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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第448話 鹿出汁の大麦粥とソテー

 伝令の人も起きたからと言って、即座に話が出来る訳では無い。食事も有れば、身支度も有る。先に使用人を介添えに風呂に入ってもらっている。


 トルカ村までは伝播していないが、ノーウェティスカでは湯船方式の公衆浴場が計画されていると言うのは西の方からやってくる商人の噂だ。ノーウェも仕事が早い。良いと思った物はさっさと取り込んでしまうのだから臨機応変で果断な性格だ。本当に良いリーダーをしている。

 風呂の設備に関しては、別の釜で温め、継ぎ足し継ぎ足しでやっていくようだ。水源が豊富な為、水に関しては問題無い。薪はやはり貴重なので、釜で温めたお湯を流し込む形になったようだ。と言う訳で、伝令の人もまだお風呂の実物には入った事が無いので、介添えの人に色々教えてもらいながら、お風呂を楽しんでいる頃だろう。お湯は先程張り替えておいた。


 厨房に向かい、アレクトリアを見つけたので、伝令の人に出す料理を聞いてみる。


「はい。携帯食が続いている筈ですので、お腹に優しい物ですね。鹿のガラが有りますので、それで朝から出汁を取っています。そちらで大麦の粥を作って、軽く鶏のソテーなどを出す感じでしょう。後は春野菜の茹でた物に、頂いた味噌を基調にしたソースをかける形ですね。ゴマと味噌は本当に合います。そちらを出汁で伸ばしてかけます。しかし男爵様は色々隠しておられて、ずるい気がします」


 アレクトリアがじとーっとした目で見て来るので、内容に関して問題無い旨を伝える。


「創意工夫する方が楽しいと思うけど。答えを知りたいの?」


「その質問はやはりずるいです。初めて味わう感動は、私だけの物です。そうですね……。精進するしかないんですね」


「食材に関しては、渡している物は自由に使って良いから、自分の納得のいく物を作れば良いと思うよ。そうしないと誰かに言われた物を作るだけの人間になってしまう。レシピもあくまで参考でしかなく、天候や相手によっても千変万化すべきだと考える。基礎が有るから応用が有るようにね」


「分かりました。昔から料理に正解は無く、ただその時の最適が有るだけと教えられましたが、男爵様が仰る事もそうなのですね」


「うん。それは良い言葉だと思う。正解は無いかな。相手が求める物を提供出来た時だけが正解だし、それを指して最適って表現しているのだと思うよ。それに調理の基本は教えたし、その調理によってどのような効果が発生するのかも教えたよ。後はそれを組み合わせて、自分が、相手が美味しい物を探していくだけだよ」


「美味しい物……ですか。まだまだ先すらも見えない状況ですが、もう少し頑張ります。まずは弱っている方への優しい料理として教えて頂いたレシピを元に、今回の伝令の方への食事を考えてみます。しかし、粥の水分に出汁を使いますか。家庭でも野菜スープなどをベースに使いますが、考え方は一緒なのですね」


「そうだね。それが単一で雑味が無く、さっぱりしている物と考えれば良いんじゃないのかな。鹿の出汁も甘み、うまみが豊富だし、食事も碌に取れなかった人間には嬉しい物だと思うよ」


 そんな雑談をしていると、伝令の人がお風呂を出た旨を侍女が伝えてくる。これから食事をして、報告の時間だ。私はそれまで自室で書類作業かな。少しだけ納得した顔のアレクトリアに手を振り、頑張ってと声をかけて部屋に戻る。


 湯上りのタロとヒメは、昼ご飯も貰って上機嫌だ。雨の日の憂鬱はどこかに行ったのか、お風呂でさっぱりしたせいか、部屋の中を二匹でじゃれまわっている。部屋に入ってくる音を聞き、私の姿と匂いを確認すると、たたっと寄ってきて、しっぽを振り出す。


『まま、あそぶの』


『ぱぱ、あそぶ』


 『馴致』で遊びたい感情が溢れ出してくる。特にタロに関しては夢に見るまでフライングディスクで遊んだ記憶が鮮明なので余計なのだろう。


『仕事で手が離せないよ。外は雨だから遊びにも行けないね』


『ざんねん……』


『あそび、なし……』


 タロとヒメがちょっとしょんぼりした感じで、また部屋の真ん中の方に行って二匹でぱたぱたと遊び始める。お互いのしっぽを追いかけるゲームらしい。その内バターにならなければ良いけど。


 通常、伝令の人間とであれば会食と言う形になるが、相手側の都合で寝ていた為、それは無しで済ませられる。まぁ、ゆったりご飯を食べてもらってから、報告を聞く事にする。


 しとしとと音が鳴るか鳴らないか程度の勢いで雨が降り続ける。採光の為に開けている窓から吹き込む程の雨量は無い。風は生温く、紙が水分を吸いそうなので、必要な書類以外は箱に戻す。決裁系の書類は延々生み出されてきているが、カビアの方で処理して確認だけというのも増えてきた。内容を確認しても大きな問題は無いので新規案件以外の継続案件は任せてしまっても良いかもしれない。


 今ちょっと気になっているのが、自分の資産に関わる内容だ。正直、色んな物を色んな人が、色んな形で独占販売権やギルド預かりの商材にするので総資産が全く読めない。しかも還付の分も入ってくるので、資産が流動的過ぎて追い切れない。今は予算がガバガバだから良いが、その内領主のお金で新規開発をして、上りが出た段階で回収すると言う流れも出るかも知れない。それなのに、自分の財布の中身も分からないと言うのは悲しい。いや、本当の意味での資産は冒険者ギルドに預けている額で、把握はしている。ただ、それ以外に勝手に増えたり減ったりするお金に翻弄されている。書類を読み進めていっているが、時系列だけでは分からない。これ、政務側に聞かないと分からない内容な気がしてきた。カビアもそうだし、ペルスとも合わせて、資産表と出納を別途用意してもらおう。執事も一部を知っているだけっぽいし。


 そんな感じで書類をまとめていると、タロとヒメがまた寄ってくる。今度は遊びたいと言うより、構って欲しいと言う感じだ。書類も他の人がいないとどうしようもないところまでは整理出来たので、相手をする事にする。


 わしゃわしゃと全体的に撫でてあげて、ブラシで毛を梳いていく。まだ換毛期には早いので、抜け毛は無い。でも後ひと月もしたらもこもこの毛玉の塊がいくつも量産されるんだろうなとちょっと憂鬱になる。室内が狼の毛でいっぱいになってしまう。

 ブラッシングされるのは二匹共好きなので、うっとりとした表情で大人しく伏せている。背中が終わると機敏にお腹を向けてくる。ヒメも一緒なので、そう言う意味での野生は無く、まぁ、安心感に満たされていると言う事にしよう。しゃっしゃっと全体的にブラシを当てて、終了となる。ぴかぴかになった二匹が満足したのか、箱に戻って丸くなる。少しお昼寝の時間らしい。


 もうそろそろ食事も終わっているだろうし、会談の時刻かなと思っているとノックの音が聞こえる。侍女が伝令が応接室にて待っている旨を伝えてくる。

 さて、偶には領主らしいお仕事も頑張りますか。

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