンが馬車の前で囁くように伝えて来る。


「あまり焦らず、万全を期して下さい。慌てずとも町は逃げません」


「はは、そうですな。では、お見送りまでありがとうございます。今回の件、本当に感謝致します」


 オルファレンがそう言うと、商家の連中も次々と馬車に乗り込み、銘々の目的地に向かって走り始める。


「お疲れ様。皆もご苦労様でした」


 馬車が視界から消え、振り向き声をかけると、笑顔が迎えてくれる。


「館に戻ってゆっくりしようか。あぁ、書類溜まっているんだろうなぁ……」


 しょんぼりした顔で言うと、皆から笑いが上がる。


「さて、日常に戻ろうか。次は町開きの準備だ。ちょっと忙しくなるし、皆も一層訓練に励んで欲しいかな」


 そう告げると、気合の入った返事がくる。頼もしいなと思いつつ、馬車に乗り込む。


 館に着き、部屋を開けると、ひょこっと箱から顔を出したタロとヒメがたーっと走ってくる。


『ままなの!! ままなの!! るすばん、えらいの!! ほめるの!!』


『ぱぱ、かえってきた』


 もう、何を喜びの表現にして良いのか分からないのか、足を噛んでくる。ちょっと甘噛みと言うには痛い。くしゅくしゅと二匹の頭を顔を撫でると少し落ち着いたのか、お座りして、はっはっと荒い呼吸でこちらを眺めて来る。


「大人気だね」


「寂しい思いをさせちゃったからね。これから訓練だよね?」


「うん」


「んじゃ、仕事前に散歩でも連れていきますか。きっと遊べって聞かないし」


「あは、いってらっしゃい」


「いってくるよ」


 軽くキスを交わし、重装の手伝いをして、見送る。首輪とリードを持って行くと、もう、足元をバターになる勢いでくるくる回る。


『まま!! さんぽいくの!!』


『ぱぱ、さんぽ!』


 余程嬉しいのか、跳ねまわるので、ちょっと押さえて首輪とリードを装着し、館を出る。少し人の流れを見ておきたかったので、歩いて中央政庁の方まで行く事にした。二匹は広場を抜けて道を歩くと言う事で興奮してクンクンブルドーザーになって、嗅ぎまわっている。ゆったりと、中央に向かって歩いていくが、明らかに人の数は増えている。それも町着を着ている人間なので、外部では無く内部の人間がきちんと職に就いて増えている。書類ばかり見ててもやっぱり実感が湧かないなと思いながら、町を歩く。


 中央政庁は結構な混雑を見せていた。規模も窓口も余裕を持って設計した筈だが、今は申請が多過ぎて飽和しちゃっている。まぁ、役所が忙しい事は良い事かと、人の様子を見ていたが、皆身綺麗にしているので、層としても悪くないかと安心する。足元では退屈なのか二匹が盛んにタックルしてくるので、観察を諦めて、館に戻る事にする。


 帰り道を少し変えながら、二匹が飽きないように館に戻る。足を拭くとぴゅーっと部屋の前まで走っていく。部屋に戻り、水をやり、机に座る。たったの一日で結構な書類が溜まっており、ちょっとだけ憂鬱になる。まぁ、もうしょうがないかと処理をし始める。


 そんな感じで、非日常から、日常へ戻って来た。仕事ばかりが日常と言うのも寂しい人生だなとは思いつつ、決裁のサインを記載していくマシンと化す事にした。


 昼が過ぎ、夕ご飯を食べ終わった辺りでやっと書類の処理が終わる。


「やっと片付いた……。死ぬ……」


 ベッドに転がって本を読んでいるリズの横に倒れ込む。


「お疲れ様。少しは手伝う?」


「んー。把握出来なくなるから大丈夫。リズこそ訓練に淑女訓練もだけど、大丈夫?」


「大変だけど、楽しいよ。ヒロの為になるって分かっている事だから、面白い」


 その優しい言葉が心に染みる。


「リズ、大好きだよ」


「ふふ。何だか現金だよ。でも、私も大好き」


 そう言いながら、抱きしめ合いおでこ同士をくっつけて、見つめ合う。


「子供、可愛かったね」


「ヒロ、まだ無理でしょ」


「ごめん……。でもリズの子供は見てみたい。きっと可愛いと思う」


「うん、楽しみ。もう少し落ち着いたらだね」


「落ち着けるように、町開き、収穫と頑張っていくしかないからね。倒れない程度を目指すよ」


「ヒロは十分頑張っているけどね。本当に倒れないでよ?」


「はーい」


 そんな雑談を交えながら、眠気に襲われたので、灯りを消して、布団に潜り込む。


 明日も平和な一日で有りますように。そう祈りながら、目を瞑る。横では早くもリズの寝息が聞こえる。それを子守唄代わりに、意識を手放した。

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