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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第428話 牡丹鍋ってあの脂の甘さと味噌の甘さがずるいです、日本酒がかぱかぱ空きます

 タロとヒメに水を飲ませて、こしょこしょとくすぐって遊んでいたら、ほこほこのリズがにこにこと戻って来た。


「ふわぁ、さっぱりした。やっぱりお風呂、良いね」


「喜んでもらえてなによりだよ」


 タロとヒメもリズの湯上りの香りを感じたのか、次は私の番か?と言う感じでむくりと立ち上がる。何か可愛かったのでしゃかしゃかと頭を撫でて、そのまま抱きかかえる。


「じゃあ、お風呂入れて来るね」


「いってらっしゃい」


 そう言ってリズが下着や部屋着を渡してくれるので、肘に引っ掛けて、浴場に向かう。

 湯船にお湯を生み、タライにお湯を生んでタロを浸ける。


『ひろいのは?』


 タロがじっと湯船を見つめながら、『馴致』で聞いてくる。

 どうもペット風呂や海でのプールで広いお風呂を泳ぐのが楽しい事を覚えたらしい。


『熱いから、駄目』


『ざんねんなの』


 そう思いながらも、もにゅもにゅと揉まれていると、口を半開きにして、うとうとして、スヤぁと寝入る。ふふふ。まだまだ子供だ。

 拭ってブローして、次はヒメだ。同じくもにゅもにゅしていると、お腹も満ちているので洗っている途中で寝入る。ヒメが寝た辺りでロット達が脱衣所に入ってくる。


「お疲れ様です。リーダー」


 服を脱ぎながら、ロットが話しかけてくる。


「リズに聞いたけど、訓練は順調そうっぽいね。でも、単調になっていない? つまらなそうなら、何か考えるけど」


 もにゅもにゅとヒメの全身を最後まで洗いつつ聞いてみる。


「前にもお話した通り、軍の正式な訓練を受けられる機会など無いので助かっています。それに、町中での訓練も将来の斥候団としての用意と分かっておりますので、大丈夫です」


「そっか……。気を回してもらって申し訳無い」


「いいえ。こちらこそ、泊めて頂き、食事も頂いている身です。将来のお役に立てるなら、幾らでも努力します」


 そう言いながら、元々細身に筋肉が乗っていたのが、よりごつくなった裸体を湯船に浸ける。一気に体に現れるんだな。幾ら運動しても脂肪が落ちない私に比べて基礎が違うか。

 ドルも同じくみっちりとした筋肉が盛り上がらんばかりになっている。元々鍛冶屋と言う事で訓練そのものは正式には受けていなかったのが、きちんとした訓練を受け始めて種族特性が一気に開花した感じだ。

 ヒメを拭ってブローして、脱衣所にタロと一緒に伏せさせると、もぞもぞとタロの方に寄っていって、一緒に丸くなる。


 ざっと全身を洗って、湯船に浸かる。


「色々遊戯系も温泉宿の遊戯室用に用意し始めた。もう少しで温泉宿も開店だし、そうなれば町開きかな」


 そう言うと、カビアが手を挙げる。


「ロスティー公爵閣下、テラクスタ伯爵閣下、ノーウェ子爵様に関しては、書状をお送り致しました。ただ、ロスティー公爵閣下に関してはノーウェ子爵様に代理でお送りしております」


 東の国に外遊中だしね。と言うか、そろそろ帰ってくる頃かな。

 でも、この世界で広範囲に貴族を集めるだけでも時間がかかる。そう言う意味ではもう少し時間がかかるのかな。


 遊戯の話が出たので、どう言う物かと言う皆の興味津々の瞳に負けて色々説明をしていたら、ちょっと茹った。のぼせる。

 先に風呂から出て、窓際で風を感じていると、ほのかな花の香りを感じる。湯気で湿って敏感になったのか、庭の花の香りだろうか。桜の木も有ったので庭に植え替えた。蕾も綻んでいたのでそろそろ花が咲くかな。咲けばお花見も良いかな。そんな事を考えていると、皆も上がってくる。汗も引いたので、部屋着を着てタロとヒメをそっと抱きかかえて部屋に戻る。


「おかえり。あは、可愛い」


 無意識なのか、二匹共、洗って薄くなった匂いを嗅ごうとしてか、耳の後ろに鼻をくっつけてくんくんしている。それを見て、リズが笑っている。


「折角お風呂に入ったのに、なんかぺちゃっとしている」


 ちょっとだけ情けない顔になりながら、二匹を箱に戻す。もぞもぞと二匹が寄り添って丸くなる。そろそろ毛皮も良いかな。逆に暑いかもしれない。


「夕ご飯、ちょっと手伝わないと駄目だと思うから、先に厨房に行っているね。侍女が呼びに来たら、そのまま食堂に来て」


「分かった」


 リズがそう言うと、何かの本を広げ始めた。法律関係の書籍だろうけど、本当に頑張る。読まなくても良いと言っているが、知っておいて損は無いと言われる。色々自覚が出て、頑張るようになったけど、詰込みになると逆効果な気もする。必要な時に必要な知識って感じで良いと思うけど。


 厨房に入ると、アレクトリア達が肉の準備と野菜の準備を済ませて、擂鉢で味噌を擂ってくれている。朝試した時もそうだが、結構味噌の滓が残るので、きちんと擂り潰す必要が有る。

 他の人間には乳鉢で唐辛子の乾燥した物を潰してもらっている。味噌鍋と言えば一味かなと。ドル辺りはガバガバかけそうだけど。


 大鍋に、布で濾したスープを移してもらう。少しとろりとしたスープから独特の香りが漂う。あぁ……トンコツラーメン食べたい……。日本に戻っている間に機会が無かったので食べていない。戻ってまで食べる物でも無いので、こちらで開発する事も考えよう。最悪、トンコツうどんでも良いや。


 再度大鍋を火にかけて、沸騰する寸前辺りの火加減にする。擂った味噌を投入し、お玉の上で溶かしていく。鍋の大きさ的に結構な量を溶かしても大丈夫な筈だ。擂鉢からどんどん匙で掬ってお玉に乗せて溶かしていく。そろそろかと小皿で味見をして、若干追加の味噌を溶かす。野菜から水分が出るし、脂が大量に出るので、若干濃いめくらいが良い。とろり濃厚なトンコツ味噌スープの完成だ。この時点でラーメンの玉を入れたいが、無いので我慢。イノシシ肉を投入していく。


「折角の飾り付けが勿体無いですね。折角綺麗な花のようでしたのに」


 アレクトリアが残念そうに言う。


「卓上で火を使える器具を作るから。それを使えば、テーブルの上で料理も出来る。その時に真価を発揮するよ」


 七輪とか粘土も有るし、開発しちゃおうかな。あぁ、氷冷式冷蔵庫の開発もお願いしないと。夏に向けて、冷蔵庫は必須になるだろう。温泉宿でもいるし。水魔術士も何人か捕まえ、ゴホン、雇えたみたいだし、氷は必須になるだろう。


 鍋に投入された肉がゆっくりと白く染まり、脂身の部分が透明になっていく。ざっと掻き混ぜて、ムラを無くす。野菜を入れる前に侍女に皆を呼びに行ってもらう。野菜はすぐに煮えてしまう。侍女が去ったのを確認し、野菜を投入する。葉野菜が中心だが、春菊みたいなのも有った。香りも春菊っぽい。味噌に春菊とか嬉しい。


 しゃっきり感が残る程度に火が通ったら、持ち込んだ台車の上に大鍋を乗せて、食堂のテーブルまで移動する。それぞれのスープ皿に注いでいく。どうせおかわりの連続だろうし、鍋はこのまま放置で良いや。


 皆の皿に注ぎ終わった辺りで、チャットがクンクンと鼻を鳴らしながら登場する。それからは皆、興味深げにテーブルを眺めながら、席に着く。皆が揃ったところで私も席に着く。


「新しい調味料が開発されました。継続して生産するかはまだ決めていないですが、味見をしてみて皆さんが美味しいと思うなら、生産をします。お待ちかねのようなので。では、食べましょう」


 そう言って、匙でスープを掬う。ベースのスープは味見していたが、どう表情を変えるかな?匙を口に含んだ瞬間、ぶわっと口の中全体にイノシシの脂が広がり、舌に甘みをガンガンと伝えてくる。その後に来るのは味噌の甘辛い香り、そして、野菜達の香りだ。少々味噌を多めに入れた筈なのに、とことん甘く感じる。ゼラチンとイノシシの脂の所為で、兎に角口の中にこれでもかと甘みがまとわりつく。でも、それがしつこくは無い。唾液と一緒にさっと流れ喉の辺りで芳香を放ち、胃に落ちていく。肉を噛むとイノシシ臭さは完全に味噌に包み込まれてただ脂の甘みと肉汁が口の中を蹂躙してくる。噛めば噛む程、汁が出て味噌と混じり、その表情を豊かに変える。最後にはイノシシの素の芳香だけを残して、胃に落ちる。野菜類も、うまみと脂を吸って、その上で青い香りを発し、口の中を清浄な印象に戻してくれる。特に春菊と味噌のコラボレーションは何物にも変え難い。あぁ……美味しい。小鉢一杯を食べただけで額に汗が浮かぶ。濃厚なスープが熱を胃から体全体に回してくる。


 かぷっと肉を口に含んだフィアが目を丸くして、口を押えてうーうー唸っていたかと思うと、ニヤニヤしながら席を立ち、私の背後に立ってばしばし背中を叩いて席に戻る。意味が分からないよ。美味しいと言う表現か。


「これ、豆の調味料やないですか? 集落でも作ってたんと香りは似てます。でも、塩辛いワインって感じで好かんかったんですが……。こないに繊細になりますか……」


 チャットが呆然と呟く。


「甘い……わね。砂糖じゃ無い……。砂糖の甘さはこれじゃない。でも、口は甘いって感じている。それに肉のこの芳醇な美味しさ……。あぁぁもう、何だか無性に悔しいわ。ただのスープにこんなに翻弄されるなんて」


 ニコニコと笑いながら、ティアナが文句を言う。文句なのか?


「野菜も美味しいです。脂を存分に含んだ野菜、それも肉の味をこれでもかと吸い取った野菜はまた格別ですね」


 ロットも野菜スキーとして太鼓判を押してくる。


「イノシシの臭みが全く無いです。本当ならもっと鼻に付くあの香りがするのに……。それにスープの元の部分が全ての調和を構築している……。これが骨の効果……。それに味噌の効果……」


 アレクトリアも眉根に皺を寄せて、スープを口に含んでは唇を窄めて、息を吸い込み香りと味を明確化しながら、確認している。


 次の瞬間には、もうお祭り騒ぎのようにがつがつと皆が牡丹鍋とパンを食べ始める。


「スープは、スープは残してて。後ですいとんも有るし、モツ煮に使いたいから!! 具材だけ食べてー」


 そう叫ぶと、ドルの瞳がきらりと輝く。流石モツスキー。

 どんどんと鍋から具材が引き上げられて、パンと一緒に消費されていく。味噌とパン、合わない気もするが大麦の酸味が濃厚な脂と調和し、これがまた美味しい。私も手が止まらない程度に美味しい。皆に関しては言うまでもない。


 用意していた大鍋の具材があっと言う間にはけて、その上で、スープを半分に分けて、すいとんまで作った。それも食べ終わる頃には、皆椅子の上でトドと化して、動けなくなっている。


「アレクトリア、イノシシの処理済みのモツって有る?」


「洗いまでは済ませています」


「下茹でして、脂を抜いて、再度洗って、一口大に切って、このスープで沸騰させず一晩煮てもらえるかな。どうせ番する人いるでしょ」


「分かりました。交代で面倒を見ます」


 これで明日の朝はモツ煮かな。ドルはハッピーだろう。


 はぁぁ。春のまだ少しだけ涼しい風が吹き込む中、心身共に温まった。味噌も受け入れられたようで良かった。香りに関しては魚醤がOKなんだから気にしていなかったが、予想以上に受けが良かったのは日本人として嬉しい。さて、トドが少しでも早く正常化するように消化に良いハーブティーでも淹れますか。

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