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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第465話 重装と盾の話、そして味噌煮込みうどん

 食堂に入ると、濃い味噌の香りが漂う。リズ達も訓練が終わったのか、装備を脱いで手入れを終わらせてから、食堂の方に集まっているようだ。


「ドル、武器防具の手入れの方はどう? 鍛冶設備が無いから領主館内で出来る事は少ないと思うけど」


「革鎧に関しては、ほつれや衝撃による革の劣化が殆どだから材料が有ればどうにかなるが、重装の方は歪の蓄積だ。こっちは打ち直しが必要になる。表立って影響は出ていないが、近い将来にはガタつき始めるな。預かって、修理を一気にしてしまいたいし、現状の戦術を組み直して、もう少し手入れをしたい部分でも有る」


 ドル側の言い分だと、重装はさておき盾の基準はある程度決めて、壁を作りやすくしたいと言うのはあるようだ。実は現状ドルが持っている大盾が一番大きい。リズもリナも取り回しが出来るようにやや小さめの盾だし、パイルが付いている訳でも無い。接地して突進を食い止めるまでは考えていない。その代りシールドバッシュを使って能動的に立ち回れる仕様にはなっている。


「ロッサのあの件が有るだろう。あれが実装されるなら、盾の定義は大きく変わるだろう。積層型と言っていたか? 強度をずらした鉄を層にして盾にしてしまう。試験は必要だろうが、それが有効であれば、実装だな。それに体を覆う程の大盾を作ってしまえば、逆に使われた場合でも問題無い。試験の際には、板金を貫いた後に板金を用意した場合、貫通出来ない。勢いが一枚目の板金で解放されるんだろうな。そう言う意味では硬軟合わせた層と形状に打開点が有ると見ている」


 ドルもクロスボウの開発に携わった分、利点も欠点も見ている。重装で盾持ちと言うのは実はそう多いチョイスでは無い。通常、そこまでの重量物を扱えないからだ。『剛力』持ちの皆だからこそ、重装に大盾なんてチョイスが可能なだけだ。一般的な重装部隊は騎士になって足を馬に頼りランスで貫くか、長柄のパイクで槍衾を作って前進して来る。故に格好の的なのだ。

 ドルが考えているのは、現代のライオットシールドの上下を長くした物で半円状にする事により、斜面を増やし、避弾経始を考えているのだろう。実体の貫通弾しか無いこの世界でそこまで進めれば盾に関しては一旦進化も終わりだろう。近接武器に対しても同じように効果を発するし、こちら側は壁の後ろに隠れて殴るような物だ。衛兵志願者から『剛力』持ちを抽出し、制式化してしまう方が良いだろう。


「ドルの方針で問題は無いと思う。後で設計は渡すから、一旦試して欲しいかな。盾の進化はこの辺りが限界になると考えている」


「果てまで見たか……。何を考えているかは分からんが、これ以降は盾が意味を為さなくなると見ているのか?」


 ドルが目を眇めつつ、聞いてくる。


「いや、十年程度なら、最先端だと思うよ。ただ、それ以降は素材の問題が出てくる。どこかで他の素材を考え始めないといけない。同じ鉄でも色々違うでしょ? その辺りを突き詰めていかないと、次のステップには到達出来ないって話だよ」


 そう言うと、専門家なので、納得いったのか首を振る。


「材料の問題は有るな。後は金も有る話だから、保守用にもう一式重装作る方が良いとは考える。修理中に襲われてどうしようも有りませんでしたと言うのは問題だろう?」


「そこは町の防衛の要を担ってもらうから、町の防衛予算から捻出しちゃおう。正直、クロスボウの量産費用って驚くほど安い。軽装歩兵とクロスボウ、後は矢避けの盾だけでこっちは編成出来ちゃうからね。重装歩兵の量産を前提として試算されているから防衛予算が浮いちゃう」


「大盾持ちを文字通り壁にして、能動的にクロスボウが後ろから援護する事も視野に入れているのか……」


「あ、分かった? 基本は朱雀大路を隘路にして殲滅するけど、細かい単位で逃げられるのも問題だしね。機動性の有る編成も必要かなと」


「相手が悲惨だな……」


「攻めてくる方が悪いよ」


「違いない」


 苦笑し合いながら、話をそこで打ち切る。今後ドルは昼以降の時間を使って前の設計に合わせて、リズとリナ、そして自分の重装を作成するようだ。後は新型の盾の開発か……。スクトゥムが開発される前に金属製のライオットシールドかぁ。まぁ、弓が中型弓までしかないのならスクトゥムでもライオットシールドでも結果は一緒かな。


「ヒロ……」


 話が一段落したのを見てか、リズが声をかけて来る。


「どうしたの?」


「甘えてばかりで申し訳無いなとは思うけど……。昼の訓練を始める前に汗を流したいなぁなんて……」


 リズが言うと、女性陣がうんうんと頷く。


「あぁ、お安い御用だよ。食事が終わったら、風呂にお湯を入れておく。男性陣も入ったら、そのまま訓練に出れば良いよ」


「やったぁ。でも、ヒロも汗、大分かいているよね? そんなに過酷なの?」


「これは延々暑い場所で作業しているからかな。どうせ夜まで作業だし、風呂はまた夜に入るよ」


「そっかぁ。でも、無理はしないでね」


「そこは様子を見ながらやっているから、大丈夫」


 そんな雑談をしていると、漂っていた味噌の香りがきつくなる。


「皆様お待たせ致しました!」


 アレクトリアを先頭にカートに乗せた小さな小鍋が目前に並べられる。


「今日の昼ご飯は男爵様のレシピに御座いました、煮込みうどんです」


 鍋の蓋を開けるともうもうと上がる湯気の中に茶色の汁に肉や野菜と一緒に、うどんが入っている。昼食なので、この程度の分量がありがたいか。


「はは、アレクトリア。賄いでうどんを求められたのかい?」


「お見通しですか。昨夜は完食されてしまい、かなり文句を貰いましたので、ちょっと続いて恐縮ですが、うどんとなります」


 アレクトリアが頭をぽりぽり掻きながら、申し訳無さそうに言う。


「まだまだ暑いと言う季節でも無いし、温かいものはありがたい。伸びる前に食べちゃおう。では、食べましょう」


 そう言って、スープを口に含む。昆布出汁をベースにイノシシの出汁と、野菜の甘みが良く出ている。骨を煮込んで出汁を取るまでしていないせいか、あっさりとしたスープに仕上がっている。何より、汗をかいた身としてはこの塩分が堪らない。春菊っぽいものの苦さと味噌の甘み、脂の甘みとのコラボレーションを楽しみながら、麺を啜る。


 周囲を見ると、大鍋にどんとうどんが入っている訳でも無いので、争いは起きず、淡々と目前の小鍋を皆が楽しんでいる。昼からトドと言うのもあれなので、丁度良い分量なのだろう。


「鍋の際とは違いあっさりしていますが、これはこれで美味しいですね。複雑な美味さと言うのは変わりませんが、くどさが無く、すんなりと食べられます。なにより野菜の甘さ、苦みが堪りません」


 ロットが嬉しそうに言う。


「そうね。いつも少しくどいくらいに強い味になっているけど、これはこれで良い物ね。味噌の香り、甘みは損なわれず、美味しいわ……」


 ティアナも絶賛だ。


「きちんとイノシシも入っていて嬉しいです」


 ロッサもニコニコ顔でお肉を頬張っている。


 終始和やかに、うどんを啜り、最後に汁まで飲み干して、完食となる。

 流石に、かっかと汗が噴き出て来る。


「結局昼を食べて汗をかくなら、一緒か。風呂入れちゃうから、入っておいで」


 そう言うと、女性陣がいそいそと部屋に準備に走る。私は浴場に向かい、お湯を生んで部屋に戻る。途中で女性陣達がキャッキャと笑い合いながら向かってくるのに手を振り、部屋に戻る。少しだけ食休みの後は、味噌作りの続きかな。これが終われば、少し農家の方に顔を出したい。報告は上がっているが、小麦の件と今後の生産の件で話がしたい。やる事の量を考えると、頭が痛くなってくるが、領主としてはしょうがないんだろうなと腹を括る。

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