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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第457話 オークの目的に関する推測

 夕ご飯を食べた後は、お風呂も入ったので、そのまま部屋に戻る。タロとヒメにご飯を渡すと、かなり眠そうだが食い気には負けたのかハグハグと食べて水を飲み、力尽きてスヤァと寝入る。


「そう言えば、ロット達の家とかどうするの?」


 リズがベッドにぽふっと腰を下ろすと聞いてくる。


「んー。別に家が欲しかったら今からでも用意は出来るけど、何か言っていた?」


「館で世話になるのはありがたいけど、申し訳無いなって話はしていた。ドルとロッサもかな」


「水臭い話ではあるけど、どうしよう。この館も無駄に部屋が余っているから。使ってもらわないと傷んじゃうんだよね」


 ばらけても構わないが、何か有った時に同じ場所に集合しているメリットは大きい。それにこの五稜郭にいる限り何かが起こる心配はほぼ無い。


「あ、家って使わないと傷むんだよね。聞いた事があるよ。そう言う話ならこのままでも良いのかな」


「扱いとしても直臣になるしね。直属の部下を館で養うと言うのも別におかしな話では無いだろうし。でも、フィア辺りは料理の腕が上がらないかな」


 そう言うと、リズが明後日の方を向きながらヒプーっと鳴らない口笛を吹く。


「リズも……家事のレベル下がっていると、アストさん達が来たら、大変かもよ?」


 言った瞬間、リズが青い顔で縋り付いてくる。


「どうしよう。そろそろお母さん来るんだよね……。ここに来てから全部使用人の人がやってくれるから、家事とかやる機会無いよ。そんな状況で腕を上げるなんて無理だよぉ」


 やや涙目で叫ぶ。ティーシアの雷は……まぁ、落ちないだろう。男爵夫人が家事をする機会なんて無いと言う事を理解してもらえば良いか。ティーシアも確か良い所のお嬢様だったはずだし。その辺りの機微は分かってくれるだろう。


「男爵夫人としてどっしり構えていれば良いよ。まぁ、今はオーク対策の為、訓練の方が先かな。今問題を起こすとしたら、森の中のオークだしね。その後は国内の敵性貴族、塩ギルド辺りかな、東の国はロスティー様が頑張ってくれるだろうから気にしない事にする」


「うん。騎士団の人とも訓練しているから、かなり強くなってきたよ。棍棒でも人が飛ぶくらいにはなってきた!」


 何の訓練をしているのか。騎士団の人も大変だろうな。『剛力』の乗った重量物なんて、盾で受けても吹っ飛ぶ。神術士はいるので少々の外傷は気にしていないが。何か有れば呼ばれるだろうし。


「今は、レイと斥候団、それに冒険者ギルド側の監視網を築くのが先かな。敵の状況が分からないと手も出せない。ただ、トルカの北の森の状況を考えるとあまり良い状況じゃないだろう事は考えられるかな。オークは明らかに何かの目的を持って森に住み着いている。しかも永住とか子孫繁栄とかとは違う、明確な何かだ」


「確かに村だったけど、何か変だったもんね。何がって言われると困るけど」


 リズが考え込みながら呟くのを聞いて、ふと思い出す。確かに、戦士の他に女子供もいたが、それらが家族っぽかったかと聞かれると、微妙な雰囲気だった。掃討の後の村の中も見たが子供達の生活空間は存在したし、同じ天幕で複数人が同居していたが、それが家族として一体感を持って生活していたかと言うと何とも言えない。あの時は精神的にかなりきていたので、文化の違いかなと軽く流していたが、冷静に考えてみると、不自然な点が多い。百人からの人間だ……。何かが足りない……。


「そうか……」


 思わず声に出る。その声に反応してリズがこちらを向くが頭を撫でて微笑むと、微笑みが返ってくる。


「ありがとう、少し謎が解けた」


 そう。幼児用の玩具っぽい物は有ったし子供もいた。でも、赤ん坊はいなかった。妊婦もだ。人間なら生殖はいつでも可能だ。それを考えると不自然過ぎる。赤ん坊を養育する為の道具も設備も無かった。新設の村だからそんな用意が無いと言われればそれまでだが、あれだけの将が治める村だ。そんな用意が悪い訳が無い。

 そこまで考えて、地球で似たような設備が有った事を思い出す。ゲリラの前線基地、もしくは少年兵の育成基地だ。やつら、ディアニーヌから何を学んでいる……。って、どう考えても寡兵で町を攻め落とす手段だ。オークは生存域の拡大の為に村を作っているんじゃないんだろう。練兵とあわよくば人間の排除が目的か。だから、時期的に拡大を考えるタイミングでもそれらしい気配が無かった。

 想像でしかないが、どこかに大きな国が存在して、そこから尖兵として送り込まれている気がする。目的は人間の殲滅……か。村を建設するのは育成、練兵の為だ。その上で隙が有れば町や村を攻め落とす。先制攻撃を受けたとしても、離散して国に戻れば良いだけ……か。今までオークの親玉を倒したら離散したって言っていたが、元々それが指示命令なら問題無い。予定通りの動きだ。最低限生活できる器材を持ち出して、森沿いに帰れば良いだけなのだろう。


 そこまで考えて思わず、ため息が漏れる。

 オークは人間の殲滅を考えるのか?


<解。人間はオークの殲滅を考えています。逆のパターンが無いと考えるのは些か甘い考えと推測されます>


 ですよね。人間と魔物、不倶戴天の間柄だ。殲滅は双方が考えているだろうし、そこに創意工夫を加えるのは知的生命体の(さが)だ。オークの問題、これ、放っておいたら大問題だ。人間の生存域なんて限られている。でもオークは魔素がある程度濃い場所なら快適に生活が可能だ。人間は嘗めてかかっているが、相手は狡猾に強かに用意を進めている。東の森のオークの集落の様子を確認し、裏付けが必要か……。サンプル対象が近くにいて良かった。それに今の段階なら、先に攻められたとしても民に犠牲を出さずに対応可能だ。今の住民の数なら五稜郭に押し込める。その上で騎士団と衛兵で処理すれば良い。


 そこまで考えて、ふと気づくとリズが下から覗き込んでいる。


「どうしたの?」


「ヒロ、怖い顔している。何かあったの?」


 本当に勘が鋭い。やっぱり女の子だな。それなりに長く一緒に暮らしたのもあるか……。


「オークの目的が何と無く理解出来てきた。これ、各国共同で当たらないと駄目かも知れない。足並みを揃える必要があるけど、今の人間に可能かが分からない」


「むー。ヒロ、また自分で出来ない事で悩んでいる」


 リズがむくれる。


「何度も言っているよ。ヒロにも出来る事と出来ない事が有るでしょ? 悩んでも仕方無いなら、出来そうな人と相談したら良いよ。ロスティーお爺様もノーウェ子爵様もいらっしゃる。一人で解決出来る事じゃ無いんでしょ?」


 そう言って、力強く抱きしめてくれる。


「どうしてだろうね。ヒロはいつも先ばかり見て、諦めそうになったり、怯えたりばかりだね。辛いよ、一緒に歩きたいけど、どんどん先に行っちゃって追いつけない。傷ついて倒れた時に初めて追いつける。そんなのばかりじゃ、辛いよ……」


「リズ……」


「私もいるし、皆もいる。ヒロだけで出来ない事は皆でやれば良い。だから、傷付かないで……」


「ん。ありがとう。これに関しては、ロスティー様が戻られたら相談してみる。その頃にはノーウェ様も一緒だろうし、ある程度の指針は打ち出せると思う」


「よろしい。少しだけ、ましな顔になった」


 そう言うとリズが微笑む。その微笑みが何よりも大事で、愛おしい。


「と言う訳で……」


「訳で?」


「今出来る事と言う事で、子供を作る練習でもしようか?」


 そう言って、蝋燭を魔術で吹き消す。


「何でそう言う結論になるの……ちょ、こら、ヒロ、何処触っているの、って、あん……」


 ぱたんとベッドにリズを押し倒し、布団に(くる)まる。まぁ、考えても仕方が無い。まずは事実の積み重ねが必要だ。それを個人でやる必要もなかろう。リズの言うとおりだ。今出来る事からこつこつと実績を積み重ねていくしかない。この辺りは現代の日本のビジネスでも一緒だ。先は見ないと駄目だけど、先だけ見ててもどこかで躓く。未来と現実、両輪を回してこその人生だ。十六の子供に改めて教えられるとは。私も耄碌してきているのかな。もう少し、周りを頼る事にしよう。


 春もそろそろ深くなり、花の香りはどこまでも強く、甘やかに色付く。開け放った窓からは雨で湿った空気と一緒に何とも言えない香りが漂ってくる。春の雨が過ぎればそろそろ暑さも増してくるか。この世界では初めての夏だな。そう思いながら、柔らかな体を強く抱きしめる。ありがとう、リズ。本当に助けられているよ。

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