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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第441話 塩析済み石鹸と魔道具の様子見、そして執事との語らい

 てくてくと領主館に戻る。最近馬車での移動が増えて、歩いて移動するのが減っていた。日本で住んでいた時も殆ど自転車での移動ばかりだったので、この世界に来てから健康的になったとちょっと喜んでいたが。結局人間は楽な方に頼るんだなと久々に歩いて思った。町の中の移動くらいは歩こうと決心する。将来的には襲撃の恐れなども考慮しなければならないだろうが、今はとくにそこまで神経質になる程でも無い。『警戒』と『隠身』の訓練の為にも、積極的に町の中を歩いた方が良い。

 それに為政者として町の中を観察する事は大事だし、なにより町が発展して行く様をリアルタイムで確認出来るのは心躍る。町の中央の方はいち早く発展が進んでいる。各政務職員の方で住民に色々と町の事を聞いてみたが、役所までの遠さは気にならないらしい。元々歩く文化の世界だし、逆に住宅地近くに作ったスーパーが便利過ぎて驚いているレベルだ。距離に関しては杞憂と言うのが分かったので、乗合馬車の運用はもう少し外周まで居住区が広がってからでも良いかなとは思う。住民サービスと馬を遊ばせない為に実施する事なので、住民カードを提示すれば、無償のサービスになる。ただ、それでも今のままだと採算に合わないし、住民達が歩かなくなるのは逆効果だろう。


 そんな事を思いながら、領主館に着き、そのまま倉庫に向かう。

 侍従達には掃除含めて、立ち入り禁止を告げているので誰も立ち入ってはいないだろう。念の為かけてある鍵を開けて中に入る。

 天井近くの窓は開けて換気しているので、鍵の意味が有るのかと聞かれればあまり無いとしか答えられない。窓の内鍵は閉められるけど石鹸の冷却と乾燥の為に今は開けている。その内網戸も開発しないと、夏場は虫が入ってきそうだ。採光の為、布を張った枠を取り付けたりしているが、風の通りは悪い。今はまだ涼しいから良いけど、暑くなって来たら大変だろう。昔の蚊帳も麻で作っていた筈だから、網目の粗い麻の布をお願いしたら良いかな。


 火から降ろした鍋は大分冷えて石鹸が表面の方で少しだけ固まり始めている。匙で触ると、マッシュポテトのような感触だ。見た感じ、色はかなり薄くなっている。元々揚げ物を繰り返し、大分茶色かったが、なんとなくカフェオレを思い出させる色になっている。

 指で表面に触れるとしっとり感は残しつつも、若干もろっとした硬質な感じも返してくる。このまま一晩程度固まるのを待って、取り出す事にしよう。明日用に木匙を差し込み、抜きやすいようにしておく。きっと鍋にがっちり固まる筈なので、差し込んでおかないと石鹸そのものが抜けなくなってしまう。


 ぱたぱたと扇いで匂いを嗅いでみるが、油物の臭いはしない。鼻を近づけると、ほのかに香るが、殆ど感じない。これなら香油を混ぜても目立つかな。何度か塩析を考えていたが、一回でここまで影響が出るなら必要無いかな。今回は植物油の廃油を使っているので比較出来ないが、イノシシの脂の場合獣臭さはどこまで抜けるんだろう。一度試さないと駄目だけど、まずは廃油の処理の方を進めていこう。


 まだまだ排出量は少ないけど、実際に競馬場がスタートすれば廃油の量はもっと増えるだろう。早い段階で処理方法を確立しておかないと汚染源になってしまう。米糠は無いけど、麦糠や(ふすま)は捨てていると言うので、その辺りと混ぜて発酵させて肥料にしてしまうのも手かな。発酵には一か月程度かかった記憶が有る。石鹸と並行して進めよう。


 ただ、作業量が増えてきたので、他の人に任せたい部分は有る。ティーシアが来たら喜んでやりそうだけど、そこは普通の石鹸作りをお願いすると言う事で。水酸化ナトリウムを使うパターンでの石鹸作りが出来る人間を一人育てようか。後、廃油での肥料作りの面倒も見てもらわなければならない。侍従と相談して持ち回りか専任で人を付けてもらおう。

 後は有害な薬物なので、せめて防塵用のメガネは欲しいかもしれない。ゴーグルの形にガラスを成形って出来るのかな。その辺りも一緒に相談してみよう。 


 順調そうな石鹸を埃の被らない風通しの良い場所に移動させて、乾燥させる。さて、次はチャットの方かな。そろそろ四時間以上は経過しているし、流石に結果が出ているだろう。

 体に臭いが付いていないか確認してから、チャットの部屋に向かう。


 扉をノックすると、中から応答が返ってくる。


「あれ? まだ訓練に出ていなかったの?」


「訓練に出る言うても、まだ火が着きっぱなしなんです」


 チャットが暖炉の方を指さすと、着火装置の先には変わらず火球が浮いている。


「箱の横から開けられるので、中を覗いてみたんですが、全く核は濁って無いです。訳が分からんと言うのが正直なところです」


「まだ、四時間程度でしょ?」


「一般的な大きさの核で同じような魔術を行使した場合、前も言いましたが三十分から一時間で核がへたります。この一時間って、魔道具作りでも練達の方のお仕事です。一般的に三十分から一時間まで伸ばすのにそれだけの修行と言うか試行錯誤を繰り返さんといけないんです……」


 あー。魔力の流れを電気と同じように考えている所為かな。サンプルで見た物に関しては、とにかく抵抗になりそうなイメージが多かった。そう言う意味では、単純に必要最低限を滑らかに送り込むイメージで作ったのでそんな事は起きないだろうと思っていたが……。そこまで変わるか。


「このままやと、どの程度時間がもつのか分かりません。私も拘束されっぱなしなんで、出来れば侍従の人に持ち回りで見てもらう言うんは無理でしょうか? ちょっと政庁の方に魔術学校の件で呼ばれてるんです」


 チャットが若干困った顔で言う。


「それは可能だと思うけど、延焼の心配は無い?」


「蝋燭と同じような物なので、延焼の心配は無いです。暖炉の中に燃える物は無いですし。また物凄い時間をかけて移動していますので、端まで行ったら一回切ってもう一度実行したら良いだけです」


「執事の方にその旨を伝えておくから。人に入ってもらうけど、それは良い?」


「見られて困る物も有りませんし、大丈夫です。現状が信じられへんと言うか、リーダーの規格外さを改めて理解しました」


「それは心外。私は術式を感じて、無駄を省いただけだし」


「それが規格外言うんですけどね」


 チャットがそう言うとお互いに苦笑いを浮かべる。


「じゃあ、これからちょっと執事にお願いしたい事が有ったから、話してみるね」


「お願いします」


 チャットが頭を下げるのに対して、手を振りながら、部屋を出る。その辺りを歩いていた侍女に執事の居場所を聞くと政務室で書類作業中と言われた。御礼を述べて、執務室に向かう。


 政務室の扉をノックすると、執事が応答を返す。名乗った上で、中に入る。


「これは、ご領主様。如何(いかが)致しましたか?」


「二点程お願いが有って来たんだけど……」


 先程の石鹸と肥料作りの人材のアサイン。それにチャットの観察の手伝いの人材のアサインを相談してみた。


「チャット様の件は日次の余剰人材がおりますので、そちらにお任せ頂ければと思います。もう一件に関しては、侍従と言うより、作業者ですね。薬師ギルド上がりの人材も余剰人材の中におりましたので、政務団の方と調整致します。ペルス様の方で人事を管轄されておりますので、そちらに相談してみます。カビア様にも私から伝えておきますので、後程異動の了承の書類を頂ければと考えます」


「分かった。大切な話なので、緊急と分かるように書類に何か目印を付けておいて。では、チャットの方は頼むね。本人もちょっと別件が有りそうだから」


「畏まりました。即時対応致します。ご用件は以上でしょうか?」


「今のところは。ちなみに、政務室で何か用事が有ったの?」


「はい。領主館の出納に関しては私が権限を持っておりますので、そちらの記載の為です」


「あぁ、そうか……。帳簿的に大丈夫? 大分出費が(かさ)んでいるけど」


「予算内の範疇に収まっておりますので、そこは大丈夫です。ただ、ご領主様ご自身の収入と混同して使っている部分との仕訳が面倒と言えば面倒ですね」


 あー。自分のお金で始めて事業化しちゃった件なんて、どれだけあるか……。


「事業化した物に関しては、改めて予算を紐づけて、ご領主様に還付する形になります。通常は領内で予算計画が有って試行して、実施の流れですが……。この町ではご領主様が作り出した物が動く前提で町が作られていると言うのが不思議でなりません。未来でも見えるのでしょうか?」


 ベルフが若干呆れた顔で言う。


「未来は見えないよ。ただ、誰もが必要だと思う物を実施したら、それが標準になっているだけだよ。還付の件は了解した。これ予算と言うか税金からお金をもらう形だから、結構手続きとかは面倒くさくない?」


「事業計画が明確に出ておりますし、経費も記載頂いておりますので、それを元にご返却する形ですね。ここまで細かく各事業の計画から出納記録まで保管されていると言うのは初めての経験です」


 日本の会社で働いていると、計画書から、領収書の管理まで徹底しないと怒られるから、自然にそうなってる。政務団の基準もそうしているので、どんどん事務は効率化されている筈だ。ただ、データベースが無いので、インデックスだけはきちんと作ってもらってそこの管理だけは徹底してもらっている。棚卸も定期的に行っている。その努力のお蔭で、並行して進む新事業が問題無く進むのだから、政務団には頭が上がらない。


「じゃあ、還付の件は書類を回して。チャットの件は頼んだよ」


「はい。これからお出かけですか?」


「昼をそろそろ食べたいかなとは思っている。後、ガラス製品に関して対応出来る人間か場所を知らないかな?」


「それでしたら、職人達にお聞きになるのが一番早いかと思います」


 あぁ、そりゃそうか。ネスに会いに行くかな。


「分かった。邪魔したね」


「いえ。お気をつけて、いってらっしゃいませ」


 深々とベルフが頭を下げるのを背後に感じながら、部屋をでる。再度、領主館を出ないといけないか。何と言うか、凄くうろうろしている気がする。まぁ、ネスに会えるから良いか。さて釘の状況はどうかな?

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