第44話 僕っ子で思い浮かべたのが、ゾンビのあの子でした……
取り敢えず、今日のところは仕事に行ってもらおうと話をすると、会わせたい人間がいるとの事。
「あの子も、冒険者をやっているの。今は9等級のはずよ」
……。あの子って言った瞬間、微かに優越感を表情に感じた。
あれだ、結婚していない相手に、旦那や婚約者を紹介する時のあの表情だ。
心の中で、まだ結婚しないの?私、もう捕まえたわよ?的な、あの女の顔だ。
やっぱりリズも女なんだなと、少し引いた。
「今はパーティーメンバーを探しているって言ってたから、丁度良いかなって」
「1人で仕事をしているの?」
「たまに、他のパーティーに誘われて手伝う事も有るけど、今は1人ね」
「ちなみに、どの様な関係なの?」
「幼馴染。農家の子なんだけど、冒険者は食い扶持稼ぎに10歳位からかな?今は同じ15歳」
ふむ。奥さんの友達か。幼馴染と言う事は人間性は把握出来ていると。変なのよりはましか。
後は実力次第だな。
「会ってみようかな」
「昨日会った時に話はしているわ。ギルドで待っているはず」
うお。早朝に宿を出たとは言え、人待たしているのか。もっと早く言って欲しかった。
「待っているなら、急ごう」
「慌てなくても、大丈夫よ」
本人にとっては幼馴染で気安いだろうが、私にとっては赤の他人だ。
やばい。急がないと。ただでさえ、どんな人間か分からないのに、変な印象から始めるのは面倒くさい。
リズと一緒に、ギルドに向かい足早に進む。
道すがら話を聞くと、結構男勝りの女性らしい。昔は男の子をボコボコにしていたらしい。口は悪いが根はやさしいとの事。
何か、不安しか感じない。
ギルド手前で立ち止まり、少し休憩をする。息を整えながら、身嗜みをチェックする。
ギルドの扉を開け、エントランスを見渡す。リズが相手を見つけたのか、手を振り始める。
そちらの方を見ると、濃い茶色の髪の女の子が近づいてくる。革鎧と背中に盾を背負っているのが見える。腰には70㎝程の鞘の片手剣が釣られていた。
「初めまして。アキヒロと申します」
「おー。初めまして。僕はフィア。9等級。よろしく」
驚いた。僕っ子か。
驚きが顔に出たのか、怪訝な顔をしてくる。
「僕の喋り方?家は、男兄弟ばかりだから。こんな口調で勘弁ね?」
「いえ、お気になさらず」
ふと、気づく。目線を見た時に、値踏みされたのを感じた。戦力的な意味では無く、あれだキャバクラとかに行った時にママさんにやられるあれだ。
靴、指先、全体、服装、顔を見る。あの視線の動きだ。間違い無い、僕とか言ってるけどこの子も女だ。
「お待たせしましたか?」
フィアが眉間に皺を寄せた。
「何か、その喋り方気持ち悪いー。自然じゃない。何時もの口調で良いよ」
「そっか。ごめん。ありがとう」
「いーや。で、この人が言ってた人?」
リズの方を見ながら問いかける。
「うん。ヒロ。今回9等級になったって」
「へー。9等級の幾つ?」
またこちらに向き直る。
「今は48だね」
「あれ?冒険者始めたの、この前でしょ?何で9等級でそんなになってるの?」
「切り上げが有ったからかな」
フィアが納得した顔をする。
「あぁ、あれ。ダイアウルフとか言う奴?話、聞いた。すごいじゃん。6等級の獲物じゃなかったっけ?しかも1人で倒しちゃったって聞いたよ?」
どうも、色々話が交錯している様だ。今回の顛末を詳しく説明する。
「それでも、1人で倒したのに変わらないじゃん」
笑いながら見つめてくる。
あ、これ、あれだ。獲物を見る目だ。やばいな。
リズも気づいたのか左腕を上げ話しかける。
「ほら、ほら」
リズが腕輪を振る。
「え?リズ婚約したの?」
「昨日貰っちゃった。お先」
リズが満面の笑みを浮かべる。
「リズに先越されるとか。僕自信無くなってきたー」
「どういう意味よ、それ?」
リズが詰め寄る。
「絶対に僕が先って思ってたー。恥ずかしがりの甘えん坊に負けるとはー」
フィアが肩を落とす。
「なによそれ!?」
あー。話が終わらん。一旦話を止めて、今回のパーティーの件を話し始めた。
「6等級を1人で倒せるんでしょ?僕は大丈夫。お願いしたいよ?」
『認識』先生で確認すると、『片手剣』、『盾(小盾)』、『警戒』を持っていた。しかも、どれも0.5以上だ。
女性がソロで冒険者をやって行くのはかなりきつい筈だ。しかも9等級と言う事は討伐も行っている。
「ちなみに、いつもはどんな依頼をこなしているの?」
「僕はゴブリン相手かな?2匹位なら、なんとかなるよ?」
暗殺者みたいな倒し方ばかりしているから、ゴブリンの強さが分からない。でも人並みの相手を2人同時なら凄いな。
正直、魔術が無ければ今でも人間2人相手に一斉に殴られたら、負ける。絶対に勝てない。しかし『警戒』持ちか。
まぁ、ソロでゴブリンの群れを掻い潜って、獲物を探しているんだから上がるか。斥候と言うより、遊撃担当なら問題無いか。
前衛はリズ、中衛は私、遊撃はフィアかな。形にはなるな。
「あのさー。アキヒロさん」
「ん?」
「第二夫人でも良いよ?」
ぶっ。思わず、吹いた。
「フィーアー!!」
リズさんが、鬼の形相になった。
「だって、6等級の相手、1人で仕留めるんだよ?超優良物件じゃん」
フィアがしれっとした顔で答える。
「あー。ごめん。生まれた場所の法律で奥さんは1人って決まっているんだ」
「えー」
「フィーアー?」
「はーい」
うわー。この目は諦めてない。
形になる……かな?