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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第486話 子供には刺激的なので、別コースを用意しております

 遊戯室の扉を開けると、ディーラー達が綺麗に整列し、一糸乱れず、一斉に深々と頭を下げる。


「ようこそ、遊戯室へ。お越しをお待ちしておりました」


 老齢のディーラーが目元に微笑みを浮かべながらも口元は引き締め、堂々と一歩前に出る。


「どうぞ、楽しいお時間を過ごして頂ければ、最上の喜びで御座います」


 腰を起こし、鷹揚に両手を広げ、胸に手を当てて、腰を折る。この世界に胸に手を当てる仕草は無いけど、美しい所作と言う事で、教えてみたが、嫌味な程に完璧だ。背後からもおぉっと言うどよめきが聞こえる。

 この人、元々は大工でも細工をやっていたのに、おもしろそうだと言うので自薦で応募してきた。細かい仕事が得意で同じ動作を行うのを苦にしないと言う職業的適性、それに人馴れしているので、メキメキと上達した。今は遊戯室のトップディーラーだ。人生本当に分からないなとは思う。


「では、皆さん。この服を着ている者が案内役となります。説明も含めて教育をしておりますので、どうぞご不明点はお聞き下さい」


「領主様はどうなさるのですか?」


 ルミスが聞いてくる。


「ネタが分かっている者が横におりましても遊びは面白くないでしょう? ご自身で色々と気付くのも楽しいかと思います。私共は奥様方、子供さん方と一緒に別室で遊んでおりますので、御存分にお楽しみ下さい」


 笑顔でそう言うと、納得と困惑半分で男性陣がディーラー達に連れられて、遊戯室に入っていく。カビアに目配せをすると、頷き共に入っていく。ディーラーの予行演習は繰り返したが不測の事態が起こるかも知れないので、裁量権を持つカビアを配しておく。


「さて、奥様方、子供さん方。折角ですので、新しい遊びを楽しみましょうか」


 笑顔で言うと、子供達が遊び? 遊び!と喜び始める。


「よろしいのですか? 殿方には殿方の付き合いが有ると聞きますが……」


 オルファレンの奥さんがやや困惑気味の顔で聞いてくる。


「遊戯室に関しては、女性でも大丈夫な方は大丈夫かとは思いますが、やや刺激は強いです。子供さんにはまだ早いですし。皆様も大事なお客様ですので。では、参りましょう」


 遊戯室から、少し離れた部屋に入ると少し過剰気味な調度の中にソファーとテーブルを並べた広めの空間が広がる。背後からは溜息のような歓声がさざめきのように零れる。ややバロック様式を取り入れた空間は、陽光を浴びて荘厳な雰囲気を醸し出している。


「どうぞ、お入り下さい。どちらにせよ、男性陣は暫く夢中でしょうし。こちらはこちらで楽しみましょう」


「え……えぇ。でも、初めて見ました……。このような部屋……」


 部屋の中を見回しながら、恐る恐る奥さんの一人が口を開く。確か、木工細工のシェアを握っている人の奥さんだったか。


「故郷では昔、少し固めの設備に用いられた様式でしたが、少し派手でしたか?」


「いえ。美しいと思います。このような部屋に足を踏み入れて良いのかと……」


「お気になさらず。元々は女性陣が楽しみながらお茶でも飲めればと思って作った部屋です。お気軽にどうぞ」


 にこりと微笑み、手を部屋に差し出すと、皆、恐る恐ると言った感じで入っていく。


「リズ、他の皆と一緒に任せても良いかな?」


「畏まりました、男爵様」


 リズが微笑み、上品な仕草でカーテシーを行い、他の仲間達と一緒に奥様方を席へと誘導していく。堂々とした男爵夫人をこなしてくれている。延々弱音も吐かず、侍従に習った成果が出ている。私も男性の礼儀作法は一式習ったが、正直地球のやり方と中途半端に似ている故に混同しそうになる。その点、一から覚えるリズ達の方が様になるのは早かった。


「では、フェティスタさん、ファレンティス君、シアちゃん、一緒に遊ぼうか?」


 オルファレンの家族を一番奥のテーブルまで誘導し、ソファに座ってもらう。その瞬間、フェティスタが驚いた顔をする。


「このソファは……」


「あぁ、ノーウェ子爵様が開発された馬車の機構を応用しました。座り心地は如何(いかが)ですか?」


「柔らかですが、適度に支えられますし、背もたれも心地良く体にフィットします。このような家具まで違うのですね」


 Sバネの開発はかなり苦労した。ネスとどれだけ調整したか。まだ曲面加工をした状態での強度維持は不安が残るので、平面加工までだ。それでもその上に板と綿を入れれば大分座り心地は変わる。正直、ウェービングベルトで良いかなとも思ったが、保守を考えるとSバネまで一気に進めた。背もたれには新型馬車に使われている板バネの機構をそのまま応用して入れている。こっちは開発が済んでいるので縮小再生産するだけだったのでそこまで苦労は無かった。


「少しずつ、色々な物を変えていければとは考えます。さて、リバーシはご存知ですか?」


「リバーシ、知っています。父様が買ってきてくれました」


「くれました!!」


 ファレインシュタット、シアが元気よく答えてくれる。


「なるほど。じゃあ、今日は違う遊びをやってみようか。この木札を使った遊びだよ」


 トランプも今日から解禁だ。


「ほら、絵と一緒に、数字が書いているのは分かるかな?」


「はい。十三と二です」


「これは……十一!!」


「うん。分かるね。同じ数字の木札が四枚ずつ入っているよ。それとこれ。一枚だけ数字が入っていない木札が入っている。同じ数字の木札が揃ったらテーブルに出していく。順番に人の木札を引いていって、最後にこの木札を持っている人が負けだよ。大体分かったかな?」


 ファレインシュタットの方は、理解した顔をしている。シアの方はちょっと分かっていない。フェティスタに目配せをすると、理解してくれたのかシアを抱っこして膝の上に乗せる。


「母様と一緒に遊びましょうか」


「うん、母様!!」


 一枚ずつ配り、三つの山を作る。ファレインシュタットはきちんと理解したのか、ペアを作ってテーブルに置いていく。シアはフェティスタと一緒に同じ数字を探して楽しそうにテーブルに並べる。少し微妙な表情をしたファレインシュタットがジョーカーを持っているのかな。


「じゃあ、私が、ファレインシュタット君のを引くね。ファレインシュタット君はシアちゃんのを、シアちゃんは私のを引いていこう」


 そう言って、ファレインシュタットの目を見ると、右端をちらちらと覗く。分かりやすい。右端を引くと案の定ジョーカーだった。ほっとした表情を浮かべて、シアのカードを引く。揃ったのかペアをテーブルに投げる。私はジョーカーをカードの後ろに隠して、前に差し出す。シアが少し迷ってカードを引くとペアが揃ったのか嬉しそうにカードをテーブルに並べる。何度か繰り返し、一番はシアとなった。最後の一枚を私が引いてファレインシュタットが二番となる。


「残念。私の負けです」


 肩を落としてしょんぼりと頭を下げると、子供二人から笑いが零れる。


「楽しい!! もっと!!」


 シアがフェティスタの上でぴょんぴょん跳ねながら催促して来る。


 そのまま繰り返し、他の遊びも教える。周りのテーブルも歓声が上がり楽しそうだ。


 二時間程遊んだかと思うと、扉が開き、従業員に誘導されてオルファレンが部屋に入ってくる。一瞬、部屋の調度に気圧された顔をしていたが、手を振ると、近付いて来る。


「お世話をおかけ致しました」


「いえいえ、楽しんでおりました。遊戯室は如何(いかが)でしたか?」


「楽しませて頂きましたが……。飢狼の巣と言う印象が強くなりました。サービスの原資はあそこから吸い上げる気ですか?」


「ほぉ。その根拠はなんでしょう?」


「楽しいです。あのような遊びがこの世に有るとは……。それに男の意地の張り合いも有りますしな。冷静ではいられません。気付けば財布は空っぽでしょう。あの、稀に勝つと言う感覚が忘れられなくなるのでしょうな……」


「勝って儲けて、負けて損をする。人生の縮図ですね。それを短い時間で楽しむ形でしょうか。故郷では時を金で買うと表現していましたね」


「時を……。なるほど、濃密な駆け引きの時間を、人生の縮図を金で買うと言う事ですか……。敵いませんな……」


 苦笑を浮かべながら、子供達を抱き上げる。


「お前達は楽しめたか?」


「お父様、このトランプと言う物は凄いです。色々な遊びが有ります!!」


「とーたま、トランプ欲しい!!」


 オルファレンがフェティスタの方を見ると、フェティスタが微笑む。


「えぇ。楽しい時間を過ごしました。良い遊具かと思います。シアの数字の勉強や物を考えるのにふさわしいでしょう」


「ふぅむぅ。私の印象では、恐ろしい物ですが……。全く評価が違いますな」


「刃物と一緒です。料理に使うか、狩りに使うか。遊び方ひとつで印象は変わるものですよ。他の方はどうなさいました?」


「負けた者も勝った者も飲んで食べてに移動しました。私は様子見でしたので、差し引きで無しと言う形ですね。しかし、三十万ワールも初めに頂きましたが本当によろしかったのですか?」


「実際に全てを楽しんで頂くにはその程度は必要かと。負けても損は無いですし、勝てばその分はお支払いするお話でしたしね」


「本当に怖いお方だ……。皆はまた、食事に飽きれば遊びに行くのでしょう。商売も引き際を誤れば、結局どこかで損をします。あぁ……引き際を作らせない仕掛けか……」


「はは、どうですか。少しご一緒に遊びませんか。あの部屋に長くいると慣れない方は疲れると思います。お子様方と遊ぶのもまた一興かと。ファレインシュタット君、シアちゃん、お父様に遊び方を教えてあげてくれるかな」


「はーい!!」


 唱和して、わっとオルファレンに飛びついていく。苦笑が柔らかな父親の微笑みに変わる。

 その姿を見送りながら、各テーブルを回って挨拶を済ませていく。どのテーブルも明るい笑顔に満ちている。


 その後は暫くお茶を楽しみながら、新しい遊具を話題に歓談が続く。


 日が傾き、夕ご飯の時間になったが、ここでの一悶着はまたノーウェ達が来た時も同じようになるだろうから割愛する。


 夜半、お開きとなり、リズや仲間達はそれぞれの部屋に戻って休んでいる。特にリズは慣れない淑女モードで大分疲れているようで酒の所為も有り、もう眠りについた。


 冷涼な風が吹く中、東屋で一人ワインを傾ける。テーブルには一人で食べきれない程の料理が盛られている。アレクトリアが気合を入れて作ってくれたが一人では無駄になりそうだ。しかし、無駄にはならないのだろうな。蝋燭の明かりにほのかに照らされた水面を眺めながら、くいと杯を空けて、とんとテーブルに置く。


 その瞬間、ふわりと気配が生まれる。あぁ、やはりか……。

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