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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第469話 おからクッキーと塩豆腐

 色々と豆腐に関して聞いてくるアレクトリアに現物を食べた方が早い旨を伝えながら、厨房に向かう。厨房に入ると、料理人たちの視線がこちらを向き、ほっとした表情に変わる。厳密には私では無く、アレクトリアの方だが。


「アレクトリアさん!! お客様がいらしているんですから、あんな中途半端な指示で飛び出すのは止めて下さい!!」


 料理人でも結構年配の女性が、アレクトリアの首根っこを掴んで耳元で嘆願する。


「でも、男爵様がぁ……」


 え、私のせい!?


「領主様……」


「はい……」


「大変心苦しいのですが、アレクトリアさんもこのような性格なので出来れば考慮頂ければ……」


「はい……ごめんなさい……」


「いえ。怒っている訳では決してないのですが。ただ、非常に困ります。出す時期の指揮や何を作るか、順番も中途半端に飛び出されたので、右往左往しています」


「おーい、アレクトリアさん?」


 流石に聞き捨てならない。呼んだのは私だが、お仕事を放って来るとは思っていない。


「いえ、あのですね。あー、えーと、こんなに時間がかかると思っておらず……あー、申し訳ございません……」


 しゅんとなったアレクトリアが謝ってくるが、私は料理人の方に手を向ける。

 

「ごめんなさい」


 改めて、アレクトリアが謝る。


「その性格は存じておりますが、今日はお客様が来られております。少し勝手が過ぎましたので、言わせて頂きました。では、続きをお願い致します」


 料理人の女性も良く分かっているのか、苦笑を浮かべながら手を洗い、厨房の奥に戻っていく。


「別に料理は逃げないし、呼んだからには待つよ。流石に仕事を放ってくるのは駄目だ」


「はい……」


「罰として……お客様にきちんとした物を提供する事。伝令で疲れているし、携帯食だけで来ているから、優しい物を食べさせてあげてくれるかな」


「……はい!! 誠心誠意頑張ります!!」


 しゅんとしていたアレクトリアが、一気に立ち直る。本当にこの子は、料理バカなんだな。こちらも浮かんでくる苦笑を抑えつつ、厨房の奥に向かう。

 横では、アレクトリアがきびきびと指示を出し、弛緩していた雰囲気が締まっていくのが分かる。ちゃんとやれば出来る子なのに、ノーウェが苦笑するのも無理はないか。


「さて、(かまど)の空きは有る?」


「領主様、こちらをお使い下さい」


 料理人の男性が誘導してくれるので、薪とフライパンを借りる。こちらに興味が有るのか、アレクトリアがじりじりと接近してくる気配を感じたので、首を横に振ると悲しそうに戻っていく。手早く薪に火魔術で火を点けて、おからを乾煎りする。


「オーブンを使う予定は?」


 周囲の料理人に聞くと、現時点では無いらしい。ついでにとオーブンの余熱を頼む。熱せられて湯気をあげていたおからから徐々に湯気が薄くなるのを確認し、竈からフライパンを降ろし、余熱で乾燥させる。程々に水分が抜けたところで、薄力粉をもらい秤で計量する。バターも牛乳も無いので、残しておいた豆乳で代用する。かなりヘルシーなクッキーになりそうかな。豆乳に砂糖とほんの少しの塩を溶かし卵を割り入れる。泡立たないように注意しながらよく混ぜて、おからと薄力粉をダマにならないように少しずつ加えて混ぜていく。粉っぽさが無くなりまとまる程度で加えるのを止めて、粉を打ったまな板の上で生地を伸ばす。型抜きなんて無いし、包丁で四角く切っていく。端の方はまとめて伸ばして残さずに形を揃える。オーブンの温度を確認し、くべている薪を調整してこれ以上温度が上がらないように調整する。鉄板に薄くオリーブオイルを伸ばし、切りそろえた生地を並べて置いていく。オーブンに入れて時計を確認する。この温度なら二十分もいらないかな……。


 クッキーを焼いている間に乾燥した大豆を擂鉢で擂る。並行して、鍋に水を生み火にかける。擂り終る頃には鍋が沸騰してきたので砂糖を投入して弱火に調整する。やはり砂糖自体にアクが結構な量残っているので丁寧に掬いながら、煮詰めていく。元々濃い茶褐色だったのが煮詰まり、黒くなってトロミが出てきた段階で火から降ろし、氷水に鍋ごと入れて冷やす。時計を見ると丁度良い頃合いなのでオーブンの方に向かう。


 扉を開けると、砂糖と穀物の焼ける甘く香ばしい香りが広がる。表面はきつね色に近い色になっている。中まで火が通っているかと一枚割って確認をする。口に含むと、しゅわっと唾液を吸収される。砂糖の雑味を一瞬感じるが慣れれば、おからと豆乳の香りと相まって素朴な甘みが口に広がる。うん、付け合わせみたいな物だからこんな物かな。焼き加減は丁度良いので、鉄板から布を敷いた皿に移し冷ます。


 ふと視線を感じて振り向くと、じっとアレクトリアがこちらを見ているので、周りの料理人を指さすとバツが悪そうな顔をして仕事に戻っていく。香りがすると流石に興味が抑えられないか。クッキーを一枚手に取り、アレクトリアに近付く。


「男爵様……」


「口開けて」


「はい? あ……むぐ。……甘い。それに香ばしいです。似た物は食べた事が有りますが、こんなにしっかりとまとまっていません。もっとぼそぼそとしてボロボロでしたが……」


「レシピはまた書くけど、それ、卵が入っていないんじゃないかな。つなぎが入らないとまとまらないよ。それにぼそぼそなのは火を入れすぎだと思う」


 そう言いながら、厨房から出て蔵の方に向かう。


「男爵様、どちらに?」


「そろそろさっき作っていた物が出来上がる。それを仕上げてくるよ」


「あ、私も……」


「アレクトリアぁ?」


「はい。頑張ります……」


 本当に懲りない。ただ、怠けではなく、探求心だからどうしても憎めない。


「折角味見させたんだから、その分くらいは頑張って欲しいかな。後は頼むね」


「分かりました」


 アレクトリアに見送られながら、蔵に戻る。二人は共麹の方の様子を見てくれている。


「温度の方はどうかな? 熱くなりすぎていない?」


「はい。少し熱いと感じましたので、今冷ましているところです」


 と言う事は麹が活発になってきたかな。二番手入れの頃合いかな。


「塊になっていると思うから、崩しながら空気を混ぜるように全体を掻き混ぜてまた布をかけておいて。終ったらそのまま様子見をお願い」


「はい」


 二人がキリっと唱和するのを聞き、頷きを返す。


 奥の方で水を切っている豆腐の重石を取り除き、表面に触れて押してみる。まだ水分が残っているが崩れない程度の硬さにはなっている。丁度良いかな。

 鍋に氷と水を生み、豆腐箱ごと沈めて型から豆腐を取り出す。そのまま鍋を持って厨房に戻る。


 豆腐箱を料理人に渡して、洗って干しておいてもらう。包丁で豆腐を半分にする。そのまま半分は冷やしておく。残りは塩を強めに振って布で包み、皿で挟んで重石を乗せる。流石にまだ春先だし、このまま置いていても腐りはしないだろう。


「料理の方はどうかな?」


 こちらの用意は出来たので、アレクトリアに聞いてみる。


「はい。準備は整いました。後はお客様が起きられたのを見計らって、仕上げです」


「分かった。私が作った物は食後に出すから。仕上げはお願いしても良いかな」


「はい。どのように仕上げれば良いでしょうか?」


 アレクトリアも手が空いたようなので、仕上げの説明をする。結構大きな豆腐箱なので、全員分を作っても残る。残った分は料理人で分けて味見してもらう事にした。さて、後はラディアが起きるのを待つだけか。アレクトリアに後を頼みタロとヒメの食事を預かって部屋に戻る。


「あ、おかえりヒロ」


 扉を開けると、リズがソファの上でタロとヒメに囲まれて寛いでいた。


「ただいま、リズ。機嫌が良いと言う事は、散歩に連れて行ってくれたの?」


「伝令が着いたんでしょ? 忙しいだろうと思って皆で一緒に散歩して来たよ」


「ありがとう。気になっていたから助かった」


「ううん。ヒロはヒロの仕事が有るから。気負いすぎだよ」


 そう言うと、リズが頭を撫でてくる。


「ん。助かる」


 軽く口付けて、撫で返す。


「さて、二匹に食事をあげないと」


 足元では先程からはっはっとしっぽを振りながら、上を見上げて興奮している二匹がいる。


『まま、いのしし!!』


『ぱぱ、ごはん』


 匂いで我慢出来ないのか、落ち着きなく周囲をくるくる回る。一旦箱に戻るように伝えると、シュタっと戻って揃ってお座りをする。

 皿に移し、待て良しで食事が始まる。


「皆で散歩と言う事は遠出したのかな?」


 二匹が食べ始めて落ち着いたので、リズに話しかける。


「戻って来たのが遅かったから、領主館の周りをくるくる回ったくらいかな」


「そっかぁ。そろそろ行動範囲を広げても良いけど。ちょっとばたばたしているしなぁ」


「最近、ヒロ、忙しいよね。体調は大丈夫?」


 リズが心配そうな顔で聞いてくる。


「体調は大丈夫だけど、時間が無くてリズと一緒に居られないのが申し訳無いし、寂しい」


「ふふ。その辺りはしょうがないよ。今は忙しい時期って分かっているから。落ち着くまで頑張ろう」


「ありがとう」


 ゆったりと、ソファーに座りながらリズと雑談を交わす。溜まっていた疲労が溶け出すように感じ、安堵の溜息を吐く。


「心配事?」


 リズが首を傾げる。


「いや、こうやってゆったりとリズと話が出来るのが幸せだなって」


「うん。私も幸せだよ」


 そう言って微笑み合う。侍女が扉をノックするまで、久々にゆっくりした時間を楽しめた。

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