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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第480話 塩豆腐を始めて食べた時は感動しました、チーズだこれ!!って

 領主館に戻り、皆それぞれの部屋に戻る。リズと一緒にタロとヒメを連れて部屋に戻る。箱の中で寝ていたのを起こされてちょっと不機嫌だが、部屋の定位置に箱を置くと大人しく潜り込んで丸まる。


「また、綺麗になったね」


「ふふ。そう言ってもらえると嬉しい。でも、時間が経つとちょっとずつこの肌が元に戻って行くのはちょっと残念かな」


「それでも、リズは綺麗だしね。どんなリズでも好きだよ」


「もう。嬉しいけど、頑張った分が否定されているようで少しだけむっとする」


「ごめん、ごめん。でも本心なのには違いないから」


「うん。分かってる。ありがとう……」


 そう言った瞬間、ふわぁぁと大きな欠伸をする。リズも湯疲れなのだろう。


「夕ご飯までしばらく時間は有るし、寝ていたら?」


「ヒロは?」


「ちょっと用意している食材が有るから。それを仕上げて来る」


「ふふ。本当に忙しい領主様だね」


「もう、こればかりは趣味だからね」


「いってらっしゃい」


「いってくるよ。ゆっくりお休み」


 布団に横たわるリズの枕元に座り、掌で優しく瞼を覆う。暫くすると、ゆったりした寝息が聞こえ始める。

 そっとベッドから離れて、音が鳴らないように扉を開けて厨房に向かう。


「アレクトリアはいるかな?」


 料理人に聞くと、奥側の方を覗き、呼んでくれる。


「はい。男爵様、何かご用事ですか?」


「夕ご飯だけど、どんな献立なのかなと思って」


「そうですね。ラディアさんも体調が戻っております。普通に朝のイノシシをソテーしてお出ししようかと考えております。勿論塩とハーブには拘りますが」


「と言う事は、後はパンとサラダとスープというところかな?」


「はい。スープはイノシシの骨の出汁がまだ残っていますので、野菜を大量に入れて甘めのスープに仕上げる予定です」


「じゃあ、一品加えて良いかな?」


「昨日から何か作られているあれですか?」


「そうだね。味見する?」


「良いんですか?」


「周りの部分はちょっと塩味がきついから、パンとかに乗せて食べた方が良いと思うしね。パンあるかな」


「持ってきます!!」


 そう叫ぶと、アレクトリアがぴゅーっと走っていって、たーっと帰ってくる。


「賄い分で申し訳無いですが」


「良いよ、それで」


 包丁を借りて、塩豆腐の表面を少し厚めに削ぐ。それをパンに塗りつけてアレクトリアに差し出す。


「では。頂きます。んっ……しょっぱい……。でも……これ……え!?」


 がばっと驚いたようにこちらを向くが、私は唇に指を立てて微笑む。


「駄目。内緒。でも、驚いたでしょ?」


「はい……。この時期に食べられるなんて思いもしませんでしたから……。でも塩味が少し強すぎますね。ラードを塗って、葉野菜を置いてその上に塗る形の方が良いでしょうか」


「うん。その辺りは任せるよ」


 そう言いながら、削いだ後の方を軽くこそいで食べてみる。しっかりした感触と口に広がる香り。うん。狙い通り。

 後は乾燥させたバジルを乳鉢で細かく砕く。そこに少しずつオリーブオイルを混ぜていく。ふわっと広がるバジルの香り。そこに香りづけ程度の魚醤を垂らす。良くかき混ぜて、味見をする。うん。塩味も少ないし香りも高い。丁度良いかな。


「ソースはこれを使って欲しい。夕ご飯の際には分離すると思うから、再度しっかり掻き混ぜてね。豆腐の方は、さっき想像したあれみたいな切り方で良いよ」


「少々味見を……。なるほど……。香りが合いますね。淡白な分バジルの香りが合うのでしょうか。豆腐は少し厚手に切り分けておきます。一口大ですよね」


「そうだね。じゃあ、よろしく。私も少し寝て来るよ……。あぁ、味噌作りの方はどう?」


「はい。そちらも現状順調です。元々屋敷の料理人に関しては人員に余剰を確保しておりますので交代で仕込んでおります」


「そっか。まぁ出来上がるのはまだまだ先だから、あまり気張らずにね」


「分かりました」


「じゃあ、夕ご飯の際はよろしく」


 そう言うと、アレクトリアが深々と頭を下げるのを背に、部屋に戻る。先程中途半端に寝たので、眠たくて仕方が無い。キラキラと輝く肌のリズの横に潜り込む。そっと壊れ物に触れるかのように頬に触れる。モチモチとした感触と吸い付いてくる感触が気持ち良い。起きない程度にペタペタと楽しんでから、目を瞑る。先程のうたた寝と同じく、さっと意識が薄れていく。あぁ、昼寝ってこの世界に来てする機会って無かったな……。明るい内はずっと働いていたしなぁ……。半分意識を失いながら、そんな事を考える。


 扉のノックの音で覚醒する。かなりすっきりしている。窓を見ると夕暮れになっていた。あぁ、結構な時間寝たかな。声をかけると、夕ご飯の支度が整ったとの事だった。

 リズを起こし、身支度を整えて、食堂に向かう。皆、寝ているのかまだ揃っていないので、席に着いて、皆を待つ。んー。あー。面子を確認して遅い理由が何となく分かった……。まぁ、追求しないでおこう。

 ロット達、ドル達、カビア達が来て、最後に声をかけられたラディアが食堂に入ってくる。


「では、今日はゆっくり休めたと言う事で。明日も頑張りましょう。では、食べましょう」


 全員が、食卓の上の白い四角い物に緑のソースがかかった物に目が行っている。この時期に出て来る事は無い物だ。

 一切れつまみ、口に放り込む。口に含んだ瞬間バジルの鮮烈な香りと魚醤の香りが鼻を抜ける。噛んだ瞬間ねっとりとした歯ごたえと共に凝縮された大豆の甘さが濃厚に口の中に広がる。適度に効いた塩味と共に、口の中で千変万化する。出来ればトマトを挟んで一緒に食べたいと思うが、無いので我慢する。


「これ、チーズじゃん!! え、春も遅いよ? どうやって手に入れたの!?」


 フィアが叫ぶ。


「驚きました……。何かの魔術ですか? この時期にチーズだなんて……」


 ラディアも控えめに聞いてくる。


「いえ。この白いのは昨夜食べられた、あの冷たくて甘い物ですよ」


 そう言うと、皆が一斉に塩豆腐を見つめる。


「えー。嘘……。全然味が違うよ?」


 フィアが信じられないと言う顔で聞いてくる。


「色々と調理方法が有るから。でもこの時期でもチーズっぽい物が食べられるって言うのも良いでしょ?」


 そう聞くと皆が頷く。


「本当に騙されたわ……。このソースの香りと合わさって、本当にチーズかと思ったわよ。でも臭いが無いから不思議には思っていたわ……。私はこっちの方が好きかも知れないわね……」


 ティアナも口をきゅっと締めながら嬉しそうに頬張る。


「パンの方にも少し塩気の強いのを塗っているから。そちらも味見して欲しいな」


 そう言いながら私も齧ってみる。ラードの甘みと春野菜の苦みそこに濃厚な甘さと塩気が混じり、パンの香ばしさと相まって独特のハーモニーを生んでいる。


「これは……某はこのパンに塗っている方が好きで御座るな……」


 リナが嬉しそうにパンを齧っている。ラディアも驚きながらも嬉しそうにパンを食べ、スープの甘さにうっとりし、イノシシの美味さに破顔している。


 珍しい物を食べたと言う事で皆饒舌に評価をしながら、雑談が広がっていく。

 食後のお茶を飲みつつも興奮が冷めない様子で話をしていたが、ロッサがふわっと欠伸をする。


「さて、まだ疲れも残っているでしょうし、今日はお開きとしますか」


 そう言うと、それぞれが部屋に戻る。

 タロとヒメを起こして、食事を上げて、水を用意する。まだ疲れているのか食べ終わって水を飲むとそのまま二匹共くてんと丸まって寝てしまう。


「リズは大丈夫? 疲れていない?」


「眠ったから、平気……かな……」


「そっかぁ……。平気かぁ……」


 魔術で、蝋燭の火を消す。


「あー、さっきの顔、悪い顔だ。ヒロ、悪い顔してた!!」


「聞こえないよ」


 そう言って、薄闇に浮かぶリズを抱きしめて、唇を奪う。そのままぱたりと、ベッドに横たえる。


「綺麗になったからかな……。余計に我慢出来ない」


「ふふ。子供みたいだよ」


「子供で良いよ。リズ、愛してる」


「うん、私も」


 そうして、影が重なる。窓からの月明りだけがほのかにその影を映していた。



 ここから少しだけ時は進む。


 ラディアは予定通り二日の休暇を終えて、ノーウェティスカに返書を持って帰還の途についた。結局、次の日も歓楽街の温泉巡りに付き合った形だ。あれだけ喜んでくれたなら、宣伝もしてくれるかなとほのかに期待をしておく。


 バガテルの量産は順調に進み、温泉宿の開店までに遊戯室に置く分は完成した。ちょっとの間は釘を見るのも嫌だが、歓楽街のお店に置く分を作らないといけない。引継ぎをしたいけど、かなりシビアな作業なので、教えるのに教えられたのと同じく二カ月以上かかってしまう。これに関しては秘密の技術と言う事にしようかなと。


 ネスは元々痩せ型だったが、『リザティア』に来てからかなり痩せた。本人は元気だし、楽しそうだが、無理はさせているなとは考える。元々余剰リソースは職人の頭としてマネジメントの為の余地だったが、歓楽街絡みの横入りで結構な手間をかけさせた。釘の量産なんて計画に存在しない物なので頭は抱えただろう。でも作ってくれた上に、建築業界にまで広めてくれている。今後はクロスボウの制式化も有るので、調整しつつと言うところだろうか。人員を増やしても使えるまで逆に手がかかるので、負担が増すだけなので、仕事の量を減らすしかない。これに関しては、商工会とも話し合ってコストはかかるがノーウェ領に外注をお願いして運ぶ流れを増やす事にする。ネスも日常品の類に関してはギルドが認めた職人の仕事なら保守も可能と首を縦に振ってくれた。


「まぁ、他人の作品をいじるのも勉強になるしな。別に拘らねぇよ。それより、優先する(もん)があるんだろ? そっち優先しようぜ」


 本当に頭が上がらない。


 クロスボウの制式化に関してだが、結局鹵獲防止策は出来上がった。チャットと調整して、三千度程度の炎をクロスボウを覆えるサイズで三十分出した辺りで平均的な核が消耗するのが分かった。人間の魂と言う概念は個々人で違うらしく、この人から何キロ離れたらと思い浮かべながら魔術を行使すれば紐付けも条件付けも出来た。ここまでやれば鉄も歪むし、木材部分も焼ける。大丈夫は大丈夫だけど……。


「これだけで兵器になりますやん……」


「うーん。でも、作るの私だよ? この鹵獲防止の魔道具だって兵一人一人に紐付けて核に魔術仕込まないといけないし、その仕事だけで辛すぎるよ……。将来的には考えるけど、今は内緒にしておこう。人命の方が大事なのは分かるけど、ちょっとそこまで手を出していると、領主業が疎かになっちゃう」


「そうですね。リーダーに何か有ったら、大勢が迷惑しますし。作戦と装備で現実的に怪我を負わないようにする方がええと思います」


 何と言うか、焼夷弾モドキが出来た。神様が延焼を防いでくれないと、絶対にどこかで火事が起こると思う。そう言う意味では助かった。ただ、兵一人一人に紐付て魔道具を作っていくと言う仕事は残っているので、頑張る必要は有る。整備交換の必要無い箇所に装着するので、保守上は問題無いかなと。ただ、ある程度の距離までに鹵獲防止用の魔道具の核とバレると問題なので、一見は隠れるようにしている。後は、不用意にクロスボウから一定以上離れないように指導しないといけない。問題は山積みだけど、まず第一歩は進めた。


 朗報としては、ロスティーが交渉を終えて帰ってくる旨がノーウェから書状で届いた。こちらは町開きに間に合いそうだ。予定は四月の末だがまだ調整も出来る。現在は丁度、国境を越えてこちらに向かっている最中だろう。ノーウェも町開きに合わせてくる旨が記載されていた。


 そんな事を考えながら、窓の外の晴れ間を見上げる。太陽は薄く登り始めている。本日四月二十一日は温泉宿の開店の日だ。貴族連中が来るわけではないが、豪商連中で開店を待ち望んでいた者は多い。大浴場に入ってみたいと言う話はずっと上がっている。その辺りの挨拶回りも大変だろうなとは思う。まぁ、しっかりと朝を食べて頑張るしかないか。頬をパンっと叩いて気合を入れてまずは、いつも通りタロとヒメの食事を貰いに行く事にする。こういう時は、日常を日常通りに過ごすのが一番大事だ。さて、なんとかこなすぞ!!

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