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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第429話 ルビコンを渡る瞬間の気持ちってどうなんでしょう、反逆では無く反逆者を殲滅する側ですが

 さっと部屋に戻り、荷物を漁る。オレガノがトルカにいた時に育っていたので、乾燥して保存していた。

 食堂に戻り、ポットにお湯を生み、葉を蒸らす。ほのかに刺激的な香りが上がってくる。確か、胃もたれなんかに効いた筈だ。


「うん……? ヒロ、何、それ。嗅いだ事の無い香りだよ」


「村にいる時に、採取しておいたハーブ。胃もたれとか食べ過ぎに効果が有る筈」


「うわぁ……。今、正に欲しいかも」


「食べ過ぎだよ、皆」


「だって、美味しいし。次にいつ食べられるか分からないから、食べられる時に食べないと」


 あぁ……。飽食日本なら金さえ払えば同じ味を何度でも食べられる。でもこの世界の人間にしてみれば、食とは一期一会か……。その辺りもこの町では意識を変えていかないといけないな。食べ物屋さんも味のクオリティをコントロールしてもらわないと。いつでも美味しい物を食べられるなら、それはそれで幸せな事なのだろう。料理を作る側も張り合いが出るだろうし。


「でも、食べ過ぎ。ほら、お腹、たぽたぽしているよ」


「こら!! 押さない!! 大丈夫、運動しているから」


 椅子に浅く座り、ぐでーっともたれながらリズがキリっとした顔で言う。ちょっと面白い。


 花開くように葉が膨らむのを確認し、カップに注いでいく。侍女に渡すと皆に配ってくれる。


「これは……。苦いわね。でも、刺激的な感じがして癖になるわ……。それにほっとする」


 ティアナが少し、眉根に皺を寄せながらハーブティーを含む。


「あ、これ、胃の薬草ですね。この香りは覚えてます。ようご存じですね」


 チャットが研究者なのかエルフの視点なのか分からないが、教えてくれる。オレガノはこの世界でも胃薬扱いなのか。


 皆がお茶を飲んでほっと一息吐く。


「どのくらい、この調味料は量が有るんですか?」


 ロッサが珍しく、積極的に聞いてくる。気に入ったのかな。


「味噌かい? んー。小さな樽一杯分かな。皆で食べちゃうとすぐに無くなるかな。作るのには四か月程度かかるよ」


「あれ? そんなにかかるんですか? 村だと二か月程度で出来ていましたけど」


 それは適当に塩を入れて発酵させただけな気がする。味噌と言うより、醤とかに近いのかもしれない。


「色々工程が有るから。倉も作ったし、大量生産の準備はするよ」


「楽しみ。これも、スープだけじゃないんでしょ?」


 リズがワクワクした顔で聞いてくる。


「うん、色々料理は有るよ。また、機会が有れば作るよ」


 そう言うと、皆、期待と残念が半々な顔をする。美味しい物が食べられる期待と、それがいつになるか分からず、量も少なそうな残念で半々だろう。


「生産が始まったら、量は作る事が出来るから。他にも色々考えているし、そんな顔しないの」


 苦笑を浮かべて言うと、皆も笑い出す。ハーブティーを楽しみながら、食堂を通る風に身を任せて、鍋の熱気を飛ばす。流石に汗だくになった。その中で飲む熱いハーブティーが逆に涼を感じさせてくれて嬉しい。

 トドが回復して、動けるようになると、皆それぞれが部屋に戻り始める。アレクトリアにモツ煮の指示だけお願いして、リズと一緒に部屋に戻る。


「ねぇ……」


 リズが背後から、服を引っ張る。


「ん?」


 振り返ると、俯いたままで少し考えるような、若干苦悩が混じった顔をしている。何か有ったか?


「焦っている?」


「え? 何が?」


 予想外の返事に驚いた顔になる。焦っている?私が?


「いつも忙しそうにしているけど……。ここ数日のヒロは少し違う。何が違うかははっきり言えないけど、何か無理しているような気もする」


 眉根に皺を寄せて、絞り出すようにリズが言う。


「何か有った?」


 自分自身ではいつもの通り動いているつもりだったが……。まぁ、あれなんだろうな。


「焦っていると言うか、自分でどうしようもない事に対する代償行為かもしれないね」


「それって……」


「人魚さんの子供達……。もう人魚さんは私の領民、私の民、私の子供みたいなものだよ。それを他者が害していると想像しただけで、腹の奥が煮えくり返る。覚悟したが故に、この思いはどこまでも強くなる」


「ヒロ……」


「何も出来ない自分が悔しい。ノーウェ様は出来る人間が対応すべきだって言うだろうけど。私の民だ。私の子供だ。私の用意が足りないが故に、そんな思いを私の子供に背負わせている現実がどうしようもなく辛い……」


 若干目に険を浮かべて俯きながらそう言うと、リズがぎゅっと正面から抱きしめてくれる。


「やっぱり、変わっていない……。駄目だよ、抱えたら。ヒロにはヒロにしか出来ない事が有る。それと同じく、ヒロ以外の人がやるべき事も有る。悲しい、辛いのは分かる。私も人魚さん達は大好き。幸せになって欲しい。その子供達に何かが起きているなら、嫌だ。でも、それを解消する為に、皆動いてくれているよ……。ヒロの為に、ヒロが望むから、ヒロを思ってくれる人達が」


「それでも……」


「うん。憤るのは良いよ。ぶつけても良い。幾らでも受け止める。でも、抱えないで。ヒロ、潰れちゃう。人はきっとそんなに多くを抱える事は出来ない。私もヒロを一人支えるだけで精いっぱいだと思う。ヒロは、全てを抱えようとしている。それは領主の仕事じゃ無い。神様の仕事だよ。ヒロは神様なの?」


 あぁ……。リズにまで言われたか……。神様……。そうだよな。日本でマネジメントしていると、結局俯瞰視点で大量の情報を以ってロジスティクスを構築し、対応が可能だ。その視点で物を考えるから、余計に抱え込む。


「神様……か。そうだね、傲慢だったね。ありがとう、リズ。少しだけ楽になった」


 そう言うと、リズが目を覗き込んでくる。


「ん。少しだけ、悪い目をしていたけど、きちんとヒロになった。もう大丈夫だね」


 にこっと微笑みながら、リズが言う。


「そんなに悪い目をしていた?」


「うん。凄く何かに追われている人の目になっていた。どうしたんだろうとは思っていたけど」


「そっかぁ。分かった。任せる部分は任せる。そうだね、私は神様じゃないね……」


「ふふ。神様だと、こんな事出来ないかも」


 そう言うと、リズがパタンとベッドに押し倒してくる。あぁ、気を遣わせちゃった。

 本当に私には勿体無い子だ……。大事に……大切にしたい。一生をかけて守るって決めたんだ。心配ばかりさせてられるか。


「がおー」


 叫びながら笑顔で布団の中に潜り込む。今だけは少しだけ忘れよう。


 この焦燥も怒りも、憎しみも。クロスボウの量産は、もう決めた。日本で自衛隊の銃管理に関する論文も確認して来た。一部に自壊装置を入れて弦を切る仕様にしていれば、鹵獲は不可能だろう。魔道具で条件付けの時限装置は作れた筈だ。チャットと調整して、風刃か炎で弦を切れば、張力の調整が分からない筈だ。そもそも鹵獲されるまでも無く、一切を殲滅すれば良い。


 もう、この優しい世界の中に存在する悪意に対して容赦をする気は失せた。神様が幸せな世界を望むのに、そんな些細で小さな脆い望みすら踏みにじると言うのなら、踏みにじられる覚悟を持っている筈だ。


 だから、私は容赦はしない。この小さな幸せな世界を維持する為に、例え世界を敵に回しても、(ことごと)くを殺し尽くす。それだけの準備を始める。


 賽は投げさせられたんだ。川くらい自分で渡る。それが覚悟ってもんだろ。

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