第435話 一緒にお風呂
一旦部屋に戻り、お風呂に先に入ってしまおうと考える。薬品が付いていたりしたら嫌だし、服も洗って欲しい。その後にタロとヒメの散歩に行こう。
そう思って部屋に入ると、リズも丁度帰ったところなのか、荷物を下して、ソファに座り込んだ状況だったようだ。タロとヒメは箱から出てじゃれあっている。
「あ、おかえり、ヒロ」
「ただいま、リズ」
そう言うと、リズが近付いて来ようとするが、手で制する。一緒にリズにタロとヒメも止めてもらう。
「ごめん。ちょっと石鹸作りで危ない薬を使っていたから、近付かないで欲しい。体を洗って、服を着替えた後なら大丈夫だから」
「むー。分かったけど、そんなに危ない薬を使っていたの?」
「目に入ったら危ないとかそう言う物だから。洗い流せば安全だし、服も洗えば安全。だから今だけ近付かないで」
リズがじとっとした目で見ているが、近付くなと言った事より、危ない薬物を使っていた事を咎めている感じだ。
「どうしても良い物を作るとなると、ちょっときつい薬物が必要になるの。それも少しだけだし、そこまで危険は高く無いから。万が一が有るから。ね、お願い」
「分かったわよ。触れたら駄目なんでしょ。荷物持って行ってあげる」
そう言うと、私の下着や普段着を用意してくれる。それと一緒に、リズの分も用意し始める。
首を傾げていると、リズが答える。
「洗いにくい場所とか有るでしょ。洗ってあげる」
荷物を片手に、浴場まで先導していく。呆気に取られていたが、リズが気を遣ってくれているのが嬉しくて、いそいそと後を着いて行く。タロとヒメは部屋でお留守番だ。後で散歩に連れていくので、許して欲しい。
浴場に着き、湯船にお湯を生む。お互いに服を脱いで洗濯籠に入れる。ただ私の服は別にメモで、注意して叩いたりせず優しく洗って欲しい旨を書いておく。もし危険な事が有っても消石灰がどこかに付着していて、それが浮いて目に入るくらいだ。それに見ている限りは大丈夫そうだし、そんな少量が目に入った程度で失明には至らない。
浴場に入り、洗い場でお互いにお湯をかけあう。リズの髪は少し俯いてもらって、念入りにお湯を含ませる。
「んー。私が洗ってもらっているけど、逆じゃないかな?」
「どちらにせよ、水で洗い流したら良い程度の薬物だから、気にしなくて良かったのに。それでも思ってくれるのが嬉しかったからお礼として」
そう言いながら、念入りに泡立ててもこもこになった泡を髪に伸ばして優しく洗っていく。
「ん。気持ち良い。温泉宿の人に洗ってもらうのも気持ち良いけど、ヒロに洗ってもらうのが一番気持ち良い。何故なんだろう?」
「髪がどうなっているか考えながら洗っているからじゃないかな? どこが汚れそうとか考えているし」
耳の後ろや、頭皮ももにゅもにゅと揉みだして汚れを浮かせる。ざぱっとたっぷりのお湯で石鹸成分を完全に流し、酢リンスを伸ばす。
「ふわぁ、さっぱりした。そろそろ暖かくなってきたから、室内で訓練をしていると汗かいちゃうし。本当にこうやってたっぷりのお湯で洗えるのは嬉しい」
リズが髪の指通りを確認している間に、布に石鹸をきめ細かく泡立てて、リズの首筋から洗っていく。
「ん。くすぐったい。ふふ。気持ち良い。優しいね」
「大切なリズの肌だしね。そう言えば、皆も帰っているのかな?」
「うん。帰っているよ」
「じゃあ、お湯はちょっと熱いのを足してそのまま使ってもらおうか」
「毎回、男女でお湯を捨てるの勿体無い気がするって皆、言ってたけど」
「あ、そうなの? 女の子って使ったお湯に男性が入ると嫌とかそう言うの無いの?」
「無いよ。何それ」
呆れ顔で返事が来る。
んー。考え過ぎだったか。別に体を洗った後に入るのでそこまでお湯が汚れる訳じゃ無いし、入れ替えなくても良いかな。
「分かった。入れ替えるのも手間では有るし。使用人の人も順番に入ってくれているみたいだし、お湯を足すだけで大丈夫かな」
そう言いながら、リズの体を流す。
「はい。洗い終わり。冷えるから、浸かって温もって」
「うん。って、あれぇ? 私が洗うんじゃなかったっけ?」
「いいよ。すぐに洗い終わるし。風邪をひかないように浸かってて」
そう言って、さっと頭を洗い、全身を洗う。ざぱっと流して、湯船に浸かる。リズと向かい合わせに湯船にもたれる。
「ふぅぅ。いやはや。そこまで危ない物じゃないと言っても、注意はしないといけないし、中々大変だよ」
「もう、町の為って言うのは分かるけど、ヒロが危ない目に遭ってもしょうがいないんだよ?」
リズが少し怒った顔で言う。
「いやいや。きちんと扱えば危険は無いよ。危険になる部分も処理し終わっているから、殆ど安全だし。ただ、大事の為に気を付けようと言うだけだから。その処理含めて色々考えないといけないのが大変だなって」
「ふーん。で、今度は何を作っているの?」
「ん? あぁ、今使っている石鹸って柔らかいし臭いがするでしょ?」
「柔らかいけど、こんな物かなって思っていたよ。これが初めてだし。それに臭いもそこまで気になる程じゃ無いし」
「うん。それは分かる。でももっと硬くて、臭いの無い、香りの良い石鹸を作ろうかなと思ってね。量は作る気が無いから、家で使うのと贈答用になるかな」
「あぁ、それで使った後の油を持ち帰っていたの?」
「そう。それに競馬場とか色々な所で油は使われるから。程々に処分はしていこうかなって」
「揚げ油をそのまま灯りに使ったら駄目なの?」
「臭いが出るから。そのままだと辛いかな。濾過したらまだましだけど。濾過施設も作らないといけないし。基本的には焼却処分かな。元々食材が余る事も無いし、ゴミも少ないから焼却する必要性を感じないしね」
「お店の食材の余りはどうしているの?」
リズが首を傾げる。
「今は飯場の方に回っているよ。将来的には歓楽街の飲み屋さんとかに回るし、食べられる限りは誰かが食べるし。結局ゴミにはならないんだよね」
「良かった。無駄にはなっていないんだね」
リズがほっとした顔になる。
「うん。無駄にしないサイクルは作った。流石に色々なところから食材を集めているのに無駄にしていたら、怒られちゃうよ。それに勿体無いしね。極力人間が増えても無駄にしないで済む形は考える」
そんな話をしていたら、茹ってきた。
「さて、そろそろ上がろうか。涼みがてら、タロとヒメの散歩にでも出るけど、一緒にどう?」
「うん、一緒に行く」
そう言って、仲良く上がって、体を拭い、服を着て、少し涼む。外は夕焼けで赤く染まっている。今日は領主館周りの広場で良いかな。