第423話 持ち帰った物の整理
思ったよりも精神的に疲れていたのか、もぞもぞとした動きで目が覚める。この四か月寝顔しか見ていなかったリズがぱっちりと目を開けて、こちらを覗き込んでいる。
「おはよう、リズ」
あぁ、四か月分の思いが、沸き上がりそうなのを抑えて、振る舞う。
「おはよう、ヒロ。んー。今日は少し違う?」
リズが首を傾げる。
「ん? 違うって何が?」
「分からないけど、初めて会った時のヒロみたいな目をしている。でも、ヒロはヒロだし。私も分からないかも。でも、格好良いよ」
にこっと笑みを浮かべるリズを抱きしめる。あぁ、そんな些細な違いでも気付くくらいに分かり合えているのか……。気の所為でも良い、それが嬉しい。
思いが体を動かし、そのまま強くリズを抱きしめる。
「ほら、朝から甘えん坊さん。もう、日が昇り始めているよ。タロとヒメの朝ご飯、取りに行こうよ」
窓の周囲はいつもに比べて明るい。窓を開けると、太陽が半分くらい顔を出している。私が起きるには遅いし、リズが目覚めるには早い時間だ。向こうで夜更かししていたのが、精神にも影響したのかな。若干薄曇りに、もやがかかっている。四月七日は薄曇りかな。
「良いよ。私が取ってくる。お湯を用意しておくから、先に準備しておいて」
「良いの?」
「うん。じゃあ、ちょっと行ってくるね」
そう言って、厨房に向かう。
「あ、領主様。本日は少し遅めですね。朝ご飯ももう少しで出来あがります。もう少々お待ち下さい」
そう言うと、もう用意してくれていたタロとヒメの朝ご飯を渡してくれる。
今日はイノシシとモツ。モツも未処理なので、朝獲りを持って来てくれたのかな。契約猟師とかいるのかな。今度、食材調達の契約確認してみよう。
部屋に戻ると、丁度リズが髪を整えていた。
タロとヒメをこしょこしょとして起こし、待て良しで食事を差し出す。
「ん。髪を乾かそうか」
「ありがとう。お願い」
香油を混ぜた水を髪の毛全体に伸ばし、櫛を当てながら、ブローしていく。真っ直ぐな綺麗な髪だ……。
「ふふ。ありがとう。ご飯だよね」
「厨房の人がそろそろだって」
タロとヒメに水をあげながら言う。
「今日も訓練かな」
「もう少し訓練を続けてもらう形かな。ロット達には斥候団を率いてもらいたいし、フィア、ドルに関しては、前線指揮をお願いしようと思っているから。もう少ししたら、座学も始めるかな」
「私は?」
「『警戒』と『隠身』がもう少し高まったら、淑女教育。貴族の奥様になるんだから、カビアのだけじゃ無くてもう少しまともに学ぼう」
「うわぁ……。大変そうだけど、ヒロの横にいる為だから良いかな」
リズがふんすっと言う顔をする。
「ティーシアさんの時とは違って素直だね」
「あれは、意味が分からないー。必要無い事を覚えるのは苦痛ー。もう嫌だー。お母さん来ても、絶対に聞かない」
しょんもりした顔で、リズが泣き事を言う。
「はは。あれも母の愛じゃ無いかな。でももうそろそろアストさん達も来るんじゃないかな」
「春だって言っていたしね。兄さんも流石に戻っているかな。でも、石鹸作ったり、蝋燭作ったり、奥さん大変そうだね」
「その上に機織りとか教えられるかもね」
「うわぁ……。悲惨だ。大変過ぎる。私は嫌だー」
耳を塞いだ真似をして、部屋の中を駆け回る。そう言うところを見ると、やはり年相応の女の子なんだなとは思う。
そうやって遊んでいると、朝ご飯が出来た旨を伝えられる。
リズと二人で食堂に向かう。皆は先に席に着いており、私達が席に着くと、食事が運ばれる。
「じゃあ、今日も訓練と言う事で。同じ事ばかりで申し訳無いけど」
「いえ。きちんとした訓練を受けられる機会など、軍にでも入らなければ有りませんので。むしろありがたいです」
ロットが言うと、レイとカビア以外が頷く。レイは教える方だしな。
「カビアも少し、政務を後回しにして良い? 少し試したい事が有るんだけど」
「分かりました。男爵様の決裁分は後回しにしておきますので、後でお呼びします」
「いや、そんなに長くかからないと思うから、こっちから行くよ」
そんな雑談をしながら、朝ご飯を食べ終わり、それぞれが散っていく。リズが訓練着に着替えて、練兵室に向かうのを見送り、倉庫に向かう。
暗い中でぽこぽこと色々置いていたので、かなり乱雑な状況になっている。服飾関係はデパートのあの店の店主に任せるか。新しい服のインスピレーションの元になるかも知れないし。
マネキンもあんな木像より、ポージングできる方が良いだろう。巨大なデッサン人形って感じだけど、動きのイメージは出せるかな。
バガテルに関しては組み立ててみたが、狂いも無い。サンプルで貰った玉で遊んでみたが、きちんと動く。ハンドル部の板バネもきちんと稼働する。良かった。大工に伝手が無いけど、フェンに相談して商工会から人を紹介してもらおうか……。
後は隅の方に種籾をドスンと置いている。時期的にはもうぎりぎりだし、水田そのものは設計しているので、田植えは可能だ。カビアと相談して、最低限で植えてみようか。昨日の晩、麻袋に入れ替えた米は少しだけ形と香りが変わっていた。うーん。日本米っぽくはならないのかな。こっちの米だとあそこまで品種改良されていないだろうし。
麹は甕の中に入っている。味噌だけでも先に開発しちゃおうかな。気温的にはそろそろ大丈夫だ。保存用の蔵も作っているし、室も作った。黄麹が根付いてくれればありがたいけど。将来的には根付いた黄麹で味噌も醤油も日本酒も補わないと駄目だろうし。
さて、自家製味噌は味見したけど、まぁまぁなお味だった。既製品とは比べ物にならないけど、十分味噌だった。さて、お味噌はこの世界で通用するのでしょうか?