第442話 防塵グラスの製造が始まります
中央の方で昼ご飯をとも考えたが、職人街の方の軽食屋や屋台がどうなっているのか気になるので、そちらで昼ご飯を食べる事にした。個人的に東南アジアの屋台でも普通に食べる派だ。ただ、生水は飲まないし、氷も怖くて避けていた。
てくてくと町の東側に向かって進む。徐々に活気づいてくる雰囲気を感じて嬉しくなってくる。産業が活発なのは町にとって良い事だ。現在は建設に関わる資材を持ち込みから現地で作るサイクルに変わっている過渡期だ。職人街の設備を先んじて建設して行ったのも、材料の加工を現地で行うために必要だからだ。加工品を持ち込むのはコストがかかるだけ無駄だ。
中央にほど近い場所に、屋台や軽食などを扱うお店が集中している。川沿いまで近付いた東の端の職人達には少し遠いが、今後の拡張を考えると、中央に置いておいた方が便利になるだろう。販売系の店舗は中央側になるので、納品と併せて食事を取るスタイルと言うべきか。職人さんの場所なのに職人さんに不便をかける訳にはいかないので、ここだけでも乗合馬車の試験運用を開始しようかなとは考えている。元々、職人の人達は早い段階で町に入って作業をしてくれている。人数もいるので、ある程度以上の需要が見込める。なので、運用しても問題無いかなと。これもペルス案件かな。政務側に待ったをかけているのは私だし。きちんとした説明も一回しないといけないだろう。
並んだ屋台から、珍しい物を探すが目新しい物は無い。適当な鳥の串焼きとパンとピケットを買い込んで、道端のベンチで食べる。皿は返却式で各屋台が別々の皿を使っているようだ。食器を戻すスペースもきちんと存在している。そこに戻された食器類はまとめて洗われて各店舗に返却される。イメージ的にはデパートとかのフードコートのイメージに近いのだろうか。
味としては可もなく不可もない味だったので、良かった。あまりに美味しいと飽きるし、不味いとそもそも食べる気が失せる。毎日食べる物なのでこのくらいの匙加減がちょうど良い。
食事が終わり、腹ごなしとしてそのままネスの工房まで歩く事にする。
工房の前に着き、声をかけるとネスが現れる。
「おいおい。釘の件は開発の指示を貰ったばかりでまだ結果は出ていないぞ」
「それは残念です。ダーツの方はどうですか?」
「そっちはほぼ定数の作成は終わった。やっと釘の方に手が出せ始めた状況だな」
ダーツは自分が気に入っているのもあってか、力が入っている。ただ元々告げられていた納期より早いという話なので、有りがたい事ではある。
「今日は別件で来ました」
「おい。もう案件は持てんぞ?」
「ネスにと言うより、ガラスが触れる職人さんを紹介して頂くか、仕事を仲介してほしいのです」
「ガラスか……。何人かはいるが何を作るんだ」
「薬物の調合の際に、目を保護したいと思いまして。このような物を考えています」
合間を見てざくっと描いた設計図とポンチ絵を見せる。薬が風に乗って飛んでも目に入らない絵が描いている程度のポンチ絵だが。
「枠は木で良いのか?」
「願わくば青銅が望ましいですが、重くなるのと細かい細工になります。手を煩わすのはちょっとと思いまして」
フレーム部分に関しては手作業で伸ばしていくしかないだろう。鋳造する事も将来的には出来るが、まずは試作の必要がある。
「ガラスの方は若干手が余っている筈だ。枠の方は大工だな……。大工は本当に手が空いていない。最終的に青銅でやるならこっちで面倒見るぞ?」
ネスが難しい顔で言う。人員のマネジメントも任せているので、その辺りの調整も頭に入っているのだろう。
「釘の方が忙しいんじゃないんですか?」
「釘に関しては、現物もあるしな。型を作って、材質さえ見極められたら増産はそれなりに容易だ。その辺りは他の職人にやらせる。それにガラスの細工と枠を合わせなきゃなんねぇっぽいしな。俺がやる」
「そうして頂ければありがたいのですが、なんだか人員的に勿体ない気がします」
「いや、目的は目の保護だろ? 丸砥石使ってても、目に飛んでくるなんてのはざらだ。そういう意味では俺等にも価値は有る。やらせろ」
ネスがポンチ絵を見ながら、言う。
「分かりました。稼働が調整出来るのであればお願いします」
「おう。今は稼ぎ時だからな。皆、死ぬ気で動いてやがる。何とかならぁ」
朗らかにネスが言うのを頼もしく聞く。これで防塵グラスに関してはなんとかなったかな?