第41話 サプライズの用意をしている時ってわくわくしますね
筒を作って、水蒸気と圧縮空気を送れば火炎放射器みたいに使えるか……。いや迂遠か。
熱湯のインパクトが大きすぎて他に思考が行かないな。
胸元から、傷付かないようにと綺麗な端切れに包んだ腕輪を取り出す。
無垢じゃ無いよな?無垢なら適当な石に擦っても傷付くはずだ。
見せてもらった腕輪は細かい傷は付いていたが、そこまでボロボロでは無かった。
と言う事は、かなり金の含有量は少ないはずだ。確か18金でも75%だったか。
下手したら、もっと低いかも知れない。そう考えると、2万は高いか。
婚約指輪の感覚だったが、結局結婚指輪の元になるんだ。そう考えるとそうでも無いのか。
取り敢えず目的を達して虚脱気味に村の中心部に向かい歩いて行く。
あぁ、そのまま渡すのも芸が無いな。
ちょっとニヤッとし、前に下見した宿屋へ向かう。
「いらっしゃい」
前のお爺さんが迎えてくれる。
「今日、ダブルの部屋は空いていますか?」
「はい。食事はどうなさいますか?」
「そこを相談したいのですが」
と言う訳で、特別に別の豪勢な食事を用意出来ないか、相談してみる。
簡単な前菜と肉料理、スープとパンは用意出来るとの事。
ワインも上等な物を用意してもらう。
「何かのお祝いですか?」
怪訝そうな顔つきで訊ねてくる。
「いや婚約の腕輪を渡そうと思いまして」
そう言うと、尚怪訝そうな顔になる。どうもこの世界の婚約はそこまで重要と言う訳では無いようだ。
言ってしまえば、結婚資金を貯めるまでの間に唾をつけておく的な感覚だった。
結婚式は村の規模でやる為、かなりの資金が必要になる。ただ祝い金も入るが、家の都合等を考えれば、完全に足が出る。
ちなみに、家は領内の共有資産の意味合いが強く、新しい家は領主が認可し資金援助をして村の責任の元建てられる。
ただ、逃げられるのも困るので頭金にかなりの額を払わなくてはいけないのと、年度の税に支払いが加算される。
それだけ、村で新しい家庭を作る事は大変なのだ。ただ支払ってしまえば、持ち家として継承が可能になる。
基本は長男が継ぐ。故に次男以降は死に物狂いで資金を掻き集めなければならない。結婚するのも大仕事だ。
因みにその場合、家長は次男以降にも援助する義務が発生する。
後、家に使われる木材に関してだが、北の森に行くまでに恐ろしいまでの広さの空き地にある程度加工された木材が並んでいた。
野球場幾つの規模の空き地を見て、驚いた。基本的に乾燥期間は物にもよるが、早くて半年、長ければ1年以上かかる。
町及び周辺の村の分を合わせてと言っても、あまりにも規模が大きかった。整然と切った順番に並べられ、乾いた物から建材や薪として利用される。
その辺りの森で薪を拾ってくるレベルでは無い。
運輸系のシステムの仕事をした際も、動く桁と種類の多さに笑ってしまったが、実際を目の当たりにすると、ただただ呆然とした。
正直、ロジスティクスと言う概念を嘗めていた。高々、千数百規模の人間が生きるのだけでもこれだけのコストが発生するのかと。
樵達が毎日伐採し、製材し、運用、管理を行い、それでもぎりぎりで生きている。
ちなみに、樵ギルドも有る。この規模の物流を領主単位でやれば、そりゃあ破綻するだろう。
まだまだ人間の方が少ない状態だ。環境破壊なんて言っていたら、環境に破壊される。樵達も毎日必死で伐採や材木の運用をしていた。
人間って偉大なんだなと感心してしまった。
後、子供だろうが悪戯した場合は、物凄い罰を食らう。そりゃ、生き死にに関わる、当然だ。
「婚約程度でそこまでなさいますか……。分かりました。特別にお部屋と食事で12,000で如何ですか?」
通常のダブルで、朝昼付けて7,000だった。まぁ、火を落としてから再度沸かしてもらうお湯や蝋燭の代金も含まれるので妥当だろう。
「それで構いません」
12,000ワールを支払い、鍵を受け取る。時間はリズが戻って来てから若干経った程度でお願いしておく。
急ぎ、アスト宅に戻る。
ティーシアに今晩、リズと共に宿に泊まる旨を告げる。
「行為はしません。今回は色々看病で世話になったのと、今後の親睦を深めようと考えています」
「婚約しているんだから、それは良いけど。わざわざ勿体ないわね」
軽く経緯を説明すると、何時もの笑みで励まされた。相変わらず悪戯好きだ。
その足で靴を買いに服飾屋に向かう。
「いらっしゃいませ。本日はどのような服をお探しですか?」
若い男性の店員だった。男性物、女性物がそれなりに置いてある。どうも在庫を町の店が出店しているらしく、品揃えが人口に比べかなり良い。
「靴を探しています」
奥から年配の男性が出てきて、説明をしてくれる。膝丈の革のブーツが有ったので、それを選ぶ。
値段を聞くと40,000との事だった。大分高いので迷ったが、2足買う。値段交渉はしたが、手入れ用具一式と綺麗な端切れを付けてもらうところまでで諦めた。
調整には2,3日かかるとの事。どうも年配の男性が職人兼業のようだ。
80,000ワールを渡し、引き換え用の羊皮紙を受け取る。
次は、槍か。ポンプの進捗も聞きたかったので、足早に鍛冶屋に向かう。
「おう、アキヒロ。大変だったんだってな?大丈夫か?」
ネスが心配そうに駆け寄ってくる。
「はい。ご心配おかけしました。大丈夫です。槍を受け取りに来ました」
槍を受け取り、70,000ワールを支払う。
「ほう、金貨か。今回の件、大分儲けたそうじゃねえか」
「いや、命あっての物種です」
「違いない。そういや、例の件だがな……」
手押しポンプに関しては一旦木材を組み上げモックアップするとの事。
木型で動作を検証し、青銅材でモックアップした後、鋳造単位に処理する流れらしい。
「貰った設計図が精緻なので、苦労はしてねえ。近い内に実物は出せる。そん時は確認を頼む」
良かった。方針に問題は無い。
「素晴らしいです。ギルドの方は如何ですか?」
「アキヒロが寝てる間に連絡は出来た。研究員を派遣して来るそうだ。木型の検証辺りから共同開発になるな。お偉いさんにも前の件、話は通した」
「お偉いさんですか。信用は出来ますか?」
「現場上がりだ。そこんとこは問題無い。つか設計者について大分つっこまれた。ぶっ倒れているとは伝えている」
どこかで話をしてみる必要が有るか。
「分かりました。場を設けて下さい。1度話をしましょう」
話は終わった。挨拶をし、アスト宅へ向かう。
さぁ、サプライズの時間だ。