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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第481話 温泉宿の開店の宣言

 『今日は忙しいから侍女の人の言う事を聞いてね』


 食事を食べ終わった二匹がじゃれついてくるのを防ぎながら、伝える。


 『たのしみなの』


 『いいの、くる』


 ふむ。良く分からないけど、何かを期待して楽しそうにグルーミングをし合っているし、大人しくしてくれそうなので、良いかなと。


「リズ、起きて」


 ゆさゆさと揺さぶると、薄く目を開けて、にこりと微笑む。


「おはよう、ヒロ。温泉宿の開店だよね。式典頑張ろうね」


 両手を伸ばしてくるので、抱きしめてベッドから降ろす。


「どうせ、夜まで色々対応しないといけないだろうから、もうお風呂で身を清めちゃおうか。皆に伝えてくれるかな。使用人には起きた旨伝えて来るよ。上がったら、着付け頼んでおくね」


「うん。ありがとう、ヒロ。じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 リズが上着を羽織って、廊下に走っていく。ぴゅーっと走っていく姿は相変わらずで、可愛い。浴場に向かい、湯を生んで外に出ると使用人が歩いて来たので、リズの着付けをお願いする。部屋に戻ろうとすると女性陣が荷物を持って楽しそうに向かってくるので、軽く手を振って、見送る。


 部屋に戻り、急ぎの書類に目を通していく。式典分に関しては終わらせているが細かい調整と言う事で、後から後から書類が上がってくる。丁度カビアが書類を持って来たので呼び止める。


「流石に当日で変更不可能な内容が多いよ。そろそろ止めないと際限なく来そうだけど」


「昨日の夕食で判断した宿が多いので、何処も朝から肉の手配の増量を希望してきていますね。猟師の方々も朝から出て下さっていますが、限界は有ります。鶏もあまり潰し過ぎると増産計画に支障が出る勢いですね」


「もう、数日前から人が増えているんだから分かって欲しいと思うのは私だけなのかな……。生の肉は諦めて、加工系の肉を保存先から回すので対応出来ないかな?」


「可能です。少し調整は必要ですが限界の有る話ですので動かしましょう。屋台の方の調整だけは承認お願いします」


「当日になって在庫不足で開店不可能って勘弁して欲しいね……。これと、これだよね。はい、決裁。先に持って行って。調整済みだろうけど、許可の旨は早めに伝えてあげて欲しい」


「分かりました。そろそろご支度をお願いします。急ぎの案件はこれで終了です。後は都度確認の上、お渡しします」


「そうだね。当日にどうしようもない話ばかりだから、却下だよ。まぁ、町開きの練習と思えば良いのかな」


「前向きに捉えられるのが良いかと思います」


 二人で苦笑を浮かべながら、頷き合う。カビアが一礼すると部屋から出て駆け出す音が聞こえる。

 さて、調整は完了と丁度リズが帰ってきたので、交代で浴場に向かう。廊下でロット達と合流する。湯船に浸かりながら、状況を聞いてみる。


「身支度の方は如何(どう)?」


「服の方は余裕を作ってもらっていますので、仕込みは終わりました」


「身内で重装は不穏との話だからな。何か有ったら体を張る」


 仲間の皆には、世話係と言う名目で護衛に付いてもらう。辺境の男爵を狙う程、暇な人間はいないと思いたいが、前の虎さんの一件も有るので念のためにお願いした。


「その辺りは本当に申し訳無い。衛兵もいるし問題無いとは思うけど、もしもの場合は頼るようにするよ。最悪『警戒』で不審人物の発見には努めて欲しい」


 そう言うと、カビアと同じように皆が苦笑を浮かべる。


「気にしないで下さい。お金は貰っている話ですし、ここまで一緒にやってきたリーダーの晴れの舞台です。邪魔はさせません」


 ロットが偽悪的に言うが、本当に助かる。皆も微笑みを浮かべながら、頷きあっている。本当に、良い仲間に巡り合えた。


「じゃあ、町開きの前哨戦と言う事で。頑張ろうか」


 湯船から上がり、ブローで体を冷やし、汗を引かせる。皆も正装だが、私は襟のもしゃもしゃが暑っ苦しい。後、袖飾りがかなり邪魔だ。これ、槍どころか、剣もまともに振れないと思う。正装なんてそんなものかと諦めつつ、食堂に向かう。


 アレクトリアが出迎えてくれて、朝ご飯を出してくれる。リゾットっぽい粥と一口大に切った鶏のロースト、それに小鉢の野菜となる。色々食べたり飲んだりしないといけないと思うので、軽めに用意してくれたらしい。


 最後の打ち合わせを行いながら、食事を進めていく。皆真剣に進行に関して、最終確認を行っていく。基本的に、宿の前で開店の宣言。その後は商工会の選んだ、豪商達と一緒に設備を巡る形になる。向こうの護衛もいるので結構な数での移動だが、もうしょうがない。各所を巡った後、一般開放となる。その間は、町の中の屋台等などで遊んでいてもらう形になる。


「さて、じゃあ、戦場に赴きますか!!」


 そう叫ぶと、皆がおぅと一斉に唱和する。レイが席を静かに立ち、ツカツカと足早に出て行く。馬車を回してくれるらしい。装備や服装の最終チェックも終わり、玄関から出ると馬車が待っている。皆で乗り込んで、歓楽街の方に向かって走り出す。『リザティア』の方は中央の政務の方は入れ代わり立ち代わり人が出入りしているが、全体的に見ると閑散としている。十等級扱いで歓楽街のフォローを募ったら、町の住人達が参加してくれる事になったからだ。職人達と農家の人は仕事が有るので参加出来ないのはちょっと残念だけど、しょうがない。町開きの際は、交代制で参加出来るように調整しよう。


 西門から出ると、一気に馬車の数が増えた。定期馬車の道は進入禁止にしているので問題無いが、かなりの数の行商系の荷馬車が歓楽街の入り口のチェック待ちで止まっている。今朝着いた馬車達なんだろうけど、物凄い数だ。駐車場も臨時で競馬場横まで使えるように誘導している。しかし世話係と馬の飼料の方が心配だ。この日のために大量に買い込んでは有るが、実際の姿を見ると、足りるかどうかも分からない。それに人手の限界を超えている。


「カビア、馬丁の数が足りないかも。対策って何か有ったっけ?」


「はい。経験者を民から募って、補助に入ってもらっています。馬の世話までは難しいですが、餌の用意や誘導程度なら可能ですので、破綻しない段階で抑えられると見ています。また来ている人間に関して、頼むのにお金を払うより、自分達で世話をすると言う商家の人間も多いので大丈夫かと考えます」


「少し現場からの声を注意深く聞いてあげて。破綻すると馬が可哀想だ」


「分かりました」


 道の中央を抜けていくと、入り口が完全にボトルネックになっているのが目に見えてしまった。政庁で発行した一時滞在証を確認するのに、時間がかかり過ぎている。


「カビア、読み取り機の予備を政庁から回すのは可能かな……」


「もし破損した際に政務が滞る可能性は有りますが、言っていられる状況では無いですね。急ぎ調整します」


 カビアがメモに指示を記載していく。


 馬車は門を抜け、歓楽街に入る。住民達がこちらに気付いたのか、徐々に歓声が上がっていく。『警戒』を全開まで上げて、物陰にいる人間を把握しながら、馬車の御者台の方に出て、手を振る。今日は温泉宿の開店に合わせて、劇場の開店、各種遊技場も開店する。住民たちにとってもお祭り騒ぎなのだ。ちなみに、演目は「指揮個体と戦う英雄」になったのは何故かは知らない。恥ずかしくて見にもいけない。ただ、新しい舞台装置を駆使して丁々発止繰り広げられる劇はきっと観客を魅了する事だろう。


 そのままさぁっと人の波が開いていき、温泉宿までの道が出来る。そこをしずしずと馬車で走る。


 温泉宿の前では、本日宿泊予定の豪商達とフェンを始めとする商工会の人間、それにテディ達が待っている。

 馬車が温泉宿の前に止まると同時にカビアが後続の政務団の馬車の方に向かって行く。調整をしてくれるのだろう。私達は、お客様の方にゆっくりと向かう。


「お待たせしました。本日はお楽しみ頂ければと思います」


「ご丁寧にどうもありがとうございます。何度か寄らせて頂きましたが、その度に色々面白い物を見せて頂きました。今日はその中心が見られると、年甲斐も無く興奮で眠れませんでした」


 初老の男性がにこやかに微笑みながら、手を差し出してくる。確か、ワラニカの繊維系の大部分に影響を与えている商人だった筈だ。今日のメインになるのかな。


「では、御集りの皆さま」


 振り返り、温泉宿の周囲を取り囲んでいる皆に向かって、叫ぶ。


「本日より、温泉宿を開店します。どうか楽しんで貰えれば幸いです」


 叫んだ瞬間、それを倍する歓声が怒涛のように温泉宿を包んでいく。同時に屋台や各種店舗も開店を始める。歓楽街が稼働し始めた。


「では、温泉宿をご案内します」


 にこやかに、皆に向かって手を広げ、ロビーへと誘導していく。さて、長い一日の始まりだ。

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