第416話 プールバーとかでダーツ遊びをしますが、偶に異常に上手い人とか居て驚きます
「これ、重い荷物を運ぶためのやつだよな? 箱型にして天板を乗せれば嵩張る荷物を運べるんじゃねぇのか?」
「そうですね。そう言う器具も有ります。サンプルに作って見られます? 給仕とかの時には便利だと思いますよ」
「何だよ。もう構想に有んのかよ。でも、そうだな、ついでに作るか。ネコ車だっけ? あれと同じく特許案件になるよな……」
「なるでしょうね」
「まぁ、他の領の鍛冶屋も集まってきてるから、量産は可能か……。鍛冶ギルドに渡さず独占販売で処理しておく。無理そうなら、投げ直すのも出来るしな」
「はい。その辺りは長たるネスにお任せします」
「うわぁ、そんな言い方されると寒気がするぜ。お前さんの案なのにな。まぁ、領内が潤うなら一緒か」
「はい。便利になってもらえれば幸いです。私は儲けをそのまま町の設備投資に再投資するだけなので、何処までも螺旋のように上がっていきますよ」
そう言うとネスが呆れたように苦笑を浮かべる。
「それだけ案が無ければ、無理な話だが。お前さんならやっちまうのが怖ぇよ。玩具の方はちまっと作っちまうか。これなら、クロスボウの羽を切ればすぐ出来っぞ?」
「じゃあ、的の方を作ります。このまま応接室借りますね」
「おう。んー、一時間も有れば削り込みで出来るだろう。しかし、これ鋳出して一体成型にしねぇのか?」
ネスがダーツのティップとバレル、シャフトとフライトをそれぞれ指差す。
「羽と胴体の部分は一体成型でも溶接でも構いません。ただ、先の方の胴体と針の部分は別にした方が良いです。針はすぐに曲がるので付け替え出来る方にした方が良いですね。先の胴体は微妙に重さを変えて、手に馴染む物を選ぶと言う形になりますね」
「んん? また、あれか。ベーゴマみたいな売り方考えているのか?」
「あんな阿漕な売り方はしません。小さなものなので、手に馴染む重さが人によってまちまちになります。なので、先の太さを変えて重さを調整する感じですね」
「ふむぅ。分からん。まぁ、一旦ねじ切り無しの一体成型で羽は溶接で試験品作るぞ?」
「はい。それで結構です。あ、板を貰えますか」
「そこの隅にあるのは使って良い。鋸はそこの道具箱に入っている」
「ありがとうございます」
そう言うと、ネスが出て行く。適当な大きさの板に図面用のコンパスで円を描く。取り敢えず、ダブルサイズ、トリプルサイズは考えず、ブルも単純な円だけにする。ダブルブルまで描いていたら訳が分からない。スマホの画面を見ながら、線を引き、点数を周りに描く。これ、ボードを一回持ち込んで、大工にきちっと作ってもらった方が良いか……。規格も合わせてくれる筈だし、塗装もやってくれる。
テストの為に円形に切るのも面倒臭いので、そのまま板で良いかと錐で上部に穴を開ける。置いてあった釘と金槌を持って外に出る。
川沿いの方に、防風目的で木を残しているのでその一本に釘を二か所バランスを考えて打つ。そこに板をかけてボードの完成と。適当に小石を拾って投げてみるが、揺るがないので大丈夫だろう。歩測で二メートル半程度の距離に枝で線を引く。
的の線を引くのに思いの他時間を食ったのか、ネスがサンプルを持って外に出てくる。
「おぅ。外に出たって聞いたから来てみたが、何だそれ」
「それを投げる的です。えと、この場所に刺さると上に書いている点数が手に入ります。その内側の狭い場所なら倍入ります。例えば、ここに二十と書いている下のここに刺さると二十点。その内側なら、四十点です」
「真ん中の小さな丸は?」
「五十点です」
「そこが一番点数が高ぇのか。へぇ、面白ぇ」
「試しに投げますね」
ダーツのサンプルを受け取る。クロスボウの矢を削って作ったのか、バランスも悪く無い。羽はやはりちょっと大きい。先は鋭利に針のように尖らしてくれているので当たれば刺さるだろう。
右肩を前に出して、ダーツを投げる構えで、ひょいっと少し上を狙って弓なりに投げる。やはり本式の物と違うので、飛び方がおかしい。羽が大きいので思った以上に安定して落ちない。二十の外側の線ギリギリ辺りに刺さる。
「これで二十点ですね」
「ほぉ。試して良いか?」
「どうぞ」
ネスがにこにこと楽しそうに線まで戻って真っ直ぐ立って投げようとする。
「あ、右足を出して、右肩を体の中心にした方が真っ直ぐ飛びますよ」
「んぁ? こうか?」
ネスが右足を出して、構える。
「はい」
「ふむ。何だか投げ辛い気がするが……。まぁ良いか。んじゃ、投げっぞ」
そう言うと、真っ直ぐひょうっと石を投げる感じで投げる。安定して真っ直ぐ飛び、ブルのやや右側に刺さる。
「あー、十三の倍なので、二十六点ですね」
「お、勝ちか?」
「三回投げて、合計で競います。一投だけだと運の要素が強すぎます」
そう言って、お互いに投げ合う。ダーツは良くバーで飲みながら遊んでいたので癖さえ掴めば、それなりに的を狙えるようになった。十三のダブルと四のダブルで合計五十四点となった。んー。右側に微妙にずれる。
ネスはの二投目は的の下に刺さる。三投目は十九のダブルで三十八。合計で六十四点となった。ちょっと力加減が弱い感じで届いていないのか下の方に集まっている。
「ネスが六十四点なので、ネスの勝ちですね」
「おぉ!! こりゃ、面白ぇ。単純なのが良いな。飲みながらワイワイとやりてぇな」
「そうですね。故郷も飲み屋に置いていましたよ」
「確かに言う通り、手に馴染む重さと言うのが有りそうだな。こいつだと重いんだろうな。もう少し軽い方が良い」
「私は逆にその重さで丁度良いですね。ただ、羽が大きすぎるのでもう少し削った方が良いでしょう」
「あぁ。設計より大きめに切ったからな。確かに安定し過ぎている感じはするな……。おし。試作を続けるぞ」
「出来れば台車の方を優先して下さいね」
「分かっているよ。これはどうすんだ?」
「温泉宿にはましな設備を置いて、歓楽街の飲み屋の何件かに余興で置きましょうか。的は大工に頼めば良いでしょうし、矢の方は鍛冶屋に任せます」
「共用品にするのか?」
「始めの方はそうですね。ただ、ほら見て下さい。もう針が微妙に曲がっているでしょ? 気にしない人は気にしないでしょうが、本気で遊びたい人間は自分用の予備を買うようになるんじゃないですかね。古い針は下取りして、鋳潰したら良いだけですし。永続的に商売回りますよ?」
「やっぱり阿漕じゃねぇか」
ネスが言うと、お互い顔を見合わせて、笑い合う。
「まぁ、儲けも重要です。手間賃くらいは稼いでもらわないといけないでしょう」
「飲み屋がこぞって買いに来る気もするが……。分かった。設計通りにねじ切りで量産出来る体制にはしておく」
「だーかーらー」
「分ぁってるって。台車だろ? その次、その次」
「本当に頼みますよ? 厨房の女の子が水瓶抱えているのを見ると冷や冷やするんですから。お願いしますね」
「まぁ、二日はかからんよ。鉄で骨組みだけ組んで、木の天板だから、ほとんど手間はかからんよ。コロっつったか? あれがどうなるかは、やってみないと分かんねぇ」
「はい。それで結構です。では、よろしくお願いします」
「おぅ」
そう言うと、ネスが的を持って、工房に戻る。何か、後で絶対に遊びそうな気もするが、まぁ良いか。さて、次はテディか。昼にはまだ時間が有るし、向こうで一緒にランチミーティングでも良いかな?