第446話 人魚さん達の子供の件に進展が有ります
心地良い温かさを感じながら、目を覚ます。肩口にリズがぺとっとくっ付いてきている。起こさないように気を付けながらベッドを出る。窓を開けると肌寒かった昨日とは打って変わって、生温い。今にも雨が降りそうな天気だ。太陽も頭を出した程度なので、まだ薄暗い。四月十日雨が降りそうな曇りと。最近全然雨が降っていないので、丁度良いのかなとも思う。建設された建物も設計上は雨漏りの心配はいらないんだけど、実際に雨が降ってみないと分からない部分は有る。そう言う意味では建設ラッシュの今、実際に雨が降ってみないと分からないのでありがたいと言う事になる。
タロとヒメの食事を取りに行こうかなと思ったら、執事が息せき切ってこちらに走ってくる。慌てない人が何事かと思って待っていると、目の前に立ち、肩で息をしながら伝えてくる。
「ノーウェ子爵様の伝令が到着致しました。テラクスタ伯爵閣下より書状です。四月六日の段階でノーウェ子爵様よりの鳩を受け、軍の準備を整えるとの事。騎士定数五十を準備の上、該当の男爵領にて囚われている人魚達の子供に関してテラクスタ伯爵の名において助け出す事を確約されました。また、今件に関する責任に関しては、ロスティー公爵閣下、ノーウェ子爵様と合同にて王家に伝えた上で対処する為、安心せよとの事です」
ノーウェの書状で動いてくれたか。一番近いのは伯爵領だったから、助かる。しかも六日ってノーウェが鳩を飛ばしてすぐか。果断出来る人なんだろうな。何にせよ動いてくれるのは確実になった。どう考えても五十からの騎士を集めるのに二日、一番近い村から問題の村まで二日はかかる筈。という事は今日辺り、攻め込む日程かな。これで人魚さんの子供達が助かれば望ましい。
「伝令の方に食事と、風呂の支度を。出来る限りの歓待をして欲しい」
「いえ。ご本人は出来ればベッドを借りたいとの事です。朝も夜も無く馬で駆けて来たので疲労困憊のご様子です」
テラクスタ伯爵の町からノーウェティスカまで鳩で1日弱、そこからここまで五日弱の距離だ。先程の話だと四日弱でその距離を馬で駆けている。下手したら馬が休む最低限以外、休んでいないぞ、この伝令の人……。
「分かった。客室を用意し、起きられたらすぐに温かい食事をお出し出来るよう用意して欲しい」
「畏まりました。対応致します」
執事はそう言うと、応接室の方に駆けていく。ノーウェの、それも吉報をもたらしてくれた伝令だ。粗相の無いようにお願いしたい。
でも、何の情報も無く悶々としていた人魚さんの件に情報が入ったのは朗報だ。騎士が五十人もいればちょっとした村一つ制圧は可能だ。冒険者ギルドの時のノーウェの軍を見ていれば分かる。それが動いてくれたのなら、この件は心配いらないかな。気付かず、ほっと安堵のため息が零れた。自分が動けない事態はやはりあまり好きでは無い。ノーウェは安心して良いと言っていたが気になる物は気になる。でも、一旦は一安心かな。
当初の目的の通り、厨房に向かって、タロとヒメの食事を取りに行く。伝令の人が起きた後にでも詳しい話は聞けば良いだろう。それまではいつも通りの日常を送るべきだ。
厨房に入ると、いつも通り慌ただしい。料理人の人がこちらを見つけると、いつも通りタロとヒメの食事と判断したのか頷き、奥の倉庫の方に向かって行く。暫く待っていると、切り分けた鹿肉とモツを持って来てくれる。昨日の残りだろうか。モツは鹿では無いだろうが。
「いつもより慌ただしいかな?」
「はい。ノーウェ子爵様の伝令の方が参られましたので。歓待の準備が有るだろうと言う事で、対応を始めております」
「本人は眠るのを優先したいって執事から聞いたけど」
「そのお蔭で用意に時間のかかる物も出せます。その為、アレクトリアさんが今、走り回っています」
「はは。そうか。折角のお客様だ。存分に持て成して欲しい」
「畏まりました」
笑顔で料理人が頷くと、また作業に戻る。
食事を持って部屋に戻る。皿に取り分け、タロとヒメを起こす。
『まま、もっとあそぶの!!』
タロが寝ぼけたのか、何か夢を見たのか、起きた途端いきなり『馴致』で要望を伝えてくる。
『タロ、起きたばかりだよ? 何で遊ぶの?』
『あれ? とぶの、あそぶの……』
余程フライングディスクを気に入ったのか、夢に見る程なのだろうか。
『まずはご飯を食べよう』
二匹に『馴致』で伝えると、ヒメも嬉しそうにしっぽを振る。待て良しをして、食事が始まる。
食事をしている間に、今日の予定をまとめてしまう。伝令の人が起きたら書状を貰って話を詳しく聞く形かな。一時間、二時間で回復する物でも無いだろうし、朝はチャットの魔道具の件と、石鹸で潰れるかな。
食事を終えた二匹に水を生み、リズを起こす。少し肩を揺すると、薄く目を覚ます。昨日の晩はかなり早く寝たので寝覚めはすっきりだ。
「おはよう、ヒロ」
「おはよう、リズ」
掛け布団を剥して、リズが立ち上がろうとするのを支える。
「ありがとう……。ん? ヒロ、何か有った? 少し嬉しそう」
「あぁ。朝ご飯の場ででも話そうかと思っていたけど、ノーウェ様から伝令が到着した。テラクスタ伯爵閣下の軍が人魚さんの子供達の村に向かっている。日程的には今日辺り、攻め込みそうな感じ」
「ノーウェ子爵様が仰っていた件ね。詳しくは聞けていないけど、子供が囚われていたって言う話よね。軍が出たのね……。という事は一安心かな?」
「軍の支度をすると言うのが正式なところだと思う、伝令のタイミングを考えれば。ただ、もう用意をするなら実施もする。という事は間違い無く救出まで動くとは考える」
「じゃあ、大丈夫そうなのね。軍事の事までは分からないから、はっきりした事は分からないけど、少しは安心出来ると言う事ね」
「少なくとも、村一つを制圧出来るだけの兵力を用意すると明言したからには、間違い無く片付く筈だよ。安心して大丈夫」
「良かった。人魚さん達の悲しむ顔は見たくないし、喜んでくれるなら嬉しいな」
「うん。まぁ、何にせよ、伝令の人が起きてからかな。皆はどうする? 室内の訓練は良いけど、雨が降りそうだよ」
「え? うわぁ、本当だ。雲が厚い……。んー。偶には休みにしちゃおうかな。昼からは皆で遊んでおくよ」
「うん。息抜きしたら良いと思うよ。ずっと訓練をお願いしているからね。休める時には休んだ方が良い」
「ふふ。偶には皆で遊具で遊びたいかも。ちょっと楽しみ」
そんな雑談をしながら朝の準備をしていたら、扉がノックされる。返答すると侍女で朝食の支度が出来たそうだ。さて、今日も一日頑張ろうか。