表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第一章 異世界に来たみたいだけど如何すれば良いんだろう?
46/810

第43話 人間を使うというのは、難しいものです

 動きを感じて、目を覚ます。

 穏やかな顔で、こちらを見つめている。心なしか肌が艶やかだ。看病疲れの際のやつれた感じは微塵も無い。

 聖母の様な微笑みで口を開く。


「おはよう、ヒロ。昨日は、ありがとう。恥ずかしかったけど……やっぱり、ずるい」


「そういうものだよ。気持ち良かった?」


「気持ち良かったわよっ……ばか……」


 着替え、食堂に向かう。

 朝食が用意されていたが、心なしか豪勢な感じがした。店主の方を見ると、ニヤッ笑いながら目礼された。流石だ、店主。


「朝から豪華ね」


「宿の方も祝福してくれているんだろう」


「うーん。あまり豪華が続くと、困りそう」


「太る?」


「ばかっ」


 叩かれた。

 料金は支払い済みなので、そのまま宿を出る。


 去り際に店主が見送りに来たので近づき、囁く。


「完璧でした。ありがとうございます」


「いえいえ。ご満足頂けて幸いです。またのお越しをお待ちしております」


 良い宿だ。やはりプロフェッショナルはこうでなくては。


 アスト宅に雑談しながら戻る。何度か叩かれた。

 家に入ると2人とも、もう起きて動いていた。

 ふむ。雰囲気がいつもと違う。あぁ、久々の2人きりと言っていたか。若いなティーシアさん。


 取り敢えず、昨日村を回っている際にちょこちょこと話を聞き薬師ギルドの往診の料金は聞いていた。

 日当で10,000との事。結構高いが、まぁ、専門職が往診して処置するんだから、そんなものかとは思った。


 キッチンに立ったティーシアに、そっと50,000ワールを包んだ端切れを渡す。


「あら?……駄目よ、こんなにも」


「往診も有りましたし。お世話になっていますので」


 若干悶着は有ったが無事受け取ってもらえた。

 部屋に戻ろうとすると、リズがついてくる。

 部屋に入り椅子に座り、ベッドへの着席を促す。


「話が有るの」


 真剣な表情だ。


「私も冒険者になる。この前みたいなのは嫌なの。傍にいさせて」


 両手の拳を握り、胸元に引き寄せ、フンスッと言った顔をしている。可愛い。


「そうなのかー」


 私は、微笑みながら頭の中で、頭を抱えた。


 正直、信用出来るかと言えば、信用できる。信頼出来るかと言えば、訓練次第だが出来るだろう。

 だが、だがだ。



 この子、潰しが効かないんだよなぁ。



 適正は『剛力』が有るので前衛向きだろう。だが『剛力』って筋力を覆う物だろう?

 骨は大丈夫なのか?何か硬い物を切りつけて骨が折れたりとか。


 <解。『剛力』の魔力が筋肉から骨への衝撃をアブソーブします。>


 『識者』先生の言う通りなら、大丈夫か。でも魔力を使っているのに何故『術式制御』が生えないんだ?


 <解。アクティブな『術式制御』とパッシブな『剛力』では、精製の経路も質も違います。両者は競合しません。>


 そう言う事か。だが前衛は良いが、この子戦った事が無い。あの片手斧も非常用でほぼ使わないとの事。

 それに嫁を前衛に出すのか?傷付くのを許容出来るのか?


 じゃあ、後衛かと言うとこれも問題が有る。

 短弓は使えるが、正直貫通力が無い。鳥やキツネ等の小動物、ゴブリンや人間程度なら問題無い。

 ただ、イノシシや熊等の毛皮と厚い脂肪層に覆われた相手には通用しない。硬いのにも無理だ。

 もっと強い弓か長射程のロングボウに転向するかと言うと、話は単純じゃ無い。

 同じ弓だが、全く使い方が異なる。習熟するまでかなりかかる。


 まさしく、純粋に職業狩人なのだ。


 適正は重装化して、盾と鈍器か長柄の槍やハルバードを持つ事だ。

 力点と作用点を考えれば、ウェイトが増す事によって、『剛力』のパフォーマンスが上がる。

 『剛力』で重装も問題無いし、盾も鈍器も操れる。何をするにしても一から覚えるので問題は無い。

 また重装でウェイトが増す事により『剛力』の習熟も図れる。一石三鳥だ。


 ちなみに何故鈍器かと言うと、斧を武器にするのが難しい事だ。

 薪割の小さな斧じゃ無く、樵用の大型の斧を振れば分かるが、上手く刃筋を通すのが難しい。

 何とか当てる事は出来てもジャストミートで刃筋が通る事は初心者ではまず無い。


 その上で、何が問題かと言うと、先立つもの、金だ。


 7等級パーティーで前衛がディードのキュライスだけだ。アリエですら革鎧だった。

 要は、重装は高いのだ。


 うわぁ、きつい。正直この村にいる間は通い妻。町に出れば家を守ってもらうと考えていた。

 だって、この子に冒険者は向かないもの。


 しかし、この前の失態を考えると、言い分は分からないでも無い。

 一緒にいたいのは分かる。はぁぁぁ。

 ため息が零れる。


「前衛と後衛、どっちが良い?」


「どっちでも良い」


「斧使いたい?」


「いや、拘っていない。元々護身用で持たされた物だもの」


「盾と鈍器で前衛でも大丈夫?」


 半ば諦めながら、聞いてみた。


「その方が良いなら、頑張る」


 やっぱりフンスッと言った顔をしている。可愛い。


 重装化は将来考えるとして、盾は重要だ。

 この前パーティーの話が出た時に『識者』先生に聞いてみたが、この世界の住人もスキルの樹状構造の影響は受ける。

 要は小型の盾を使っている人間は、中型や大型の盾に転向する時に習熟にボーナスがかかる。


 じゃあ、弓はどうなんだと言う話なのだが、弓ってコストが半端じゃ無い。矢だって無料じゃない。軍人なら国が支払うが、個人の収支だとかなりきつい。

 狩りの際の矢は、獲物の価値の方が上だから許容出来るのだ。

 矢を回収すればと言う話になるが、そのまま再利用可能な状態な訳が無い。鏃だって歪むし、矢羽も荒れる。

 詳しい割合は知らないが、再利用率は高くない。まずそのまま再利用は難しい。補修が必要になる筈だ。

 歴史上で言えば、赤壁の孔明の話が出そうだが、あれだって態々柔らかい藁人形に当てさせていたし、使えるものをニコイチ的に組み合わせて使った筈だ。

 特に魔術が使える私がいると、前衛一択なんだよなぁ。


 しょうがない。ゴブリン辺りから、そもそも殺せるかを始めるか。


 あぁ、人生ってままならない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク、感想、評価を頂きまして、ありがとうございます。孤独な作品作成の中で皆様の思いが指針となり、モチベーション維持となっております。これからも末永いお付き合いのほど宜しくお願い申し上げます。 twitterでつぶやいて下さる方もいらっしゃるのでアカウント(@n0885dc)を作りました。もしよろしければそちらでもコンタクトして下さい。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ